激アツ、愛の試練はケチャップで!
大正メイド2人に連れられ、中央のテーブルに着く。
教室にはテーブルが6つほど。それぞれに椅子が4脚ずつセットになっていた。
その全てにレースの付いたクロスが敷かれ、椅子の背もたれにもピンクや緑の布が被せられていた。
人の入りもそこそこで、俺たちを含め3テーブル分は埋まっていた。
残りの客もデート券を持つ客に興味があるらしく、好奇の視線を感じる。
ザラメは気に留めていない。全く、アイツのお花畑ブレインが時々羨ましいぜ。
椅子に腰かけると、羽仁と三木がラミネートされたメニューを手渡してきた。
「デートの試練。それは、愛のこもったメッセージ」
「は?」
「ザラっち達には、お互いのオムライスに愛を込めたメッセージを描いていただきます!! オムライスの追加注文も、2皿まで可!」
すると準備していたのか。
すかさず別の生徒が、お盆を俺とザラメそれぞれの前に置いた。
お盆の上には、オムライスとケチャップの容器。
「愛がこもっていれば、オムライス代はタダとなります」
「なんと! 面白そうですっ」
俺の横から、お盆を持ってきた生徒が告げる。
「こもっていなければ、オムライス分の代金は支払っていただきます」
「はぁ?!」
思わぬペナルティに裏返った声が飛び出す。
「冗談じゃねぇ、こんなところに居られるか! 俺は帰る!!」
勢いよく引いた椅子が倒れるが、お構いなしだ。
足早に扉へ向かった俺だが……。
「お客様。棄権は厳禁」
「お戻りくださいな!」
扉を塞がれたと思えば、背後を取るは男子生徒。
「何だよ、何だってんだよぉ?!」
俺よりも図体のデカいヤツらに腕を掴まれ、椅子に座り直されちまった。
「郡さん、往生際が悪いですよ」
言いながら、ザラメはもう描き始めている。
ボトルの口を逆さまに、鼻歌を歌いながらケチャップを垂らしていた。
ご機嫌なザラメと反対に、俺は不機嫌そのものだった。
左肘をつき、右指でテーブルを小突く。タダより怖いものは無いってか。
「お客様。メッセージを」
「郡さん、店員さんを困らせちゃメッですよ」
しゃーない。適当に描いて出るとしよう。
多少出費がかさむが、最悪条件をクリアできなくても良いだろ。
ケチャップのボトルを手に取り、パッと思いついたハートのマークを描く。
ボトルをお盆の上に置き、キャップを閉じた俺だったが。
「おやおや。貴方の実力はそんなものですか?」
「この出来じゃ、ザラっちの横に並べませんよ?」
このメイドども、煽りよるんだが。
するとザラメ、2人へと穏やかに諭しつつ……憐れむような目線を俺に向けてきやがった。
「しょうがないです。この試練で分かるように、郡さんはザラメに跪く運命なのですから」
おっとぉ? なんつったよザラメ。
「俺が跪く? お前に??」
ザラメよ。世の中には言って良いことと悪いことがある。
「……オムライス、追加で」
「えっ、は、はい! ただいま!」
無知なお前に教えてやろう、跪くのはどっちかをなぁ!!
「オムライス、お待たせしました」
置かれた皿を前に、目を閉じる。
瞑想にも近い状態で、雑念を追い払う。
周りの喧噪が遠ざかり、意識が四肢から身体の中心へと集まってくる。
そう。まるで水底へと沈むように、眠っていた精神の奥地へと潜っていく。
——そうして、思い浮かべるはザラメの姿。
何にでも首を突っ込みやがる楽し気な顔が、ぷりぷりと怒る顔が、騒がしく泣きわめく顔が、紅葉みたく鮮やかに笑う顔が……生きていないのに、誰よりも生き生きとした表情がありありと浮かんだ。
「これだ……!」
黄色いキャンパスに目を見開き、ケチャップのボトルを手に取る。
ただならぬ空気を感じたのか、客は団らんを中断して息を呑む。
静寂に包まれた教室。ケチャップの蓋を開く音は、さながらししおどし。
ボトルを逆さまにすれば、あとはイメージを形にするだけだ。
重力に従い下りてくるケチャップに、俺の魂を乗せて。
「凄い。とてつもないオーラを感じる」
「郡さん、一体何を描こうと……!!」
「これは力作の予感ってことね!」
外野は各々、顔の前に手をかざして衝撃に備えていた。
キャンパスに落ちたケチャップが、思いを形にしていく。
郡 遠弥を舐めるなよ?
俺を本気にしたこと、後悔させてやる!




