目指せ、文化祭コンプリート!
太陽が昇れば、文化祭の2日目が幕を開ける。
青々とした空に、真っ白な鰯雲。
そよぐ風はひんやりと心地よく、まさにイベント日和ってヤツだ。
「郡さん! 早く早く~!!」
校門から受付までの大きな通り道。
前方で腕を大きく振っているザラメは、早速通行人の注目の的だった。
まぁアイツのことだ。気にしていないだろうが。
人の流れに身を任せてゆったり前進する俺を、ザラメは待ちきれないようだ。
俺の元へと駆けてきたザラメは、砂糖菓子みたく目を輝かせていて。
「ついに今日がやってきましたね!」
「大げさだな」
「それぐらい楽しみってことです!」
「たかが文化祭だろ」
「されど文化祭ですっ」
燥ぐ姿は、ガキそのもの。
咄嗟に腕を後ろに回そうとするが、ザラメの方が1枚上手で。
「つーかまえました♪」
「ちょっ?!」
右腕をがっちりを掴まれた俺は、足を縺れさせながらザラメの後に続く。
しがみつく腕を引き剝がそうにも、キョンシーたるザラメの力は存外強い。
「一応デートなんですし」
と、名ばかりのデートを満喫する気だ。
祭りの賑わいに、ザラメの声も加わって。
……騒がしい文化祭になりそうだ。
————
受付でパンフレットを貰い、デート券の使い方を伝授してもらった俺たちは、校舎の1階を進む。
廊下に敷かれたブルーシートを土足で踏みしめながら、ザラメはパンフレットに目を通している。
「郡さんは行きたいところ、ありますか?」
「マイホーム」
「学校の中でお願いしますね」
分かってはいたが、文化祭の間は帰してくれないようだ。
俺に自由は無いのか。
「ザラメ思うんです。せっかくデート券を持っているんですから、回れるところは全部回りたいと」
確か、このデート券を持っている2人組は、あらゆる店がタダになるんだったな。
だがさっき受付の生徒が言うには、タダにするには店ごとに条件があるとか。
デートには試練が不可欠と。
持っているだけでタダになるものだとばかり思っていたが、そこまで甘くないってことか。
「そしてザラメ、その条件をコンプリートしたいんです!」
チケットを片手に口にするザラメ。
好奇心に満ちた眼差しが眩しい。それ自体は結構だが、巻き込まれる身にもなってほしいな。
「というわけで、まずはあそこに行きましょう!」
ザラメが指さしたのは、メイド喫茶だ。
1年5組の標識の下には、色とりどりの装飾が施されていた。
ピンクや水色、黄色やミントグリーンで塗られた看板に、白い文字が切り貼りされている。縁にはハートの風船が取り付けられていた。
廊下側の窓には看板と同じ色のカーテンが張られ、布の切れ端にはレースまで縫い付けてあった。
「……入りにくいんだが」
何ともファンシーな外装。男を歓迎していなさそうなデザインだこと。
一方ザラメは真逆の反応だ。
「可愛いです……! 入りましょう!!」
静かに立ち去ろうとする俺の腕を握るザラメ。
扉を開けた先では、2人の女生徒が待ち構えていた。
「いらっしゃいませザラっち!」
「歓迎します。ようこそ喫茶浪漫へ」
聞き覚えのある声と口調と思えば、うちのカフェの常連客だ。
「とろけるメイド、羽仁 いずも!」
「酔いどれメイド。三木 みなも」
黄色の和服と紺のスカートを纏っているのが、茶髪ボブの羽仁。
水色の和服と小豆色のスカートに身を包むのが、黒髪ロングの三木だ。
加えて、両者腰にはフリルの点いた白いエプロンを、頭にはヘッドドレスまで付けていた。
2人は和服の袖を揺らしながら、変身する女児向けアニメにありそうなポーズを決める。
「今日はあたしたちが店員ってことね!」
「立場逆転。これも一興」
俺の隣では、ザラメが和テイストのメイド服に目を輝かせていた。
「うちのカフェでも皆さんで着ましょう!」とか言い出さなければ良いが。
「さっそく。デート券はお持ちですか」
三木に問われ、デート券をポケットから取り出した。
ザラメもデート券を2人の前に出すと、続けて羽仁が人さし指を上げて語る。
「デート券を持っているお2人には特別待遇! 試練に挑戦ってことね!!」
「さぁ。挑みますか」
メイド2人の問いかけに、ザラメの答えは1つ。
入りたくない俺の気持ちを度外視し、ガッツポーズで意思表明。
「もちろん、望むところです!」
「いや俺は遠慮……」
「郡さんもですよ!」
ザラメに手を引かれるがまま、教室へと足を踏み入れるのだった。




