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ぐっど喪ぉにんぐ!! 〜土葬少女のセカンドライフ〜  作者: わた氏
12章 きらめく、大切な思い出
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衝撃、ザラメとデート?!

 最初に()()を知ったのは、文化祭の3日前。

 カフェのカウンター席で、佐藤に問いかけられたのがきっかけだった。


「文化祭の小話?」


 聞き返すと、佐藤は生徒にするだろう余裕ある笑みを向けた。


「そ。我が佐藤塚高校に伝わる、昔話」


 いつの時代か。旧校舎の西側……ザラメを掘り起こした場所の近くに大きなカエデの樹があったと。

 

「誰かを大事に想う気持ちに、カエデが応えてくれるんだとか。捧げた祈りを対価に背中を押してくれる、そんな不思議な言い伝え……それが文化祭のルーツさ」


 足を組んで肘をつき、流れるように続ける。


「転じて、文化祭をペアで巡るとお互い幸せになるんだってね。カエデの加護ってところかな」


 アイスティーに追加のシロップを注ぎながら、母校の都市伝説をつらつら語る佐藤に、俺は淡々と相槌を打っていた。


「ふぅん」

「要は、カプ厨のカエデってこと」

「ひっでぇ言い方」


 神秘的な伝承が、一気に世俗的になっちまった。


「という訳だから、うちの文化祭はちょっと特殊でさ。ペアで巡ると結構旨味があるんだよねぇ」

「そうかよ」

「そーなのだよ郡クン」


 在庫を調べるザラメとニケル、閉店前の拭き掃除に勤しむコスズを脇目に、俺も水道周りを布巾で拭く。


 俺には関係無い話だ。

 一緒に回る相手もいないし、回るつもりもない。

 祭りの盛り上がりに浸って終わりになるだろうと、そう見込んでいたのに。



 ――ザラメとデート、しませんか?



 アイツのたった一言のせいで、“関係ある話”になっちまったんだ。




 ――――


 文化祭の1日目が幕を下ろし、太陽がゆっくりと舞台から捌けてゆく夕暮れ時。

 ザラメの口から出てきたのは、信じがたいほどに甘美な誘い文句だった。


「は、はぁ……?!」


 西日が、ザラメの頬を優しく染め上げ。

 瞳は宝石のように煌めいて。


 首を僅かに傾げ、ザラメは口を萎めた。


「明日、郡さんと一緒に文化祭を回りたいんです。……イヤ、ですか?」


 男の庇護欲に訴えかけてくる上目遣い。

 甘く、いつもよりもワントーン高い声音。

 夕焼けも相まって、まぁまぁロマンチックなシチュエーション。


「…………ああ、ザラメ」


 俺は唾液を飲み下し、口を開く。

 ザラメの誘い、答えは1つだ。


「イヤ・拒否・却下!」

「まさかの3段構え?!」


 愕然と、顎が外れんばかりに口を開くザラメ。

 さっきまでのムードが一瞬で台無しになるんだから、流石ザラメだ。


「デートですよザラメと! 雰囲気も出そうと魅惑的なお誘いまでしたのにぃ」

「デートも雰囲気もいらんわ! そもそも何でデートなんだよ、それも俺と」


 俺の心からの疑問に、ザラメは2枚のチケットを片手に答える。


「それがですね、今日お客さんからこれをいただきまして……」


 言って、チケットの片割れを俺に見せてくる。


「…………デート券?」

「はいっ。これをペアで持って回ると、あらゆるお店がタダになるんです!」


 何そのデタラメなチケット。


「恋人じゃなくても、日頃よく一緒にいる人とか、兄弟姉妹とかでも大丈夫みたいですっ」


 守備範囲が広いなおい。


「だったら、他のヤツで良いだろ」


 条件的には、デウスもコスズもニケルも使える。


「デウスさんは明日仕事なんです。コスズちゃんとニケル君も、明日はゲームの生配信を観たいって言っていました」


 それで俺にお鉢が回ってきた、と。


「ザラメ、明日の文化祭は色んなところに行きたいんです。だからお願いします、郡さん!」


 言いながら、片方のチケットを前に突き出す。


 断りてぇ。

 ザラメに付きっきりで1日過ごすって、どんな罰ゲームだ。


 喉まで迫り上がる断り文句。

 だったが、すんでのところで一次停止しちまった。


「あの子、喫茶こやけの」

「これ最高のムードじゃね?」

「次の会報のネタは決まったわね」

「相手の男が羨ましいっ……!」

「これで突っぱねるとか無いよな」


 いつの間にか生徒の群れ(オーディエンス)で賑わう、俺とザラメの半径5メートル。


 あとついでに、後ろでデウスが塵になっていた。


「ザラ……デー…………ぁ……」

「諸行無常……」


 灰燼(デウス)の前で屈み、合掌をするコスズは平常運転だ。


「お断りだ。俺は明日、忙しいの」

「ギャンブルと埋蔵金探し意外やること無いでしょ」

「ギャンブルと埋蔵金探しがやることなんだよ」


 言うや否や、批判と悲嘆の嵐が凄まじい。


「そこをなんとかぁ」

「断る」


 ここまで来るといつものザラメだ。

 夕闇の中で、両手を合わせて頼み込んでいる。

 そして俺は、NOを何度も繰り返す。


「……だったらしょうがないです」


 ようやく諦めたのか。

 両手を下ろして目を伏せたザラメは、しかし決意を込めたような力強い眼差しで言い放った。


「ご飯からお風呂にお休みまで、何度でもお願いしちゃいますっ」

「鬱陶しい!」

「郡さんの枕元で、夜通し囁いちゃいますよっ。“明日の文化祭にザラメと行きたくなーる”」

「睡眠妨害じゃねーか!! つーか、どうせお前朝までぐっすりだろーが!!」

「はぁ〜?! ちゃんと起きられますぅ! だったら今晩、ホントのホントにやってやりますよ!!」

「やれるもんならやってみやがれ!!」


 ただの口論。毎日恒例、お馴染みの流れ。

 だと言うのに、野次馬は歓喜しやがる。そんな浮足立った空気感に、一石を投じるものがいた。


「だったらどうだい? 対決してみるのは」

「は」


 佐藤がガヤの間から顔を覗かせ、続けてミドウもアホ毛をぴょこぴょこ跳ねさせた。


「旧校舎の保健室なら空いているんだよなぁ」

「実況ちゅーけーだヨ!」


 と、2人が余計なことを口走り。


「俺たちも観戦するぞぉ!」

「ザラっちの見守り隊ってことね!」

「我ら。推しに命を懸ける者」


 野次馬が湧き上がり。


「じゃ、じゃあオレも観戦するぞ」


 ニケルが同調圧力に屈し。


「ワタシも……」

「良いですね、コスズちゃんも一緒に寝ましょう!」


 コスズとザラメが女子会気分で盛り上がる。

 混沌を固めたような光景だ。

 煽っただけなのに、ここまで厄介なことになるとは思わなかった。


 ……え、これマジでやるつもりなのか?

 冗談じゃねぇ、今日は動き回って疲れてんだよ。

 寝かせろ切実に。


「郡さん、今夜は寝かせませんよ♪」

「ザラメちゃんファイトおおおお!!」

「うおおおいおおおお!!」

「あーもう!! 分かった、付き合うから!! だからお前らとっとと散れぇ!!!!」


 闇に沈む佐藤塚高校に、俺の心からの叫びが響き渡るのだった。

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