集合、夕焼けこやけの反省会!
烏が遠くで鳴いている。
琥珀色の斜陽が柔らかに、外されゆくテントを彩っている。
人の流れは校門へと。敷地の至る所にいたであろう生徒や来賓は、文化祭の思い出を語り合いながら帰路へ着く。
俺たちが旧校舎でサバイバルしている間に、催しは終わったらしい。
「で、ザラメたちが郡さん不在の穴を埋めるべく休憩返上で動いていた間、呑気に旧校舎をうろついていたと……」
俺はと言うと、ザラメたちが建てた移動版喫茶こやけの前で正座させられている。
罠にかかって身体に纏わりついていた石鹸やら矢やらもそのままだ。
とっとと洗い流したいが、ザラメの鬼のような形相が、それを許してくれない。
なんとか罠を突破し、ようやく落ち着けると思ったらこの仕打ち。これこそ罠だろ。
「店番放ったらかしで学校探検なんて、責任感が足りません」
「“探検”なんて生易しいもんじゃねぇんだって!」
「……ザラメも探検してみたかったです」
「聞いてる?!」
どんなに訴えようと、虚しいかな。抗議の声は意味を為さない。
切り傷や掠り傷が、ズボンを引き裂いて足首にも無造作に刻まれているから、正座は結構痛むんだが。痺れるし。
「まぁまぁザラメちゃん。郡も反省しているだろうし、僕からも許してやってくれないかなぁ。……それと、他の教員にチクるのはやめていただきたく」
隣で同じく正座の佐藤。首からぶら下げているのは、“私たちは学校を恐怖に陥れました”とマジックで描かれたプラカードだ。
教師とは思えない有り様。良いのかお前は。
佐藤の反省具合を伺うように一瞥したザラメへと、件の男は両手を合わせて懇願した。この年にもなって、あざとい上目遣いで。
「お義兄さんからの、お願いっ」
「ケッ」
ザラメが不満を吐き捨てている。
ついさっき、俺から伝えた事実への嘆きも込めて。
「この方がザラメの身内だなんて、信じたくないです」
分かる。
「でも身内の不祥事……放っておけないですね♪」
だが流石ザラメ。
切り替えが早い。
にこやかに笑いながら、片手で器用にスマホの画面をタップしていた。
「あのぉザラメちゃん? もしかしなくても学校の電話番号打ち込んでる??」
「よーし良いぞ。絶対直接チクリに行った方が早いが、やっちまえザラメ」
「青年はどちらの立場なのだ……」
呆れ気味に見下ろすデウス。
背筋を伸ばし、仁王立ちで腕を組む姿は、逆光のせいでいつもよりも威圧感がある。
溜息1つ零すだけでも、迫力がヒシヒシと伝わってくる。曲がりなりにも神ってことか――
「ところで義兄さん。旧校舎には“再起”をかけておいたが、他に細工はしていないだろうな」
なんだ、いつものデウスだった。
「してないです、未来の義弟よ」
「それから義兄さん。私は、ザラメを正式に妻として迎え入れたい」
膝をついて、深々と頭を下げるデウス。
こいつ、外堀から埋めようとしてやがるっ……!
「何処の馬の骨とも知らない神様に、うちのザラメちゃんは渡せないなぁ」
佐藤も乗るな。
企むように口角を上げ、手で顎を擦る義兄。
「それでも望むなら……義兄のいうコトは何でも聞くことだね。そうだな……まずは部屋の掃除と洗濯、あっ、お菓子の補充も忘れずにね」
「これがイビリってヤツか」
ニケルはヨーヨーをバウンドさせながら、至極冷静に添えた。
「佐藤は堕落人間だぞ」
「ニケル君は、こんな大人になっちゃ駄目ですよ」
ザラメからの、珍しい100%正論だ。
「佐藤……姑……」
綿菓子を頬張りながら、ぼそりとコスズ。
「コスズは気にしないのかよ、アイツがデウスの義理の兄って」
「お菓子くれるなら……許す」
俺の問いかけに対し、厳かに首を縦に振る。
どっちが姑か分かんねぇな。
「せんせー、調子に乗ってたら本当につーほーされちゃうヨ?」
佐藤の隣で反省中のミドウからも、同じく掛けたプラカードを両袖に掲げては毛厳しい一言。
“おまじない”の効力で、透けていた脚は元通り。解けかかっていた包帯も巻き直されていた。
「まぁ、皆さん大事にならなくて良かったです」
言うとザラメは、スマホをスリープモードにしてコートのポッケに仕舞う。
なんだかんだ甘いヤツだ。
疲労困憊な状況下、今ばかりはザラメの甘さを有り難く思うのだった。
――――
明日の出店は無いから、全員で撤収作業に入る。
琥珀色の夕日が沈み、見える景色が、人が暗がりに埋もれていく。
生傷が痛むからと、俺は作業をそれとなくサボっていた。
食材の残りに封をする簡単な仕事だ。
力仕事? 男手?? デウスがいるだろ、俺は古傷が痛むんだよ。
周りに悟られないよう、なるべく自然に大荷物から距離を置いていた。
――そんな中。
テントや備品の片付けが一段落した頃。
「郡さんっ」
両手を後ろに、ザラメが近づいてくる。
手を抜いたのがバレたか。緊張の糸がピンと張る。
だがお叱りは飛んでこない。
バレてはいないようだ。一安心で、緊張の糸が緩むのを感じた。
その代わりと言うか何と言うか……ザラメの様子が普段と違う。
伺うような上目遣いに、ザラメにしては珍しく控えめに微笑んでいるためか。
夜の訪れで薄暗い顔は上機嫌で……心無しか色っぽく見えた。
文化祭マジックか? もう終わってるんだが。
「なっ、何だよ」
「お誘いしたいことがありまして」
腕を俺の胸元に突き出したザラメは、小さく一歩踏み出す。
耳朶を震わせる足元は心地良く、吹きかけていたであろう香水の匂いが鼻腔を擽る。
つか近い。吐息がかかっちまいそうだ。
相手がザラメだってのに、ドクンと胸が大きく弾んだ。
「ふふっ」
目を細め、ザラメは笑みを向ける。
――白い手に握られていたのは、2枚のチケットで。
艶めく唇が、やがて言葉を紡ぐのだ。
俺にとって、到底信じがたい文言を――疲れも傷の痛みも忘れちまう、甘ったるい“お誘い”を。
「ザラメとデート、しませんか?」
来年も、ぐっど喪ぉにんぐ!!をよろしくお願いいたします。




