召喚、“周回”錯誤の迷える空間
人さし指を上下し爪でテーブルを打ち鳴らす音は、自分でも忙しないと思う。
脚が小刻みに揺れるのは、不満が絶えず募っているから。
そして不満は、カタコトな音声によってまたしても積み上がる。
ザンネン!
セイカイハ、サッソウトアラワレルハクバノオウジサマ!!
「分かるかんなもん!!」
激情のまま、拳でテーブルを叩く俺。
椅子の背もたれに据えられた照明が点滅を繰り返すのも、喧しいと感じてしまう。
意気揚々とクイズに乗った俺だが、結果は連続不正解。
早々に一攫千金のチャンス――“ヒミツのお宝”なる推定埋蔵金を逃し、ただの消化試合を強いられていた。
「大体何だよ!! さっきから変な問題ばっかり出しやがって!」
ザラメのスリーサイズ
佐藤塚高校に眠る陰謀
筋肉標本の十八番の筋トレメニュー
ザラメお気に入りの化粧品メーカー
生徒会長と書記の初めてのデートスポット
誰が分かるんだよ!!
5つ目に至っては知りたくもねぇわ!!
挙句、“ザラメの好きな人のタイプは?”と。
このように、内輪ネタかつ高難易度の問題で攻めてきやがったのだ。星1つでただ一言“クソゲー”とレビューしてやりたい。無限に怒りが込み上げてくる仕様だ。
さらに、一度座れば最後。終わるまで椅子が動かないようになっているようだ。
身体の正面がテーブルとほぼ接している状態で座らせられているため、椅子を引けず立ち上がることができないのだ。
ミドウはと言うと、
「ふせーかいの貴方には、“乙女心はこれでバッチリ! 人のキモチドリル”をプレゼント♪」
「いらん」
ご機嫌な笑顔で、ドピンクのドリルを手渡してくる始末。
すかさず俺は、手を前後にして追っ払う。デウスにでもあげてやれ、喜ぶぞ。
「はぁ……」
額を手に押し当て、頭の重みを感じる。
怒る気力さえ無い。
げんなりと次の問題を待っていた、その時だ。
ココデ、サプライズモンダイ!
イマ、アナタガイチバンヒツヨウトシテイルヒトにアエルチャンス!! クイズモラクチンにナッチャウカモ?!
……なるほど、クイズの出題範囲が身の回りのことである以上、近しいヤツに聞き出せればカンニング仕放題ってか。
「会いたい人……思い人のことを強く願って、大きな声で名前を呼ぶの!」
燥いだ様子でミドウが俺の周りを舞っていた。
肘をついて、俺は思考を巡らせる。
……このクイズ、実は半分ぐらいザラメに関する出題なんだよなぁ。
佐藤とミドウが作った罠の1つである以上、問題のテーマが偏っているようだ。
となると、ここで呼ぶべきはザラメ…………いや、待て。
もっと必要な相手が、今の俺には――。
ピロンっ、と軽やかな電子音が空気を震わせる。
考える時間は終わりのようだ。
「さぁ郡さん! “会いたい人は〇〇!”って、声高らかにどーぞ!!」
俺が今求めるのはただ1人。
クイズのヒントを聞くための相手じゃねぇ。
罠の数々を仕掛け、そもそも俺たちがここに居る原因――。
「俺は今すぐ、佐藤に会いたい!!」
ミドウの顔が輝いたように見えたのも束の間。
眩い光が俺を包んだかと思えば、教室が視界から消えた。
次の瞬間、俺の目に広がったのは見知らぬ空間。
その空中に飛ばされた俺は、
「あっだぁ?!」
そのまま石畳に激突するのだった。
――――
「ってぇ……ここ、どこだよ」
そこは、学校からかけ離れた場所だった。
壁や床は長方形の石が整然と敷き詰められたもので、現代には似つかわしくない……歴史的な建造物と言われれば即座に納得してしまうだろう。
喧騒に満ちた学校とは違い、物音1つ聞こえない。
拍動が速まっているのが、嫌というほど分かる。
風の通りは感じない。土や石の匂いが籠っているのも、空気の流れが無い証拠だ。
“部屋”と言うより“通路”の方が合っているか。
無風状態のこの場所は、秋の肌寒さと縁遠い。むしろ空気はあたたかく、人肌によく馴染む。
……しかしどうも落ち着かない。
人の体温が充満しているみたいで、不気味に思えたのだ。
本能に急き立てられるように、全身に薄っすらと緊張の膜が張る。
視界は薄暗く、足元は見えない。
靴の先で床を擦り、地に足がついているのを確かめてほうと息を吐いた。
明かりは、壁に据えられているランプだけ。温かく火を灯すそれらは、これまた現代からは想像がつかない。歴史の教科書で見た、近代の代物だ。
「ん、何だこれ。壁画か……?」
明かりを頼りに、壁に手を付き目を凝らす。
壁に絵なんて、古代の文明じゃ無いってのに。呆れながらもつい魅入ってしまうのは、時代錯誤なこの場所にあてられてしまったからか。
白い線で描かれていたのは、“人”の絵だった。
それも1人じゃない、複数人描かれていて……どの人間にも、額にお札がある。
「これって、キョンシー……」
右に視線を移すと、その続きだろうか。
キョンシーたちが土に潜っている絵が見える。
それだけでも異様だってのに……さらに目を疑うものが、この壁画にはあった。
“キョンシー”たちを踏み台に立っている“女”。
頭上の“神”を打倒せんと、睨めつける“女”。
胸の辺りまで髪を下ろして漢服を纏ったそいつは。
額にお札を貼り、バツ印のヘアピンが身につける壁画のそいつは。
既視感に身体が固まる。
頭の中で、アイツの顔しか浮かばない。
だってこの女、ザラメそっくりで――――
「こお、り……? どうしてここに……」
石畳を踏み鳴らす音にも、気づかなかった。
我に返り、ようやく振り返る。
俺の意識を呼び戻した響きは、聞き馴染みのある声は、佐藤のものだった。




