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ぐっど喪ぉにんぐ!! 〜土葬少女のセカンドライフ〜  作者: わた氏
11章 ときめく、おまじないと文化祭!
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開場、お待ちかねの文化祭です!

 そろそろ上着が欲しくなる時期だと、捲っていたシャツの袖を下ろしながら思う。


 鰯雲が朝焼けに淡く彩られる空の下。ひんやりとした秋の風が、肌に染み込んできた。


 暑さに寒さ。季節の移り変わりってのは、どうにも気になっちまうものだ。

 まぁここに、上着が恋しくない――年中ラフな格好で彷徨くキョンシー女がいるわけだが。


 そんなザラメも季節の行事には鋭くアンテナを張っており、今回だって例外じゃない。


「文化祭ですね、郡さん!」

 

 そう。ニケルが毒を撒いたことによる2週間の延期を挟み……満を持して、今日が文化祭当日だ。


 旧校舎と新校舎を繋ぐ大きな一本道。

 生徒が移動教室で往来する校舎の要だが、今は出店が並ぶストリートに様変わり。

 その通路に、俺たちの小さなテントが建っていた。鉄パイプの柱が伸びる先にがオレンジ色の布が張られている。そして生地には、白く丸っこいフォントで“カフェこやけ”、傍には吹き出しつきで“出張販売です♪”と書かれていた。


 テントを見上げる俺とコスズの隣で、ザラメがこんなことを言ってきた。


「流石ザラメですっ。設営もバッチリですね!」

「やったの俺とデウスだけどな!?」

「ワタシも……手伝った」


 当日の早朝ザラメに叩き起こされ、料理の下ごしらえやらテントの設営やらをさせられる俺。ニケルに買い出しさせる物も全部俺が調べたし。おかげで始まる前からクタクタなんだが。


「指示を出したのはザラメですよ。ザラメの敏腕指揮の賜物ですっ」

「二転三転しまくってたじゃねぇか! 何が敏腕だよ!!」


 設営だけで一苦労。動きまくってかいた汗が冷えて寒いんだが?!

 反発する俺の言葉を、ザラメは綺麗にスルー。


「それよりも郡さん、見てくださいよ!」


 子どもみたく無邪気に笑ったザラメは、身体の全体――長袖のシャツの上に纏ったエプロンが見えるよう、数歩分俺から離れた。


 テントの色と同じ橙のエプロンには、デカい胸に引っ張られた“カフェ こやけ”の文字がある。言わば店員スタイルだ。

 おまけに胸元には、“外部出店”と記された札を留めていた。


 いつも以上に張り切っているのか、くるりと一回転。


「ワタシも〜……」


 コスズもザラメのマネをして、お揃いのシャツとエプロンを見せつける。

 仕上げに2人で両腕を広げると、ザラメが声を弾ませて聞いてきた。


「ふふ♪ どうです? 似合ってます?」

「似合ってるも何も、いつもとさして変わんねぇだろ」

「うー、見る目がありませんね。郡さんは」

「節穴……」

「そうだぞ青年、こ〜んなにも愛らしいのに」


 横から聞こえる声の正体は、そういや神だったデウスだ。

 今日は手伝いってことで、こいつもシャツにエプロンを身に着けている。


「デウス様……エプロン、見て見て……」


 両腕をぱたぱたと振るコスズ。


「似合っているぞ〜、コスズ。流石私のツカイマだ。店も繁盛間違い無しだな」


 デウスが腰を屈めて笑いかけると、コスズもご満悦のようだ。頭の上にほわほわと花が舞っていた。


「そしてザラメも素晴らしい……!」


 一瞬にして鼻を伸ばすデウス。

 コスズに対する大人モードはどこ行ったよ。


「具体的にはそうだな、柔らかくもあたたかな笑み、小川のように心を洗ってくれる清らかさ、そして優しく包み込んでくれる包容力……」


 聞いてもねぇのに、自分の身体を抱いて語りだす。


「コイツ出禁にならねぇのかよ」


 俺と同じように準備に駆り出されてたってのに、よくまぁ舌が回るもんだ。

 一周回って感心しちまう。ああはなりたくないが。

 ザラメも呆れているし。


「やはり君こそ、私の花嫁に相応しい……!」

「断固として却下です」

「照れなくても良いのだぞ♪ だから今日もこうして、私とのデートを計画してくれたのだろう?」

「ただの文化祭の手伝いだろーが」

「違うな……これはザラメとの共同作業! ザラメが私を選んでくれたも同義!!」 


 ぜってぇ違うだろ。

 同じく準備している人らが、2度見してくる。怪訝な目線で。


「お揃いの衣装であるだけでも興奮冷めやらぬと言うのに、同じ屋根の下だなんて……これは実質、新婚生活ではなかろうか!!」


 通路の中心に躍り出て、高らかに叫ぶ神が1人。

 歌うように語り、舞うようにステップを踏む様は、まるで舞台俳優によるミュージカルだ。

 スポットライトも当たっていないのに、目を奪われそうになる。なんつーデタラメな求心力だ。


 デウスは止まらない。留まる気配もない。

 ザラメがいる方向へ、腕を伸ばす。……その先に、青いバラを掲げて。


「ふははは、夢のようだ!! そう! 今こそ、ザラメと私が1つにな」


ピピー!!


 デウスの熱い演説は、突如鳴り響いたホイッスルによって遮られた。


 笛の音の方向には、“文化祭委員”の腕章を付けたミドウの姿が。


「デウス様、御用だヨ!」

「続きは生徒会室で聞きますからねぇ」


 ミドウの後ろから、ひょっこりと佐藤が顔を出す。朝っぱらからチュッパチャプスを咥えて。

 鍵束を纏めた輪っかを指先で回しながら、佐藤は不敵に笑った。


「うちの生徒たちに、プラトニックなものは見せられないんで。んじゃミドウちゃん、後は頼むよ」

「任せて!」

「ちょっわ?!」


 デウスの胴体に包帯を巻き付け、宙に浮かせるミドウ。


「ミドウ、主に何をするのかね?!」

「生徒会室に連行だヨ」

「まっ、待ちたまえ! 私にはまだ、ザラメとのランデブーがぁ〜……」


 そのまま高度を上げ、デウスは旧校舎へと連れて行かれたのだった。

 零れ落ちる涙が、朝日に煌めいて。

 嘆きの声がフェードアウトアウトしていく。

 ……ザラメの何がアイツを夢中にさせるんだか。


「行っちゃいましたね」


 ミドウの飛んでいった方角を眺めるザラメに佐藤や、ハンカチをひらひらと振るコスズの傍ら。地面に落ちた青いバラを拾い上げ、俺は溜息を漏らす。


「この文化祭も、タダじゃ終わりそうにねぇな」

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― 新着の感想 ―
「見て見て」と手を振って、褒められたらほわほわと喜ぶコスズちゃん、可愛いすぎません!? そんなコスズちゃんに対して屈んで褒めるデウスさんも、お父さんみたいでほっこりしました。 まぁ、そこからのデウス…
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