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ぐっど喪ぉにんぐ!! 〜土葬少女のセカンドライフ〜  作者: わた氏
9章 復讐? 強がりパンデミック!
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逆転、謎の声の仰せのままに

 汗を滝のように流し、顔を真っ赤に染め上げるニケル。相当のダメージが入ったらしい。

 だが反撃は無かった。立ち上がれないまま、ニケルは無力に手を伸ばすだけだ。


「やめ、返せっ……!」


 それを他所に、俺はページをパラパラと捲る。

 少年心擽る文言を、ご丁寧に読み上げながら。


「ふぅん。“世界という大いなる帳の裏。瑕疵との誓約が交わされし時、天からの災いが地を穿つ。やがて世界は崩壊し、新世界が創生される”」

「うわぁああああああああん!!」


 ニケルの攻撃は止み、コンクリートを蝕む毒も、空まで立ち昇る竜巻だって忽ち消えちまった。

 グラウンドで液状化していた木々も、元通りだ。


「なるほどねぇ。彼の弱点は羞恥心ってわけか。だからさっき、僕の液状化が治まったんだなぁ」


 佐藤は顎に人差し指を添え、納得した様子だ。

 弱点は薄々気づいていたが、ここまで効くとは思わなかった。

 肝心のニケルも涙ぐんじまったし。


「郡さん……流石にやり過ぎだと思います」


 ザラメからガチで引かれている。

 顔には辟易の文字が、目には軽蔑の色が。

 ザラメだけじゃない。コスズにミドウからも、人で無しを見るような視線を送られている。


「郡……恥知らず」

「うんうん」

「外道……」

「そうだヨ」

「畜生……」

「おいそこまで言われるヤツか?!」


 鰯雲が群れ成す青々とした空の下で、俺だけがアウェーなんだが。


「郡のせいで、ニケル君が可哀想だなぁ」


 佐藤に至っては半笑いで溜息をつく始末。

 ……つーかお前には言われたかねぇ。そもそも、本の在り処を教えたのはどこの誰だよ。


 まぁ、何はともあれ異変は終息した。

 後はニケルから、リィンシーやら暴走に至る経緯を聞き出すだけだ。

 “再起”の必要も無いだろうな。扉の向こうでデウスが待っているが、出番はお預けだ。


 そんなことを考えつつ、毒を撒いた張本人を見据える。


「うう、人間めぇ……覚えてろよぉ」


 コンクリートの床に手をついて震えるニケルに、ザラメが恐る恐る近づく。


「あの、ニケルさん。大丈夫ですか」


 膝を屈め、ニケルと目線を合わせるザラメ。


「すみません、うちの郡さんが。後で怒っておきますから」

「ザラメ、近づきすぎんなよ」

「大丈夫ですっ」


 振り返ったザラメが、無邪気に笑う。

 どこからその自信は湧いてくるんだ。

 相手はツカイマで、無力化したとは言え敵。何があるか分かったもんじゃねぇのに。ヤキモキする俺を他所に、ザラメは構わず手を差し出した。

 優しく温かく、心を包むような声が響く。


「さっ、帰りましょ?」


 微笑むザラメが、柔らかな茜に思えて。

 人じゃなく、キョンシーでもなく……例えるなら、“カミサマ”みたいな。

 そんなの変なのに、歪で違和感満載だってのに。振る舞いは様になっていて……不思議な感じだ。

 だから考えちまう。本当のザラメは、“こっち”なんじゃないかって。


「ぁ……」


 ニケルも感化されたのか、吸い寄せられるように手を伸ばす。

 子どもっぽさの残る指先が、ザラメの手のひらに触れる…………その時だった。






 【――違うよね?】


 脳みそを直接かき乱す音。

 ノイズ混じりの声が、頭の中でこだまする。


「なん、だ。これ」


 反響する雑音に、酔いそうになる。


「この声……知ってる」

「アタシ、前に聞いたヨ」


 呟いたのは、コスズとミドウだった。

 心ここに在らず。漫然と虚空を見つめていた2人だが、声の主を探すかの如く空に目を向けた。


 【キミの願いは、そんなものかい?】


 柔らかいのに、淡白なコエ。

 男とも女とも取れない響き。年齢だって、察しがつかねぇ。分かるのは、人間のそれとは思えねぇってことだけだ。

 瞳孔は小刻みに揺れ、誰とも焦点が合わない……まるで、何かに強く急き立てられているようだ。


「誰ですか?! どこにいるんです!」


 ザラメが叫んでも、返答はない。


 【ねぇニケル。キミは()()()に、報いたいんだよね。それこそ、キミの飢えている感情】


 その言葉の矛先は、ニケルに向かう。


「オ、レは……」


 【キミの――ネガイゴト】


「ネガイ……そうだ、やらなきゃ……」


 顔を顰め、頭を押さえるニケル。

 絞り出した声は苦しそうで。それでいて、絶えることなく憎悪が滲んでいた。身体が強張っているのが、傍から見ても分かる。


「やっつけないと……ぜんぶぜんぶぜんぶ」


 悪寒が走った。

 言葉に纏わりついた怒りが、空気を震わせる怨嗟が、ただ事ではないと知らしめる。


 ふわっと、厭に生ぬるい風が肌を擦った。


 異臭が再び漂う。

 だが今度は、さっきみたいな薫香じゃない。鼻も気道も、肺に至るまでを犯す刺激臭だ。


 「うっ……何、これ」


 佐藤が蹲ったと思えば、俺も一瞬意識が飛びかけた。


「ゲホッ、ゴホ」


 口と鼻を押さえるが、今までとは比べ物にならない臭いに咳き込んじまう。

 足が痺れて動かねぇ。息をするたびに、針で刺されるみたいに胸が痛む。

 頭が重くて意識が掠れる……だから反応が遅れたのだ。


「郡さんっ!!」

「は――」


 ザラメの悲鳴とほぼ同時――。

 ニケルの足蹴りが、俺に炸裂した。



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― 新着の感想 ―
こちらまで拝見しました。 ニュー使い魔のニケルくん、絶対根はいい子ですよね……?(笑)。何と言いますか、ワルになりきれていないワルという感じがして、逆に愛おしかったです(笑) そして謎の存在リィンシ…
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