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ぐっど喪ぉにんぐ!! 〜土葬少女のセカンドライフ〜  作者: わた氏
9章 復讐? 強がりパンデミック!
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翻弄、人外たちのコロシアム

 屋上の扉を開け、決闘の場所にやってきた俺たちを、律儀にもニケルは待ち構えていた。


「来たな」


 腕を組んで、仁王立ち。

 翼のマントが、戯れるかの如く風に靡いた。


 我が物顔で、薫香が漂う。空気が希釈するのにも関わらず、甘ったるい匂いが鼻腔を侵す。現状身体は何ともないが、毒素であることに違いはない。長居はできないだろう。


「……そっちは1人足りないけど?」


 人差し指で俺たちを順番に指しながら、ニケルが怪訝な顔で問いかけた。

 そう。今ここにいるのは、俺とザラメ、コスズに佐藤にミドウの5人。デウスがいないが、これも作戦のうちだ。


 その作戦っつ―のは。まず屋上で、ニケルと相対する俺たちが陽動を行う。そしてタイミングを計り、デウスがニケルの“再起”を仕掛ける……といったもの。

 彼そのものを“再起”することで、リィンシーとやらの影響をかき消すことができるのだとか。


 ――あんなにも強力な“奇跡”……もつのだろうか……。

 と、デウスが物憂げな顔をしていたのが気になるものの、最善の手であるならやらなきゃ損だ。


 っつー経緯で、デウスとは別行動。あいつは今、扉の裏で“再起”の準備をしている。


「デウス・エクス・マキナはどこだ?」


 ニケルに聞かれても、断じて答えるわけにはいかねぇ。

 策を勘付かれないよう、言い逃れるのだ。


「さぁな。お前が別の神に浮気したから、家で泣いてんだろ」

「マ、マジか」


 良い感じだ。ニケルも話に食いついている。


「マジマジ……大マジ……」

「ずぅっと泣いてるヨ。ねっ、せんせー?」

「ああ。髪が乱れたまま、枕を濡らしていたねぇ」

「そうだったのか……悪いことしちゃったかな」


 上手く信じてくれている。

 このまま逃げ切れれば……。


「皆さんの言う通りです! デウスさんは、決して裏から奇襲しようだなんて考えてないですよ!!」

「ザラメお前えええええええ!!」


 こいつやりやがった! 言いやがったよ!!

 大戦犯ザラメの両頬を、これでもかと引っ張ってやる。


「正直バカの減らず口はこれかぁ!!」

「やえへふらはい〜! (やめてください〜!)」


 このクソキョンシーめ、バレちゃあ奇襲にならねぇじゃねぇか!

 ニケルもこっちの手の内が分かった以上、ただで返してくれないだろうな。

 なんなら、自分を欺いた報復として、毒素を倍にして攻めてくるかもしれねぇ。

 そんな懸念を抱いていたが――。


「泣いてなかったのか? デウス様。お見舞いとかいらないのか?」


 あたふたした様子で尋ねるニケルに、俺は悟る。

 …………こいつ、復讐とか向いてねぇだろ。



 ――――


 引き続き、屋上にて。

 気を取り直す意味も込め、わざとらしく咳払いをするニケル。危うく騙されそうになったことがまだ恥ずかしいのか、耳の先がまだ赤い。

 ……さっきよりも匂いがマシになったような気がするが、俺の鼻が慣れちまっただけだろうか。


「さっきのはノーカウントだからな」


 とか何とか言ってる。


「分かったから、早く進めてヨ」


 ミドウが冷ややかなのは、ニケルのペースに飽きてきたからだろうな。

 が、ニケルは気にも留めていない。

 マントで体を包んだかと思えば、大きく広げて靡かせて。強く、高らかに叫んでみせた。


「我の願い、果たさせてもらうぞ!!」


 鼓膜を震わせるのは得意げで仰々しい声。

 しかし気のせいかだろうか。強張っているようにも聞こえたのだ。

 何か覚悟を胸の内に秘めている……うっすらとそんな気がした。


「いざ!」


 次の瞬間、コンクリートの床を蹴る音。

 と、同時にニケルが風を切って突っ込んできた。


 狙いは、俺たちを散らすこと。


「2人は……下がって」


 コスズが前に出て、俺と佐藤に退避を促す。

 戦力外通知だ。事実だし、退くしかないが……。


 俺たちが距離を取り、扉の傍まで後退する間にも、ニケルの猛攻は続く。フェンスに足を掛け、バネみたいに跳び回っているのだ。

 戦力外な人間陣は、コスズの防壁――氷柱を連ねたものに前方を守られているが、他のヤツらには適応されない。

 ザラメやミドウはニケルの攻撃に翻弄されていた。

 足蹴りを躱しながら、ザラメは問う。


「“願い”って……復讐、ですか」

「ああ。宿願、神様への祈り……オレがツカイマとして存在する理由っ、だ!」

「わわっ……!」


 回し蹴りが、ザラメのみぞおちを掠めた。


「郡さん! ニケルさん強いです!!」

「よそ見するな、ザラメ!」


 ザラメが興奮気味で告げる間に、フェンスの上に降り立つツカイマ。その姿は、風見鶏のようで……などと例えている場合ではない。


「アシッドハリケーン!!」


 ニケルがマントを翻すと、(くう)を切る風の音。吹き荒れ、渦を描き、屋上の中心を竜巻が占拠した。


 氷柱同士の間を縫って襲い来る、ニケルの一撃。

 ある程度離れていても、暴風が身体を打ちつけて痛い。

 近くで戦うあいつらには、俺が感じる以上の脅威になっているはずだ。


「うっ、飛んじゃいそうです……!」


 踏ん張るザラメだが、時折かかとが浮いている。

 するとコスズ、


「竜巻……コワス」


 氷柱を竜巻のど真ん中から突き上げた。

 風の塊が掻き消される様に、戦意が一層昂ったらしい。ニケルは口の端を持ち上げた。


「やるじゃん」


 怪しく笑い、怪鳥は腕を前に出す。親指を立て、人差し指を伸ばし、後の指を折り曲げたら、ピストルのできあがりだ。


「何する気だ、あいつ」


 場外で呟く俺に、ニケルはすぐに答えを示した。


「ヴェノムショット!!」


 刹那、2人目掛けて迫るは紫色の弾。

 間一髪で避けたザラメが目を剥いた。


「と、溶けてますっ……!」


 着弾地点……コンクリートの床が、煙をあげている。目を凝らしてみると、ジュクジュクと膿のようになって溶け出している。


「お手製の劇物だからな、そんじょそこらの毒とは比べ物にならないぞ」


 2発目を撃たんと構えるニケルに、包帯が絡みついた。


「お仕置きだヨ!」


 仕掛けたのはミドウだ。

 ニケルの両腕を包帯で捕らえ、そのままフェンスにぶん投げる。

 だがニケルが一枚上手。フェンスに足を屈めて、そのまま綺麗に着地しやがった。


「埒が明かねぇ」


 一見すると互角だが、ニケルの方が優勢だ。屋上のフェンスやら風通しやらを上手く活用し、多勢であるザラメたちを確実に追い詰めていた。


 なんつーか、見ていてもどかしい。

 逆転の一手がほしいところだ。


「ちょっと郡」


 歯噛みする俺に、佐藤が耳打ちしてきた。指を手前奥に動かして、来いって促してくる。


「なんだよお前、こんな時に」

「良いから」


 佐藤に先導され、ニケルにバレぬよう音を潜めて後に続く。


「これって……」


 そこは屋上の隅。

 俺たちが出てきた扉……上にタンクを(しつら)えた建物の角を曲がった突き当たりで。

 ()()()()()()()()()を見据え、一人頷く。


「使えるかもしれねぇな」


 異変の始まりから今までを振り返り。

 躊躇うこと無く、それに手を伸ばした。

 一か八か、賭けに出てやる。決意とともに、ニケルの前に姿を現した。


「なんだ人間、何をコソコソ……」

「これが目に入らねぇか?」


 俺が突き出した分厚い冊子に、ニケルが目を丸くする。冷汗を噴き出し、顔が引き攣り、伸ばした手はわなわなと震えていた。


「おま、それ……やめろっ!」


 聞く耳持たず、カバーをガバッとご開帳。そこに書かれたタイトルを、これっぽっちの悪意もなくザラメが読み上げてくれた。


「『読めばキミも漆黒の伝道師! クールな言葉辞典Ⅱ』?」

「人間なんてキライだああああああ!!」

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― 新着の感想 ―
ザラメはいつも通りじゃった!そしてシリアス展開じゃが、何やらニケル君の恥ずかしい何かがあるようじゃな!面白いのじゃ!
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