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ぐっど喪ぉにんぐ!! 〜土葬少女のセカンドライフ〜  作者: わた氏
9章 復讐? 強がりパンデミック!
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乱入、第3のツカイマ!

 窓から身を乗り出して、()()は顔を真っ赤にしていた。


 この流れで現れたとなると、どう考えてもツカイマだ。

 外見的には、中学生ぐらいか。

 黄土色の髪は外向きに跳ねて、アクセントに左横の髪が紫色に染まっている。後ろで束ねた3つ編みは風に揺れる。

 服はカンフーでよく着用されている武術服。3つ編みの1つ結びと言い、うちのキョンシーと気が合いそうな格好をしている。


 特に目を惹くのは、翼を模したマントだった。水色を基調とし、眺めているだけでも羽毛の質感が分かる。左側に靡くそれが、片翼の怪鳥を思わせた。

 ツカイマは滝汗を流し、歯をぎりぎりと鳴らしていた。


「よよ、よ、余計なこと言うなよな!」


 声変わりのしていない、興奮したガキの声が教室に響く。


「……佐藤、他になんて……?」

「確か、『あとはこう、マントをバサァっとした方が良いな!』って」

「おお~……」

「うわああああああああ!!」


 容赦ねぇなお前ら。

 ツカイマはマントを口元まで押し上げ、耳まで赤くして悶えている。

 茶番を繰り広げているところ悪いが、話を進めるぞ。


「お前がニケルか?」

「おっ、やっと聞いてくれたな。ふっふっふ……我こそ、泣く子も黙る毒の使い手! その名は……」

「見て郡、身体が元に戻ってきた!」

「マジか!?」

「え、ちょ。オレの名乗りを……」


 振り返ると、溶けていた佐藤の身体が元通り。

 手を触ってみても、スライムになったり崩れたりすることは無い。

 頭のてっぺんから爪先まで再確認するが、異常は見当たらなかった。

 何故急に治ったのかは分からないが、一安心だ。


「せんせー、良かったヨぉ……!」

「一件落着ですね!」

「ハッピーエンド……」

「終わってないから! まだ外は大惨事だから!!」


 痺れを切らして、教室に侵入してきた。


「全く……この時代の人間は、危機感や恐怖心を置いてきたのか? オレがいた頃と違いすぎるだろ」


 カッコつけられず、不満が溜まっているっぽい。

 さすがに申し訳なく思ったのか、ザラメが会話を繋ぐのだった。


「すみませんニケルさん。続きをどうぞ」

「次こそは遮んなよな」


 ニケルはわざとらしく咳ばらいをして、大仰にマントを広げて語った。

 揺らしたマントの先から、飛沫が跳ねるのも気にかけず。


「我が名はニケル! 偉大なるリィンシー様にお仕えする、忠実で強大なツカイマだ!!」


 やっと言いきれて満足なのか、ドヤ顔のニケル。

 ……いや待て。聞き捨てならない単語が聞こえたんだが。


「——“リィンシー”とは、誰かね」


 俺が聞くより先に切り出したのは、デウスだった。

 だが、いつものような余裕はない。爽やかさは鳴りを潜め、淡々と詰問する。


「さぁな、分かんない。直接会ったことも無いし」

「だが、君の力は……その“リィンシー”に()るものだろう?」

「もちろん! だけど、おかしな方だったぞ」


 両手をそれぞれ反対側の袖に仕舞い、ニケルは続けた。

 曰く、ノイズが掛かったような声と姿をしていて、特徴すらも捉えられなかったらしい。


「それから、おっかなかった。この世界を壊そうとしててさ。オレには……関係ないことだけど」


 寂しげにマントの毛を撫ぜるニケル。


 ——世界を壊す。

 なんとも途方もなく、現実味の無いことを言う。キョンシーやら神様やらがいるヘンテコな世界だが、群を抜いてオカシな話だと思う。

 それに、そのリィンシーってヤツ……世界を壊して、その後どうする気なんだ。


「でも、デウス様なら知ってるんじゃないのか?」


 不意に、ニケルが問いかける。

 特に含みも無く、さも当然のように。


 ——()()()()なんだしさ。


 その言葉に、デウスは目を大きく見開いていた。


「…………今、なんと……?」


 壊れたビデオみたく、何度もうわ言が繰り返されていて。口を閉ざすのも忘れ、茫然とニケルのいる方向を眺めているだけだ。

 あのデウスが、ここまで動揺するとは。


「ともかく! 異変を収めたいなら、我と戦って勝つことだ!!」


 宣戦布告とともにマントから羽根を引きちぎり、生徒会室の床に投げつけた。

 突き刺さった羽根の先からは膿のようなものが滲み、床に染みていく。


「ここはもうじき、我の毒に支配される。言っとくが、他の教室にはもう仕込んであるからな。逃げても無駄だぞ」


 窓の柵に足を掛け、宣戦布告。


「決闘は屋上でだ!」


 そう言い残し、枝から空へと飛び上がる。


「慌ただしいヤツだ……」

「絶対来るんだぞ!!」


 いなくなったと思っていたニケルが、突然逆さまに顔を覗かせる。

 念には念を。釘を刺し、今度こそ去っていった。


「何だったんだ……」


 如何にも幼い勝負宣言。ただのガキならデタラメだと流せるが、相手はツカイマだ。

 部屋を蝕む甘ったるい匂いが何よりの証拠。

 吐き気を催す媚びた薫香に、鼻が曲がりそうだ。


「行きましょう、ニケルさんに会いに」


 建物の中に残ったところで、身体が溶けるのを待つだけ。

 だったら、真っ向から退治しに行くほかない。


 足早に教室を抜け出す最中。

 デウスが不意に、突き刺さった羽根に目を向けた。

 溶け始めるそれを見下ろす瞳に、憐れみと苦渋を満たし。

 そしてぽつりと零したのは、漠然とした……しかし確かな危惧だった。


「あんなにも強力な“奇跡”……もつのだろうか……」

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― 新着の感想 ―
新たなツカイマ、二ケルは、リィンシーという神のツカイマなんじゃな。まさか世界を壊すためにいる神とはのう。これからシリアスになっていくのか、ザラメのカオスジェットコースターに巻き込まれるのか、気になるの…
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