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ぐっど喪ぉにんぐ!! 〜土葬少女のセカンドライフ〜  作者: わた氏
8章 密着、ザラメちゃん24時!
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知りたい、不思議な貴方のこと

 ——不思議な人です。


 そう思ったのは、郡さんの背中を追いかけている時のことでした。


 今、ザラメたちは劇の練習を終えて丘を下りています。

 木々が両脇に並び、所々で葉っぱを飾る一本道。郡さんは歩くのが速いので、早歩きでザラメもついて行きます。


 いつもより、郡さんの歩くペースが速いような?

 横に並んで顔を覗きこもうとすると、それとなく逸らされてしまいました。


 振り返ると、大きなお城の舞台装置と、空気を乾かしてしまいそうなほどに鮮やかな照明があって。郡さんとの濃密な時間が自然と蘇ってきて、自然と表情が綻ぶのを感じます。


「付き合ってくださって、ありがとうございました!!」

「……ん」

「郡さんのおかげで、良い練習ができました! すごく助かりました!!」

「あっそ」


 相変わらず、ぶっきらぼうさんです。

 口元を手で隠し、そっぽを向いてしまいます。

 ですが、声は柔らかくて……優しいんです。


 それが嬉しくて、つい笑いかけちゃいます。

 すると郡さんは、ますます困り顔。だけど、それは“嫌だから”する顔じゃないと思います。


 それなら……貴方は何を思っているのでしょう。

 ——不思議な人です。


 と、郡さんがぽつりと言いました。


「今日のことは、その……忘れろよな」


 恥ずかしそうに、頬を搔きながら。

 ばつが悪いと、今すぐこの場をから立ち去りたいと言いたげに。

 やけに早歩きなのは、そう言うことでしたか。


「いえ、忘れませんよっ」


 その言葉に、郡さんの足が止まりました。

 ザラメの答えがよほど意外だったのでしょうか。足を一歩も動かさず、目を丸くしてザラメを見つめてくるんです。


 ——気になったからだよ! お前がこんな時間にうろうろして、何も思わないわけねぇだろ!!


 ザラメを心配して、耳も真っ赤にして伝えてくれたこと。


 ——知りたいんだよ、お前のこと。


 そう、まっすぐ言ってくれたこと。

 忘れられないし、忘れたくないです。


 それに、ザラメは死んでるんです。生きていた頃のことは覚えていませんが、蘇ってからの毎日は全部……それこそ、手に取るように思い出せます。

 生きている人がする“記憶の整理”……“忘れる”なんて、必要ないんですから。


「ずぅーっと覚えてますよ!」


 郡さんからツッコまれちゃいますね。

「うるせぇ、いいから忘れろ!」とか、言われてしまいそうです。

 だけど、郡さんの反応は違っていました。

 少しの間だけ黙り込んで……何かを思い返すようにぼうっと空を眺めて、


「……そうかよ」


 とだけ、呟くのです。

 葉っぱ同士の掠れる音と、虫の音しか聞こえない静かな空間で、それでも聞こえるか聞こえないかというほど頼りない声で。


 確かに郡さんのものなのに、郡さんらしくない。

 懐かしむような、悔やむような、そして心からほっとするような……そんな声の色をしていました。


 そうして、今度はゆっくり歩き出します。


 ——不思議な人です。


 ギャンブルが大好きで、金遣いが荒くて、埋蔵金にも夢を見ているどうしようもない人。

 でも、それだけじゃない。

 ザラメが困っていたら、なんだかんだ言いつつも手を貸してくれるあったかい人。


 それでも、知らないことだってあるから。

 だからザラメも、知りたい——貴方のことを。


 郡さんの大きな背中に、そう思うのでした。






 ――――


「なんだよ、鼻歌なんて歌いやがって」


 暫く歩いていると、郡さんが両目を半月みたいにして聞いてきました。


「いやぁ、郡さんも良いとこあるなぁって」

「はぁ?」

「ザラメを心配して、わざわざついてきてくれてたんですもん。それに、前から見ていたってことは、ずっと気にかけてくれたってことでしょ?」

「誰が…………そ、そうだな! 気になってたゼ」


 素直になりきれないようで、言い淀む郡さん。

 明後日の方向に視線が泳いでいます。


「それ以外に理由なんてないもんな、ハハハッ」


 コスズちゃん曰く、郡さんはツンデレっていう人種だそうです。

 なるほど。つまり今はデレ期と。

 確かに、郡さんやけに素直ですっ。ほんと、何か隠してるんじゃないかってぐらい!


 納得するザラメを他所に、両腕を頭の後ろに回して口笛を吹きはじめる郡さん。ご機嫌ですねっ。


「あれ? これは……」


 ふと、視線を落とすと。

 郡さんが歩いた道の上に、何かが落ちていることに気づきました。


「ザラメメモ……?」


 ザラメの呟きに、すごい勢いで振り返る郡さん。

 その顔は、世紀末の阿鼻叫喚を一瞬に閉じ込めたようで。


「やめっ……見るなぁああ!!」


 熱烈に飛びつく郡さんを躱し、ページをペラリ。


 ーーーー

 ザラメメモ

 毎日朝一にゴミ出し。

 ついでに近所の住人と駄弁っている。

 20分近くの長話。しかも上機嫌になって帰ってくる絶好の機会。

 家を抜け出すならここ。


 ーーーー

 毎週水曜10:00〜15:00は“スーパーこんぶ”。

 この時間帯は、近くのパチ屋を避ける。

 急なシフト追加の可能性あり。


 ザラメは頼られるとチョロい。これは使える。


 ーーーー

 毎週月曜日は、朝5時から知人とランニング。

 ザラメの朝は早い。ご苦労なこった。

 通学路、佐藤塚高校を通り、商店街大広間までのルート。

 コスズも寝ているから、ヘソクリ抜き取り放題。


 所要時間は往復で約1時間半だが、前後するためギリギリは避ける。

 バレそうになったら、適当に労って誤魔化すとしよう。


 ーーーー

 火曜、金曜、土曜の9:00〜19:00はカフェ。

 抜け出すのは無理。


 ザラメは割とタフ。そんなはず無いんだが。

 あと、単純。頭ライブ会場。

 こんなんじゃ、怪しいヤツにホイホイカモられちまいそうだ。


 ーーーー


 山彦みたいに繰り返し、あの言葉が過るのです。


 ——知りたいんだよ、お前のこと。


 今では、違う意味にしか聞こえません。

 知ってしまうとあら不思議。フツフツ、コポコポと、ザラメの中で何かが煮えたぎってきます。


「こ・お・りさぁ〜ん?」

「ひっ!!」


 声を裏返らせ、お顔が真っ青の郡さん。

 噴き出した汗が額にこびりついて、身体をぶるぶると震わせています。

 まるで幽霊を目の当たりにしたような怖がり様。失礼しちゃいますっ。

 あまりに情けない姿を前にして、ザラメは溜息を1つ。


「……今日のところは許してあげます」

「…………はぇ?」

「結果的に、練習に付き合ってくださったんです。大目に見ましょう」


 すると郡さん。


「っしゃああ!!」


 飛び上がって、坂道猛ダッシュ!?


「ちょっと郡さん!?」

「許された今、恐れるものは何にもねぇ! 夜遊び行ってきまぁす!!」


 さっきまでの怯えっぷりが嘘みたい。

 というか足取りが軽すぎじゃないですか!

 さては全然反省してないですね?!


 地面を強く蹴り、土の粒を跳ねさせながら、ザラメも全力疾走です!

 逃がしてなるものですか!!


「ザラメの働きぶりを見て、何とも思わなかったんですか?!」

「んなわけねぇだろ!? お勤めご苦労さん! あとは俺に任せとけ!!」

「任せられません! 待ってくださいぃい!!」


 ちょっぴり苦手な夜の森ですが、今はそれどころじゃありません。静かな丘には合わない、いつもと同じ喧騒が響いています。

 郡さんの背中を、一心不乱に追いかけて。

 転がるように坂を駆け下り、ザラメたちは町へ戻っていくのでした。




 ーーーー

 ザラメメモ


 ザラメは、愛と平和のキョンシーです!

 郡さんにはザラメがいないとダメですからね、身体の隅々まで、みっちり教育してあげますっ。


 ーーーー

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― 新着の感想 ―
いやぁ、そういうことでしたか。まさかのお芝居とは……。私も見事に騙されてしまいました(笑) 郡くんもなんだかんだ優しいですよね〜。 素行が悪くても、根っこは思いやりに溢れているんですから。……と思わ…
知りたいんだよの後から、ザラメメモ見られた後から、許された後から、全力夜遊び郡くんじゃな。ジェットコースターのように流れる流れに大笑いしたわい!ガハハ!面白いのじゃあ!
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