表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぐっど喪ぉにんぐ!! 〜土葬少女のセカンドライフ〜  作者: わた氏
8章 密着、ザラメちゃん24時!
49/65

明かして、心からの理由

「むぅ、何か言ったらどうです? いつもの威勢と減らず口はどこに行っちゃったんですか?」


 煮え切らない俺に痺れを切らしたのか、突然ザラメが飛び込んできた。

 逃さないと言わんばかりに、俺の顔を両手で挟むザラメ。身長差を背伸びで埋めて、不服そうに頬をぷっくりと膨らませていた。


「……っ!」


 倒れそうになるのを、一歩足を下げてこらえる。

 言葉を探して喉を震わせるも……なんつーか気恥ずかしくて、蚊の鳴くような出力になっちまう。


「…………気に、なったから……」

「ほぇ? すみません、聞こえなくて」


 もう一回言えと?

 追い詰めてきやがって……。

 ……ああもう、言ってやらぁ! 聞こえるように言えば良いんだろ?!


「気になったからだよ! お前がこんな時間にうろうろして、何も思わないわけねぇだろ!!」


 顔を押さえられているせいで、嫌でもザラメと目が合う。

 死ぬほど顔が熱い。ザラメが手から炎を出してんじゃないのかと、信じたくなってくる。


 ザラメはと言うと、呆気にとられた様子だった。


「ザラメのこと、心配してくれて……?」


 呟く声は、驚いたからか少しだけ上擦っていた。

 ほんの僅かに表情を和らげたザラメと対照的に、俺の身体は強張っていく。


「あ……ぁ、だから、その……」


 身体がむず痒くて落ち着かない。高鳴る拍動は、ずっとうるさい。

 ザラメは押し黙って、次の言葉を待っていた。

 物音1つたてずじっと俺を見つめる様は、いつまでも待つ気なんじゃないかと思えるぐらい健気で……ザラメが静かだなんて、余計変な気分になる。


 だから、この気まずさを()けたかったのかもしれねぇ。

 ――意を決して、思いの丈をぶつけた。色々絡み合った、俺の気持ちを。


「知りたいんだよ、お前のこと」




 ………………。


 言い切った俺と、戸惑うザラメ。

 長い長い沈黙の中、ピンク色のライトが忙しなく動いては空に伸びている。


 そんななんとも言えなくなった空間に一石を投じたのは、一通の着信音だった。

 ザラメの携帯が鳴っていると理解するまで、数秒のタイムラグ。


「ザラメの携帯ですね! 少々お待ちを」


 慌てて電話に出るザラメ。

 通話に耳をそばだてる俺。

 うっすら聞こえるのは、男の声。

 ザラメは頷きつつ話し、最後にはご丁寧に「失礼します」と告げて通話を切った。


「誰からだよ。お前をここに誘ったヤツか?」

「“ヤツ”なんて失礼ですよっ、ザラメを誘ってくれた、優しい先輩です」


 優しい先輩、ねぇ。そのお相手が、わざわざ夜の丘で何をする気だったのか。

 訝しみながら、腕を組んでつま先を地面に打ち付けていると。


「今日は中止になっちゃいました。初体験はお預けです」

「ふぅ〜ん」


 ささくれだった感情を抑え、努めて淡白に返す。


「楽しみにしてたんですけどね……」

「へぇ〜」

「でも中止なら仕方ないです。次の練習までに、台本のセリフを頭に入れておきましょう」

「そっかそっかぁ〜…………ん?」


 …………なんか今、()()()()()に似つかわしくない単語が出てきたような。


「練習…………台本?」

「はいっ、これです!」


 ザラメの鞄から登場したのは、さっき垣間見えた紙の冊子だった。

 表紙には“第5回丘の上演劇祭り 台本”と書かれている。これってつまり……


「ザラメ、今度ここで開催される演劇祭りで代役を任されたんです。なので、本番と同じセッティングで練習しようってことになってですね」


 開いた口が塞がらねぇ。

 台本の表紙を顎の辺りで掲げ、ザラメは語った。


「え、は? 演劇? じゃ、じゃああの城も……」

「もちろん舞台装置です。この演劇祭り、舞台となる建物が毎年テーマとして決まってるんです。今年はなんと、3Dプリンターで作ってて……」


 俺が指差したアダルトキャッスルにも、ザラメは詳しく回答してくれやがった。

 だが最後まで入ってこず、代わりになだれ込んでくるのは忌むべき思い出。勘違いした挙句、黒歴史を量産した事実に悶絶が止まらねぇ。


「そうだっ、郡さん! せっかくなので練習に付き合ってもらえませんか? 台本は貸すのでっ」


 ザラメの声が、右から左へ流れていく。他の音も、全然耳に入ってこなかった。

 穴があったら入りたい。引き篭もってやる。


「是非とも、郡さんにお願いしたいんです!」


 台本を俺の前に掲げ、興奮気味のザラメ。前のめりになっているのは、初めてへの好奇心故か。

 その瞳には尊敬の念が孕んで輝き、なんつーか、胸を擽られる気分だ。

 ……まぁ? そこまで俺が必要なら、特別に協力してやっても……


「さっきのファンの演技も、すごく個性的でしたし」

「ヌ゙ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!」


 やめて掘り返さないで!!

 純度と善意100%の褒め言葉が、俺の心を滅多刺しにしてきやがる。丘に響く悲鳴は、もはや断末魔の叫びだ。

 身体は仰け反り、掻きむしった髪は乱れ放題。

 硝子のハートも粉々に砕かれ、俺は心から誓う――。

 

 ちくしょう、尾行なんてやめてやらぁ!!



 ーーーー

 ザラメメモ




 ーーーー


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ