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ぐっど喪ぉにんぐ!! 〜土葬少女のセカンドライフ〜  作者: わた氏
8章 密着、ザラメちゃん24時!
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どうして、ここにいる理由

「できました〜!」


 満開の表情で、手鏡を俺に向けるザラメ。

 暗いから見えん。月明かりを頼りに目を凝らしていると、すかさずザラメがウインクしてみせた。


「お任せください!」


 言い終えると同時に、炎を指先に灯すザラメ。

 現れた光は辺りを淡い緑で包みこみ、鏡に文字を映した。

 緑がかったマスクに書かれているのは、の丸っこい“ザラメ”と、“Love you♪”のメッセージ。

 こりゃ、勘違いするファンが大量発生しそうだ。


「では続きまして、夏にピッタリ! ザラメちゃん☆ファイアワークスのを大盤振る舞いを……」


 まだやんのかよ?! 

 しかもお楽しみ回の演目みたいなノリで?!


「ソレヨリチミ、ヨウジガアルンダロ?!」


 強引にでも話を替える。

 するとザラメは、「はっ!」と短く声をあげて手を叩いた。


「そうでした、急がないと!」


 勢いよく立ち上がって、片手を軽く掲げる。


「ありがとうございました〜!」


 走って向かうのは、あのアダルトキャッスル。


「おい、ザラ……っ!」


 猪突猛進すぎんだろ、あいつ……。

 俺は再び、尾行の構えについた。






 ――――


 ザラメの後をつけ、頂上の頂きに着いた俺は、低木に紛れて息を殺していた。目線の先には、ザラメの姿がある。

 ザラメは城の前で、そわそわと手を弄っていた。

 遠いし暗いから表情は読み取れないが、緊張しているようだった。


「少しは足しになると良いですが」


 そう、不安げに呟くザラメに。

 胸元のボタンを、弄るザラメに。


 ……そこまで家計が逼迫しているとは思わなかった。

 ザラメが自分の身を差し出すことになるなんて。

 軽い気持ちで来てみたら、後味の悪いもん見ちまった。


 痛みに胸を押さえる。

 “針で刺されるような”なんてやわなものじゃなく、刃物で責め立てられるような苛みに、つい舌打ちをしていた。


 ザラメはスタイルも人当たりも良いし、初めてのヤツとだってすぐに打ち解けちまう。すぐ調子にのりやがるし……煽てられたらコロッと身を委ねちまいそうで……。


 書こうと思って取り出したメモだが、マス目が全然埋まらない。ペンを持つ手も進まずにいた。


「格好の特ダネだっていうのに……」


 “ザラメは、”で止まった文章を見おろし、荒い息を吐く。書けねぇわ。

 ……しょうがねぇ。突撃かますか。

 メモとペンをズボンのポケットに押し込み、徐ろに立ち上がった。






 ――――


「初体験……上手くできるでしょうか……」

「何やってんだよ、ザラメ」

「わわっ?!」


 肩を跳ね上げるザラメ目がけて、大きく足を踏み出した。低木から顔を出し、ずかずかと歩いていく。


「貴方は、さっきの?」


 上擦った声が、鼓膜を震わせる。

 まだ俺だと気づいていないザラメが見せるファンへの笑みは、どこか余所余所しく思えちまう。


 歩きながら、上着のフードに手をかける。


「お生憎様、俺はファンじゃないんでね」


 フードを捲り、眼鏡を取り。

 最後の仕上げに、ザラメ印のマスクを外す。

 すると微かに、ザラメの息を呑む音が聞こえた。


「郡、さん……?」


 素で困惑している。コロッと変わった表情が、何よりもそれを物語っていた。

 目をまん丸に見開き、口を中途半端に開けたままじっと俺を見つめているザラメ。


「こんな時間まで、仕事かよ」


 そう、努めて淡々と続ける。

 俺の顔は、ザラメにどう映っているだろうか。

 気にしたことなんて、これっぽっちも無いのに。


 ザラメは、俺と目を合わせて頷いた。それがあまりに真っ直ぐだから、かえって気が削れるのだ。


「だからってお前……水商売なんて……」


 言葉を真っ直ぐぶつけられずに、口籠っちまう。

 ザラメには聞こえていないのだろう。俺の問いに答えるでもなく、


「どうして、ここに……?」


 おずおずと探るように聞いてきた。


「ザラメのこと、ずっと見てたんですよね」


 言いながら、ザラメは上着に目を向けて。


「どうしてなんですか? 郡さん」


 再び俺と向き合う瞳には、曇りなんて一切無い。純粋に気になって、俺の行為を気にかけている。


 ……きっと、本当に思い当たらないんだろう。

 “お前の隙をつくため”という汚れまくった動機も、それはそれとして……な気持ちも。

 色々引っくるめて、言えねぇよ。


 かと言って、次の文句も言い訳も浮かばない。

 口を結び、柄にもなく言い淀む。

 夏の空気みたいな息苦しい静けさが、時間の流れを遅くしているような感覚に陥る。


 だが、閉塞感も次の瞬間には打ち破られた。




 ――ザラメが飛び込んできやがったから。




 ーーーー

 ザラメメモ


 ザラメは、





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