延長、ザラメ大調査! 〜ラウンド2〜
思わず叫んだ俺と、ザラメの目がバッチリ合う。
「貴方は……」
先に口を開いたのは、ザラメだった。
反射的にフードで目元を隠す俺を、ザラメはしげしげと見つめて言った。
「ファンの方ですよね!」
「はぁっ?! 何言って……」
と否定しかけて留まる。
もし俺がザラメをつけてきたって知られたら、芋づる式に俺の企みがバレかねない。
そうなりゃ、ギャンブルに励むことも叶わず、夢にまで見た一攫千金への道が閉ざされちまう。
ここはひとまず、ファンを装ってゴリ押そう。
「イェスイェスッ、チミノファンナンダッ」
裏声を駆使し、それっぽいことを口走る。
…………何やってんだろ、俺。
ザラメのファンとか、口が裂けても言いたくなかったのに。黒歴史確定だ。
「やっぱり……! とても嬉しいですっ」
騙されているとも知らず燥ぐザラメは、本当に嬉しそうだった。ザラメの顔の周りに星が浮かび、暗がりの中キラキラ瞬いている。
眩しくて気圧されるが、負けじと話を進める。
「チミニアウタメナラ、タトエヒノナカヤマノナカダゾッ」
「そうだったんですね、そんなにも熱心に応援してくださるなんて……!」
チョロすぎん? こいつ大丈夫か?
だが、これは密着の時通り。
あとは適当に褒めそやしつつ、話の主導権を握って……。
「ちなみに……ザラメのどこが好きなんですか?」
厚かましいなお前ぇ!?
ねだるような上目遣いをしつつ、ザラメは身体をモジモジさせていた。腰のあたりで指先を遊ばせていて、狙ってないんだろうが色気を感じる。
多分本当のファンなら卒倒していただろうな。
「ソレハ……エト」
考えろ郡 遠弥。
ザラメとの日々を思い出せ。
使える言葉を、良い感じの台詞を絞り出せ……!
「アカルイエガオニ、ヤサシイヒトミ……トカ?」
「えっ、やだ嬉しいですぅ……」
恍惚とした顔のザラメ。完全に上機嫌だ。
よし、もう一押ししとくか。
「ソバニイルトタノシクテ、アッタカクナルンダ。チミガイナイト、イキテイケナイネッ!」
「そんな……ザラメ冥利に尽きる言葉ですぅ! こんなにもザラメのことが大好きなんて……!」
ザラメは頬に手を当て、身体をくねらせまくっている。
かつてないほど陶酔してやがる。前後左右に、上下もちゃんと見えてねぇ。
よしよし、ここらでそそくさと逃げれば……。
呼吸を整え、あくまで平常を装い。
対象から目を離さず、恐る恐る後ずさり。
ゴクリと唾を飲み、それを合図にして足に力を込める。
そして回れ右を決めたようとした、まさにその時だった。
「っ?!」
冷たい指が手に絡みついてきた。そのまま両手で包みこみ、胸の高さまで持ってきて一言――。
「感謝の印に、サインしちゃいます!!」
「…………Huh?」
パードゥン??
「ザラメからのプレゼントです♪」
声を弾ませ、鞄からオレンジのペンを取り出す浮かれアイドル。
「あれ、ノートも持ってきたはずなのに……」
鞄を漁るも、お目当ての紙が無いらしい。
ホッチキスか何かで留められた冊子がちらっと見えたが、こっちは使わねぇのか?
そんなことを思っていると、
「それならしょうがないです……マスクに書いてあげますね!」
「ナンデソウナルノ?!」
狼狽える俺に、ザラメはズイッと急接近!
「では、マスクを外していただけますか?」
「ソソッ、ソレハデキナイカナ~ッ?!」
全力で首を横に振る。マスク取ったらいよいよバレるんだってば!!
「分かりました。だったら、直接書きます!」
「マッ!?」
間髪入れず、マスクにペン先を向けるアイドルザラメ。
お前ファンの気持ち考えろよ! 俺ファンじゃねぇけど!!
しかし抵抗する間もなく、マスク越しにペンの走る感触が……
「アヒャッ、ヒャメテェッ!」
くすぐってぇな?! ヘンな声出しちゃったじゃねぇか!
だが虚しいかな、ザラメはお構いなし。なんなら、褒められたのが相当嬉しいのか、熱烈ファンサに無我夢中。俺の声は届いていない。
くすぐったさで顔をぷるぷる震わせる俺に、
「動かないでくださいっ」
「アゴッ?!」
顎をガッチリ左手でホールドする始末。
加減を覚えろや馬鹿力! 2週間前から進歩してねぇ!!
つーか第一ファンにやることじゃねぇよ、相手が俺で良かったな!?
「イダダダダダダダダ!!!!」
いや俺でもヨクネーヨ!!
ザラメ密着を決めたあの日。散財を詰問された時のことが走馬灯の如く蘇る。
そして痛感する。
……多分このザラメ。
怪しいヤツに騙されてついて行っても、なんやかんや撃退できそうだ。野蛮なキョンシーめ。
嫌と言うほど分かった上で、俺は願わずにいられない。
イタイデス、解放チテクダサイ……。
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ザラメメモ
ザラメには気をつけろ。マジで。




