延長、ザラメ大調査! 〜ラウンド1〜
今日で調査を始めて2週間になる。ザラメの仕事量は、1日の半分に差し掛かっていた。
この日も19時にカフェを閉め、片付けに移る。
食器を洗っていると、ザラメが俺の傍に歩み寄ってきた。
「郡さん、あとはお願いできますか?」
申し訳なさそうに手を合わせ、ザラメがそんなことを言ってきたのだ。
「なんだよ、またどっかで仕事か?」
「あれっ。郡さん、どうしてそれを?」
「あ、いや。店の人からたまたま聞いて」
慌てて弁明すると、ザラメはくるっと踵を返す。
腰に手を当て、口をへの字に曲げていた。
「郡さんがあんまりお金を使うので、最近は働き詰めなんですっ」
ザラメは人差し指を立て、俺の顔に近づけてくる。
俺が原因だったのかよ。
「体力はいけんのか? お前、すぐバテんだろ」
「最近は結構もつので、多分大丈夫です」
多分て。随分と曖昧な。
「働いて色んな人と話せるのは楽しいので、全然辛くないですよ。むしろ充実してるぐらいです! でも、だからと言って散財はメッですよっ。元を辿れば郡さんが悪いんですし」
そう言われると、何も返せねぇ。
「ザラメ、お出かけ……?」
「ちょっとお仕事がありまして」
モップ掛けに勤しんでいたコスズが、手を止めて不安げに呟く。
「不審者……心配……」
ああ、この間女子高生と話していたヤツか。
「大丈夫ですよ! ザラメは強いキョンシーですのでっ」
ザラメは答えながら、安心させるようにコスズの頭を優しく撫でる。
その自信はどっから湧いてくるんだ。まぁこいつの炎なら、大概のヤツはイチコロだろうが。
「もう時間なので、行ってきますね!」
鞄を担いで、ザラメは足早に出ていった。
チリンチリンと、ベルが鳴り終わるのを聞き届け。
――さっ、尾行すっか!
ザラメのことを調べ尽くすのが目的だ。それは夜だって例外じゃない。
昼間とは違う情報や、とびっきりの弱みも掴めるかもしれねぇ。
こんなの、いくっきゃねぇよなぁ!!
……仮に。ザラメが怪しい店に出稼ぎに行ってたとしても、ネタとして重宝してやる。
あくまで、俺の目的のために行くんだからな。
俺はバックヤードから上着を取り、コスズに悟られないように丸めて移動する。
しかしコスズ。目敏く気づいて聞いてくる。
「郡……どこ行くの……?」
「ちょっと風浴びてくるわ」
答える俺に、コスズは控えめに首を傾げた。
「……ザラメ、心配?」
「な訳あるか。デウスがそろそろ帰ってくるだろ? 晩飯はそっちで食っといてくれ」
素直に頷くコスズを置いて、俺は夜の町に繰り出した。
町中の街灯が、一斉に点く頃合い。
晩夏と言えど、日は落ちている。物と人が、薄暗いフィルターにかかったように見える。
歩を進めるにつれ、人通りが減っていく。
学生の下校時間は過ぎているわけだし、早い店だともう閉まってるしな。
ザラメはいそいそと進む。
薄暗いのも相まって、他所見をしたら見失いそうだ。
電柱に隠れ、道端の植木になりすましつつ歩いているうちに、町を外れていた。
「ザラメのヤツ、どこまで進む気だ‥…?」
山道をずんずん登るザラメ。
野鳥の鳴き声が響く中、スマホのマップ機能を頼りに歩いている。
この先には、山頂の公園しかなかったはずだが、一体何をしに行く気だ?
枯れ葉を踏まぬよう、暗がりに目を凝らしながら進んでいると、前方の足音が止まった。
「ここですね。ほわぁっ……!」
ほわああああああああああああっ?!?!
頂上の手前で、ザラメが目を輝かせたのは、お城のように煌びやかで……ザラメには早すぎるアダルトな建物だった。
暗闇に埋もれ大まかな形しか捉えられないが、目を凝らして造形を観察する。
3角錐の塔が6つほど、大小様々に上へと連なり。
塔のてっぺんで、旗が風にはためき。
城の主を守り抜くために、塀は頑強に見える。
ファンタジーに出てきそうなメルヘンな外装でありながらも、下からは照明が四方に動いているようで、ドピンク色に光っていた。
平穏な丘の上にこんな劇物無かったはずだが、今はどうだって良い。
「すっごく本格的ですぅ……!」
「待て待て待て待てぇええええええええ!!!!」
「ほぇ?」
やっべ……!
振り返るザラメと、ばっちり目が合っちまった。
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ザラメメモ
9/16 19:00〜 ザラメ外出。
行き先は不明。要調査。




