決行、ザラメ大調査! 〜ラウンド1〜
さて、やるべきことは決まった。
だったら善は急げだ。
待ってろよザラメ! 今すぐ行くからな!!
肝心のザラメはと言うと、ひとしきり俺を燃やしてから「お仕事に遅れちゃいますぅ!」と言い残して出て行った。
俺はと言うと黒焦げなう。布団を縛っていた紐も、すっかり焼ききれてしまった。
おかげで簀巻き状態からは解放されたが、身体がまだ火照っている。
「つーかあいつ、火力おかしすぎんだろ……」
吐き捨てながら、両腕で身体を起こす。
合宿の賜物か、怒りを力に替えたのか。
今日のファイアはマジで死を覚悟した。
あんなもん、2度も喰らってたまるか。
上手いこと回避できなきゃ、ここが墓場になっちまう。
我が身のためにも、一刻も早くザラメを調査しねぇと。
ちりっちりの焦げっ焦げになった身体のまま、ザラメの行く場所へとレッツゴーだ。
もちろん、ザラメにはバレないように。
最低限の道具を持って、目的の場所へ出峰した。
――――
双眼鏡、ヨシ!
調査用メモ、ヨシ!
両手に木、ヨシ!
俺はザラメの歩く並木通りを、気配を殺して尾行していた。コンクリートのタイルの上を、足音抑えて進み行く。
フード付きの黒いジャンパーを身に纏い、マスクと眼鏡もしっかり装備。
鞄も靴も普段使わないものだから、見つかっちまうことはない。
いざとなれば、両手の木で植木に紛れて凌げる。
すれ違う人たちが、訝しむような眼差しで刺してくるが、些末なことよ。
足音を潜めつつ、ザラメに近づいていった。
「このスーパーだな」
アパートから15分ほど歩いたところにある“スーパーこんぶ”で、ザラメは働いている。
他にも至るところで働いているが、全て正社員としてではなく、パートかバイトでだ。
本人曰く、色んな仕事をやりたいからだと。元気なキョンシーだ。
商品の棚と棚の間に身を潜め、双眼鏡越しにザラメを観察する。
今は品出しと客の対応をしているっぽい。
手際よくもやしの袋を並べ、綺麗に整えている。ワイシャツに緑のエプロンも様になっていた。
普段の家事もテキパキやってるからなぁ。料理以外は大概できるんだろう。
「すみません、ハチミツはどこにあります?」
陳列中、ベビーカーに赤ん坊を乗せた女の人に声をかけられていた。
ザラメは嫌な顔1つせず、立ち上がりハキハキと答える。
「それでしたら、ここから3つ目の棚を進んだ真ん中辺りですよ!」
腕を伸ばし、指で棚を指し示すザラメ。
勿論スマイルも忘れない。
「ありがとね〜」
「いえいえ〜!」
ベビーカーを押して去りゆく客に、ザラメは頭を下げて見送っていた。ああ見えて、礼儀はあるんだよなぁ。俺には披露してくれねぇけど。
それに、俺の予想よりちゃんと説明していた。
いつもだったら、「郡さぁん、分かんないですぅ」とか言ってそうなのに。
「ザラメちゃん、ちょっと良い?」
声のする方向へ顔を向けると、“店長”の名札をエプロンに留めた中年女性。
「明日、広間でくじ引きイベントがあるじゃない? そのスタッフが1人休んじゃって……ザラメちゃんに手伝ってほしいんだけどいけるかな。追加の手当は出すから」
「ザラメで良ければ!」
胸に拳を当て、ザラメは快諾した。
ここに俺がいたら、「郡さんもやりましょう! どうせ暇でしょ?」と、強引に連れ出しているところだが……1人でもモーマンタイらしい。
「さっすがザラメちゃん! 頼りになるわぁ」
「それほどでも~」
片腕で後頭部を擦りながら、ザラメは照れ笑い。
嬉しさのあまり、顔が溶けそうになっていた。
ザラメは頼られるのに弱いっと……これは使えるかもしれねぇな。上手くいけば、会話の主導権を握りやすくなる。
手早くメモを残す俺。
この調子で尾行すれば、さらに掴めるだろうな。
そう意気込む俺だったが……。
「何かお困りですか?」
いつの間にか、ザラメが目の前に!
慌ててメモを後ろに隠し、顔を逸らす。
やべぇ近ぇ近ぇバレるバレるバレる!!
「なっ……!」
俺はフードの先を摘んで顔に引き寄せ、
「ナ、ナ、ナンデモナイデシュウ~ッ!!」
ヘリウムガスを心にキメて、そそくさと退却した。
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ザラメメモ
毎週水曜10:00〜15:00は“スーパーこんぶ”。
この時間帯は、近くのパチ屋を避ける。
急なシフト追加の可能性あり。
ザラメは頼られるとチョロい。これは使える。




