本当に居たのか!? “トイレの神様!”
俺の引っ越してきたぼろアパートに居たんだ。
“トイレの神様”
築60年で、部屋は4畳半の風呂無しトイレありの部屋。
普通は、風呂トイレ無しが普通なのだろう。
風呂代わりに洗面台で体を洗って、トイレは共同が普通なんだと思う。
壁は薄く隣のテレビの声やヒソヒソ話まで丸聞こえ。
俺はただこの部屋に寝に帰っているだけ。
俺は高校中退で学歴もないし、実際頭も悪い。
正直、九九も言えないし漢字はほとんど小学生の低学年レベルしか書け
やしないんだ。
今現在俺の歳は38歳で、バイトを掛け持ちしないと自分一人ですら
食べていけない。
4畳半という狭い部なのに、俺の部屋はガランとしている。
ただ布団が隅っこに畳んで置いてあるだけだ。
それ以外の余計なモノは置いていない。
押し入れには、昔友達に貰ったボロボロの扇風機と壊れたストーブが
置いてある。
一応、寒さや暑さ対策の為のモノとして置いてあるだけ。
カラカラと音がして汗だくになりながら俺は扇風機の前で涼むのだが
ほとんど風はこない。
壊れているのか? ゆっくりと回るため風があまりこないのだ。
冬は、ストーブがあるモノのこれまた壊れているため温かくならない。
時間が経てば、少しだけ温かくなるから、置いてあるだけマシだった。
俺は夏でも冬でもいつも着ている5枚で500円のV字のT-シャツがある。
しかも色は黒と決まっている。
汚れても黒ならそれほど目立たないし。
買い替える必要がそれほどなくなるからだ。
朝3時前には起きて新聞配達に行ってから、少し寝て昼はコンビニで働き
夜は工事現場で働く。
これを毎日繰り返すだけ。
食費も出来るだけ抑えるために、近くの激安スーパーでしか買い物はしない。
コンビニでは、余ったモノを貰える時はもらって帰るが、そうじゃない時は
自分のお金を出してまで買うことはなかった。
・・・そんな時、今のぼろアパートで!?
俺は初めて、“トイレの神様”を見たんだ!
『お前は、いつも快便じゃの~』
『えぇ!? どこで声がしたんだ?』
『ここじゃあ! ここじゃよ!』
『・・・まさか!? う〇こなのか?』
『そう、お前のう〇こじゃあ!』
『なんで、俺のう〇こが喋ってんだよ!』
『お前にいい知らせだ!』
『はぁ!?』
『“うんだけに、運をお前に分けてやろう!』
『ダジャレかよ!』
『いやいやそうじゃない! 本当にお前に【運】をやる!』
『う〇こだけに、、、?』
『ウフフ、運をやる!』
『揶揄ってないか!』
『揶揄ってなんかおらん! これは真剣な話じゃあ!』
『“運”って、何をくれるんだよ!』
『お前は、ちゃんとした仕事に就きたくないのか?』
『・・・そりゃ、就きたいよ! だけど、俺馬鹿だし無理に決まってるよ。』
『その願い叶えてやる!』
『いやいや、無理だって! 俺にそんな才能ないし!』
『お前はモノを覚えるのが早いじゃないか! それを活かせる仕事に
就けるようにしょうじゃないか!』
『・・・モノを覚える仕事?』
『お前は新聞配達では、直ぐに住所を覚えてあっという間に新聞配達が
できるようになったな! コンビニでも商品の位置や何が減っているか
調べる事が他の者より早かった。工事現場でも監督の言う通り覚えが
早いお前は、仕事ができる人間だと監督に植え付けた! それは凄い
事なんじゃよ!』
『・・・でもさ、俺、学ねえーし、無理だって!』
『大丈夫! ワタシを誰だと思ってるのじゃあ!』
『トイレの神様?』
『そう、ワタシがトイレの神様じゃあ!』
『・・・まあ、期待しないで待ってるよ。』
『大いに期待していいぞ!』
『じゃあね、トイレの神様!』
『あぁ、またじゃあ!』
【ジャー―――アアア!】
トイレの神様は、俺の便器から勢いよく流れて行った。
最後は、【ボコボコ】と言って消えていく。
・・・だが、本当にトイレの神様が言った通りになるモノなのか?
*
数日後、トイレの神様が言った通りになる!
工事現場の監督が、俺に社員としてここで働かないかと言ってくれた。
これからは、作業服ではなく“スーツ姿”として働かせてもらう。
給料も、一か所で何倍も増えた。
俺は新聞配達とコンビニの仕事を辞めて、工事現場の営業として働く
事にしたんだ。
給料が上がると? 自然と部屋に物も増えた。
だけど、ここを引っ越す気はない!
たまに今でも、トイレの神様が現れるからだ。
俺はどんなにお金を持っても、この部屋から出ないと決めた!
いつまでも、トイレの神様と俺が一緒に居たいからと分かったからだ。
【いつもでも、俺はここに居るぜ! トイレの神様!】
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