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勝つたびに弱くなる最強の僕と戦うたびに強くなる「   」の妹  作者: 高光晶


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第27話

 お互いの健闘を祈りながら僕らは仲間と別れ、前線都市の外へと出る。


 都市の周りは多数の天魔が囲んでいるが、さすがに長大な外壁全てを埋めるほどの数はいない。外と内とをつなぐ三つの門周辺をのぞけば、天魔の目に触れず外へ出ることは可能だ。


 闇夜に乗じて都市を抜け出した僕とサーラは、周辺に点在する小さな森伝いに敵の本陣と思われる場所へ近付いていった。


 本陣と言っても人類のように天幕や即席の柵が構築されているわけでもなく、旗が掲げられているわけでもない。ただそこに天魔を統率する首領がいる場所、そこが本陣だ。


「もう行く? お兄ちゃん」


 ささやき声で訊いてくるサーラに僕は無言で首を縦に振る。

 闇夜と木々のおかげでこれまで天魔に発見されることもなく敵の本陣近くやって来た僕らだけど、さすがにここから先は隠れる場所もない。今身を隠している場所から飛び出せば、あとはマドリックのもとまで無理やり押し通るしかないだろう。


 ここに来る途中、一部の天魔が第三門の方に向いて移動していった。遠くから戦いの音がかすかに聞こえてくる。ミリアさんやテミスたちが門から打って出ているからだ。


 だけどそれもいつまで続くかわからない。不意を打つことで天魔たちは一時的に混乱するかもしれないが、もともと野生の獣に近い性質の下級天魔は敵が少数とわかればすぐに立ち直る。もしかしたら既に仲間たちは撤退に移っている可能性もあった。


「ここからは立ち止まらずにマドリックのところまで走り抜ける。ちゃんとついておいでよ、サーラ?」


「もちろん。いつでもいけるよ」


 互いに頷きあい、僕とサーラは隠れていた森の中から飛び出した。


 足に仕込んだ式様しきよう天則式てんそくしきを発動し、身体能力を強化する。今日ばかりはさすがのサーラも文句を言わず天則式を使っていた。

 野生の狼に勝るとも劣らない速度で天魔たちの間を駆け抜ける。夜目の利く天魔がこちらに気付いて動き出すが、大部分の天魔は暗がりで動く僕らを捉えきれていなかった。


「そろそろ来そうだよお兄ちゃん!」


「わかってる!」


 一方の僕らは視力を天則術で強化しているため、昼間とほとんど変わりなく周囲の動きを確認できる。流れゆく視界の隅で天魔たちがこちらの動きに対応しつつあるのがわかった。


 マドリックがいるであろう場所まであと半分といったところで、とうとう何体かの天魔が立ち塞がる。


「足は止めるな!」


 サーラにそう告げながらノアは腰から式装を抜く。


「天則式・朱雀!」


 右手の甲に浮かび上がる式様。揮発した触媒が輝く炎のように立ちのぼり、式装である刀を包む。


 僕は正面に立ち塞がる天魔へとその威力を叩きつけた。鋭さを増した式装が相手の身体をいとも簡単に斬り裂く。足は止めない。敵を倒すことよりも今は先へ先へと突き進むのが大事だ。


「天則式・蓮華!」


 走り続ける僕の横には同じように式装へ天則式を発動し、赤く光る両刃剣を振るうサーラの姿があった。僕の刀とサーラの両刃剣、それぞれが立ち塞がろうとする天魔たちを払いのける。追いすがってくる天魔もいるが、身体能力を強化した僕らにそうそう追いつけるわけがない。


「人間ガァ!」


「調子ニノルナ!」


 雄叫びでもなく唸り声でもない。明確な意味を持った言葉が僕らにぶつけられた。

 当然この場に僕ら以外の人間がいるわけもない。声の主は天魔――それも言葉を操り人間に近い姿をした上級天魔だ。


「邪魔だよ!」


 睨みつけながら立ちはだかる天魔へ式装を振るうが、思ったよりも硬い表皮に阻まれてしまう。さすがに上級ともなれば式装で軽く一刀両断というわけにはいかないみたいだ。

 だけどこちらの武器は式装だけじゃない。むしろこっちが本命だ。


「天則式・玄武!」


 左手の中指に刻んである式様を使って天則式を発動する。天魔の腕に添えた手のひらから直接注ぎ込まれた力が天魔の内部をかき乱す。

 そのまま両腕の自由を失った天魔に正面から飛びかかって膝蹴りを食らわせる。同時に太ももへ刻んだ式様から天則式を発動。


「天則式・共工きょうこう!」


 食い込んだ膝から天魔の腹部に向かって送り込まれた力が相手にとどめを刺した。


「術使イメ!」


 息つく間もなく別の天魔が襲いかかってきた。こちらもほぼ人型の姿に二本の長い尾をもつ上級天魔だ。

 上級天魔がその長い尾を振るう。闇の中、音を立てながら二本の尻尾が鞭のように僕をからめ取ろうと迫る。


「おっと!」


 慌ててその場から飛び退すさると、標的を失った二本の尾は僕が先ほど倒したばかりの天魔を打ちつけた。その衝突痕には小さな穴が無数に穿たれ、細い血の流れが生まれはじめている。


とげ付きとはまた……」


 尾の表面には鋭い棘が無数に生えていた。衝撃自体も脅威だが、まともに食らえばあの棘が身体に深く突き刺さるのだろう。


「任せてお兄ちゃん!」


 どうやって距離を詰めようかと思っていたところにサーラが天魔の背後から斬りかかる。

 二本のうち一本の尾が迎撃のためそちらへ向かっていった。


「ええーい!」


 サーラの式装が赤く輝きながら振り下ろされる。次の瞬間、弾力のある物を断ち切る音が鳴り響いた。


「キ、斬ッタダト!?」


 見ればサーラのひと振りが高速で襲いかかる尾を断ちきっている。まさか尾が剣のひと振りで捉えられるとは思っていなかったのだろう。驚愕する天魔の隙をついて僕はすぐさま死角から天魔の懐へ潜り込んだ。


「シマッタ!」


 天魔が気付いたときにはもう遅い。僕の発動させた天則式が相手の内側を揺るがした。その目から色が失われ、先ほどまで自我を持っていたはずの身体が力なく倒れ伏す。


 予想はしていたけど、さすがに上級天魔ともなればすれ違いざまに倒すというわけにもいかないな。二体の上級天魔を排除したのは良いけれど、すっかり僕もサーラも足が止まってしまった。


 気が付けば周りを天魔に囲まれている。見た感じ、上級天魔も数体いるようだ。片付けるのは問題ないだろうけど、僕らの目的はこいつらを相手にする事じゃない。


「どうする、お兄ちゃん?」


 このに及んでどうするもこうするもない。正面突破あるのみだ。


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