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ショートショート7月~2回目

鵲橋が架かったら

作者: たかさば

「……会いたかった。」

「ふふ、私も。」


鵲橋のど真ん中で、身を寄せ合い、見つめ合う若者が、二人。


「今年も、君はとても…美しいね。」

「あなたも、ずっと変わらず…とても素敵よ?」


天の川に映る影が、一つになった。


今日は7月7日、七夕。


天の川には、織姫と彦星が出会うための橋がかかっている。

今から、つかの間の逢瀬を、誰にも邪魔される事なく、楽しむために。


「ね、私、あなたと一緒にお祝いをしたいと思って、これを作ってきたの。」

「これは…ケーキ?」


生クリームでデコレーションされた、イチゴがたっぷりのったケーキ。

真ん中には、「お誕生日おめでとう」と書かれたチョコレートのプレートと、一本の、ろうそく。


「今日は君の誕生日だものね、おめでとう。」

「ありがとう、でも…このケーキは、違うの。だって、ろうそくが、一本しかないでしょう?」


織姫は、橋のど真ん中に、敷物を敷いた。

二人はそこに腰を下ろし、ケーキを囲んだ。


「あのね、今日は、私たちの、誕生日なの。人は…一年間が、365日でしょう?」

「…そうか、もう、365年も、僕たちは。」


仕事を放り出して恋にうつつを抜かし、罰をうけた若い二人。


年に一度しか会う事を許されない、悲しい運命。


「これからもずっと……僕たちは、ゆっくり、ゆっくり、共に年を重ねてゆくんだね。」

「そうね、やっと…一歳よ?よちよち歩きを、出来るようになったぐらいかしら?」


ろうそくに火をともし、二人で赤く燃える炎を、見つめる。


「ハッピーバースデー、僕と、織姫。」

「お誕生日、おめでとう、私と、彦星。」


二人で、ろうそくの火を吹き消した。


「うん、美味しい!織姫はケーキ作りも上手なんだね!」

「ふふ、よかった、喜んでもらえて!いっぱい食べてね!」


二人で、ケーキを仲良く食べ始めた。


「おいしくて、フォークが止まらない!もっと食べたいな……!」

「じゃあ、今度の誕生日は、もっと大きなケーキを作るわ?」


二人で、ケーキを完食した。


「ねえ、織姫、僕…気が付いたんだけど。」

「なあに?」


食後のお茶を入れる織姫に、彦星が神妙な顔を向けている。


「たしか……今年は、うるう年だったはず。」

「……大変!!!一日、足りなかったってこと?!」


苦い緑茶を……二人で、飲んでいる。


「……じゃあ、来年もまた、ケーキを作ってくるわ!」

「そうだね!また来年も一緒にお祝いしよう!」


次の年、一回り大きなケーキを作ってきた、織姫。


「今年こそ、ハッピーバースデーだ!」

「ふふ…お誕生日、おめでとう!ビバ!!一歳!!!」


二人で、橋のど真ん中でケーキをつつく。


「ああ、美味しい、本当においしい。この味が次に食べられるのは、365年後、か……。」

「あら、だったら、私、自分の誕生日ケーキを来年は持ってくるわ?一緒にお祝いしてくれる?」


毎年、二人で大きなバースデーケーキをつつくようになった。


「本当においしいね、…そうだ!僕の牛の生クリームを使ったら、もっとおいしくなるかもしれないよ!」

「じゃあ、私はケーキを焼いてフルーツを持ってくるから、ここで一緒に作りましょう!」


毎年、二人で大きなバースデーケーキを橋のど真ん中で作って食べるようになった。


「この日のために、毎日生クリームを試食しているんだ、ほら見てよこのこってりした乳脂肪!!」

「私も毎日おいしいケーキのレシピを探っているのよ、ほら、見て、このキメの細かいスポンジケーキ!」


毎年極上のケーキを食べるために、日々研究に没頭する二人。


「おいしいね、今年はフルーツもたくさん持ってきたよ、一緒に食べよう!」

「おいしい!ふふ、甘くておいしいけど、しょっぱいものも欲しくなっちゃうわね!」


毎年、橋の上でおいしいものをたらふく食べるようになった、二人。


「バーベキューセットを持ってきたよ、霜降りのお肉に自慢のハム、ソーセージ…ユッケもあるよ!」

「おいしい!!!甘いモノとしょっぱいものの交互食べ、止まらなくなるわね!!!」


今年も、橋のど真ん中で、バーベキューセットを広げ、寿司を握り、ケーキを作り、お酒を飲んで……腹いっぱいになる気満々でやってきた、若い二人。


「織姫―!」

「彦星―!」


大荷物を抱えた、体重過多の若者が、どすどすと太鼓橋のど真ん中に駆け寄る。


ど、ばちこーーーーーーーーん!!!


肉と肉がぶつかり合う、ド派手な音が天の川の上に鳴り響いた。


み・・・みし、みしみしっ・・・・・・・!!!!


「「へ?」」


ブォゴキィイイイイイ!!バキッ!!メキッ!!ド、ドドドドドドドド!!!!!


ド派手な音を立てて、鵲橋が崩落した。


ぷっくぷくに肉付いた手を取り合いながら、天の川の下に落ちてゆく若い二人。


―――お前ら!!食い過ぎだ!!!

―――神の分際で食欲にまみれおってー!!!


……年に一度しか会う事を許されなかった、悲劇の恋人たち。


「ねーねー!近所に新しいバイキングのお店できたんだって!!!」

「マジで!!食いに行こ!!!」


人間になってしまった今でも、二人、仲睦まじく。


「やっべ!!マジ箸止まらん!!うーん、おかわりー!!!」

「ねね、この生クリ絶品!!食べてみて!!あと帰りに新作アイスコンビニで買って帰ろーね!!!」


毎日、毎食、おやつの時間に、夜食もきっちりと……仲良く分け合い、おいしいモノをたらふく、食べて、いる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何と言うオチ。 まぁ、食べまくったらそうなりますわ〜。 その日のために、試食……。364日、試食。あかんやつや〜。
[良い点] あああああ落差ぁぁぁーーー [気になる点] てか、織姫と彦星、そんな話でしたね。 [一言] 来年もお楽しみで〜
[一言] すごく楽しそうで、幸せそうで、ハッピーですね!! <(_ _)>(*^-^*)
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