断罪され処刑が決まった悪役令嬢は、最後の晩餐におにぎりを希望する
気づいたら乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた。フラグを折りまくり、バッドエンドは完璧に回避できているはずだった。なのに全てが狂い断罪された。私は王太子とは知り合い未満の薄い関係なのだが、何故だか彼が愛する男爵令嬢に苛めをしたことになっている。更に王太子の婚約者の暗殺未遂の犯人だそうだ。
建国を記念する舞踏会。国内の貴族だけでなく、外国からの賓客がいるなかでの断罪劇。
どうする。ここで終わりたくない。
だけれどすっかり私の有罪を信じ切っている王は、泣きそうな顔で明朝の処刑を宣告した。彼はまだ若く私の兄たちの友人でもあるのだ。
「カミーユ」と私の名前を呼ぶ王。「処刑の場合、最後の晩餐の希望を叶えるのが我が国の習わしだ。何がよいか」
そんな奇妙な慣習があったのか。ここは一か八かだ。
「ではおにぎりをお願い致します」
みなきょとんとする。この国にも近隣諸国にも米はない。
「なんだね、それは」と王。
「幼少時屋敷に、東方の異国ヤーパンの商人が滞在しておりました。彼から聞いたのです。米という食べ物は白く美しくほのかな甘さがある、まさに至高の食べ物。更に米を握って作るおにぎりは究極の逸品!」
じゅるりと誰かがヨダレをすすった。
「私は最後の晩餐におにぎりを所望いたします」
◇◇
外国の要人の前で王ともあろう者が前言を翻すことはできなかったのだろう。さっそく東方に向かう隊商が結成されて出発した。
処刑は延期、私は城の塔の最上階に幽閉された。
◇◇
それから1ヶ月。家族と友人たちが『証拠』が捏造品だと暴いてくれた。意識不明の重体だった婚約者も意識を取り戻して、真犯人の名前を証言してくれた。
おかげで私の無実は晴れた。黒幕は男爵令嬢で、何も知らなかった王太子はショックのあまり置き手紙を残して失踪してしまった。
しかも帰還に数年かかると思われた隊商が、あのヤーパンの商人と共に帰ってきた。彼はこの国は良い取引相手になると判断して、米や大豆を持って商売をしに来たのだ。
王はその多くを買い上げて詫びだと言って贈ってくれた。チョロいけど悪い王ではないのだ。
私はその目前でご飯をにぎり塩をふって出した。彼が最後の晩餐の約束を守ろうとしてくれた礼だ。
おにぎりをひとくち食べた王は美味しいと叫び
「ぜひ妻になって毎日おにぎりを握ってくれ」と言い出した。
やはりこの王はチョロすぎる。だけど。
「米の切れ目が婚姻の切れ目になりそうだから、お断りします」