裏切られた勇者は最初から全部知っていたので問題ありませんでした。Ver2
習作一本目、それの修正版となります。
作者はド素人ですので注意して下さい。まだ短編すら2~3本しか書いた事のないド素人ですので注意して下さい!(大切な事なので以下略
はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
裂帛の気合と共に、青年の剣は魔王の胸を刺し貫いた。
そこには魔物にとっての心臓とも云うべき、魔石が収まっていた。それを砕かれるのは、やはり心臓を貫かれるのと同義であり、如何なる魔物であろうとひとたまりもない。
魔王というそこらの魔物を凌駕する絶大な力を持つ存在であろうとも、しかし魔物であるという現実には変わりなく、遂にその命を散らす事になった。
「はぁ、はぁ……やった、遂に魔王を打ち取ったぞ!!」
引き抜いた剣を天へと掲げ、青年は万感の思いを胸に声を上げる。青年は勇者と呼ばれる存在であった。いや、勇者とは試練の果てに異業を為しとげた者にこそ与えられるべき称号であるべきだ。青年は、今、この瞬間に真の勇者となったのだ。
「やったな、ユート。お前こそが、真の勇者だ」
そんな青年に後ろから一人の男の声が掛かる。
「本当におめでとう、ユート」
次に掛かった声は若い女性のものだ。
「ありがとう。ジュリアスにシーラ……本当に、ありがとう」
ユートと呼ばれた青年は、魔石を砕かれその存在を維持できなくなり崩れ行く魔王の様子を確認し、それから視線を声の掛けた二人の方へ向けた。
男の方はジュリアスという名で、ユートの故郷ともなるグロリア王国の王子の一人であり、同時に剣聖とも呼ばれている実力者だ。そして、もう一人の少女のはシーラ。ユートの幼馴染であり、恋人でもある。彼女は教会に所属しており、聖女と呼ばれる聖職者である。
勇者、剣聖、聖女。
旅の始まりは、実に5年前まで遡る。当時は散発的に襲い来る魔物の存在にその場その場で対応するしかなかった人類であったが、そこに転機が訪れる。それが、勇者と呼ばれる者の誕生である。神より与えられたとされる光輝く聖剣をその手にし、白き聖鎧を身に着けたその姿に、人々は希望の光を見出したのだ。
勇者はまず、少数の手勢をもって魔王の居城を探し出すことに目的を絞る。そして、5年の歳月を経て、やっとその場所を探し当てる事に成功した。
各国もまた、それを待つだけでは無かった。日々の魔物の戦いの合間にも兵力を揃え、鍛え、何時か勇者が魔王の居城を探し出すと信じ、総攻撃の為の準備を進めていたのだ。
魔王城の各所、そして城外からは各国の騎士や兵士達の怒号や剣戟の音が未だに響いてくる。
まだ、全ての戦いが終わった訳ではないのだ。
「まだ戦いは終わってない。すぐに援護に向かわなければ!」
ユートは今もまだ魔物の軍勢を誘き出し、押し留める者達の事を思い、その場から駆け出そうとする。
しかし、それを引き留める者が居た。
「まぁ、待てよ。まだ魔王を倒したばかりなんだぜ? 一息くらいつかなきゃ体力が持たないだろ」
「そうですよ。ユート、この体力回復のポーションを飲んで、少しだけ休んで下さい」
笑顔を浮かべた二人が、急ごうとするユートにそう声を掛け、鞄から取り出したポーションの瓶をシーラがそっとユートに差し出す。
「二人がそういうなら……そうだな、少し息を整える必要があるかもしれない」
ユートはその二人の意見に頷くと、受け取った瓶に口をつけ一気に飲み干す。
通常であれば、みるみるとまでは行かないまでも、確実に疲れ切った身体を癒す体力回復のポーションであるが、この時は違った。
「な、なんだ……これ……」
体力が回復するどころか、身体が痺れ動かなくなっていく。
「ふふ、飲んだな……身体が動かないだろう? そういう薬だからな」
そんなユートの姿を見たジュリアスはニタリと笑みを浮かべ、嘲るような口調でそう言った。
そして、隣に立つシーラの肩を抱き自分の方へと引き寄せる。
「悪いな、ユート。お前はここで魔王と相打ちになって死んだって事になるんだわ。解るだろ? 民共はお前を神聖視するだろう。生きてりゃ、その発言力は絶大な物になるだろうな。下手すりゃ王の声よりも、だ。王にとっちゃそれは面白くねぇだろ、だから親父からもそうしろって命じられてんだよ。それに、シーラにとっても、元恋人だったなんて言われちゃ迷惑にしかならねぇだろ?」
抱き寄せたシーラの頬に口を寄せながら、ジュリアスはシーラに聞いた。
「ふふ、そうね。ごめんね、ユート。わたし、聖女として勇者であるあなたと一緒になるよりも、ジュリアスと結婚して王妃として贅沢に暮らしたいの。勇者の妻というのもいいけど、あなたって真っ直ぐすぎて贅沢させてくれそうにないもの……でも、ジュリアスは違うわ。わたしの好きな事を全部許してくれるの、いっぱい贈り物も貰ったのよ。あなたは時々しかくれなかったけどね。それだけならよかったの……でも、あなたの存在が大き過ぎるのよ。わたしがあなたの恋人だったって知ってる人は沢山居る。それがジュリアスと結婚となると、わたしは勇者様を裏切った女として教会から何を言われるかわからないのよ。そうなると、未来の王様の妻には相応しくないとか言いだす連中もきっと出てくるわ。それが嫌なのよ。でも、あなたが死んでしまったのなら仕方がないわよね?」
シーラは痺れで立つ事すら出来ず、座り込んだユートの姿を見下しながらそう言い放つ。そして、うっとりとした表情を浮かべ、ジュリアスの方へ顔を向け、その唇に口付ける。
「くっ……」
ユートはそんな勝手なシーラの言葉に口を出そうとするが、痺れが回ってしまってか声を出すことが出来ない様子だった。
「はは、ざまぁねぇな、勇者様。でだ、殺すだけなら普通の毒でも良かった。なんで痺れ薬かというとだ……もちろん、おれが自分の手でてめぇを殺してやるために決まってんだろうが! はは、悔しいか、悔しいだろうなぁ? ここまで来て、お前は全てを失うんだよ! 今までの努力、名声、恋人もこの先の栄光もぜぇーんぶなぁ!! おれが、おれこそが勇者であればこんな事にゃならなかったのにな。安心しろ、全部おれが貰ってやるよおおぉぉぉぉっ!!」
狂ったような笑みを浮かべながら、ジュリアスは手にした剣を振り上げ、そして全力で振り下ろす。その一撃は、確実にユートの首を狙っていた。唯々、ユートを殺す為の一撃であった。
しかし、その一撃がユートの首を斬り落とす瞬間が訪れることは永遠にない。
「浅はかだな……本当に、悲しくなるくらいにね」
痺れて動けないはずのユートが起き上がり、手にした聖剣でその一撃を払い除けたのだ。キィンっという金属同士がぶつかり合う甲高い音が、魔王の間に空しく響く。
「な……あ、が……な、なんで……」
驚きの余り、まともに声を発することもできない様子のジュリアス。その隣に立つシーラもまた同様に驚きで目を見開くだけで、言葉が出ないようであった。
「浅はかと言ったんだよ。そもそもだ、お前らがおれを殺そうとしている事に気付いていないとでも思ったのか? いや、てかさ……お前ら、おれを殺す相談とか宿でするんだもんなぁ。それにシーラ、お前、浮気して他の男とイチャイチャするなら、せめて連れ込み宿にくらい行け。いや、普通行くだろ? なんでみんなで泊まった宿であれこれヤッてんだよ。気付かない訳ないだろ? あぁ、それと薬だけど、お前らがやることやってぐっすりお休みの間に、すり替えておいたんだよ。突入前だってのに、よくやるよ」
痺れて動くことが出来ないはずのユートが起き上がり、あまつさえべらべらと文句を並べる様を呆然と見ていたジュリアスとシーラだが、その言葉で自分達の行動がユートに筒抜けであったことをやっと理解した。
「し、知っていたのなら、何故……」
「んなもん決まってるだろ? 少なくとも、魔王を倒すまではお前らの手があった方が便利だったし、今この状況でお前に動いてもらって決定的な証拠って奴を掴まなければならなかったからだよ。ってことで、こいつ等がべらべらを喋ってたの、きっちり撮れてたか?」
ユートはジュリアス達のさらに後、魔王の部屋の入口に方に目を向けそう言い放った。
「……撮って……だと」
ジュリアスがユートの目線を追い、入口の方へと振り向く。
「はい、しっかりと記録水晶に記録していますよ。しかも、グロリア王からの命であったという言葉入り。我らが連合都市国家の盟主達もお喜びになる事でしょう」
「然り、我らが皇帝陛下も勇者の所属する国と言うだけで幅をきかせ、やっかいこの上なかった王国の失態にさぞお喜びになられる事でしょうな」
そこには、魔王城に存在する影に紛れるよう、黒い装束を身に纏った数人の男女が存在していた。
「バカな、今の今まで気配を感じなかったぞ……」
「それはそうだ。彼らは皆、ユキニア連合都市国家やグラン帝国の一流の諜報員達だ。魔王を傷つける力は無くとも、諜報、潜伏という点に関しては誰よりも上を行く者達だぞ? お前達程度に気付けるものか」
愕然とするジュリアスとシーラに冷たい視線を向けながら、ユートはただの真実として言葉を紡ぐ。
そして、ゆっくりとジュリアス達に向かい歩き始めた。
「お前達は気付いていなかったかもしれないが、彼らは魔王の居所を探す旅の段階からおれ達に付いてきていた。理由は簡単だ、王国所属のおれ達の行動の監視の為だな……もちろん、お前達の間抜けな相談も逢瀬も全部彼らには筒抜けだ。良かったな、ここでおれを殺せていたとしても、お前らには未来なんて無かったんだぜ?」
そう嘲笑いながら、ユートはジュリアス達に向け聖剣を構える。
「くっ!?」
ジュリアスとシーラもそんなユートの姿を見て、各々の手にした武器を構える。ことここに至っては、もうやるしかない。何もしなければ待つのは絶対に明るくはない未来。しかし、ここで全て皆殺しにすることが出来れば、どうとでもなるはずだ。
性根が腐っていようと剣聖と聖女。二人が組めば例え勇者といえど勝てる。そして、まともに魔物と戦う力すら持たぬ間者など敵ですら無い。
そう、考えていたのだ。だが、現実は甘くはなかった。
聖剣の一振りは二人の身体を武器ごと薙ぎ払い、入口近くの壁まで吹き飛ばしたのだ。
「あがっ!?」
「きゃあああぁぁぁぁぁっ!?」
悲鳴を上げ、壁に激突する二人。
「おれを、お前達がどうこう出来る訳がないだろ? おれが正面から魔物と戦ってる所に後ろから斬りつけるだけの奴と、便利なポーション程度の奴らにはね。まぁ、道具として役には立ったよ」
倒れ伏す様を見ながら、ユートは辛辣な言葉を吐く。ユートとて、元はそんな考えはなく、二人を信頼していた。しかし、二人が裏切りの相談をしているのを聞いてからは、そのようにしか二人を見ることが出来なかった。
「浮気は別にいいさ。ちゃんと言っては欲しかったけどね。恋愛だし、色々とある。出会って別れて、それを繰り返してやっと本当に将来を誓い合える人と出会えるってこともあるんだしさ。でも、殺すっていうのは絶対に許す事は出来ない。名誉とか栄光とか、どうだっていいんだよ。あって困る物でも無いけどさ。それよりも、魔物に脅かされて縮こまって生きるような世の中でなくなるってだけで、そんな世の中でのんびりと生きていけるってだけで良かったんだよ。おれがお前らや王国にとって邪魔なら、そう言ってくれればすぐにお前らの前から消えてやったのにな」
ジュリアスの首に聖剣を突き付け、ユートはただそう言い放つ。
「お、おれを殺すのか!?」
「や、やめて!ごめんなさい。謝るから、許して!!」
喚く二人を聖剣の腹で打ち付け、気絶させる。
「殺す価値もないよ。もっとも、ここで死んでいた方がマシだったって事になるかもしれないけどね」
深い溜息と共にそう呟き、ユートは諜報員達の方に顔を向ける。その動きの意味を理解した諜報員達は、懐からロープや鎖を取り出し二人の身体を縛りあげた。
「ありがとう……さて、ぼくは行くね。まだ戦っている人達を放っては置けない。この二人や王は許しはしないけど、そこで暮らす人達や平和を勝ち取る為に戦ってる人達には関係の無い話だ」
「わかりました。勇者様、宜しければ戦いが終わった後には連合都市国家にお越し下さい。のんびりと生活を送るのにいい村か町を紹介しますよ」
「いやいや、帝国にぜひ。観光地としても名高い場所も多いですし、なにより温泉が多い! のんびりと観光を楽しめますぞ!」
その場を後にしようとする勇者の背中には、温かい……いや、多くの打算が含まれているのは確実だろうが、それでも温もりを感じる言葉が諜報員達からかけられた。
そこには、魔王を倒した勇者に対する尊敬と感謝の念がしっかりと込められていた。だからこそ、温かく感じたのだろう。
「戦いが終わったら、きっと!!」
ユートは明るくそう言うと、再び戦場へと駆けて行く。
一人でも、多くの人々の命を救うためにだ。
人類と魔物たちの戦いは、こうして仮ではあるが終わりを迎えた。
魔物たちは人類の結束の前に敗れ、多くが討伐され、大陸の奥地へと追い立てられた。しかし、全滅させる事は出来なかった。大陸は広大であり、その奥地ともなると未だ未踏破の大森林や山脈などが存在し、そこに逃げ込まれては追撃など不可能だからだ。
消耗した人類には、未踏破地へと遠征を行う余裕が無かったというのも現実だ。
何時か、生き残った魔物たちの中に王が産まれ、再び人類を脅かす存在となるかもしれない。そう危惧した連合都市国家と帝国は手を取り合い、未踏破地の手前にいくつかの町や村を作り、そこを拠点として新たな組織を立ち上げる事にした。
それは冒険者ギルドと呼ばれ、未踏破地区の開拓、そして魔物の間引きを行う者達を纏めあげる為の組織であった。その初代代表は勇者その人であり、引退するその時まで、多くの人々の希望であり続けたと言われている。
そして、その組織の財源には、今は無きグロリア王国の王が自らの為に貯め込んでいたとされる財宝が使用されることが決定された。それは、王の残した恥ずべき財産を払拭する為の国民の総意でもあったというーー。
ところで、気付いただろうか?
手を取り合った国に、グロリア王国の名が無いという事に……。
それは、全ての戦いが終わり、終戦の処理を行っている最中に行われた。
「己の誇りを胸に、未来の平和の為に、この激戦を戦い抜いた全ての戦士達よ、しばし我に時間を与えてはくれぬだろうか!! 我はグラン帝国皇帝、グラン・アドレスティア・モーランである!!!!」
一人の男が即席で作られた壇上に立ち、胸を張り声を上げる。その男こそ、グラン帝国の皇帝であった。
「この声明は、我がグラン帝国と盟友国であるユキニア都市連合国家の総意の元行われる事を宣言する。我は代表としてここに立ち、諸君らに告げる!! これは断罪である。まずは、この記録水晶により撮られた映像と見てもらおう!!」
そう声を上げ、高らかに掲げ上げられたのは諜報員達が持っていた記録水晶である。そう、ユートが彼らに『撮れてたか?』と問うたそれである。
記録水晶からは光が溢れだし、それが空間に薄く広がると、まるで映画のスクリーンのように映像を流し始める。そこには、衝撃の映像が映し出されていた。
「そ、そんな、剣聖様と聖女様が……!?」
「勇者様を殺そうとしたなんて、しかもあんな理由で!!」
「ジュリアス様と王が、そのような事を……王国の騎士として恥じ入るしかない……」
驚きの余りただ見上げる事しか出来ない者、怒りの余りに拳を握りしめる者、そしてただただ恥じ入るしか出来ぬ者。
様々な者が居た。しかし、全ての者に共通することは一つ。それは、決して許せぬという思いであった。
「残念ながら、剣聖と聖女は勇者を裏切り、殺そうとした。それも、このような稚拙な理由からだ!! これを許せるだろうか、いや、決して許す事など出来ぬ!! 勇者は全ての人類の希望である。常に先を走り続け、我らへ道を示してくれた。決してその力を奢ることはなく、その勇気を持って我らに未来をもたらした真の勇者である。此度の戦においても、一体幾人の人が彼に救われただろうか!!」
皇帝はそう声を荒げ、その場に居る全ての人々を見渡す。
「ここに、我は皇帝として、いや……彼に救われた人間の一人としてグロリア王国国王、並びに剣聖、聖女に対しその罪を贖わせることを決めた!! これは、グラン帝国とユキニア連合都市国家の両国で合意されている事項である。さらに、これら者達の暴虐を許せぬという者もまた我らに続いてもらいたい!!」
「「「おぉ!! 罪人共に罰を!!!」」」
皇帝の決意はグラン帝国、そしてユキニア連合都市国家に所属する者達の心を一つにした。
しかし、その波に乗れ切れぬ者達も居る。グロリア王国に所属する者達である。彼らに中にあるのは恥と不安。恥じとは自分達の王や王子のあまりに稚拙な行動。そして、王と王子が断罪されることによる国家の行く末への不安である。
「グロリア王国の人々の思いも理解できる。だが、恥じに思う必要などはない。諸君らは誇りを胸に、未来への希望の為に、家族の為に、愛すべき国の為に立ち上がった戦士である!! 何を恥じ入る事があろうか、諸君らの思いは嘘偽りの無い物であろう。諸君らはただ奴らにその思いを踏み躙られただけだ!! それは決して許されるべき事ではない! 加えて、私は皇帝としてここに誓おう。王不在となった王国の守護を!!! 決して民を蔑ろにはせぬ。それは、同じく立ち上がったユキニア連合都市国家もまた同様に誓っている」
皇帝として、連合都市国家の盟主達の名を持って、ここに誓いは立てられる。ただ言葉だけでの事ではあったが、その名を使っての宣言は非常に重いものとなる。ともすれば、次に断罪されるべきは皇帝や盟主達となりかねない程にだ。
「「「「罪人共に罰を!!!!!」」」」
ここに、全ての人々の思いが一つになる。
「では、罪人共をここに!」
皇帝の宣言の後、諜報員達に捕らえられたジュリアスとシーラの姿が壇上に現れる。
「お、おれはグロリア王国の王子だぞ!! お前らの勝手で断罪なんてしみやがれ、王国が敵に回るぞ!!?」
「そ、そうよ。教会がこんな横暴許すはずがないでしょう!?」
首から足先に至るまでロープや鎖で縛られ、まったくといっていい程身動きの取れない二人は、ただ脅えたように声を上げる。だが、その声を聞く人間はここには存在しなかった。
「何、安心するがよい。ここですぐに断罪するような真似はせぬよ。それに、勇者から命までは要らぬと言われておる。だが、未来に期待などはするなよ?」
皇帝はその二人に冷たい視線を向け、そう言い切った。
その後の顛末を記そう。
魔王城での戦いを終えた戦士達は、勇者を先頭として逃げる魔物を追う者達と、皇帝と共に王国へと進行する者達に分かれ、行動を開始した。
皇帝は先頭に立ち、進行先にある町や村などで記録水晶の映像を流し、演説を繰り返した。そして、王国の首都に付くころにはその数を倍ほどに増やしていた。
首都の門は固く閉ざされていたかのように見えたが、集団が到着すると共に門がゆっくりと開かれる。先行した者達がすでに工作を行っていたのだ。
「一般の居住区では既に王と王子の愚かな行いが知れ渡っております。また、多くの貴族が皇帝陛下、並びに盟主様方への恭順を示しています。後は城を守る騎士達ですが、こちらも多くの者が王家へのを失意を抱いており、抵抗はされぬかと」
先行していた諜報員の一人が皇帝へと近づきそう口にする。
「うむ。では、参ろうか……行くぞ!! 卑劣なる王は城に在り!!! 今こそ、断罪の時也!!!!」
「「「「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」
そうして、人々は王城に向かい進行する。進軍とも言える光景ではあるが、あくまでも進行。戦争をする為に行く訳ではないのだ。故に、略奪するような者も一人として居ない。
「ようこそ御出で下さいました。グラン皇帝陛下……すでに、グロリア王は己の近衛騎士達の手により捕縛されております」
王城から現れたのは一人の騎士であった。この国の近衛騎士の団長をしている人物である。王への忠誠と祖国への愛を天秤に乗せた末に、彼は王ではなく国を選らんのだ。
「ご苦労であった。そなたの英断に感謝を、余計な血は僅かでも流れぬ方がよいからな」
騎士にそう声を掛け、皇帝は場内へと足を入れる。そこは、大きなエントランスであった。大理石をふんだんに利用した床に、天井から下がるシャンデリアという贅を凝らした場所であった。そこに、一人の男が後ろ手に縛られ、座らせられている。周りには騎士が取り囲み、逃げられぬよう見張られていた。
「き、貴様ら、儂にこのような真似をして唯で済むと思っておるのか!? 一族郎党皆殺しにしてやる!! 誰か、早うこやつらを殺せ!!」
その男は、ただそう喚き散らすだけであった。だが、何も出来ない。すでに王として認められてはいない男の命令を聞く者など誰も居ないからだ。そうなってしまえば、ただ一人の男でしかない。この場に置いては、唯口汚く騒ぎ立てる事しか出来ないのだ。
「グロリア王よ、すでに貴様の断罪は国民のみならず、騎士達も認めた事。今更喚いたところでどうにもならぬ決定事項なのだよ」
皇帝が声を上げると、男はこちらを睨みつけ声を上げた。
「き、貴様……グラン!! 戦後のどさくさに紛れ、儂の国を奪うつもりじゃな!?」
「国を奪うつもりなどはない。この国は、この国の民の物だ。しかし、統治が必要であろう。それは、我が帝国とユキニアによって一時的に行われる事になる。だが、それは一時的なものだ」
「そのような事が信じられるものか! この、侵略者が!!」
男はただ喚くのみ。その様子に皇帝は息を吐き、諦めたように首を左右に振る。
「それを許したのは貴様の愚かな行為だ。故に何と言おうとも、決定された事項が覆る事はない。さて、もうよいだろう? 貴様は殺さぬ。その点は安心せよ……貴様は、息子共々一生を日の当たらぬ牢獄の中で過ごしてもらう。ただ、生きる事だけが許された場所だ。嬉しかろう?」
そこは、一日に一度、生きるのに必要な最低限の食事だけが与えられ、昼なお暗く、また他の囚人とは隔離されており話相手なども存在せず、人として身を清めることすら許されぬ場所。ただ、生きることのみが許され、それ以外の全てが許されない地獄だ。
「そして、聖女だが教会より破門されることが決定した。貴様も同じく牢獄に入れる。良かったな、人を殺そうとした者が処刑されることもなく、生きる事が許されるのだ。最高の贅沢というものであろう?」
集団の後方、移動可能な牢屋に入れられたジュリアスとシーラに向けても、皇帝は国王への沙汰と同じ内容を宣言した。
「い、いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! そんなの嫌よ、そんなところに行くくらいなら殺してよ!!」
半狂乱になって叫ぶシーラではあったが、その姿を見て憐れむ者などこの場には居なかった。
「そもそもジュリアスがユートを殺そうなんて言わなかったこんな事にはならなかったのよ!?」
「はぁ!? ふざけんな、てめぇだって賛成してただろうが!! そ、そうだ。悪いのは親父だ! 王だろうが!! おれは命令されてやっただけなんだ。なぁ、そうだろ!!?」
「き、貴様あああぁぁぁぁぁぁっ!! 父を、いや王である儂を売ろうというのか!? 儂に責任などない! あるとすれば、勇者じゃ!! あやつが儂の地位を揺るがしかねない程になったのが一番の問題じゃろうが! 悪いのはあやつじゃ!!!」
三人は揃って醜く罵りあう。
これが彼らの末路。他者を殺すことで自らの幸せを掴みとろうとした愚か者達の姿であった。
「何とも醜いものだ……自らの罪を認め、粛々と受け入れる事すら出来ぬのか、貴様らは……連れて行け」
囲んだ騎士に無理やり立たされ、ジュリアスとシーラと同じ牢へと放り込まれる王。その間も、自らの罪を認める事はなくただ喚くのみであった。
その後の彼らが表舞台に現れる事は当然無かった。その語に綴られた歴史書にはは剣聖と聖女の名前は無く、後世に残る事はなかった。
「あ、あああああぁぁぁぁ、出して、ここから出して……せめて日の光を見せて、身体を拭かせて……臭いのよ。違う、こんなのわたしじゃない。わたしの装飾品はどこ? 綺麗な宝石が付いてたの、あれは大切な物なの返してよぉここから出してよぉ」
「ははは、おれがおれこそが勇者なんだぞ、何時までこんなところに閉じ込めておくつもりだ? ここから出せ、魔物なんておれが全滅させてやる。さっさと出せよ、おれが勇者なんだよおおおぉぉぉぉっ!! はは、はは、ははははははははははははははは! おれが勇者だ、勇者だ勇者なんだ、おれは……何だ……?」
「…………あ、うううぅぅぅぅ、誰ぞ誰ぞ居らぬのか……儂を何時までこのような場所に……気が、気が狂いそうじゃ、一言でも良い、誰ぞ言葉をかけてくれ……喋ることすら忘れてしまいそうじゃ……」
ただ、暗い地下の牢獄でそんな声が響くだけであった。
ざまぁシーンを加えてみました。
あまり酷くすると、わたし自身が何か嫌な気持ちになってきてしまいますので、これくらいでご勘弁を……。
少々長くなってしまいましたが、色々と妄想をしていた事を書けて満足です。
今回は、皇帝さんやその他の人々がざまぁを行いました。勇者くん本人にさせた方がいいのかもしれませんが、本人にとって重要なのはざまぁする事ではなく、多くの人の為に動くことある……ということでこういう感じになりました。
ユートはどこまでも勇者であり、人間味というものが薄いかもしれません。それに比べ、シーラはユートとは違い聖女という職にあっても非常に人間らしい考えをしていました。そういった部分ですれ違っていき、そしてジュリアスの存在が決定的な物となってしまったのかもしれません。贅沢をしたいといった考えを筆者は否定しません。わたしもお金さえあれば……(ぬぐぐ) とはいえ、そこできっちりと話し合うことも無く、短絡的に殺してしまえば、という考えに行きつくのは言語道断だと思います。まぁ、実際にはここまで短絡的な考えに行きつくような極端な人は居ないとは思いますが……。
次にざまぁ物を書く時は、本人によるざまぁなんかを考えてみます。
読んで頂きありがとうございました!