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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第三章 描かれる未来
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第三章34 『残酷』

 戦場が沸かれた直後。イルシアとの戦闘はありえない程に激しくなる。周囲にあった柱は一瞬にして全てが粉々に破壊され、神殿の中心では二人の激戦が繰り広げられていた。

 本気のイルシアに対してティアルスはギリギリで渡り合う。

 神速の剣戟には神速の剣戟をぶつけ、強大な威力には強大な威力を真正面からぶつけ相殺する。そんな風にしてイルシアとの戦闘を生き延びていた。


 ――耐えるので精一杯だ。とても反撃できそうにはない。けど、このままじゃやられるのはこっちだ……!


 いくら刃が反応しているとは言っても限度が合える。ティアルスの体力だって無限な訳じゃないし、このままいけば最悪刃毀れしてしまうだろう。

 そう思いながらも縦横無尽に繰り出される刃を乱暴な方法で防ぎ続けた。

 体術も織り交ぜた連撃は厄介ですぐに足が払われそうになる。


 ――クロエが向こうに行った以上やれる事は一つだけ!


 受け止めた刃を弾くとティアルスは必死に呼びかけ始める。

 イルシアを攻撃しながら何度も何度も叫び、自分の知った彼女に戻る事を祈り続けた。


「――イルシア、思い出せ! 自分が何をしようとしていたのかを!!」


「っ――――!」


 やっぱり反応はない。それどころか余計に刀を振る速度が速くなるだけ。普通のティアルスなら到底受け止められない速度なのだけど、刃だけが反応している今なら何とかギリギリ受け止められる。それももう少しで終わるって体が教えてくれるけど。

 そんな風にして激しい剣戟を幾度となく受け続ける。


 【■――■―■■■―――■■――!!】


「ッ――――!!!」


 《紅焔流》三の型:捻れ炎弧。

 床を割る程の踏み込みの直後に捻る様な剣筋で前方を薙ぎ払う。それで刀を軽く弾いた直後の体術を使いずらくさせて連撃を重ねた。

 《水神流》二の型:濁流波。

 そのまま上段へと流れる様に刀を構えては思いっきり振り下ろす。変幻自在に刀を動かしては反撃の隙を与えずに力技の剣戟を繰り返し叩き込んだ。


 やがてイルシアは距離を取った瞬間から最低限の動きで腰を捻るから、ティアルスもそれに対抗すべく刀を振り回した勢いを捨てずに回転したまま飛び上がる。

 そうして鋭い一閃が放たれるのと同時に渾身の一撃を真正面から撃ち合う。

 《桜木流》四の型:飛花迅空。

 《紅焔流》四の型:紅蓮華羅列。


「らああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」


「っ――――!!!」


 幾重にも回転させ遠心力を限界まで引き伸ばした一撃は、渾身の力と共にイルシアへと撃ち出される。それに対して限界まで捻り解き放った一閃は互角の威力でぶつかった。直後に床のブロックが何個も浮き上がる。

 刃を滑らせてイルシアの後方へ回り込むともう一度刃を振った。


「っ!?」


 でも、背中に向けて振るった刃は鍔で防がれる。――常人じゃ絶対にできない様な反応に驚愕していると床に落下し即座に貫かれそうになった。

 それから間一髪で脱出する事には成功するも状況は変わらない。

 距離を離してはすぐに詰められまた激しい剣戟が繰り出されるのだから。

 けどそんな中でも口を開く。


「……何で」


 そう言う最中にも必殺の刃は何の躊躇もなく振り下ろされる。だからそれらを躱し受け流しながらも必死に食らい付く。


「何であんな奴に負けたんだよ!!」


「――――」


 既に人間とは言えない様な強さなイルシアだけど、ティアルスも次第と動きが常人からかけ離れていき、やがてみんなからは習わなかった動きさえも使いこなして変幻自在かつ不規則な動作で舞の様な動きで刃を振るった。

 問いかけても答えようとしない。それどころかより一層攻撃の手が強まるばかりだ。でも、それでもティアルスは全力で縋り続けた。たった一筋の希望に。


「イルシアは凄く強くて、馬鹿みたいに優しくて、悪なんかには絶対屈さないだろ! それなのに、何で自分である《虚》に負けちゃったんだよ!!」


「――――」


「今のイルシアは独りじゃない。俺達がいる。過去が《虚》だったとしても、今は《英雄》で在ろうとしてる!! その選択は何も間違って何かないんだ!!!」


「――――――――」


「だから……負けるな!!!」


 【―■―■■――■■■!!】


 戦う度に記憶が流れ込んで来る。それらはティアルスに戦い方を教えてくれて、次第とイルシアの剣戟に順応しては動作をより一層よくしていった。

 記憶が流れ込んで来る前じゃ絶対に防げなかった攻撃もギリギリで防げる様になったし反撃さえも出来る様になる。そうして周囲には二人の血が飛び散って行く。


 ――今を燃やせ。


 ふと脳裏に浮かぶ光景。荒れ果てた荒野に立っていた男は背中を見せながらもそう言った。今まで会った事もない人物だけど、その言葉だけはしっかりと聞き覚えがあった。ここぞという時に力をくれた不思議な言葉。その一言を聞いてもう一度熱が入る。


 わざと手首を捻らせて自分でも意識してなかった所へ刀を向けるとそこにイルシアの刃が存在した。やがて真正面からぶつかりあい互いが弾かれる。

 でも攻撃を食らう訳にはいかない。イルシアの攻撃は全てが一撃必殺の刃なのだから。まともに食らえば絶対に命はないだろう。


「っ!!」


 《暁光流》五の型:絢閃々。

 神速で振るった刃を確実に弾きながらも接近される。でも続けて放った型にようやく隙を見せて立ち止まった。

 のだけど、互いの距離は既に刃を振るには近すぎる距離。だからティアルスは一瞬で覚悟を入れると鋭く息を吸い鬨の声と共に思いっきり頭突きする。


「――戻って来い!!!」


「ッ――――!?」


 やっと頭突きを入れられた。それによって怯んだイルシアは足元のバランスを大きく崩す。それを最大の隙と見たティアルスは即座に柄を握り締めて刃を振るう。

 でも、直後に流れ込んで来た記憶を見て手元が狂った。

 ――荒れ果てた荒野で佇む幼き少女の光景を見て。


「なっ!? ――ぐぅッ!!」


 すると今度はイルシアから頭突きを食らって大きく怯んだ。直後に回し蹴りを腹に食らって大きく吹き飛ぶ。

 それからすぐに攻撃が来ると思って構えるのだけど、イルシア少し離れた所で額を押さえ苦しんでいて、どうしてそんな事になるのかと思い少しだけ疑う。


「……イルシア?」


「っ――――」


 名前を呼ぶと初めて反応した。それを記憶が戻る予兆と見たティアルスはすぐに近寄ろうと立ち上がる。……でも、今までにない類の頭痛が襲って来て膝を付いてしまう。

 激しい頭痛に頭を抱えながらも必死に前を見る。


「ぃる、しあ……!」


 けれど何の反応もない。ただ苦しんではこっちを見るだけで、その行動に何かしらの意味があるとは感じ取れなかった。なのに期待を抱いてしまう。

 流れ込む莫大な記憶。きっとそれを読み解くのに脳が困惑してるんだ。


 ――これ、イルシアの……?


 それはかつて夢で見た光景と全く同じ荒野。数々の人が死んでは無数の武器が地面に突き刺さり、その中に佇む血塗れになった一人の少女。これだけならあの時と一緒だ。

 だけど今回に限って様々な言葉が同時に流れ込んで来る。

 それらは全て何も知らない無垢な言葉で。



 ………。




 幾重にも重なった言葉は頭の中で渦を巻いて行く。それらは確かに無垢な物だ。無垢だからこそ憧れに縋る気持ち。無垢だからこそ理解出来ない現実。だけどあまりにも残酷な光景から眼を背けたくて仕方なかった。

 幼い少女が世界の絶望や現実を死にたくなるくらいに押し付けられる。そんな光景を「残酷」と捉えたから。


 ――これが、イルシアの抱えていた過去と記憶……。


 如何にして何も知らなかったかが思いやられる。

 あの時にかけてあげた言葉なんて所詮はそれっぽく見繕った偽物の言葉にしか過ぎない。それを知ったからこそ彼女の抱えている絶望がどれだけ大きな物なのかを知る。


 ――馬鹿か俺は。いや、馬鹿だ俺は……!


 イルシアの事を何も知らないで、知った気になって、それで彼女を救える気でいた。そんな事を考えていた自分に反吐が出る。人を救うなんて簡単な事じゃないってサリーとリサの件で知っておきながらこう思っていただなんて。

 でも、だからこそ言えることだってある。


 ――今度はもう絶対に違わない。俺の全てを持ってしてイルシアを救うんだ。イルシアが途轍もない絶望に覆われているのなら、それを払って笑ってもらいたいから……!!


 自分の中でもう一度覚悟を決めて刀を握り締めた。

 結局、自分の事が嫌になっても根底は変わらないんだ。どれだけ残酷な光景から目を背けようとしたって、最終的には「救いたい」って一心に戻って来る。


「……俺はイルシアの笑顔が見たい」


「――――!」


「だから絶対に助ける。もう何も諦めさせない!」


 全てを救うだなんて土台無理な事だろう。でも、それを――――絶対無理だって事をやってのけるからこそ英雄になれるんじゃないのか。

 イルシアを救う方法なんて何一つ分からない。だけど絶対に救うんだって覚悟だけは何があろうと変わらないから。

 剣先を向けると堂々と宣言した。


「――俺の英雄は、絶対に負けないから!!!」

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