第三章30 『深層へ』
激しい地震が全員を襲う中、リークは落ちそうになったティアルスの体を必死に抱きかかえた。そしてティアルスは地面を見続ける。亀裂が走っては崩壊していく地面を。
アルスタとレシリアも何とかして降りて来たみたいで、三人がかりで必死にティアルスを引っ張っては安全な所に避難させようと引きずる。
だけどこの状況で果たして安全な場所なんてあるだろうか。
「大丈夫か!? おい、ティアル――――」
「地面が、崩れ……」
「崩れて……なんだ?」
「多分、この真下に空間があるんだ。だからこれは地震じゃなくて、地盤沈下、みたいな物。……崩れる! この建物ごと!!」
「嘘だろ!?」
ティアルスの言葉にアルスタがそう言った瞬間、城全体が斜めになっては重力に従って全員が瓦の上を滑り始めた。今は刀を屋根に突き刺して堪えるけどそれも難しそうで、激しい振動で刀が今にも抜けそうになっていた。
「まずいな、どうする」
「ティアルスは飛べそうにないし、だからと言ってサリーとリサも既に限界だ。それに俺達をまとめて運ぶってのも現実味がない。ってなると残るは一つだけど……」
そうして全員で地面を見下ろした。残った手段としては一斉に限界まで高く飛び、そして技を地面にぶつけて落下ダメージを軽減する事くらいだ。
……のだけどソレ事態も既に絶望的で。
いくら考えても無事で済む方法が思い浮かばなくてリークは舌打ちした。そうしている内にも振動は激しくなっていき、城も傾いてはみんなを投げ飛ばさんと崩れていく。そしてティアルスは朧になる意識の中でゆっくりと考えた。イルシアは今どうしているんだろうって。
そんな事考えてる場合じゃないっていうのは知ってる。でも真意の反動とか諸々が積み重なって体は指先すらも動かないし意識も朦朧としていた。だから今のティアルスに出来る事はこれで助かった後の動きくらいしかない。
でもついにみんながいる場所さえも崩れ始める。瓦が全て剥されてはほとんど垂直になり、城に押しつぶされそうな形で地面へ接近していった。
もう最終手段として飛び上がるしかない。みんなもそう判断したのだろう、全員で思いっきり屋根を蹴って少しでも遠くへ移動しようとした。
だけど城が倒れるのに巻き込まれてしまって――――。
――絶対に護れ。
どこからか聞こえた誰かの声。
その言葉に指が反応し、意識が覚醒してる訳でもないのに体が自然と動いていた。倒れて来る城に手を向けて“何か”をする。
……その先の記憶は途切れてしまった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
気が付くと地面に寝そべっていた。ふと目を開けると自分の手が映し出され、傷だらけの手を見て何が起こったのかを思いだし体を起こす。
「そうだ! みんなだい……じょう……?」
けど視界に広がった光景はあまりにも異常な物で。
リーク達は確かに城の倒壊に巻き込まれたはずだ。迫って来る壁に押しつぶされる記憶もしっかりしてるし、死んだって感覚も微かに残っている。
……なのにリーク達のいる所だけが何も無かった。
まるでバリアに護られたかのような形をしていて、周囲の地面は激しく崩れ城の破片も見えるのに、リーク達がいた所だけは少し崩れている程度で何もなかった。
だから不思議で仕方ない。どうして助けられたのかって。
「…………」
でも心当たりがない訳じゃない。到底信じられない様な話だけど、リークはある方向を見た。少し離れた所で気絶しているティアルスを。
――ありえる訳がないのは分かってる。でも、ティアルスの力は未知数だ。本当に心の底から信じ難い話だけど、あの時、ティアルスは……。
記憶が途切れる瞬間。ティアルスは確かに動いていた。まるで最後の力を振り絞るかの様に、崩れて来る城に向かって手を伸ばして。
それから覚えてないから確信はない。だけど確かにティアルスが何かをしていたのは分かったのだ。
だからティアルスに手を伸ばした。
でも、その直前に地中から手が伸びて思わず引っ込める。
「うおっ!?」
亀裂の間から手が生えて来るからびっくりした。
急になんだと思いきやその手はどんどん伸びていき、やがてもう一本生えてはついに人の顔があらわになる。つい反射的に鎮めようと拳を振り上げるも見慣れた顔が出て来て寸止めした。
「……今、鎮めようとしただろ」
「いえ全然。そんな事はないぞ」
地面から顔を出したロストルクにそう言う。
全力のチョップを繰り出そうとした手を引っ込めて脱出するのを手伝った。顔を掴んで大根みたいに引っこ抜くと服をはたいたロストルクに当然のを質問した。
「で、何で転移魔法に掛かった君が地中から出て来たんだ?」
「え~っと、それを説明するには少し長くなるんだが……転移先には色んな空間があって最終的に色々あってこうなった」
「重大な部分省かれてるけど!? まあ、いいか」
一番大事な部分が省略されている事に突っ込みながらも納得した。まあ、話が短い事に越したことはないし。
そう思っていたのだけど、次の瞬間には離れた位置の地面が大きく吹き飛んだ。
びっくりして思い込むと今度は複数人の腕が生えて来て。
「ちょっ、今度はなんだ!?」
「あ~。そういえば途中で別れたっけ……」
さっきと同じように引き抜くと今度はシファーの顔が出て来る。そっか。ロストルクはシファー達と同じく飛ばされたんだっけ。
すると今度はエスタリテの顔がズボッと出て来る。
「……すまない。助かった」
「あ、ありがとう」
「シファーとエスタリテが出て来たって事は、次は……」
「――っぷはぁ!」
予想通りレシリアとラインハルトが地中から飛び出て来る。流石に顔から引き抜くのは可哀想だと思ったから手を差し伸べる。何とか出て来ると服をはたきながらも外の空気を存分に吸い込んだ。
やがて最後にクロエも顔を出すと周囲を見渡した。
「外! ここ外!?」
「外だよ」
レシリアがそう言うとクロエは即行で起き上がりある所へ向かってすぐに駆けだす。そしてクロエの向かった先と言うのがちょうど起き上がろうとしていたティアルスで。
全力の頭突きと共に抱き着くともう一度彼の意識を彼方へと吹っ飛ばした。
そんな光景を見つつもようやく揃った大人組で話し合いを始める。
「……状況は大体察した。で、次はどうするかって話だけど……そっちは何か掴めたか?」
「悪い。全然掴めなかった。その顔じゃそっちも無かったみたいだな」
「残念な事に昇ってた城がこんな事になっちゃったからな」
そうして激しく倒壊した城を見つめた。大部分が地面と一緒に地下空間へ流れ込んだのだろうか。白い部分はほとんど見当たらない。
となれば残った方法はたった一つ。
「じゃあどうにかして探すしかないんだが……手当たり次第、だよなぁ」
「何もわからない分それしか方法はない。仕方ないさ」
それぞれで進んでいたから仕方ないけど、本来の目的はイルシアを連れ戻す事だ。それなのにかなりの時間を食った挙句に手掛かりを一つも掴めないだなんて。
だからどうするべきかと悩む中でレシリアが何かに気づく。
同時に指を指した方向をみんなが見つめた。
「導いてるみたいだけど……」
「うん?」
そうして見上げるとその異変に驚愕する。いつの間にか上空には真っ赤な雲が広がっていて、波を撃ちながらも一点に集中していた。
だからそれだけでレシリアが言いたい事に気づく。
まあ、本当に信じ難いのだけど。
「うっわ。露骨~……」
「如何にもって感じしてるけど確実に罠だよな」
「ここまで来るとわざとやってるんじゃないのか……」
既に手抜き感満載の罠だけど、みんなで顔を合わせて渋々頷いた。本当の本当に癪だけど、あれしか方法がないのは確かだし、導かれてるのは確かだし。
けどここまで来て諦めるのはみんなの性には合わない。
だからこそ納得しずらくても歩いて行く事に決めた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あれ、ここは……」
「あ、目覚めた?」
ふと目を覚ますとラインハルトに背負われていて、いち早く気づいたクロエが返して来る。普通こういうのってシファーとかロストルク辺りが背負うんじゃないのか……。
そんな風に思っていると背後からアルスタが状況を説明してくれた。
「今はみんなで露骨に誘われてる罠に向かってるって感じだな」
「罠?」
「アレの事だ」
そうして上の方を指さすから釣られて空を仰ぐ。視線の先に映ったのは空全体を覆い尽くす真っ赤な雲で、雲は波打ちながらも一点に集中していた。文字通り露骨に誘っている事に呆れるも何とか状況を把握する。
「イルシアは……」
「まだだ。でも少なくともこの先にいる事は確実だろうな」
だけどイルシアはまだこの中にはいない。だから彼女の名前を呟くとラインハルトは足元を見下ろした。今度は何だと思いきや一人分の足跡が前方へと伸びていて。
「……もう大丈夫だ。降ろしてくれ」
「いいのか?」
「ああ」
ここから先は自分の足で歩みたい。そう思ったからラインハルトの背中から降り立つ。イルシアを助けに来たのに運ばれて来たんじゃ見た目的にも格好悪いだろうし。
降りると早速クロエが近づいて来て、安心させる為に頭を撫でると嬉しそうに微笑んだ。なんかいきなりクロエとの距離が縮まった気がする……。
それからしばらく進んだ先にはある建物が待ち受けられていて、ソレを見た途端に全員で立ち止まった。こんな森の深い所に城が建っていたのだ。もう何があっても驚きはしまい。そんな覚悟を持ってたから驚愕はしなかった。まあ、その代わりに存在感が凄かったのだけど。
全員で目の前にそびえ立つ神殿を見つめた。それも苔が伝ってかなり古い雰囲気を醸し出す神殿を。
何より目を引いたのは真っ赤な雲を出していたのがその神殿で。
「……出来ればこんな状況で見たくはなかったな」
「ええ。こんな状況じゃなければ普通に神秘的だっただろうに」
こんな異変が起こっているからこそ存在感が半端ない神殿に向かって大人組がそう言う。でも軽口を叩いてられるのも今の内だ。
だって、入口には既に何十人もの死体が置いてあったのだから。




