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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第三章 描かれる未来
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第三章29 『起死回生の一手』

「よもや我がもう一度殺されるとはな……。貴様の覚悟、十分に伝わったぞ」


「そんな、何で……」


 リークの真意で消滅したはずなのに。それなのに悠然とした態度で立ちこっちを見下ろすリヒトーを見つめた。

 確かに手応えはあった。消したという確信もあった。

 なのにどうして奴が生きて――――。その疑惑は戦う前に奴が言っていた言葉ですぐに返答が付き出される。


「――指? お前、まさか指だけでも……?」


「ああ。その通りだ」


 その返答に文字通り戦慄する。

 って事はさっき、リヒトーの指だけが消せなかったとでも言うのか。指1つからでも再生するだなんて――――正真正銘の化け物だ。

 リークの表情を見ると口の端を釣り上げて軽く笑う。


「ようやく良い表情をしたではないか」


 奴の顔には感情がないはずだった。今まで戦った中で焦りとか頬をピクリと動かした事はあっても、喜びとか悲しみとかの感情は微塵も浮かべなかったのだ。なのに今だけは上手く行ったことを喜んでいる様な顔を浮かべていた。

 そしてこんな状況になれば向こうにとってやる事はたった一つ。

 だからリヒトーは腕をもう一度振り上げて大剣を出現させる。


 その瞬間にみんなが走り出すのだけど、遠くにいたから届くのはアルスタでも間に合うかどうかの差で、唯一リークの近くにいたティアルスが防御の構えを取る。

 でも何の躊躇もなく振り下ろして。


「――死ね!!」


 ティアルスは真意を発動させて真正面から迎え撃った。リヒトーの刃とティアルスの刃はぶつかった瞬間から物凄い衝撃波を出しては周囲の物をまた吹き飛ばし、全員が近寄れない程の風圧へと変換されていく。

 でも吹き飛ばされたのはティアルスの方でリークも一緒に壁へと激突する。


「っ!?」


「ティアルス!!」


 一緒に壁まで吹き飛ばされたティアルスは手元を見て驚愕した。だって、ただ撃ち合って負けただけだというのに震えていたのだから。

 武者震い――――いや、きっと本能が奴とは戦うなって呼びかけてるんだ。


 少し遅れて反応した全員は一斉にリヒトーへと襲いかかるのだけど、全方位から刃を振るっても直撃する寸前に影も形も無くなってしまう。そのリヒトーはどこへ行ったのかと言うとティアルスの目の前って訳で。

 瞬間移動としか言えない速度にリーク自身も戦慄した。


「ティアル――――」


 でもそう叫んだ頃には既に刃はまたティアルスの刀と激突していた。蒼色の桜を舞い散らしながらも必死に耐えていたけど、やがて体の方が悲鳴を上げては膝を付いていく。

 なのにリークはただ見る事しか出来なかった。ぶつかる前なら何とか出来たけど、刃と刃がぶつかっている最中に介入できるのは刃だけだ。その中に拳で突っ込めば即行で指が斬り飛ばされるだろう。だから見てる事しか出来なかった。


 ティアルスが苦しそうに耐え忍ぶ背中を。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ――重過ぎるッ……!!


 リヒトーの刃を必死に受け止める中、全身が悲鳴を上げては激痛を走らせている。最早“いつも通り”とも言える感覚だけど、一向に慣れない痛みに襲われてついに膝を付いてしまう。

 そのせいで奴の刃は更に力を秘めて行った。


「ぐぅ……ッ!!!!」


 漆黒の大剣は威力を増すばかりで、ソレと比例する様にまたリヒトーの体も悪魔化していく。また悪魔化してしまったら今度こそ手の打ち様がないかもしれない。リークは負傷し、四人は体力が既に限界突破している。

 リークが立てなくなるまで戦ってようやく一度は倒したと言うのに、ティアルス一人でそれが出来るかどうか……。


 残った四人が背後から襲いかかるもやっぱり意味はなく、どれだけ切り刻んでも今度は血の一滴も垂らさず無視し続ける。

 やっぱりティアルスとリークを殺す事しか考えってないんだ。


 ――焦るな。落ち着け。真意と呼吸法とか諸々組み合わせれば何とか……!!


 そう言い聞かせて呼吸法を変えた。その瞬間に全身が熱くなって力が入る。それと同時に真意も更に強くさせて押し返し始めた。……のだけど、やっぱり体への負荷が途轍もない。下手をすればそのまま死ぬかもしれない。

 でもそれはリークを見捨てる理由にはならないから。


「せあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


 ついていた膝を持ち上げて押し返す。けれどさせぬと言う様にリヒトーも力を入れて抵抗し始めた。互いに全力をぶつけあって初めて気づく。リヒトーには絶対に勝てないと。

 ……勝てない。その事実に奥歯を噛みしめた。

 実際ここまでやっても圧されているし、それなのにリヒトーは即時回復とか諸々色んな効果を持ち合わせている。そんな奴に勝てるだろうか。


 その時、互いの全力は行き場を失くして大きく爆発する。

 ありえないくらいの衝撃波に襲われた二人は壁を撃ち抜いて外へと押し出された。――そう。最上階の壁を撃ち抜いて外へと。


 ――嘘だろ。この壁次の部屋に繋がってなかったのか!?


 そう思いながらも自由落下を始めた。この高度ならいくら高威力の型を衝撃の緩和に使ったとしても死は避けられないだろう。それどころかティアルスもリークもボロボロな訳だし。

 だからこそティアルスは空中で耐性を整えて足元にマナを流した。

 リークの襟を掴んでは風魔法の翼を出現させる。


「うおっと。……リーク、大丈夫か?」


「な、なんとか」


 一先ずこれで落下死は防げただろうか。ここからどうするべきかだけど……まあ、リヒトーがこんな現状で追撃を仕掛けない訳がなくて、上からかけられたアルスタの声に反応する。


「ティアルス!」


「っ――――!!」


 そうして上を向くと悪魔化したリヒトーが落下しながらも追いかけて来ていて、咄嗟に反応したティアルスはリークを担ぐと思いっきり空気を蹴った。

 すると直後にギリギリの距離でリヒトーが通り過ぎる。

 ……更に運悪く旋回して追いかけて来た。


「ぐっ!」


 ――避けられない!!


 だからこそ刃を構えた。でもリークを片手で抱えつつももう片手でリヒトーの攻撃を防ぐのは絶対的不可能で、いとも簡単に弾かれては二人とも空中に放り投げられる。

 やがて手を離してしまったリークを狙って旋回し突っ込んで来た。


 ――まずい、リークが!?


 再び翼を出現させて飛び出す。このままリークを助けるかリヒトーを止めるか――――。前者はリークの代わりにティアルスが斬られるだろう。でも、後者もティアルスの刃が弾かれ斬られるのが目に見えている。だからって助けない訳にはいかないけど。

 故に全力で前進した。例え弾かれると分かっていても助けたかったから。

 でも、その時脳裏に記憶が強く流れ込んできて。


 【■―■■■――■―――■!!】


「ッ!?」


 誰かが落下しながら手を伸ばしていて、視線の先にいるだれかが瞬きをする間に瞬間移動して記憶の主を突き刺した。突き刺した人の眼に映ったのは記憶の主の表情で、その眼に映ったのは絶望したリークの顔で。

 そんな光景を一瞬にして見たティアルスは考える。それも時間が引き伸ばされた様に感じながら。


 ――今のは誰かの……いや、リークの記憶? なのに何で……!?


 眼の中に映ったのは確かにリークだ。でも彼はティアルスの目の前にいる。まだ殺されてないし、未来を見た訳でもないだろう。なのにどうして――――?

 その答えはすぐに得られる。


 ――まさか。いや、そんなはずは……。


 けど認めたくなかった。そんな考えを。

 だからその考えを消し去る様に刃を振るう。リークの体を押し出して刃を振るうともう一度リヒトーの大剣と正面衝突させ、その威力に押されながらも必死に耐え続ける。

 そしてリークはと言うと、壁を駆けて降りて来たサリーとリサによって救出される。


「ぐッ!!」


 全身強化も真意を乗せてもそう長くは持たない。だから早い所決着を付けないとこっちの方が先に限界を迎えてしまうのだけど、リヒトーの体力は無限な様でどんどん圧されてしまう。


 ――まずい、屋根にぶつかる……!


 翼を大きくして必死に耐えるも着実に落とされていく。このままの落下速度じゃ間違いなくティアルスは潰されるだろう。けど、だからと言ってここから抜け出せる方法も無さそうで。

 焦燥が広がっていく中で歯を食いしばった。

 ここはもう耐えるしかないと思ったから。


 でも、その瞬間にリヒトーの悪魔化が完全に解除されて。


「なっ――――!?」


「え――――?」


 まさか突然通常の姿に戻るだなんて思いもしなかったから驚愕する。リヒトーも同じ様に目を見開いては驚愕している様だった。

 しかし互いに驚愕しているのも束の間。

 一秒も経てば即座に立て直したリヒトーが掌を腹へ押し込んでは衝撃波を生むのだから。


「がッ!?」


「っ――――!!!」


 その衝撃で足からマナが抜けてまた落下してしまう。

 口から出た血を回避したリヒトーはもう一度掌を振りかざしては叩きつけようと振り下ろした。でも頭突きした事によって微かにでも怯み隙が出来る。


 ――今を燃やせ!


 流れ込んで来た言葉と共に真意の光が刀身全体を覆った。柄を両手で握り締めると光は更に強くなり、ティアルスさえも呑み込んでしまいそうなくらい大きくなって行く。

 するとリヒトーは微かに目を細めた。

 やがて全力で振るうと手先を悪魔化させたリヒトーも対抗すべく攻撃した。


「らああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」


 今までよりも激しい衝突。こんな事をしたらまた刀が折れてしまうかも知れないけど、それでも今は攻撃を止める訳にはいかない。それに型も何も発動してないただの振り払いだから威力だって通常よりも弱いはずだ。

 だけど、リヒトーも確実に体力を減らしている。途中で悪魔化が解除されたって事はそういう事のはずだから。


 ――信じろ!! 憧れを。想いを。真意を!!!


 自分を導いてくれた人を渡せる訳がない。仮に自分の意志でそうしたのだとしても、ティアルスは絶対に引きずってでも連れ戻すだろう。

 だからこそ今は負ける訳にはいかなかった。


 ――絶対に負けるな。今ここで俺が負ければ、みんなが死んで、イルシアは《虚飾》になる! そんなの、お断りだ!!!


 屋根と衝突するまであと五秒も無いだろう。それまでの間にどうにかして衝撃を緩和しなきゃいけない。この状況じゃあサリーとリサも助けに来られないだろうから。

 足りない力を引き絞るかの様に咆哮する。

 その度に真意の光は強くなって行き、やがて今までで一番の輝きを放って――――。


「なっ!?」


 ついにその腕を斬り落とす。肩の根元から斬り落としたティアルスは即座に体を捻らせ追撃を躱し、同じ高さにまで並ぶともう一度刃を振り下ろした。再生すらも間に合わない程の疲労があるのだろう。腕を再生させなかったリヒトーは刃を受けて屋根に叩きつけられる。


 そしてティアルスはすぐに足を下に向けてマナを流し込み、風の翼を生成しては微かにでもいいからと衝撃を緩和しようとした。

 けど完全に緩和出来る訳じゃない。屋根に落下すると大きく弾みながらも衝撃で瓦を壊しながら転がって行く。やがて屋根の端っこまで転がって行くと血を流しながらも停止した。それも片腕がぶら下がるぐらいのギリギリの距離で。


「ティアルス! 大丈夫か!?」


 それを確認したリークはすぐに駆けつけて来てくれる。でもそれだけで終わりそうには無かった。

 リヒトーとの戦闘が終わったかと思ったら一変、今度は激しい地震が全員を襲ったのだ。屋根の端っこにいたティアルスは余裕で落ちるくらいの。


 ――地震……?


 そうして地上を見た瞬間に驚愕する。

 だって、大きな亀裂が走ったと思ったら真下に空洞でもあるかのように崩れ始めたのだから。

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