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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第三章 描かれる未来
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第二章27 『全力で』

「なっ――――!?」


「ッ!!!」


 突如振り下ろされた大剣を全力で弾いたリークはすかさず反撃へ転じた。でもさっきみたいじゃなく容易に受け止められ、もう一度振り上げた大剣を今度はティアルスが弾く。ついでに腕まで斬りおとしてくれたのにも感謝しつつ地面へ触れた瞬間に回し蹴りを繰り出した。

 【風ノ型】旋風。


「らぁッ!!」


 さっきなら吹き飛んだはずなのに微動だにしない。それどころか顔に受けてもノーダメージの様子だった。隙を埋める為の追撃も特に効果は無く、背後から切りかかったティアルスの一撃だってしっかりと当たったはずなのに何も反応しない。


 ――こいつ、どうなって……!?


 直後に奴の体から飛び出た風圧の刃によって切り裂かれた。武器を持っていたティアルスはある程度なら防ぐけど素手のリークは真正面から全てを受ける。

 それだけじゃない。ノコギリみたいなギザギザした刃が先端に付いているせいで殺傷力もかなり上昇していて、リヒトーの前後で鮮血が飛び散った。


「っ!?」


「くそ!!」


 それからすぐに立て直したティアルスが体を巧みに動かして連撃を繰り出した。流水の様に滑らかで不規則な動き――――。普通なら捉える事でやっとなはずなのに、リヒトーは全て余裕を持って回避しては攻撃を弾いていた。

 それどころか反撃まで付け加えていく。


 だからリークもすぐに駆けつけて背後から攻撃を仕掛けるのだけど、ソレを予知していたかのように振り向いたリヒトーは大剣を振り払う。

 だけどようやく隙を突けたみたいで。


「ッ――――!!」


 大剣に乗っかったリークは真意の拳を振り下ろし、股をくぐったティアルスは真意の刃を振り上げた。その攻撃はまともに直撃してリヒトーの体から鮮血が溢れ出る。

 でもこれだけじゃすぐに回復されてしまうだろう。だから二人で連撃を叩き込んだ。

 【鳥ノ型】燕返。

 七の型:桜吹雪。


 ――これで削り切れ! じゃなきゃ勝機は無い!!


 文字通り命懸けの攻撃。悪魔化した今、最大の好機でもある今で削りきらなきゃ絶対に死ぬ。それは直感とか本能とかで理解出来る。

 だから二人で全力の連携と共に攻撃も叩き込むのだけど、それが効いているのかどうかは不明なまま。焦燥の味が口の中に広がっていく中で何度も攻撃し続けた。


 本当は奥義技を出したいけど出してる暇が刹那すらない。今のままじゃ刹那でも隙を見せれば倒されるだろうから。

 かと言ってこのままの威力じゃ倒せそうにないのも確実。

 攻撃に再生が追い付いているらしく、普通なら死んでもいい程の威力なのにいくら血を流しても倒れない。

 やがて連撃はプツリと切れてしまって。


「あ!?」


 ティアルスが足元の血溜りに足を滑らせたのだ。そのせいでバランスを崩してしまったティアルスは倒れ込んでしまう。リヒトーがそんな隙を見逃す訳もなく。


「ティアルス!!」


 全力で叫びながら奴の腕を斬り落とそうと拳を振る。斬り落とせなくとも弾けばなんとか――――。だけど、そんな考えはすぐさま打ち壊された。

 だって足元にあった血が固まって行ったのだから。

 それによって足を固定されたリークは立ち止まってしまう。


「っ!?」


 あと一歩の所で手が届かず、目の前では大剣に弾かれたティアルスが壁の方まで吹き飛ばされる。となればもちろん追撃をする訳でリヒトーは姿勢を低くした。

 だからリークは履いていた靴を脱いで側転の要領で背後から踵落としを食らわせる。


「おらァッッ!!!」


 【鳥ノ型】不死鳥。

 何重にも回転して渾身の力で踵落としを叩き込んだ。四つある【鳥ノ型】の中でも高威力なソレは、リヒトーの肩へ直撃したのと同時に骨を粉々に粉砕し、それどころか余波は床を大きく抉る程だった。

 そんな一撃を叩き込んでも尚倒れない。


 どうしてここまで立ってられるのかと舌打ちしつつも続けて型を叩き込む。だけど今と全く同じで今度はこっちが吹き飛ばされる結果となる。

 すると今度はティアルスが気を引いた。


「リークから離れ……ッ!?」


 でも脇腹を引き裂かれて血を吹きだす。

 そのまま何度か殴られては刀を落としてしまい、血で足元が固定されては尻餅を着いて拘束される。やがて首を狙って大剣を振りかぶり――――。

 助けに入ろうと真意で反動を消飛ばし駆け出す。


「やめろ――――ッ!!」


 拳から真意の光を出しつつ走るも距離が足りない。というか今のリークには到底埋められない様な距離だった。だからと言ってティアルスを見殺しにする訳にはいかない。

 血で身動きが取れない様だし、早くしないといけないのに。

 やがて大剣は無慈悲に振り下ろされた。


 ――のだけど、その刃は瞬間移動の如き神速で現れたアルスタによって防がれ、背後から駆けつけたレシリアが血溜りに刃を突き立て割った事でティアルスを救出する。

 そして入れ替わったサリーとリサが同時に刃を振って初めてリヒトーを後ずさりさせた。

 だからその隙に全力の一撃を叩き込む。


「――せぁぁぁぁぁぁッッ!!」


 【月ノ型】月華。

 渾身の力で突き出した正拳突きはリヒトーの胴体を貫き、ようやく勝機が見えて来た気がして驚愕する。四人にとってはいきなりこんな状況になっているのに、素早く状況を判断してはリークの隙を埋めてくれる。


「君達……!」


「俺達も戦う! 今度こそ倒すんだ!!」


 アルスタはそう言うと神速の刃でリヒトーを圧倒していく。更に鋭い攻撃は目の色が別人の様に変わったレシリアが弾いて硬直の隙をサリーとリサで埋める。

 そんな中へリークとティアルスも駆け込み、六対一となったリヒトーはさっきよりも確実に圧されていった。


 そんな快進撃は順調に進み、各々が背中を護り合っては自分の得意分野に徹する。さっきみたいに体から発生するギザギザの風も全員で一斉に攻撃しては対処した。

 きっと、刺客との戦闘で何かが変わったのだろう。二人の顔は以前よりも凛としている様に見えた。

 でも六対一になっても倒せる気は全然しなくて。


「ちっ。どうなってるんだコイツの体!!」


「多分斬った直後から再生してるんだ! 血は出ても直後には回復してる……。一撃で消し去る様な攻撃じゃないと倒せないはずだ!!」


「んな無茶苦茶な!?」


 アルスタの愚痴にティアルスがそう返すと、予想外だった返答にレシリアが心から叫んだ。でも実際にその通りだ。あの時に放ったサリーとリサの攻撃でリヒトーは復活しなかったし、体全体を消飛ばす程の威力がなきゃ駄目なんだろう。

 直後にサリーとリサに視線を向けるも難しい様で。


「あの一撃はパパの魔道具とか力があってこそで、その魔道具が壊れちゃった今……」


「そう言う事ねっ! つまりは全員で何とかするしかないと!!」


 攻撃を弾いたレシリアがそう言うと二人は申し訳なさそうに頷く。

 って事はもうあの時みたいな攻撃には頼れなくて、完全に自分達で倒さなきゃいけないと。今は全員体力も消耗しきって限界だ。それなのにリヒトーを倒せる程の威力が引き出せるだろうか。

 一撃で消し去る威力……。言うは簡単でもやるのは困難なのに。

 でもここはやらなきゃやられる。だから何としてでもやらなきゃいけない。

 だからリークは言う。


「みんな、一瞬でもいいから隙を作くれないか。――そうしたら俺が全身全霊の一撃を叩き込める!」


「全身全霊って……。じゃあ今までのは全力じゃなかったのか!?」


「ちょっと語弊があるけど……とにかく出来るか!!」


 そう言うとみんなの表情に今一度活気が宿り、全員が隙を作ろうと動き始めた。アルスタは注意を引き、レシリアは攻撃を弾き、ティアルスはレシリアの援護、サリーとリサは主力となって全力攻撃。そんな風に微かでも隙が作られ始める。


 リヒトーを消し去る様な一撃――――。普通なら無理に決まってる。

 でも、もしかしたらリークにも出来るかも知れない。《虚刀流》の奥義技に真意とか呼吸法とかを乗せ、極限までその技を研ぎ澄ませれば、もしかして。

 だからその時の為に全員の援護をしながらも呼吸を整える。


 ――隙を見逃すな。刹那でもいい。しかとこの目に収めるんだ。


 そう言い聞かせてリヒトーを凝視する。

 勝負は文字通りの一瞬。そこへ自分の全てを叩き込むしかない。だからいつその時が来てもいいようにと木を張り巡らせた。

 そしてついに時は巡って来て。


「リーク―――――ッ!!!!」


 ティアルスがそう叫んでは真意を乗せた刃で大剣を大きく弾いた。掴んでる訳じゃなく一体化してるからか、重心を背後へと無理やり移動させられたリヒトーはバランスを崩す。

 だからリークは神速で駆け抜けて拳を繰り出す。


「助かる!!」


 そう言ってついに一撃目の拳を鳩尾に叩き込んだ。さっきみたいに余波が背後まで行き届くと、すかさず二連撃目を叩き込んでは次々と型を繰り出していく。

 四肢の全てを使って繋いでいった。

 三つある【花ノ型】。三つある【鳥ノ型】。四つある【風ノ型】。そして二つある【月ノ型】。それらを全て繋ぎ合わせ順に発動する事で一つの型となるこの技――――。


 攻撃する度に威力が高まって行く拳は次第とリヒトーの体を撃ち抜いて行く。撃ち抜いては鮮血を溢れさせ、再生させる隙は与えぬとまた次の拳を撃ち出す。この攻撃を連続でやっていければ最後に“あの技”が出せる。


 しかし途中からはリヒトーも反応して体を動かし始めた。今はまだリークの速さには付いて来れていないけど、それでも次第と反撃を繰り返して行く。

 だから負けずとリークも踏ん張る。

 そうして互いに血を流しては周囲にまき散らした。


「っ――――」


 全身に走る激痛に耐えて歯を食いしばる。

 ここだけは。ここだけは絶対に譲れない。四人は回復している物の中身は既に満身創痍。ティアルスにだってまだやる事がある。ならばここはリークが身を削ってでもみんなを護るべきなんじゃないのか。

 拳を必死に振るう中で己を鼓舞する。


 ――戦え。立ち向かえ。負けるな。ここで高みに手を伸ばさないで、追いかけた背中を追い越さないで、いつ英雄になれるっていうんだ!!


 リークの根底はきっとみんなと一緒だ。だからこそそう考える度に憧れの火はより一層熱く燃ゆる。絶対に負けたくないと。理想の英雄になって見せると。そんな考えで頭がいっぱいになるから。

 イルシアと初めて会った時から彼女が言っていた言葉――――。


 ――憧れは止まらない!!!!


 心の中でそう叫びながらも真意を乗せた拳を解き放つ。

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