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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第三章 描かれる未来
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第三章26 『続く激戦』

「なっ!?」


 真正面から打ち合い崩れゆく弾丸を見てリヒトーは驚愕した。そりゃそうだ。拳と弾丸なのに打ち勝ったのが拳の方なんだから。

 撃ち出したのは単なる正拳突きじゃない。呼吸法や真意。使える物は何でも使って極限まで威力を高めた正拳突き。

 【月ノ型】月華。


 リークは呼吸法で硬直を強制解除して走り出すと、微かにでも驚愕で動かなくなったリークに向かってまた拳を握りしめる。

 今が攻撃するのには絶好の機会だから。


 ――普通の攻撃じゃ奴は倒せない。なら、普通じゃない威力で攻撃するだけ!


 そうして拳に真意を乗せた。

 内側から溢れ出る光は青い薔薇の花弁を舞い散らし、眩く輝いた瞳でリヒトーを見据えた。すると次の瞬間に驚愕する。

 真意を見た瞬間にリヒトーが顔を背けたのだから。


「真意だと……っ!」


「――――!?」


 そんな事をするだなんて思いもしなかったからついつまづきそうになるけど、それでも無理やり体を走らせてリヒトーへと向かう。

 やがて隙だらけとなった奴の胴体へ向けて思いっきり拳を叩き込む。


「ラァッ!!」


 腕を半回転させながら飛び込むように長距離を移動し、そのまま敵の懐へ潜り込んで回転させた腕を突き出す突進技。

 【鳥ノ型】八咫烏。

 がら空きになった腹に拳を叩き込むとリヒトーはまた後方へと飛ばされる。

 ただ今回は踏ん張って耐え切った様だけど。


 しかしそれだけじゃ終わらせない。追撃を仕掛けるべくもう一度走り出すと、目を細めながらもしっかりとリークを捉えた。そして残った右手の忍者刀を構える。

 だからそれを弾くべく態勢を整えたのだけど、直後にはリヒトーが一瞬で消えて。


「な――――!?」


 直後に狙いを悟ったから背後を向くものの既に遅く、リークの拳が当たるよりも先にリヒトーの刃が胴体を貫いた。それからすぐに引き抜くと高速の連撃を一瞬で繰り出しては体を切り刻む。

 更にそれだけじゃない。僅かにでも怯んだ隙を突いて掌を顔面に近づける。

 だからヤバイと直感で悟るも避けられる訳がなく。


「死ね」


 直後、脳が激しく揺さぶられる衝撃と共に激痛が顔面全体を覆った。その衝撃波で後方へ吹き飛ばされ何の抵抗も出来ずに地面へと叩きつけられる。

 やがて顔を掴んで床にめり込ませると言った。


「これが現実だ。貴様には我は倒せん。諦めて死ぬがいい」


「っ……!」


 そう言われても尚抵抗し続ける。腕を掴んでは顔から引き剥そうと力を入れる。……でもビクともしない。それどころかこっちの力が入っていないのか。

 恐らく軽度の脳震盪が原因だろう。そのせいで力が入らないんだ。


 これでもう一撃食らったら完全に気絶するだろう。そうすればリークはもちろんティアルスやみんなも死にイルシアは《虚飾》へ生まれ変わる。意味すらも分からない奴らの思惑通りになってしまうのだ。そんなの嫌だと足掻いても彼に勝てない事実は確か。

 何か打開策はないのかと模索しても何一つ見つからず片っ端から希望が絶たれる。


 ――駄目だ。させるな。絶対に護り抜け。ティアルスも、みんなも、イルシアさえも……!


 無理やりにでも真意を発動させて力を入れた。

 真意とはいわば心の強さでもある。だから心が折れそうになったり絶望したりすると真意の光は弱くなるし、比例して威力も次第と下がっていく。そして力の代償――――反動だってもちろんあるのだ。だからこんな状況で発動するのは本来避けるべき。

 でもここでやらなきゃこっちが殺される。そんな事は何をしてでも避けなきゃいけないから。


 ――憧憬を重ねろ。背中を思い出せ。……原点を見つめるんだ!!


「くっ……! うぅ、あああァァァッ!!」


「っ――――」


 次第と腕から真意の光が漏れていく。それと比例して力も強くなりリヒトーの腕を引き剥して行った。その現象に彼も頬をピクリと動かす。

 しかしそうなればもちろん衝撃波を放つはずだ。動けなくさせる為に。

 ――だからそうされる前に攻撃しなきゃいけない。


「無駄だと――――」


「らぁッ!!!」


 左腕の攻撃は易々と防がれた。だから次は衝撃波が来る。でも、一瞬でも時間が稼げればそれでいい。

 首を限界まで捻って顔を曲げると、元々顔があった場所に衝撃波が叩き込まれて床が酷く抉り込んだ。そんな威力が直接顔面に襲いかかろうとしてたのか……。

 それでも躱せたんだから文句はない。後はリヒトーを引き剥すだけなんだから。


「これでどうだ!!」


「ちッ」


 足にたまった力を解き放って床を蹴ると体を持ちあげ、今度はリヒトーの体を床へ叩きつけようと体を動かす。でもリークの腕からすぐにすり抜けたリヒトーは距離を取って。


「だから無駄だと……」


「そんなに言いたいのなら無駄無駄言ってろ! ――憧れは絶対に止まる様な物じゃないぞ!!」


 そう言ってまた近接戦へと持ち込む。最初は防戦一方だったリヒトーも拳の攻撃になれたのだろう、次第と順応しては反撃まで繰り出して来る。それを弾いては攻撃のパターンを幾度となく繰り返す。

 やがて忍者刀を弾く事に成功するとすかさず追撃を繰り出した。


「ッ――――!!」


 【鳥ノ型】燕返。からの【花ノ型】落ち椿(つばき)

 神速で放った拳は忍者刀を真っ二つにへし折り、さらにリヒトーすらも巻き込む連撃を繰り出しては防戦一方へと逆戻りにさせる。

 そして右の拳で突出し右の回し蹴りで回避を誘発させ、下がった所に左足を首に引っかけて地面に叩きつける。


 ――まだだ!


 倒れたリヒトーに向かって脚の連撃を幾度も繰り返す。体を回転させながらも的確に足蹴り等の技を繰り出す連続技。

 【風ノ型】(こがらし)

 そのあまりの威力に周囲の床を剥げさせると、ようやく起き上がったリヒトーがこっちをみた。でも見させる暇さえ与えちゃいけない。彼を倒したいのなら絶対に油断しちゃいけないのだから。

 やがて大きな隙を見せたリヒトーへ向かって真意を乗せた拳を突き出そうと握り締める。


「――離れろ!」


「っ!?」


 でも、ティアルスがそう叫ぶから反射的に体を動かして距離を取ろうとした。それからやっとそう叫んだ理由を知る。

 ――黒いモヤが彼を包み込もうとしていたのだ。リキアの様にモヤは全身を包んでいき、やがて眼や口と言った所まで全てを覆う。やがて歪んだ瞳でこっちをみると動き始めた。

 その姿はまさに悪魔で。


「やばっ――――」


 そう言った頃には既に目の前まで接近されていた。

 さっきとは桁違いの速さを見せたリヒトーは拳を振り上げ、食らわなくても分かる必殺の力を秘めた一撃を脳天に当てようと――――。

 その時、飛び込んで来たティアルスに庇われて何とか生き延びる。


「リーク、大丈夫か!?」


「ああ。ありがとう……」


 でも拳を振り下ろした部分を見て驚愕した。だって、床が抉り込むどころか周囲の床が全て壊されていたのだから。そこまでの威力があるだなんて予想できなかったリークは息を呑む。

 これは勝てるのかって打算を重ねる為に。

 しかし打算を重ねる度に痛感する。彼に勝つ事は叶わないって。

 だからせめてティアルスだけはと口を開こうとする。でも、その前にリークの前へ立つから思考が吹き飛んでしまう。


「――俺も戦う。ここまで来たらやるべき事も関係ないだろ」


「ティアルス……」


「確かにイルシアを引き戻さなきゃいけない。けどあいつが立ちはだかるのなら、倒さなきゃいけない。だから俺も戦う」


 ――背中で語る、とはまさにこの事だろう。

 ティアルスの背中には見ただけでハッキリと分かる事があった。初めて見た時はあまり頼れそうな雰囲気ではなかったのに、今となってはこんなになっていたとは。

 それは絶対に負けないっていう覚悟の表れであって、絶対に死なないって言う決意の表れでもあって。


「絶対に誰も死なせない」


 そう言うと腰から引き抜いた刃をリヒトーに向かって構える。

 だけどイルシアでさえ倒せる事が出来なかった敵にティアルスが立ち向かうだなんて、とてもじゃないけど――――。

 すると後ろを向いて宣言した。


「そして俺も死ない。死んだら誰も護れないし救えないんだから」


「ティアルス……」


 イルシアと一緒にいたからだろうか。ティアルスの背中から放たれるソレは彼女の雰囲気にとても酷似していて、まるで根っこから影響されたのかってくらいの明るい顔を向けている。

 だからまた立つ事が出来た。

 彼の背中にイルシアと似た物を感じて、その似たものが憧れをもう一度見せてくれる。


「……俺もまだまだだな」


 そう呟いて立ち上がった。全員で立ち向かおうとも傷一つ付ける事さえままならなかった化け物を二人で相手取る。普通なら自殺行為同然の事だ。

 でもやらなきゃ死ぬだけ。ならやるしか道はない。


「俺がティアルスの呼吸に合わせる。だから君は遠慮なく暴れてくれ」


「よし来た」


 それに太刀と剣ならいざ知らず、拳と剣ならまだ連携は取れるはずだ。すると意気込みと共に刃を上段へと構えを変えた。

 一連のやりとりを見ていたリヒトーはゆっくりとティアルスを凝視すると叫び始める。自分の攻撃を邪魔したティアルスは奴にとって十分印象深いはずだ。人の言葉は喋れないのに意識はしっかりとあるのだろうか。


「一応聞くけど見込みは」


「ない」


「だよな」


 彼の問いかけに短く答えると苦笑いでそう返し、ならばと言わんばかりに足へ力を溜めはじめた。悪魔って呼ばれる程の相手なんだから無理を押し通してでも戦わなきゃ勝てないだろう。

 だからこそティアルスは全力で飛び出した。その後を追いかける。


 でも、次にまた驚愕した。

 だって奴の腕が姿を変えては大剣へと変わって行ったのだから。


「は――――?」


 瞬間、ティアルスは振り下ろされる漆黒の剣を見つめた。やがてその大剣は何の躊躇もなく振り下ろされ――――。

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