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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第三章 描かれる未来
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第三章25 『剣と拳』

 ガルダが消滅して小さな石を残して行った後、クロエはただ呆然としていた。ついさっきまで全力で殺し合っていた相手と和解……と呼べるかも分からないけど意思疎通をし、死ぬ直前に言葉をかけられたのだから。

 だから色んな事が起り過ぎて困惑していた。

 そんな風に尻餅をついたまま黄昏ていると声をかけられて。


「――クロエ!」


「あ、ラインハルト……」


 背後からラインハルトとシファーが駆けつけて来て、二人がえらくボロボロだった事に驚愕する。のだけどそれは向こうも同じで。

 額から血を流したり腕が折れているクロエを見てすぐに駆け寄って来た。


「ちょっ、大丈夫なのかその怪我!?」


「今は大丈夫です。ちょっと痛いけど……」


「ちょっとで済むのかソレ」


 ここまでの大怪我をしても何故か“ちょっと痛い”で済んでいた。普通なら地面に倒れてもがき苦しんでもおかしくないのに。

 するとシファーが隣に座って怪我の具合を確認し、懐から薬を取り出す。

 そしてやや強引に口の中へ突っ込んだ。


「今はアドレナリンで何とか耐えてるみたいだな……。とりあえずコレ」


「アドレ何とかってなん――――むがっ」


 クロエが回復している間に周囲を見渡すと、すぐに二人がいない事を見抜いてすかさず話しかけて来た。だからありのままを答える。


「そういえばロストルクとエスタリテはどうした?」


「ロストルクさんは敵の一人を追って、エスタリテさんはあそこに閉じ込められたまま音がしなくなって……」


「あそこ?」


 そうしてクロエが指さした天井を見つめる。

 エスタリテが閉じ込められた場所だけど、今は物音どころか何もしなくなっていた。だから心配に思ったのだけどシファーは気配だけで察知した様で。


「気配がしないって事は移動したみたいだな。ロストルクも……近くにはいないみたいだ」


「何でわかるんですか……」


 そんな凄い感覚に驚愕しているとある事に気づく。

 微かに感じた振動は次第と大きくなって行き、その大きさ故に天井から小さめの石が何個も降って来る。まさかと思った時にはその考えが既に起きていて、咄嗟に行動したシファーによってクロエとラインハルトは移動させられる。


「わぷっ。急に何!?」


「よくわからんけど崩れ始めた。早くここから出なきゃいけないんだが……」


 シファーはそう言って入って来た所を見るも既に遠く、この距離じゃ到底間に合いそうにはない。だからどうするのかと言うと――――。

 大剣を抜いて上に構えると思いっきり振りかぶった。

 それもあろう事か天井を撃ち抜くくらいの威力で。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 リークの太刀が粉々に散った後、ティアルスは予想外の光景を目にする事になる。だって柄から手を離してそのまま殴るだなんて誰が予想できただろうか。

 即行で殴りつけた拳は鳩尾に食い込むと、リヒトーはそのまま後方へと吹き飛んでいく。


「なっ!?」


 剣士が殴るだなんて思いもしなかったから驚愕する。

 拳を振り抜いた直後にリークが取った行動は拳法の構え。いつ攻撃が来ても言い様に素手で構えたリークは、起き上がっては驚愕した表情を見せるリヒトーに言った。


「ようやく人らしい顔を見せたな。あの時は無感情だったって言うし」


「……よもや拳を使うとはな」


 飛び出した木の破片をどけて立ち上がると忍者刀を逆手に持ちもう片方で二刀流にする。そして飛び出す態勢を整えるから反撃の為リークも構えを変えた。

 そしてリヒトーが高速で飛び出し急接近した直後。


「――!?」


 リークの拳は片手で刃を弾いては僅かな隙間を通り抜け、今度はさっきよりも激しく強く抉り込む。流石のリヒトーでも耐えられなかったのだろう。少量でも吐血しながらもう一度吹き飛んで行った。それも向こう側の部屋に吹き飛んでいくまで。

 その光景をティアルスはただ見ていた。


「リーク、何を……」


「こればっかりは使いたくなかったんだけどな」


 するといつもの様な口調を捨てたリークがそう言う。奴が起き上がって来ない内に振り返ると、さっきと今で何をしたのかを種明かししてくれる。

 けどその瞳は何故か切なそうで。


「――《虚刀流》。それが俺の切り札なんだ」


「虚刀って……」


「刃を使わずして刃を撃つ。それを目的に作られた流派だ。……流派って呼べるものでもないんだけどな」


 そうして手刀っぽい構え方をしたリークは苦笑いした。

 “刃を使わずして刃を撃つ”。確かにさっきの攻撃を見ればその言葉がしっかりと当てはまる。片方の刃を弾いてからもう一つの刃をすり抜けて攻撃とかそのままだろう。

 話しているとようやく立ち上がって来たリヒトーを見て宣言する。


「先に言っておく。俺をただの人間だと思うな。俺だってイルシアのライバルなんだ」


「ライバル……。くだらん事だ」


「くだらなくないさ。イルシアがライバルだから……背中を追いかけたい相手がいるからこそ立ち上がれるんだから」


 本当にその通りなんだろう。彼は言うと真剣な視線でリヒトーを見据える。

 刀と手刀。普通なら刀が勝つだろうけど、さっきの攻撃を見たばっかりじゃどうなるかは分からない。こうなったら技術と技術のぶつかり合いだろうから。


 互いに姿勢を低くすると同時に飛び出した。

 そして急接近して刃と拳が振り下ろされると、激しい衝撃波と共に鮮血が周囲に飛び散る。それもティアルスのいる所まで。

 そうして激戦の火蓋は切って落とされた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 リヒトーの振り下ろした刃は間一髪で手の甲を使い弾き、その隙に入れた拳を膝で防御される。そんな一瞬の隙も無い攻防を交互に繰り返していた。

 だけど構えがある姿勢へと繋がるから思いっきり技を解き放つ。


 ――【花ノ型】桜花!


 足で刃を蹴り飛ばし、その勢いで一回転させ拳を超低姿勢から全力で振り上げる。そして胴体が無防備になってしまうのだけど、リークは体を捻ると足で顔面を蹴りそのまま吹き飛ばした。

 それから即行で起き上がって来るリヒトーの顔面を狙い何度も攻撃しては変則攻撃も組み込む。


「くっ……!」


「お前、見た所刃対刃は慣れていても刃対拳は慣れてないんだろ。まあ普通そんなんだけどッ!!」


 【花ノ型】落ち椿(つばき)

 右で鳩尾を撃ち右足で回し蹴りを繰り出し、最後に左足を首に引っかけて床へと叩きつける。そこへ何度も足蹴りを繰り返そうとした。

 でもリヒトーがこんな簡単にやられてくれる訳もなく。


「無駄だ!」


 伸ばした手に違和感を感じて足を引っ込めるも、そこから放たれた衝撃波の様な何かで天井まで吹き飛ばされた。それも手に触れてさえいないのに。

 だからその隙を突いて攻撃しようと刃を振りかざす。

 しかしこっちだって簡単にやられる気はない。


 間一髪で体を捻っても刃は確実に当たっていて、腕から鮮血を撒き散らしながらも体を動かした。体がすれ違う瞬間に拳を握り締め渾身の力で解き放つ。のだけど、リヒトーの脇腹へ直撃した瞬間にリークの左腕が刃に貫かれて。

 【花ノ型】残英。


「かァッ!!」


「ぐっ!!」


 リヒトーは吹っ飛びリークは落ちる。でも精一杯踏ん張ってはしっかりと着地し、左腕に刺さった忍者刀を引き抜いて投げつけた。

 それを弾いた彼は急接近してくる。

 だからすかさず迎撃した。


 【鳥ノ型】燕返。

 神速の二連撃を交互に撃ち出しては片方の刀を粉々に打ち壊す。それからも連撃は続いてリヒトーは押されていった。

 やっぱり拳で戦う相手には弱いのだろう。まあ剣士が拳を使う訳がないから当たり前なのだけど。


「イルシアを《虚飾》になんてさせない!」


「…………!」


「俺達は絶対に彼女を連れ戻す!! ――引きずってもだ!!!」


 そう叫んでは次の攻撃を繰り出した。

 幾重にも回転を重ね、遠心力を増し渾身の力で踵を首に叩き込む。全力で体を捻りつつも威力を増した回し蹴りの威力は絶大で、直後に骨が折れる感覚が脚に届く。

 【風ノ型】旋風。


 ――入った! けどまだ油断するな!


 確かに骨は折った。でも奴は腕一本でも再生できる程の力を持った吸血鬼。細胞を塵一つ残さずしてようやく倒せるはずだ。

 ……運悪くその予想は当たってしまい。


「無駄だと言っているだろう」


「やっぱりか……!」


 奴は脚を掴むとそのまま振り回し、仕返しの様にリークを壁へと叩きつける。その威力に耐え切れず吐血した。

 だけどこのままやられる訳にはいかない。そう思ってすぐに立ち上がった。

 すると投げつけられたリークを奴は悔しむ様な眼で見つめて。


「……愚かな者だ。我に勝てぬと言っているだろう」


 そう言いながらもゆっくり接近してきた。

 直後に驚愕する。だって、今までつけて来た傷が全て無くなって回復されていたのだから。……まあ、奴の回復力を考えれば当たり前か。


「――愚かな事じゃないさ。絶対に勝てそうもない相手に全力で挑む。それでこそ英雄ってヤツだろ」


「英雄など所詮理想像に過ぎぬ。貴様らが見た夢物語だという事実を知るがいい!」


 腕を横に振ると自分で付けた傷口から血を取り出す。流れ出た血は次第と一点に集中していき、やがてそれは巨大な弾丸となって行く。

 ソレを構えたリヒトーは言った。


「これで終わりだ」


 確かに、彼の言う通りアレを食らったらひとたまりもないだろう。リークは死にティアルスも死ぬ。みんなも死んでイルシアは《虚飾》となり奴らの計画通りになる。

 ――そんなの嫌だ。

 ずっと追いかけて来た背中を奴らに消されていいはずがない。

 ここで奴らに消されるくらいなら、ここで追い抜いてリークが護るべきなんじゃないのか。


「――死ね」


 そうして巨大な弾丸は無慈悲にも放たれる。

 回避は出来なくもない。だけど避けられたとしても衝撃波や追撃が構えられていて当然だ。ならノーダメージでやり過ごすしかない。


 ふと拳を握りしめる。

 “あの一撃”を真正面からぶつければ、もしかして――――。


「【月ノ型】」


 正拳突きの構えを取った。

 それから呼吸法で力を高めて真意を発動し、床を割る程の踏み込みを持ってして渾身の力で解き放つ。やがて拳と弾丸は正面衝突した。

 でも、砕けたのは弾丸の方で。

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