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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第三章 描かれる未来
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第三章24 『諦められない理由』

 縦横無尽に襲って来る棘を全て切り裂き、刃を振るった風圧だけで次の棘さえも粉々に吹き飛ばす。そんな一撃を何度も繰り返しながらもクロエは前進した。

 そんな一撃を繰り返していれば腕への反動は途轍もない物になる訳で。

 既に腕が折れている気がするけどそれでも振り続けた。


「らああああああああッ!!!!」


 ガルダは両手を地面に付けると棘の感覚を更に早くし、絶え間なく棘を生成してはクロエを攻撃し続けた。それも遠く離れ感知しがたい位置からも。

 だからそれらに反応しつつ体を巧みに動かした。


 ――あまり長い事対応してる余裕はない。早い所カタを付けないと……!


 腕の限界も近そうだ。

 長期戦に持ち込まれれば、いくら真意の光を使えてもこっちの体力が先に尽きてやられるだろう。そ唸らない為にも早く倒さなきゃいけない。

 しかし相手はそれを理解しているのか中々近寄らせてはくれなくて。


「下!?」


 盛り上がった地面を叩き割って道を作る。でもその真下から細い棘が伸びて来て肩を貫いた。幸い細いからすぐに折れるけど、それでも痛いからともがいていると全方向から攻撃される。

 更に次の攻撃が既に供えられていて。


 何とか脱出しても危機からは逃れられない。

 風圧で体を動かしガルダに接近するも分厚い壁が出現し、そこから串刺しにする為の棘が生成され始めるのだから。これで前後とも多くの棘で囲まれた。なら残る手段は一つだ。


「ッ!!」


 体を無理やり回転させ軽い竜巻を発生させる。真意を乗せた竜巻の威力は絶大で、腕くらいの棘なら容易に吹き飛ばせた。直後に壁を粉砕してついに間合いの少し先まで接近する事がき出る。

 だから柄を握り締めた。

 宙に体を投げ出すのと同時に限界まで体を捻り、幾重にも回転を重ねて威力を増し、やがて鬨の声と共に刃を思いっきり振り下ろす。

 五の型:八重桜。


 《桜木流》の中でもトップクラスの威力を誇るこの型だけど、真意を乗せる事でその威力は想像を絶する程の威力になる。

 真正面から打ち合って拳を弾く程度だったのに防御の拳を切り裂いて胴体すらも深く切り裂いたのだから。


 ――次!


 そして足を巧みに動かし次の型へと繋げていく。攻撃後の硬直を呼吸法で無理やり解除し、続けて一の型・四の型・七の型と順に型を巡らせる。

 やがて最後に決め手として使われる三段突きを叩き込む。

 一歩目より二歩目が。二歩目より三歩目が。そんな風にして威力が上がっていく《桜木流》最後の型。

 八の型:三月桜。


「せああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 そうして全ての型を如何なく発揮したクロエはガルダの反応を見た。体がボロボロになった魔物ガルダだけど、その身体を次第と再生させて傷口を埋めていく。その光景に何かマズイ物を感じたクロエはもう一度同じ攻撃を繰り返そうと刃を振りかざした。

 でも、その時には既に完全回復したガルダの蹴りを食らっていて。


「がっ!」


 ――さっきより速くなって……!?


 ボールの様に何度も転がっては亀裂が入るくらいの勢いで壁に抉り込む。そんな一撃を食らいながらも瞬間的に思考が頭をめぐる。

 これが魔物化の力――――。まるで本物の化け物だ。

 真意で威力が倍増したのにも関わらず傷はすぐに治癒され、あまつさえ更に速度と威力が上昇するだなんて。


 ――これ、マズイかも。


 そうして上の方を見た。エスタリテが助けに来てくれる事を願いたかったのだけど、彼女が閉じ込められた所からは何の音もしない。もしかしてどこかへ行ってしまったのだろうか。

 となるとここにいるのはクロエとガルダのみ。

 つまりクロエだけの力で何とかしなければ生き残れるのは絶望的……。

 ふとマイナス思考になっているのに気づいて頬を強く叩いた。


 ――弱気になっちゃダメ! こんな時、ティアだったら絶対に諦めない!!


 身体が悲鳴を上げる。腕は折れてるし、全身打撲みたいな感じで凄く痛いし、肺は空気を求めるので精一杯だ。でも諦める訳にはいかない。

 またティアルスに会いたいんだから。


 すると消えてしまった真意がもう一度発動する。

 真意は純粋な想いを抱けば抱く程威力を増すってイルシアが言ってた。なら、今まで以上にティアルスを思えば――――。

 その考えは当たっていたみたいで、脳裏でティアルスを想う度に真意の輝きは増して行った。ソレと比例して紫色のパンジーがより美しく儚い光を放つ。


 ――やるんだ。私の力で。勝って、もう一度!!!


 折れた腕で柄を握り締め前に向けた。それから姿勢を低くし飛び出す態勢を作り、真っ直ぐにガルダを見据える。

 さっきの連撃でも倒せないって事はもう普通の型じゃ倒せないだろう。

 なら残るは正真正銘最後の切り札。奥義技で賭けるしかない。


 ――《桜木流》奥義……!


 でも、この奥義技は体への反動がそれなりに大きい。だから真意の扱いに慣れてない現状じゃかなりのハイリスクな賭けだ。刃を振っている最中に限界に達するかも知れないんだから。

 けれどそんな事を恐れてちゃ勝ちなんて掴めない。何より、ティアルスならどんな状況下であろうとも絶対に勝つことを諦めないだろう。

 だからクロエは一気に飛び出せる。


 紫色のパンジーを舞い散らしながらガルダとの間を駆け抜け、全身強化で風を全身から吹き出しつつも刃を振るった。

 さっきよりも激しく繰り出される棘を進みながら縦横無尽に切り裂く。一回振り抜く度に腕が悲鳴を上げるも関係ない。今は勝つ事が最重要なんだから。


「らああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」


 叫びながらも次第と回転を重ね、攻撃する毎に速度や威力が上がり、反応速度さえも限界を突破するかの様に上昇していく。

 一の型の振り払い。二の型の指使い。三の型の歩法。四の型の腰捻り。五の型の回転性。六の型の瞬発。七の型の連撃。そして八の型の三段突き。それら全てを詰め合せて初めて成り立つ奥義技――――。


 クロエは間合いの少し先まで接近すると、今までに溜めて来た速度や威力を全て解き放っては地面を蹴る。それも蹴った衝撃で亀裂が入る程。

 真意で全てが加速されたこの奥義は極限まで研ぎ澄まされた。


 神速の三段突きは音を置き去りにする程の『()()』となり、三段突きは刹那で全てが撃ち込まれ“音速を超えた一撃”になる。

 それは自分すらも意識していなかった一撃。

 それはイルシアが語っていた、限界を超えた《神剣》。


 【百華】乱れ桜。


 クロエの一撃はガルダの体を撃ち抜く程の威力を発揮し、あろう事か吹き飛んでいくのと同時に四肢がバラバラになっては宙に溶けていく。

 そんな光景を驚愕しながら見つめていた。自分がそんな威力を出せるだなんて思いもしなかったから。


「ガ……ギギッギエエェェェェェェッッ!!!!」


「――――」


 咆哮を上げるガルダはそのまま消えていく。最後の抵抗なのか。首だけは消えるのに時間を残しながら。

 そうして首だけになって地面に転がるとこっちを見つめた。

 ……迷った。殺すべきなのか、ティアルスの様に話すべきなのか。

 そんな風にして戸惑っていると勝手に体が動いて。

 でも、突如力が抜けて膝から崩れ落ちてしまう。


「あっ」


 流石に体の限界だろうか。真意の使い方も知らずに使いまくってたんだから反動が来てもおかしくはないけど、微かにでも気を抜いた瞬間に来るとは。

 その場で尻餅を着くとこっちを見つめるガルダを見る。

 魔物化の顔が残ったまま、不気味にうごめく眼でこっちを見つめ続けているガルダを。


「……あなたも、孤独だったの?」


 今までの戦闘で少し感じるところがあった。きっと彼も孤独だったんじゃないかって。

 行動とか言葉じゃそんな物は一切見せていない。でも分かるのだ。共鳴……って呼んでいいのかは分からないけど、ガルダからはそんな気配がするから。

 するとうごめく眼がピクッと動いた。


「あなたから私に似た何かを感じた。何か、こう……孤独感みたいなのを」


 既に終わった戦いの余韻。ソレを感じつつも問いかける。

 しかし口がふさがれているのだろうか。ガルダは一言も言わずにただ無言でクロエを見つめているだけだった。


 孤独の痛み――――。クロエはそれをよく知っている。だから彼から孤独感みたいなのを感じ取ったのかもしれない。ガルダも多分クロエと一緒だったはずだから。

 口を動かそうとしてもうまく言葉が出て来ない。

 だから心の底から沸いて来る言葉をそのままガルダに投げかける。


「きっと、抗ってたんだよね。独りの痛みに」


「――――」


「もう大丈夫だよ。もう、苦しまずに済むから」


 それが彼にかけられる精一杯の言葉だった。クロエはガルダの過去を知っている訳じゃない。だから確信的な事はあまり言えないけど、だからこそこう言う事が出来る。

 気づくとうごめく眼は細くなっていた。

 そう思っていると声が聞こえて。


「少シ、残念ダな……」


「――――!」


 たどたどしい口調ながらも聞こえた言葉。その言葉に耳を傾けると、どこからか声を発しているガルダは胸の内に秘めた想いを語り始める。


「モッと、探しテいたカッタ……。俺の夢ヲ……」


「夢……」


 ガルダが言った言葉を繰り返す。

 多分、約束でもしていたのだろう。それが何なのかは分からないけれど。

 だけど黒いモヤが消えて行く彼はようやく素顔を出した。その顔に凄い驚愕を受けて。


「……!」


 ――笑っていた。それも涙を流しながら、ようやく見せてくれた普通の瞳で。だからその瞬間に考えを改める。彼も昔は人間だったんだと。クロエ達と同じ人間だったんだって。

 次に口を開くと、彼はちゃんとした口調で言った。


「でも、もう苦しまなくて済むんだな」


「……うん。もう大丈夫だよ」


 そう言うとガルダは安心したように安らかな顔をして、必死に耐えていた力を抜いて消滅し始める。その光景をクロエはただ見つめていた。

 ガルダは最期に消えかけた口を動かして一言残してくれる。


「――君の真意。届くと言いな」

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