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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第三章 描かれる未来
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第三章18 『約束と言う名の呪い』

「ぐッ、ぅあああッ!!!」


「なっ!?」


 振り下ろされた刃はロストルクの眼に直撃する。けど接近したチャンスを逃さない為にも、ロストルクはそのまま身を捻って七の型を発動した。

 目を斬られて尚諦めないロストルクにサジリットは驚愕する。


 振りかざした刃は彼の翼を切り裂いては羽を散らし、発生した渦は血龍を巻き込んで周囲へと吹き飛ばした。ロストルクはすかさず飛び上がってサジリットに刃を突き立てる。

 しかし壁に激突した彼は間一髪で防ぎ苦しそうな表情を浮かべる。

 そんなのお構いなしに力一杯押し込んだ。


「片目を斬られても尚、諦めないとは……!」


「約束したからな。もう誰にも負けないでくれって」


 今でも瞼を閉じる度に思い出せるあの光景――――。その光景を見る度にロストルクは勇気を抱ける。あの日の約束は“勇気”と同時に“覚悟”、そして“呪い”までくれるから。

 やがて宙に飛ばされると血の刃は一直線に伸びて頬に掠った。


「約束……。過去の約束がなんの役に立つ。そんなものお前を縛り付けるだけだろ」


「……ああ。そうかもしれない」


「なら――――!」


「でも縛り付けるのが必ずしも悪い事じゃない。俺みたいに、勇気も貰えるからな」


 一瞬の攻防を繰り返して地上へ着地すると、剣先をサジリットに向けながらもそう言った。

 どうして彼がそんな事を言うかなんて分かる訳がない。だけどああ聞かれたのならロストルクはこう答えるだけだ。

 実際、ロストルクは過去の約束を思い出す度に勇気を貰える。


 だからこそ刃を振れる。だからこそ、怖くたって立ち向かう事が出来る。

 サジリットと死闘を繰り返し刃を交える度にその記憶は蘇って行った。背中を押してくれるかのように。または、まるで走馬灯の様に。



    ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「これで最後だな」


「ああ」


 青年時代。ロストルクには相棒がいた。

 剣術学院で出会ったちょっとした貴族の男で、相部屋を組む過程で誰もいなかった所をロストルクが引き受け初めて出会ったのだ。

 最初こそは緊張したものの彼は凄く優しい性格だった。

 貴族だからと言って欲張らないし、それどころか相部屋になった事を物凄く喜んでくれる。更に見ず知らずのロストルクにひっそりと《水神流》も教えてくれたのだ。


 そんな彼と一緒に剣術学院を卒業したロストルクは冒険者となり、二人で仲良く冒険を共にしていた。時に人助けをして時に喧嘩をしたりする。その日々は凄く楽しかった。

 その内街でも噂される程になっていく。

 彼の教えてくれた剣術が強かったというのもあったけど、何よりロストルクが力強くて色んな事が出来るのもあったらしい。


「しっかし、討伐依頼も最近増えて来たよな。俺達以外でも怪我をした奴が続出してるとさ」


「そうなのか。じゃあもっと俺達で解決しなきゃだな」


「ははっ。そうするか」


 彼の言葉にロストルクはそう返す。すると彼は面白そうに笑って、冗談でも何でもない言葉に乗り気で答えた。

 しかしそんな気はしていた。討伐依頼を引き受けた冒険者が怪我をしながら返って来る所を多く見る様になったし、ある時なんか意識不明で帰って来た人とかもいる。


「魔物が増えると物が減る。物が減れば人も減る。この連鎖をどうにかして断ち切れればいいんだが……」


「深追いは駄目だぞ。あまり追い詰め過ぎると噛まれるからな」


「分かってるよ。ただ、ギルドの全員を集めて総力戦でも出来たらな~て思ってるだけだ」


「それが出来れば世の中に魔物なんていないけどな」


 そんな風に軽口を叩き合った。

 でも総力戦だなんて無理な話だ。魔物は基本森の中に住んでるし、その森にいる魔物を全て討伐するのなら森を焼くくらいしかないだろう。

 まあ、それも無理な話なのだけど。


 その時だった。森の奥から悲鳴が聞こえたのは。


「っ!」


「おい、今の……」


 魔物が生息する森林の奥から悲鳴が上がるだなんてありえない。しかし聞こえたという事は、そこで何か異常が起きているという事だ。

 だからそう判断した瞬間に二人で森の奥へ入る。


「こんな森の奥で叫び声なんてするか!」


「したんだから行くしかないだろ!!」


 そうして抜刀しながらも駆け抜けた。森の奥へ入れば入る程視界は悪くなって行き、五感での探知に身を委ねるしかなくなっていく。

 既に周囲から変な匂いがする事は分かっていた。

 だけど走る程に悲鳴も近くなる。だから更に足の回転を速めた。

 やがてちょっとした広間に出た瞬間に戦慄した。


「いた! だいじょ――――。っ!?」


「何だよあれ……」


 前方に見えたのは悲鳴の本人らしき男の冒険者。そしてその男が見る先にいたのは――――巨大な狼型の魔物だった。そいつの口元を見た時に察する。もう一人の男が食われている所を見るに、奥へ入り過ぎたが故にボス格に狙われたんだろう。

 彼はいち早く助ける為にすかさず刃を振り上げた。


「っ!! お前、その人を離――――」


「駄目だ行くな!!!」


 しかしその瞬間、魔物が地面を大きく叩いたのと同時に足元が爆発した。その爆発に巻き込まれて宙へと浮き上がった彼は諦めずに刃を構える。

 だからカバーする為にロストルクも走り出した。

 でも怯えきった冒険者から少しでも離れた時、他の魔物が一斉にその男へ襲いかかって。


「しまっ!?」


 即座に男の元へ駆け寄っては魔物を一掃する。

 次々と襲い来る魔物に対して一振りで翻弄するも、すぐ近くで起きていた戦闘を見て思わず戦慄した。

 ――押されているのだ。ロストルクよりも強いはずの彼が。

 助けに行こうと足を動かすも周囲の魔物が囲い始めて。


「くっ……!」


 行かせまいとよだれを垂らしながらこっちを見つめる。更に見せない範囲からも視線を感じた。それも飢えた狼の視線を。

 その瞬間に理解する。彼を助けに行けば冒険者は死に、冒険者を助ければ彼は死ぬ。

 証拠として彼は既に多くの血を流していた。


 ――どうする。こいつらを一掃してもきっとまだ第二波がある。しかし……!!


 彼を見る。噛みつきやパンチによって大ダメージを食らう彼の動きは次第と遅くなって行き、その背中からは限界が垣間見えた。

 ――いくら腕利きの冒険者とはいえ結局は冒険者なのだ。その実力はたかが知れている。

 でも、もし仮に彼がロストルク並みの大柄の体に恵まれていたら。そうなっていたら全てが変わっていただろう。

 その時に閃く。


 ――そうだ。俺の身体なら、あの技を繰り出せば……!


 そうして刃を腰に構えた。精一杯腰を捻っては足に力を溜め、同時に腕にも力を入れ震えんばかりに刀を握り締めた。

 やがて叫びながらも腰を捻り技を繰り出す。


「伏せろ! テス!!」


「えっ? うおっ!?」


 渾身の力で発生させた渦はロストルクを中心に周囲の物を巻き取りながら広がっていき、それは周囲にいた魔物さえも巻き込んでいく。 

 前方にだけ意識を集中させ、尚且つ角度を少し上に向けたから彼には当たらないはずだ。ちょっと可愛そうだけど魔物が吹っ飛んでくるくらいだろう。


 ……当たらないはずだった。ロストルクが渾身の力で振りさえしなければ。


「え――――?」


 ちゃんと狙い通りに渦は魔物を巻き込んでいくけど、彼――――テスさえも巻き込んで行った。必死に地面に捕まるも宙へ体を投げ出されるテスを見ながら驚愕する。

 すると渦の中で発生していた空気の刃に切り刻まれ、木の破片などが刺さって血が飛び出す。

 そんな光景をただ見ていた。


 やがてテスの背後にいた巨大な魔物も浮き上がるけど、あろう事か空中で偶然近づいてはテスを叩きつけたのだ。

 そうして渦の外へ投げ出された彼を見て体を動かす。


「あ……ああぁぁ……」


 血を撒き散らしながらも飛んでいくテスを追った。冒険者の事も忘れて。

 魔物と戦い、ロストルクの剣技に巻き込まれた彼の身体はボロボロだった。そんなテスを何とか受け止める。


「テス……? 返事してくれよ。なあ、テス!!」


 でも返事はない。息はあるようだけど既に虫の息で、瞼もほんの微かに上がるだけでそこから見える瞳に光は無い。だからロストルクは必死に呼びかけ続けた。

 ここまで回復魔法が使えたらって後悔した日は無いだろう。

 今まで回復はほとんどテスが請け負ってくれていたし、だからこそこういう時に何をしていいのか全く分からない。


 ――違う。違う。俺はこんなテスを見る為に強くなったんじゃ……。


 背後から残った魔物が近づいて来ているのにも気づかず一人後悔する。だって、渾身の力で刃を振るったから予想よりも威力が強くなり、そのせいでテスを巻き込んでしまっただなんて。

 ロストルクが強くなったのはこんなテスを見る為じゃない。二人で笑い合う為に強くなったのだ。なのにこうなってしまうだなんて――――。


「……っ!」


 ようやく背後から襲って来る魔物に気づく。即座に刀を振るって首を真っ二つに斬り落とすけど、その背後から二段構えの襲撃になってる事に反応出来ず腕を噛まれる。

 だから今度は噛みついて離さない体を地面へと叩きつけた。そして痛みのあまり口を開けた瞬間に脳を突き刺す。


 ――痛いんだろうな。今、終わらせてやるから……!


 鼓膜が破れそうな程の咆哮を聞きながらも刃を振るう。そんな咆哮が聞いていられなかったからすぐに楽にしてあげようと刃を振るい続けた。

 でも、こんな時でも優しさを忘れなかったからこそ、永遠に取り返しのつかない過ちを犯してしまう。

 軸がズレたのだろうか。頭を突き刺しても殺しきれなかった魔物はロストルクを通り過ぎてテスの元へと走り抜けた。


「な――――!?」


 殺しきれなかっただなんて思いもしなかったから驚愕する。

 だけどそうしている暇さえない。

 ロストルクを通り過ぎて駆け抜けた魔物がテスへ向かって何の躊躇もなく牙を突き立てたのだから。それもよりによって一番傷が酷いカ所に向かって。

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