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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第三章 描かれる未来
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第三章17 『悪魔との再会』

「はぁ……はぁ……」


「ここで、最上階か……?」


 あれからしばらくして。道中にいた黒装束と白装束を蹴散らしつつ進んだ先には、最上階と言わんばかりの大きな扉が待ち受けていた。そしてその扉を開けた先に奴を見る。

 リークは大きな空間に立っていた奴を見据えた。


「敵……」


「みたいだな」


 ティアルスが不安そうに呟くのに対してそう返す。

 ここが最上階ならもう上は無いと信じたい。これ以上戦力を削がれればどうなるかは分からないから。でもここが最上階なら、ティアルスと二人で戦う事が出来る。

 と思っていたのだけど。


「ついにここまで来た様だな」


「っ……!?」


 黒装束が振り返り、外したフードから見えた顔に驚愕する。それもティアルスと全く同時に。だって奴の顔は以前に一度戦った――――。

 ティアルスは驚愕しながらも彼の名前を呼ぶ。


「ヒリトー!? 何でここに!? サリーとリサに消し炭にされたはずじゃ!!」


 二人の攻撃に消し炭にされる奴の姿は確かにこの目で見た。しかし灰色の癖毛と同色の瞳。そして何の色もない虚無な瞳――――。あれは完全にリヒトーだ。

 でもなんで。確かに死んだはずなのに、どうしてここに……。

 そんな戸惑いはすぐに解が出された。


「我は幹部よりあの方の血を多く継いでいる。体に流れる血の九割がな。――――つまり我は九割吸血鬼の特殊体質という訳だ。その気になれば腕一つから組成する事など雑作も無い」


「そんな……!?」


 じゃああの時に腕が一本でも残っていたから復活したって訳なのか。一本の腕からでも完全に回復出来るだなんて、いくら吸血鬼でもそんな事信じ難い。

 ――いや、ありえるからこの時代まで生きているんだろう。

 吸血鬼は永遠と言える程の時間を生きれる為、子孫を残そうとはしないらしい。だからこそ数が増えなければこうしてこの時代まで生き残れている。


「今度こそ貴様らを殺してやろう。ここでは邪魔も入らん。我らが目標を達成する為に、その礎となるがいい」


「目標……。礎……」


 するとリヒトーの言葉を聞いたティアルスは密かに刃を震わせた。

 そうなって当然だろう。彼にとってみれば唯一導いてくれた人が事実上連れ去られただけじゃ飽き足らず、絶対的な悪と呼べる程の目標の為にその存在を利用しようとしているのだから。だからこそ走り出そうと姿勢を低くした。

 でも、肩を掴んで制止させる。


「ちょっ、リーク?」


「ティアルスは下がっていてくれ。こいつの相手は俺で十分だ」


 そう言って太刀を向けた。

 ティアルスは不安そうな視線を向けて来るけど、彼にはまだやらなければいけない事が沢山ある。それをさせる為にも今は戦わせる訳にはいかない。


「他にやる事があるだろう」


「…………!」


 するとティアルスはハッと表情を変えて頷いた。その頷きも決して納得できた様な感じじゃなかったけど。

 リヒトーは一連の出来事を見て軽く鼻で笑う。


「ふん。自ら先陣を切るとは殊勝な心がけだな。だが、この我に勝てると思っているのか」


「思ってるさ。じゃなきゃ、最強にはなれないからな」


 腰から鍔のない刀を抜く中、リークは太刀を構えた。向こうとこっちじゃ大前提として武器の重さが違うから、懐に潜り込まれれば簡単に攻撃を食らうだろう。太刀ってそんなものだし。

 しかし逆に言えば懐に来られない限りは優位に立つことが出来るかも知れないのだ。

 間合いの距離ではこっちの方が圧倒的に勝っている。だから近づかれさえしなければ。


「いいだろう。軽い準備運動にしかならないと思うが」


「どこまでも見下すんだな」


「たかが人間如きが我に勝てるはずがないからな。まあ、あの《虚》は別物だが」


「…………」


 イルシアは別物。その言葉に引っ掛かりつつも構える。

 まだ詳しくは聞いてないけど、イルシアにはかなりの過去があるんだろう。ソレを唯一知ってそうなティアルスとエスタリテも話さない所を見るに、相当重要な事のはずだ。


 全員で攻撃しても余裕で立っていたあの化け物をイルシアはたった一人で抑え込んでいた。その事実に体を震わせる。

 一瞬の攻防ではあるけれど、全員が一斉に集中攻撃しても奴は止まらなかったのだ。あの時にだけ化け物級の強さを見せたイルシアでさえも倒すには至らなかった。そんな相手をリークだけで倒せるかどうか。


 出来る物ならティアルスにも戦ってほしい。でも、彼にはまだやらなければいけない事が山ほどあるんだ。それにまだ一緒に戦った訳じゃないけど、恐らくリークとティアルスの戦闘スタイルは合わない。

 ハッキリ言うと彼はまだ大人組よりずっと弱い。

 だからこそ、ここで戦わせる訳にはいかないのだ。


「――ッ!!」


 流れ込んで来た静寂をリークが一瞬で消し去っては距離を詰めた。そして振り下ろした太刀を片手で受け止め、直後にあまりの衝撃でリヒトーの足が床にめり込む。

 でも、


「甘い」


 手元を巧みに操り刀を滑らせると、落下し始めたリークの脇腹に向かって刃を突き立てる。それも普通の速度じゃない。まるで時間が倍速されているかのような速度。

 体を捻って何とか回避しても状況は変わらない。


「このッ! ――――!?」


 着地した瞬間に背後へ刃を振るもそこにリヒトーはいない。直後に飛んでいる事に気づくけど、その頃には強烈な拳が振り下ろされていて、リークはほとんど反応出来ずに床へと叩きつけられる。

 その衝撃で床に亀裂が走った。

 けどただでやられる訳にはいかない。


「っ――――」


 避ける事は出来ずとも、拳を素手で受け止め衝撃を減らす事は出来る。そして右手で握った太刀の柄で腕の間接を折り出血させた。

 リヒトーは頬をピクリと動かした途端に距離を開けようと重心を後ろへ向ける。でもリークは即座に起き上がると奴の胴体へ向けて刃を振り下ろした。


 それを回避されるも追撃の体術で次の攻撃までの時間を稼ぎ、微かにでも距離が離されれば太刀を叩き込む。それを受けるリヒトーの表情は何も変わらない。

 それどころかより一層瞳に色が無くなって行くばかりで、虚無な瞳は文字通りの透明になっていく。何より厄介なのはそうなっていくのに連れ奴の動きが速くなる事で。


「その程度か?」


「まだまだ!」


 次第と動きを速くするリヒトーに付いていくも、明らかに速度が普通ではない。今さっきまで普通に出来ていた攻防は数秒も経てばすぐに崩れ去り、リヒトーの刃は頬などに掠れては浅い傷口を残す。

 だから必死に食らい付いて太刀を振り回した。

 

 でもふとした瞬間にリヒトーの掌は腹に触れられていて。

 ヤバイと思っても行動に移す直前に攻撃される。掌を押し付けながらも捻った瞬間、波動の様な衝撃波が腹部を襲って激痛を走らせた。


「っ!?」


「――やはり貴様は弱い」


 そう言うと力一杯捻ってはリークを吹き飛ばした。

 ただの筋力から出る力じゃない。多分、マナを上手く動かす事によって生まれる力だ。そんなものを真正面から受けたリークは不格好ながら受身を取って着地する。吐血して床に血を撒き散らしながら。


「ぐっ……!」


「どうした。我はまだ血も出してはいないぞ。それとも疲れたか。現実を認識したか」


「まだだ!」


 現実なら十分に認識している。今のリークじゃリヒトーに叶わない事は承知の上で戦ってる訳だし、もっと言えば時間稼ぎできるかさえも怪しい。

 けれど必死に食らい付いて刃を振り続けた。


「無駄だという事がまだ分からんか」


「ああ、分からないな。英雄に憧れる奴はみんなそうなんだよ!」


 至る所が切り裂かれても。さっきの様な衝撃が全身を襲っても。それでも尚リークはリヒトーへと刃を振るい続ける。そのしつこさに痺れを切らしたのか、ようやく眉間にしわを寄せた彼は今までとは違う動きを取る。


「そうか。ならば分からせてやる!」


 リヒトーはたった一振りで太刀を弾くと、あろうことかその刀身を指で掴んでみせた。それも途轍もない力を込めて。

 微動だにしない太刀を見て即座に手を離し腰の短刀へ伸ばした瞬間、指が刀身に食い込んでは粉々に粉砕して見せた。それも普通より硬い鉱石で出来ている太刀の刃を。

 そんな光景を見て驚愕する。


「は――――?」


 砕け散る刃の欠片を見つめた。指で粉々にするだなんて誰が予想出来ようか。あまりの出来事に一瞬でも硬直していると、リヒトーは片手で握った刃を首へと振り下ろす。

 そんな光景を見てティアルスが声を上げた。


「リーク!!!!」



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 偽マグマに照らされる中で、真紅の血がポタポタと地面に落ちてはすぐに蒸発していく。それだけじゃない。血の他に汗も湧き上がって来ていた。

 そして、血を流すロストルクは目の前に佇むサジリットを見る。


「よくここまでなっても戦える物だな。流石は《慈悲》と言った所か」


「……お褒めに預かり光栄だ」


 あれからしばらくして。周囲の地形が変わる程の激戦が繰り広げられたものの、最終的にサジリットには致命傷と言える程の傷は負わせられなかった。

 そしてロストルクは額から多くの血を流す程の傷を負っている訳で。

 攻撃が読めない分攻撃が予測しずらいし、背後からの接近も探知できないから余計に厄介な事になってしまう。


 ――どうする。早い所手を打たなきゃやられるぞ。


 エスタリテとクロエの増援は望めないだろう。微かにでも振動してくる当たり、向こうも相当苦戦を強いられている様だ。

 だからって負けられない状況には変わりないのだけど。


「そろそろ終わりにしよう。ここからは――――本気の爪だ」


「っ!?」


 直後、血の剣を振った瞬間に一部が分裂して血の波となり飛んで来た。何かヤバイと判断したから飛んだものの、当たった所には物凄く滑らかな断面が刻まれていて。


「――死ね」


 気が付けば必殺の刃は目の前で振り下ろされていた。

一日だけ投稿するのを忘れてしまっていた……。毎日投稿で終わらせる予定だったのに……(断念)

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