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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第三章 描かれる未来
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第三章15 『嫌な展開』

 森を抜けてからしばらくが経った。結局あの森が幻なのか何なのかは分からなかったけど、熱血師弟が心配になっても走り続けた。

 どうやら範囲が決まっているらしかった森を抜けるとまた地下通路へと戻り、あの時みたいに無限ループしているかの様な感覚が続いていた。

 ……のだけど、その通路を抜けた先でも驚愕する事になる。


「「――――――」」


 その光景を見て全員で戦慄した。

 目の前に映った光景は一言で言うのなら――――魔界の洞窟、といった所だろうか。溶岩地帯の様な光景に全員で戸惑い果てた。

 壁や地面、天井すらも真っ黒な硬い岩石で覆われ、多くの亀裂が入り今にも崩れ落ちそうだ。

 何より溶岩地帯の現実味をより高めるのが本物の溶岩。……溶岩なのか。コレ。


「……偽物ではあるみたいだな。入ったらひとたまりもなさそうだが」


「やっぱりね。ここに居ても熱くない訳だ」


 ロストルクが近づいて手をかざすと、すぐに偽物だという事を証明してみせた。それでも入ったらひとたまりもない熱さみたいだけど。

 となったらここで戦闘になったら足場にも注意しなきゃいけないのか。

 そう思っていると物音がなった気がして耳を反応させた。


「…………?」


「エスタリテ。今」


「ええ」


 二人はその物音だけで正体が何なのかを見抜いたのだろう。ある方向を見つめるのに釣られて、クロエも二人と同じ方角を見つめては凝視した。

 影で見づらいけど天井にも空洞があるみたいで、反響して来た音はそこから響いたみたいだった。しかし凝視しても何も起きなければ何も鳴らない。


「いない……?」


「確かにいる。隠れてるみたいね」


 でもエスタリテは厳しい目つきでそう言い、ひたすらに天井の空洞を見つめ続けた。だからクロエも同じく見つめる。

 なのだけど、さっきから妙な感じがしてもどかしい。

 何て言えばいいだろうか。何かがコソコソして近づいて来てる様な感覚で、しかし足音は微塵もしない。ほんの微かに風が吹く音がするだけだ。でも入口から風が入ってきているし、まさかの事だなんて――――。


 そう思って恐る恐る振り返った。その先にいたのは大きな翼が生えた人型のシルエットで、そんなのがいるだなんて思いもしなかったクロエはつい反射的に飛び上がった。

 二人はクロエがびっくりしたのに振り返り即座に刃を振り抜く。

 やがてソレを視界に入れた二人も驚愕する。


「なっ!?」


「え……?」


 後ろに立って――――いや、浮いていたのはボサボサの黒髪の鳥人族だった。身の丈に合わずブカブカな服を着た彼は三人が見つけるなり残念そうに肩を竦める。


「バレてしまったか……。見つからない事には自信があったんだがな」


「いつの間に、後ろに……!?」


 やっぱり驚いた所からして大人組である二人も気づけなかったんだ。微かな視線があっても気づける大人組でも気づけない相手だなんて……。

 本能で奴は危険だって判断しつつクロエも柄に手をやる。

 彼は大きく真っ黒な翼を上下にしてその場に留まると、手首を切って血を流し始めた。それから血は羽を模った剣に変形していく。


「やっぱお前も吸血鬼か。大罪教徒って吸血鬼しかいないのか」


「今の所はな。しかし吸血鬼と言っても俺とダリクティは違う。普通の人間が吸血鬼の血を貰った姿だ」


「貰った……。つまり不完全な吸血鬼は増えるって事だな」


「ああ。その通りだ」


 意外と内部の情報を遠慮なしに出して来る彼は血の剣を突き付けた。それも普通の剣じゃない。血で出来ていると言うのに、マグマの光すらも反射する程の鋭さを持った剣だ。

 時間をかけるのはまずい。そう判断したから飛び出そうと腰を下げたけど、突如、大きな地震が三人を襲って大きくバランスを崩す。


「地震!?」


「それもかなり大きい……」


 あまりの揺れにエスタリテでさえも足元のバランスを崩すと、その隙を見た彼は剣を振りかざしながらも急降下して接近してくる。

 迎撃しようと足に力を入れるも揺れが強いせいで上手く力が入らない。

 ならせめて回避しようと思い至った瞬間、鋭い一撃が彼の攻撃を弾いて体ごと後方へと吹き飛ばした。


「なっ」


「ロストルク……」


 こんな状況なのに的確に攻撃を当てたロストルクは、その巨体を利用して回転し周囲の物を巻き込みながらも全方向に向かって、回転で巻き取った小石を高速で打ち付け亀裂を走らせる。

 確か《水神流》七の型:八雲渦だったはず。

 そうして牽制ついでに壁や天井へ亀裂を入らせると言う。


「二人は壁の中に潜んでるもう一人を! 俺はあいつをやる!!」


「分かった!」


「はっ、はい!!」


 エスタリテが素早くそう答えるのに合わせてクロエも答えると、二人同時に後ろへと飛び退いた。しかしもう一人の壁の中に潜んでる敵をどうやって……。そう考えていると早速エスタリテからヒントを貰った。


「クロエ、聞こえる? さっきから妙な声が混じってるのが」


「声……?」


 そうして耳を澄ませた。

 地鳴りの他に聞こえてくる音と言えば――――確かに何か聞こえる。足音でもマグマが揺れる音でもなく、確実に人が叫び声を上げる様な声が混じっていた。それも普通じゃない狂気的な叫び声。


「聞こえます。けど、反響しすぎて位置が……」


「それはしょうがないわよ。私なんか聞こえる程度で限界だもの」


 いくら感がよくても聴覚などの五感は鍛えるのに限界がある。つまり、エスタリテが感だけで探知できないとなると、残るはクロエの五感だけで探知するしかなくなるのだ。それも半ば聴覚だけで。

 更に厄介な事がある。


「壁の中にいる……って事何でしょうね。いくら魔術でも出来ないって信じたいけど世界を上書きできる人の幹部なんだから、それくらい出来て当然って考えるしかない」


「それってつまり、壁の中にいる敵を探知しなきゃいけないって訳ですよね」


「そうなる」


「ひぇっ……」


 あまりにも高難易度な事にやる気を削がれつつも必死に耳を研ぎ澄ました。こんな状況になれば四の五の言ってる暇はない。だって、やるかやられるかの世界なのだから。

 ――聞こえて来る声を聞き分けたいのに耳を澄ます事すらもさせてくれない。


「クロエ!」


「わっ!?」


 エスタリテの声で我に返り、近くの壁から棘が伸びている事に気づく。驚愕しながらも頬に掠る距離で回避し、即座に壁から離れる。

 なのに次は床が盛り上がっては棘の形になって行く。


 ――嘘っ!?


 盛り上がった部分が跳ね上がったと思ったらか細い棘となって天井に届くくらい長く出現した。間一髪で回避するものの、今度は死角であった真上から棘が伸びて来る。ソレに気づいた頃にはエスタリテに助けられていて。

 地鳴りはある程度収まったら今度は棘の攻撃が飛んでくる。


「伏せて!!」


「っ!」


 エスタリテがそう言うから言葉通り伏せる。すると全方向から襲って来た棘を全て粉々に切り裂いた。それも一瞬のうちに。

 たった一回の攻撃を受けただけで見抜いたのか。エスタリテは天井を睨み付けると呟いた。


「……どうやら奴は潜っている位置から遠くなればなるほど生成出来る棘が細くなるみたいね」


「えっ?」


「棘の大きさに偏りがあったの。背後からの方が大きく、正面からの方が細かった。この洞窟の範囲内ってのが厄介な事だけど、それだけでも分かれば十分!」


 すると今度もいたる所から棘が伸びて来る。それも今度は床からも。クロエは何とか回避するけど、棘を見てから迎撃したエスタリテは一瞬でどこかへ行ってしまう。

 そして次に見つけた瞬間には近くにあった右側の壁を大きく攻撃していて。

 微かに見えた布の切れ端をクロエは見逃さなかった。


「布? まさか、服の切れ端……?」


 すると焦ったかの様に周囲から大量の棘が出現した。普通なら対応できるはずもない絶体絶命の攻撃だけど、それらをいともたやすく粉々にしたエスタリテはもう一度壁に向かって攻撃した。

 でも、今度はそう上手く行かず。


「っ!」


「エスタリテさん!!」


 棘の代わりに四角い形状で飛び出した岩は身の丈よりも大きく、それでも半分だけ斬ったエスタリテをマグマのある場所に落とそうと動いて行った。

 あのマグマは偽物とロストルクが言っていたけど入ればひとたまりもないと――――。その時には既に体が動いていて、クロエはすかさず刃を振りかざして伸びる岩を斬り裂いた。

 《桜木流》一の型:連山桜。


 速度が少しだけ現象した隙に足で蹴って移動し、ギリギリの距離でマグマと離れつつも地面へと着地した。そこへすぐに駆けつける。

 こんな状況じゃ孤立するよりも彼女といた方がずっと安全だ。


「大丈夫ですか!?」


「何とかね。ありがとう」


 エスタリテはそう言うけど、次の言葉を喋ろうとした瞬間、言葉を急に詰まらせて天井のある位置だけを見つめていた。だから釣られて視線の先を追うけど特に何もなく。

 どうしたのだろうか。そんな疑問はすぐに解消される。


「どうしたんですか?」


「一瞬だけ、岩の中を移動する影みたいなものが見えた。池で泳いでる魚みたいな感じでね」


「移動する影……」


 エスタリテが見つめていたのはマグマの光がちょうど当たる場所だ。つまる所、明るい場所なら影を捉える事が可能、って事なのだろうか。

 だけど生憎ながらクロエの得意属性は光じゃない。

 彼女もその事を分かっていて。


「得意属性、光じゃないのよね。なら残る方法としては……」


 すると指先にロウソク程度の火を点けて見せた。でもエスタリテの得意属性は炎でもない。だから炎の光で照らすという事も絶望的だ。

 なら残る可能性としてはなんだろう。

 そう考えていると異常な事が起っているのに気づく。


「……なんか、地形変わってないですか」


「言われてみれば」


 さっきとは微妙に地形が変わっている気がした。エスタリテもその光景に頷く。

 その瞬間だ。あの夜みたいに地形が大きく変動したのは。

 厄介なのは地面だけじゃなく天井や壁すらも地形が変わっている事だ。その変動に合わせてマグマが激しく動いては飛沫を飛ばした。


「わっ!?」


「今度は地形ごと変えるつもりね……!」


 その現象に二人して驚いた。

 だけど驚いている暇もない。だって、聞こえる叫び声が複数に重なる様に聞こえていくのだから。

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