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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第三章 描かれる未来
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第三章14 『大切な家族』

「ぁ……くっ……!」


 ――足が折れた。とてもじゃないけど歩けそうにない……!


 アリーシャと共に倒れた後、アルスタは折れた足でもがきつつも体を引きずって移動する。片腕を失くし胸を引き裂かれ動けなくなったアリーシャの元に。

 やがて、ようやく辿り着くと呟いた。


「……刃。届いたか?」


「…………」


 その言葉にアリーシャは見つめながら黙り込むだけだった。ただ、さっきみたいじゃなく、瞳に輝きを取り戻しながらも。

 すると彼女は手を伸ばし始める。だからアルスタも手を伸ばしてアリーシャの掌を握った。……温かい。例え敵側に堕ちたとしても、アリーシャの手は温かかった。

 やがて今までとは比べ物にならないくらいの優しい声で言う。


「届いたよ。ちゃんと」


「…………!!」


 表情には子供の時みたいに優しくも温かい笑顔が浮かんでいて、アルスタはつい大粒の涙を浮かべた。手をぎゅっと握ると言う。


「ごめん、ね。本来なら、私が助けるはずだったのに」


「助けるはずだったって、どういう……?」


「――あいつに、負けたの。そして記憶を操作された……。実際には違うかも知れない。けど、アルスタと戦って思い出した」


「記憶を!?」


 その言葉に驚愕する。だって、それが出来るだなんて洗脳みたいな物じゃないか。それも外部の人間に出来るとなればもっと厄介になる。アリーシャの様な精神力の強い人にでも出来るだなんて――――。彼女は起き上がろうとすると喋った。


「――奴の前で気を抜くと、一瞬でやられる。気を付けて」


「姉ちゃん……?」


「終わらせて。この異変を」


「…………!」


 今さっきまでのアリーシャとは言えない程の瞳。その瞳に真っ直ぐ見つめられてアルスタは奥歯を噛みしめた。だって、アルスタはその情報を手に入れる訳に戦った訳じゃないんだから。

 彼女の体を持ちあげるとゆっくりながらも移動し始める。


「……死なせない。俺が越えたんなら、今度は姉ちゃんが俺を……!!」


 まだ話さなきゃいけない事は沢山ある。だから何とか助けようと移動させた。もし助かる可能性があるとすれば先に行ったリークか、霊薬を持ったレシリアくらいだから。なら可能性があるのは追いかけてきているはずのレシリアだろうか。彼女が死ぬとは思えない。

 だから腕を口だけでアリーシャを動かしているとレシリアが声をかけて来て。


「……アルスタ?」


「レシリアか!? 頼む、姉ちゃんに霊薬を……!!」


 前を見るとボロボロになったレシリア、サリー、リサがいた。

 そうしてアリーシャを見せると状況を即座に理解し、腰に装備していた小瓶を取り出して近づいて来た。止血も何もしてないから速くしないと死んでしまう。


「待ってて。今すぐ薬を……」


 そう言ってアルスタの要望通りアリーシャを最優先に治癒してくれようと手を伸ばした。――――なのに、アリーシャはレシリアの手首を掴むを顔を横に振る。

 するとゆっくり言って。


「私の身体には既にあいつの血が流れてる。ここにいる敵は、全員そう。だから、もうじき私は死ぬ」


「なっ……。血が何だっていうだよ! 血でそんなになる訳……!!」


「吸血鬼は血の術に長けた種族でもあるの。つまり、人間に血を流しこめばいつでも対象を殺す事が可能。そして、あいつはこの現状さえも全てを把握できてる」


「そんな!!」


 いつでも対象を殺す事が可能……。それってつまり血液の流れを止めたりとか、そういう系のアレなのだろうか。ティアルスから少し聞いた話じゃ主催者の血は爆発するみたいな事を言っていたけど。


「大罪教徒に負ける者は必要ない。負けは死の意味するの。……だから、もうじき死ぬ。だからその霊薬は使わないで。それを使うべき人は、もっといるはずでしょう」


 そう言われてレシリアも戸惑った様だった。小瓶を両手で包んではどうしていいか分からずおどおどしながら周囲を見渡している。

 その時、アリーシャの口や鼻から大量の血が溢れ出た。


「……!?」


「姉ちゃん!!!!」


 体の中で血の動きが変わって口や鼻から溢れ出したのか。となると血流の向きや動きを変える事が出来る……?

 アリーシャは残った右手で必死に押さえつけるけど、それでも指の隙間からは恐ろしい程の血が流れ出ては止まらない。だからレシリアは無理やりにでも霊薬を使おうとした。

 でも、それでも拒否して。


「い゛ッ……らない……!」


「いらないって、バカ言うな! 姉ちゃんだけは絶対に助けなきゃ、俺は……俺は……!!」


 死ぬ程後悔する。その言葉を言おうとしても喉の奥から出て来ない。

 吸血鬼だか血だか、まだよくわからないけど、微かにでも助けられる可能性があるのなら助けてあげたい。それも姉となれば尚更だ。

 なのにアリーシャは続けて言った。愛おしそうに頬を優しく撫でながら。


「……大丈夫」


「何が大丈夫なんだよ。全然、大丈夫じゃあ、ないだろ……」


「分かるの。大丈夫なんだって。今のアルスタには私だけじゃなく、仲間がいる。ここまでこれる程強くなれる仲間がいる。そうでしょ?」


 仲間――――。確かに今のアルスタには大切な仲間が出来た。師匠やアリーシャだけじゃない。ラインハルトやレシリア、クロエに、そしてティアルス。それぞれの師匠だって仲間だ。その仲間達に背中を押されたからこそここまで来れた。

 ……でも、だからってアリーシャを見捨てていい理由にはならないんじゃないのか。


「いるよ。大切な仲間が。みんな笑顔でこっちも自然に笑える様な、仲間が。……だけど俺は姉ちゃんもいなきゃ笑えない。俺の強さは姉ちゃんから貰った強さだから……!」


 アルスタはアリーシャの背中を追って来たからこそ強くなれた。だから、アリーシャが前にいなかったらアルスタはきっと強くなれてない。だから――――。

 彼女もその意味を理解してるはずなのに。


「聞いて。アルスタは絶対に大丈夫。私が唯一認めた剣士なんだから、自信を持って」


「唯一……」


「あなた達なら、絶対にどんな困難でも越えて行ける。例え、私が死んだとしても。……だから、行って。ここで立ち止まっていい訳がない」


 すると頬を撫でていた手を下して手を握る。柔らかいながらも確かに力強く握ったその手は普通じゃない、握っているだけで覚悟が伝わって来る手だった。だから本当に彼女が死ぬんだって直感で察する。それだけは否定したくてもしきれないもので。


 ふと、アリーシャの瞳が光った。


「受け取って。私の……全て……!」


「っ!!!」


 その時不思議な感覚が訪れる。掴んだアリーシャの手から何かが流れ込んでる様な感覚。それがアリーシャの託した意志や想いなんだって事をすぐに知る。


「姉ちゃん……」


「アルスタ。あなたなら、出来る。絶対に成し遂げられる。夢も、願いも、約束も。だから……諦めないで。私は背中を押す事しか出来ない、けど、でも覚えていて。私はずっと、アルスタの傍に………」


 次第と瞼が閉じては力が抜けていく。だからアルスタは必死に呼び止めようと手を伸ばすのだけど、その時にはアルスタの手から彼女の手が離れてしまっていて。

 一連の光景を見ていたレシリアとサリー、リサの三人は揃ってアルスタを見る。


「アルスタ……」


 でも答えられなかった。何て言えばいいのか分からなかったから。

 それでも精一杯動かなくなった顎を動かして言葉を喋る。


「……いいんだ。これで。姉ちゃんから託された物もあるし、託されたのなら進まなきゃいけない」


 そう言って既に力の抜けた手を優しく握る。

 ティアルスやイルシアだって言ってたじゃないか。忘れない限りその人は絶対に死ぬ事は無いと。……なら、絶対に忘れない様に生きるしかないじゃないか。それに今のアルスタには新たな目標が二つ出来た事だし。

 体を起こしつつもソレを口にした。


「それに、主催者は絶対に許せない。姉ちゃんをこんなにして、負けたら殺すなんて……。俺がこの手で生まれて来た事を後悔させてやる」


「…………」


 拳を固く握る。

 今までにない復讐心がアルスタを突き動かし、それが悪い物なんだって事は知っていても止める事が出来ない。自制よりも復習に心が燃えてしまうから。


「許せない。絶対に、許さない」


「アルスタ……」


「……でも、やらなきゃいけない事もある。早い所イルシアを連れ戻して、この異変に終止符を打たないと」


 レシリアが霊薬を使い、傷が治る中でもそんな事を呟き続ける。――――憎い。姉をここまでした主催者を強く憎んだ。だけどそれとは別にイルシアを連れ戻さなきゃって目標も浮かぶ。

 悔しいけど、アリーシャに託されたんだから。

 何とか治った足で立ち上がると軽く四肢を動かしながらも言った。


「行こう。追い付かないと」


「う、うん」


 アルスタの眼光を垣間見て怖がるレシリア。サリーとリサはわざとなのだろうか。明るい性格なはずなのに暗い表情をしながらアルスタにはちょっかい出さなかった。

 きっと彼女達も大切な人を失う時の絶望や後悔を知っているから。


「……任せてくれ。姉ちゃん」


 せめて埋葬くらいはしてあげたい。だけどここらへんに土なんかある訳ないし、外に出る訳にもいかない。だからちょっと勝手だとは思うけど、せめて形見だけでもと腰にあった刀を引き抜いて手に持った。

 旅立った頃からずっと愛用し続けた刀――――。それを右の腰に付けると足を動かす。


「あの、お姉さんは……」


「大丈夫だ。今は前を向かなきゃいけないから。泣くのはこの異変が終わった頃でいい。俺達は泣く為に戦ってる訳じゃないんだから」


「……分かった」


 そう答えるとレシリアも少しだけ覚悟が決まったみたいで、目元を擦るとしっかりした瞳でアルスタに返事をする。だからようやく余裕の籠った笑みを返す事が出来た。

 まだアリーシャにしてあげたい事は沢山ある。

 でも今だけは前に進まなきゃと言い聞かせてこの階層を後にした。


 三人が合流したなら急いで上へ急がなきゃいけない訳だし。きっともうリークとティアルスが次の敵と戦っているはずだ。

 せめて次で最後にしてほしいと願いつつも階段を上がった。

 さっきから異様に激しい音が鳴る次の階層へと。

今回はちょっと無理やり過ぎたかな……? こういう系の展開は初めてやりました。

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