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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第三章 描かれる未来
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第三章13 『記憶を掴む為に』

「いてっ!!」


「あ、ごめん」


 アリーシャの木刀に打たれて、アルスタは思いっきり後方へと吹き飛んで行った。それから激しく転がりながらも壁に激突する。するとアリーシャは悪びれも無く柔らかい笑みを浮かべながらも手を差し伸べて来た。


「大丈夫?」


「……勝ち誇った顔が腹立つ」


「だって勝ったもん」


 彼女はそういうとにっしっし~と笑っては木刀を肩に担ぐ。姉弟喧嘩に勝ったアリーシャは誇らしげに胸を張り、だけど負けたアルスタを労わってくれる。

 手を取って立ち上がると言った。


「今回の決めては見切りだったね~。剣筋を見て予測するアルスタはフェイントに引っ掛かりやすいんだから、もっと注意しなきゃ」


「姉ちゃんが化け物なだけだよ。誰も逆さに飛びながら神速で振るだなんて考えないから……」


 相変わらず異常な化け物っぷりを見せびらかすアリーシャに反論する。ついさっきまでは普通に戦ってた(と言っても常人並じゃない)のに、飛び上がったと思ったら逆さになって木刀を振るったのだ。そんなのどうやれば対応できるって話である。

 しかしそれでも自慢げな顔を崩さないアリーシャは尚もドヤ顔を続けた。


「私に勝てなきゃ英雄にはなれないぞ~?」


「いつかその顔に木刀を真正面から叩きつけてやる……」


 憎まれ口っぽく挑発してくる彼女に念を込めてそう言った。

 ここで攻撃する事も可能だけど、それはそれで面白くないし、何よりアルスタのプライドが許さない。だってそんなの美しくないし。それどろこか返り討ちにされるのが目に見えてるし。

 だけど、アリーシャは笑顔になると言う。


「で~もっ。いつかアルスタも私を追い越す日が来るよ」


「そんな日、来るかなぁ」


「きっと来る。私が助けを求めた時は、その時がアルスタが私を追い越す時だから!」


「まず姉ちゃんが助けを求める光景すらも見えないんだよな」


 遠回しに自分が上だと誇張しつつも応援のメッセージを送ってくれる。

 そんな風に言いながら自慢気な笑顔を見つめた。



    ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 そしてその笑みが歪ながらも、今目の前にある。とてもあの時の様な自然な笑みではないけれど、それでも確かに目の前にある。

 あの時の思い出を捕まえる為にもアルスタは刃を振るい続けた。


 ――もっと。もっと速く。俺達のあの日を捕まえる為に……ッ!!


 目まぐるしく変化する戦況に応じて刃を振るう彼女に、また押されそうになってしまう。重心が前から後ろになって攻勢が取りずらくなる。ここぞとばかりに連撃を激しくしたアリーシャの表情にはさっきの様な余裕さは無くなり、アルスタと同じように無意識の笑みがこぼれていた。


 もう既に腕の感覚がない。相手の剣筋も見えないからほとんど直感で避けては弾いているだけ。きっと微かにでも気を抜けばアルスタは切り裂かれるだろう。

 指先の全てまで。神経も一本残さず。全てに集中しなければアリーシャに勝つ事すらも叶わない。ただの斬撃だけじゃなく足払いなどの攻撃にも気を付けなければいけない訳だし。


 ――私に追いつく時がきっと来るよ。


 ふと脳裏であの光景を思い出す。

 今がそうなんだ。今こそアルスタがアリーシャに追いつき、そして追い越す時。アリーシャは助けを求めている訳ではないけど、でも、それでも分かる。今ここでアリーシャを救わなきゃ絶対に後悔するって。

 互いの掠り傷から血が飛び散る中、連鎖的に記憶が蘇った。


 ――喧嘩ならいつでも受けて立つよ。まっ、次勝つのも私なんだけどね。


 上下に振った刃がアリーシャの肩を切り裂いて鮮血が溢れ出す。その熱い血を顔に受けても尚振り続けた。

 目にかかって視界が狭まったってそれは変わらない。


 ――勝てないからって諦めないの! 私だってアルスタが勝つ時を待ってるんだから!


 こんな事も言われたっけ。

 振れば振る程蘇る記憶は温かくて、そして同時に凄く切なかった。そして勇気を貰える。だからアルスタは何も恐れずに彼女へ刃を振るう事が出来た。

 でも。


「――がっ!?」


「っ――――!」


 少しだけ床が抜けてる所に足が引っ掛かる。その瞬間に鋭い突きが左肩を貫いた。すると素早く引き抜いては続けて連続の突きを繰り返しアルスタの身体を貫いていく。最後に蹴り飛ばすと少しだけ距離を開けた。


 ――まずい、全身強化が……!


 あまりの激痛に刹那でも気が緩んでしまい、体からマナが抜けていくのが感じられる。だから焦りながら態勢を整えようとするも奇襲される様子はなく。

 半ばマナだけで動かしていた体は反動で動かなくなって行った。


「姉ちゃん? ……っ!!」


 問いかけても返答はない。ただ俯いて表情を見せずに佇んでいるだけ。

 反動から回復するのを待ちながら必死に体を動かしているとある事に気づき、咄嗟にその方角へ顔を動かす。その先には白装束が接近しながらも刃を振り下ろしていて。


「ぐっ!?」


 精一杯体を捻って回避した。

 考えてみればそりゃそうか。レシリアが相手にした奴にも黒装束が付いていたんだから、アリーシャにも白装束が付いてて当たり前なんだ。黒と白の違いは分からないけど。

 ようやく動くようになった体を使って白装束を斬り接近しようとするも、圧倒的な数を誇った白装束はアリーシャを囲むように陣形を整えた。


 突如出現した白装束――――。要するにアルスタが弱るのを待って奇襲を仕掛ける気だったのか。そして距離を離され全身強化も解除されたから襲って来たと。

 体もほとんど動かない今じゃ奴らを一掃できるかどうか……。


「相変わらず汚い手段を使うんだな。あの時みたいに」


 サリーとリサとの戦闘に疲れ果てた時も奴らは出て来た。それもどこからともなく突然に。って事は奴らは相当慎重なのだろう。それかもしくは勝機がないと出て来ないだけか。

 話しかけても返してこない白装束は各々の武器を持つと、一斉に襲いかかって来た。

 だから迎撃する為に疲労した体を駆使して刃を振るった。


「――――っ」


 心を静めて深呼吸を繰り返す。

 焦りも戸惑いも無理やり忘れ去り、無心にして刃を振るった。間合いに入った全ての物を瞬時に切り裂き守りへ固執する型――――。

 六の型:無礙光。

 第一波とも見て取れる数十人もの白装束はアルスタの間合いに入った瞬間から血を流して通り過ぎ、そして後方で鈍い音と同時に倒れる。


 その光景を見て型の本質を見抜いた白装束は攻撃を変えた。

 今度は後方にいた連中が手をかざしては炎や風の魔法を使用して遠距離攻撃を繰り出して来る。だから心を切り替えたアルスタは左右に体を振って的を絞らせずに接近する。

 やがて後衛をカバーする為に前へ出た前衛が武器を振るった。

 それすらも全て切り裂く。


「例えお前らが汚い手で殺そうとしたとしても、俺は絶対に止まらない! 止められる物なら止めてみろ!!」


 五の型で数々の白装束を斬り伏せる。アリーシャは依然佇んだままで、アルスタが接近しようと何もする事は無かった。

 でも、アルスタ攻撃を食らった時に少しだけ反応する。


「がッ!?」


「っ――――」


 腹に強烈な蹴りを食らってバランスを崩す。その瞬間に白装束は一斉に囲んでは飛び上がり、文字通り四方八方から攻撃を仕掛けて来た。

 いくら神速の刃といってもこの数は流石に対応出来そうもない。

 だから残った白装束全員が刃を振り下ろすと、それぞれの隙間からは大量の血が溢れ出た。それを見たアリーシャはさっきみたいに瞳に輝きを取り戻す。


「ぁ――――」


 山の様に重なる白装束に向かってゆっくりと手を伸ばす。きっと、彼女が一瞬だけでも瞳を取り戻す引き金となるのはアルスタの危機なんだろう。

 足掻くようにゆっくりと手を伸ばすけど、次第と瞳を失って輝きを失っていく。

 やがて戻りかけた輝きは完全に失われ―――――。


 その瞬間だった。ティアルスの背中が浮かんだのは。


 囲んだ白装束が一斉に吹き飛ばされ、アルスタを中心に大きな氷が生成される。その光景を見て目を見開いた。

 やがて溢れ出した血の正体を察した。あれは指を斬られた白装束の物なんだって。


「っ!!!」


 アルスタは自身のマナを限界まで絞り出して足を強化する。足に溜め込み過ぎて足元から大量の氷が生成される程に。

 ティアルスだって同じ事をしてたじゃないか。

 どうしようもなくなって、だからこそマナを限界まで絞り出して。結果からいうとこの行動はティアルスを見たからこそ出来た行動だ。


 刃を鞘に仕舞うと居合の構えを取る。

 そして決意に満ちた瞳でアリーシャを見据え、その視界が霞みながらも目前の記憶を掴もうと足を動かす。


 ――足が動かない。既に内側から壊れ始めてるんだ。――だけど!!


 そこまでして足にマナを溜め込む代償は途轍もなく大きい。足が悲鳴を上げては激痛が走るし、何よりその反動が全身に行き渡って心が動揺する。

 きっとこのままマナを放出したら足が折れる。そうなればみんなを追う事は絶望的。

 しかしそれがアリーシャを倒さない理由にはならない。


 ――《暁光流》奥義……!!


 するとアリーシャは同じく居合の構えを取る。恐らく同じ奥義技をぶつけて相殺しようとしているのだろう。それもここにきてようやく出て来た吸血鬼要素を使って。

 傷口から溢れた血は刀身へと集まりより一層鋭くなった。

 恐らく、あの刃に触れた瞬間からアルスタは死ぬだろう。食らった訳じゃないけど本能でそう悟る事が出来る。


 思い出せ。あの時に見せたティアルスの背中を。覚悟を。

 どうしていきなり彼に固執しだしたのかはまだ分からない。だけど、本能が吠え続けた。「彼の背中を見ろ」って。そしてその度に体は動き始める。


「俺達の記憶を乗せた刃なら――――――!!!!」


 そうして足のマナを一気に爆発させた。

 瞬間、アルスタは絶対零度を纏いながらも刹那で駆け抜け、握り締めた柄を動かして必殺の刃を放つ。居合を極めた者が習得し、アリーシャに追いつきたいとばかりに何年も渡って鍛え上げたこの型を。


 【燦爛】一閃爛然。


 神速――――いや、“超神速”にまで昇華したアルスタの刃は振り抜いた場所に真空を発生させ、更に斬撃は空気を伝い、真空で身動きが取れなくなったアリーシャの胸を深く切り裂いた。同時に片腕を天井叩きつける程吹っ飛ばし、斬られた衝撃で背後へ飛ぶのでようやく型が収束する。


「届くだろ」


 直後、アルスタが膝を付くのと同時に切り裂かれたアリーシャが横を通り越して飛んで行った。

 その姿を最後にこの戦いはようやく幕が下りる事となる。

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