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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第三章 描かれる未来
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第三章11 『正義バカの姉弟』

 あれから二、三階は上っただろうか。戸を開けた先にはまたしてもさっきみたいに敵が待ち受けていて、それぞれで一斉に柄を握る。

 数はさっきより多く――――いや、っていうかそれどころかたった一人だけだった。長い髪をした女性が部屋の真ん中で佇み立ち尽くしているだけ。それ以外は何も変化はない。


「敵……!」


 アルスタは警戒しつつもゆっくり近づいた。部屋の中はそこそこ暗くてシルエット程度でしか女性を確認出来なかったから。

 しかし部屋の明かりが付くと女性の容姿があらわになる。


「――――は?」


 長い金髪に同色の瞳。白い肌と特徴的な耳飾り――――。

 それらを見た瞬間に驚愕する。多分、今までのどの瞬間よりもびっくりしたくらいの衝撃だ。だってその容姿はずっと追い求めた人の背中であれば大切な家族でもあって。

 だからアルスタは無意識に呼んだ。


「――姉ちゃん!!」


「姉ちゃん!?」


「どういう事だ!?」


 そんな事を言うだなんて想像すらもしていなかったティアルスとリークは当然アルスタに視線を投げつけて来る。

 あまりの驚愕で顎に力が入らないけど、気をしっかり保って説明した。


「……あいつの容姿が姉ちゃんそっくりだったんだ。それだけならいいんだけど、あの耳飾りが……」


「耳飾りって、あの月が描かれた耳飾りの事か?」


 リークの言葉に頷く。

 あの髪飾りはアルスタの一族にとって舞の後継者に与えられる髪飾りだ。アルスタよりも先に舞を習得した姉に与えられ、そのまま耳飾りをしながら旅に出たはずなのに――――。


「あれは俺の一族である証みたいな物だ。なのに、なんでアレがあいつに」


 必死になって別の可能性を考える。

 だってそんなの残酷過ぎるじゃないか。“人を救おうと旅に出たのにここにいる”だなんて。それも敵の立ち場としてだ。

 何か別の解釈をしようと考えるけどすぐには浮かばず。


「姉ちゃん。分かるか。俺だ、アルスタだよ! 姉ちゃんの弟で、一緒に正義バカって呼ばれてた姉ちゃんの弟だ!! なぁ!!!」


 でも奴は一向に答えようとしない。それどころか聞こえているのかも分からない仕草をとった。だから更に不安に駆られ、最終的には名前を呼んで確かめる。


「――アリーシャ! 俺だ!!」


「っ――――」


 すると今度はほんの僅かながらも反応を見せてくれた。――いや、心境的には見せられたって言った方が正しいかも知れない。だってその意味が、目の前に立っている女性が姉であるアリーシャであると証明されてしまった様なものなのだから。

 だからその瞬間に凄く絶望する。


「アルスタ……」


 心配したティアルスが声をかけてくれるけど答えない。

 今はひたすら絶望に駆られ絶句する。そして助けを求める様にティアルスへ視線を向けるけど、その先には魔眼を使い苦しそうな表情で見つめるティアルスがいて。

 ティアルスの魔眼があれは真実だって見抜いてしまったのだ。


 ――あれは姉ちゃんなのか。つまり姉ちゃんは敵に取り込まれて、ここに……?


 もしそう本当になら厄介な事になってしまう。アリーシャがあそこにいるって事は、外部から引き込めるって事の証明になってしまうから。つまりそうなるとイルシアは――――。

 その時にようやく悟る。自分のやらなければいけない事を。


「ティアルス。リークさん。先に行ってくれ」


「そんな。だったらアルスタは―――――」


「ここだけは絶対に譲れない!! それがティアルスやリークさんであっても、絶対に譲る事は出来ない。それに、ティアルスに至ってはやるべき事があるだろ」


「……分かった」


「リーク!?」


 ティアルスの言葉を遮ってそう言うと、アルスタの心境を理解したリークは頷いた。ティアルスはそれに反抗しようとするも次第に黙り込んで行く。

 やらなければいけない事。それは――――。


「――死ぬな」


「分かってるよ」


 二人はそう言って部屋を抜けようと走り始めた。

 でもアリーシャは予想通り走り始め、その行動を悟っていたアルスタは刹那より早く駆け出して道を塞ぐ。腰から抜いた刃を全力で弾くと叫んだ。


「ここは行かせないぞ。姉ちゃんが俺を殺すと言うのなら、俺は全力で姉ちゃんを引き戻す!! ――それが正義バカの弟としての使命だ!!!」


 走り去っていく二人を背にそう言う。

 するとアリーシャは虚ろな目でアルスタを見つめ、ただ光のない瞳で覚悟に揺らめくアルスタの瞳を見据えた。その瞳からはただ一つだけの情報しか得る事しか出来ない。

 それは明確なまでの殺気。

 ようやく口を開いてくれるけど、それはアルスタの望んだ言葉じゃなくて。


「……邪魔をするのなら、殺す」


「邪魔って……。なあ、姉ちゃん。どうしてそこにいるんだよ。人を救うために旅に出たんじゃなかったのか!? どうして正義バカの姉ちゃんが、人を殺す立場にいるんだよ!!!」


 しかしその言葉には反応せず黙りながらも刃を向けた。その躊躇のなさに息を呑む。何故なら、もしアルスタの予想通りであれば、アリーシャの剣筋は――――。

 瞬間。気が付けば既に目の前まで刃が振りかざされていて。


「ッ――――!?」


 咄嗟に反応するも刹那で遅く、腕を軽く掠って血を流した。けどそれだけじゃ終わらない。連続攻撃を得意としたアリーシャの刃は蛇の如く複雑で稲妻の如く速い。

 だから続いての攻撃も掠っては間一髪で回避し、そんなギリギリの攻防を短い時間で何度も行う。ようやく距離を開けたってすぐに詰められる。


 縦横無尽から振り下ろされる刃には意志も何もなく、本当に無心で攻撃しているのが分かる。恐らくアリーシャの中にあるのは殺気だけ。それ以外は何もないのだろう。

 だからこそ意志を感じられない刃の先を予測するのは難しい。

 彼女の刃は自然体であるからこそ恐ろしい刃だ。


「姉ちゃん!!」


「あなたの事は何も知らない。だから殺すだけ」


「姉ちゃん……!」


 しかし返って来た言葉はあまりにも無情な言葉だった。

 さしずめ洗脳とかでも受けたのだろう。だからこそアルスタの事は覚えてない。……自分からここへ来ただなんてオチは流石に止めてほしい。


 通常攻撃でも十分に神速の速さを誇る連続攻撃を浴び、アルスタは次第と体力を奪われていく。向こうが連続攻撃の隙を見せないから攻撃はおろか防御すらも出来ないのだ。

 まさに攻撃こそ最大の防御、というヤツだろう。

 けどアルスタは彼女を技を知っている。


 ――ここだ!!


「っ――――」


 一瞬だけ防御を捨て去り刀を弾いた。

 何も初めてこの技を受けた訳じゃない。今まで何度も何度も手合せをする中で、アリーシャが使う剣筋は全て覚えているのだ。

 例え向こうがこっちの事を全て忘れていても、こっちは向こうの事を全て覚えている。それが楽しく過ごした記憶でも。共に木刀を打ち合った厳しい稽古でも。だから何も出来ない訳じゃない。


「姉ちゃん、思い出せ! 自分がどんな思いを抱いていたんか! どんな憧れを目指していたのか!! ――どんな誓いを立てたのかを!!!」


「…………」


「思い出せ! 全部!!」


 そう問いかけながらも必死に刃を振るう。例え思い出されなくたって構わない。今はアリーシャが正気を取り戻してくれればそれでよかった。

 激しい剣戟を繰り返し全てをぶつける。

 でもきっと彼女はまだ全力を出していない。手合せの時もそうだったけど、アリーシャはいつも手を抜いていたのだ。


「――――!」


「ぐっ!!」


 四の型:雷光。

 三の型:明燭光。

 鋭く突かれた一撃をアルスタは何とか受け切り、受けながす動作のまま回転し斬り付けた。掠り程度の攻撃ながらもようやく入れられた一撃。するとアリーシャは一時的に距離を取った。

 何をするのかと思ったのも束の間。すかさず刃を鞘に仕舞い居合の構えを取る。


 ――マズイ! あれをまともに食らえば……!!


 アリーシャがやろうとしているのは《暁光流》の基本中の基本である一の型だ。しかし奥義技も完全にマスターした彼女の居合は、例え一の型であろうとも破滅的な威力を秘める。

 シンプルな攻撃ほど威力が上がるのがアリーシャの特徴だ。

 そしてその迎撃手段と言うのが同じ型での相殺。


 ほんの僅かな予備動作だけで飛び出したアリーシャに合わせてアルスタも飛び出す。互いに神速で擦れ違い、そして互いが立っていた場所にまで移動するとその結果が明らかになる。

 ――斬られたのはアルスタだ。刃を鞘に仕舞った瞬間、肩に切り傷が走って血が飛び出す。


「くっ……! やっぱり普通じゃ勝てないか……!!」


 いくら相殺と言っても技術や速度が違い過ぎる。アリーシャの振るう刃は相殺どころか威力を弱める事しか出来なかった。

 その証として真正面から打ち合った腕は痺れ微かに震える。


 ――これは……かなり難しいぞ。


 今のアルスタにとって何よりも大事なのはアリーシャだ。しかし止め方が分からないのだから一先ずは力尽くで止めるしかない。まあ、それも効果があるのか分からないのだけど。

 アルスタの剣筋はみんなから神速と言われる事が多い。でもアリーシャの剣筋はその更に上を行く“超神速”だ。到底辿り着ける速さではない。でも、だからって諦める訳にもいかない。

 難しい現実に歯を噛みしめた。


「……姉ちゃんは俺や家族の事は覚えてないだろ」


「…………」


「でも俺は覚えてる。姉ちゃんは絶対に負ける様な人間じゃないって事を。だから俺は姉ちゃんを目覚めさせる。悪い夢を見てるんだって事を、思い知らせてみせる!!」


 アルスタは覚えている。彼女がどれだけ純粋無垢な憧れで刃を振るっていたのかを。どんな絶望が襲おうとも、計り知れない希望を持っていしてその絶望を打ち破る人だって、アルスタは覚えている。

 その希望に何度も救われた事だって。

 追いかけっこの様に強さを追い求める約束だって。

 全てこの胸の中に残っている。


 ――俺が普通に戦って姉ちゃんに勝てる訳がない。なら何を代償にすれば勝てる? 何を捨てれば姉ちゃんを取り戻せる。


 ひたすら打算を重ねた。

 しかし重ねる度に心が現実に押しつぶされそうになる。その強さは何をしたって変えられる物じゃないから。

 憧れに辿り着く為に捨てられる物と言えば――――。


「姉ちゃん。覚えてないだろうけど、俺は姉ちゃんに一本も取れた事がなかったよな。――だから今ここで一本取って姉ちゃんの眼を覚ます」


「…………」


「覚悟しろ! 正義バカ!!」


 そうしてアルスタは飛び出した。

 絶対に勝てないであろう姉を倒す為に。

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