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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第三章 描かれる未来
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第三章7  『死の意味』

「そのままだと辛いだろう。自害したきゃこれを使うと言い」


 そう言うとシファーは懐から隠していた短刀を取出しダリクティへと投げつけた。それが彼に出来る最大限の慈悲だ。

 腕が壊れたラインハルトの体を抱え、弾かれた刀を拾おうと足を動かした途端にダリクティが喋り始める。


「……俺ァ、大罪なんか興味ねぇんだ。ただ極限の命のやり取りが出来ればそれでよかった。そして、今その願いがここで叶った」


「つまりはどういう事だ?」


「満たされたって事だよ。ようやく俺の満足する死に方が出来たんだ」


 ダリクティはそう言うと苦しそうに吐血した。首元が切り裂かれてるんだから吐血ぐらいはするだろう。しかしその言葉には今さっきの様な狂気に満ちた様な物は無かった。三十秒くらいで声の印象がかなり変わった事に驚いているとダリクティは続ける。


「気を付けな。テメーらの仲間が向った先にも俺みてぇな強さの幹部がゴロゴロいるからな。まあもっとも、パワー系は俺だけなんだが」


「それ、話してもいいのか」


「構わねぇさ。敗れたら事実上の死。それが大罪教徒の掟だ」


「大罪教徒……。まあ、予測はしていたがそうだったのか」


 大罪教徒という言葉に軽くびっくりする。イルシアに「新たな大罪をカクカクシカジカ」言ってる時点でそんな気はしていたけど。

 死ぬまで喋り続けるつもりなのだろうか。声が掠れても喋り続けた。


「……死ねない恐怖、って分かるか」


「分からないな。俺達は人間だから、いつかは絶対に死ぬ」


「吸血鬼の血を与えられた奴は半永久的な命を与えられる。だが、それと同時に死ねなくなる呪いもかけられるんだ。想い人に先立たれるのに自分は逝けない恐怖――――。だから俺ぁ、死んだって実感を得る為に極限の命のやり取りを望んでた」


「自殺は出来なかったのか?」


「生憎ながら殺す事は出来ても自殺する勇気はなくてな。殺しは普通でも死ぬのは怖ぇ。そんな矛盾を抱えながらも生きて来た」


 彼はそう言うと瞼を閉じた。既に大量の血が出てるから、いくら吸血鬼と言えどあれ程の血が出れば死んでしまうのだろう。

 死ねない事の恐怖――――。

 でもそれを抱えているのなら、


「死にたくないのは誰でも同じだ。お前もまだ、人間なんだったんだよ」


「……そうか。なら、いいなァ」


 それ以降ダリクティが喋る事は無かった。

 だからシファーの視線は既に意識を失っているラインハルトに向けられる。たった一回の攻防でボロボロになった彼の体を支えつつも呟いた。


「ラインハルト。君は初めて自分自身に打ち勝ったんだ。過去の恐怖に勝つ事は容易じゃないからな。――きっと、凄い頑張ったんだろう」


 刀を彼の鞘に仕舞いつつも見つめる。今の顔には以前の様な苦しそうなものはなく、ただ安心して眠りについている表情だけが浮かんでいた。

 ラインハルトが見つけた自分なりの答えに、シファーは嬉しそうに笑って弟子の成長を喜ぶ。でもそうしている暇はあまりなさそうだ。


「……急ごう。みんなと合流しなきゃ」


 本当はもっと声をかけてあげたいけど、地下絶対が揺れるので我に返る。こうなっている今、二人の中で動けるのはシファーだけなんだから。

 だからシファーはみんなの走っていった方向に足を向けて走り始めた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 多分、こんなに怒った事は初めてだと思う。他意はないけどたまに脅かして来るロストルクへ文句を言う事はあった。でも腹の奥底から怒りが湧き上がったのは初めてだ。――――いや、似たような事は以前にも経験している気がする。

 周囲でサリーとリサが黒装束を斬り血を撒き散らす中で、レシリアは自身の刃でも斬れないモーニングスターを剛速球で振り回すルクルと戦っていた。


「はぁッ!!」


「甘いわ!!」


 《水神流》二の型:濁流波。

 上段の構えから連撃を繰り出す力技だけど、ルクルはそれを物ともせず《水神流》特有の不規則な剣筋に対応していく。それも一本の鎖だけで。

 岩すらも切り裂いたこの刃で鎖すらも斬れないんだから、防がれる度に焦燥と驚愕が心を覆い尽くして行った。


 ――ここだ!


 モーニングスターを振る直前に見せる予備動作。それを見切って姿勢を低く懐に潜り込んだ。がら空きになった胴体に刃を振り上げて型を発動する。

 一の型:水飛沫。

 振り上げた刃はようやくルクルの身体へと届いた。浅いながらも斬り付けた所からは少量の血が飛び出し剣先に飛びつく。

 けどそんな程度じゃ意味がない。


「そんな程度で倒せると思うか!!」


「思ってないッ!!」


 直後に落下してくる鉄球を間一髪で回避し高く飛び上がる。そのまま重力に任せて落下すると、真下から突き上げるかの様に迫って来る鉄球を凝視した。

 だから精一杯体を捻って避けると剣先をルクルへと定める。


「なっ!?」


 鋭いながらも滑らかな突きを繰り出してもやっぱり鎖でガードされる。防がれた衝撃で落下の速度が落ち減速するけど、それでも問題はない。

 体と同時に刃も回転させると鎖から逸れて剣先がルクルの顔面に向かって落下するのだから。当然回避しようとするも避けきれずに耳が切り裂かれた。


「っ! 貴様、中々やるようだな」


「ええ。だって今の私、これまでにないくらい怒ってるから。――私の全てを持ってしてでもあなたを倒す!!」


 そこまで怒る理由は明確だった。

 この戦闘が始まる前、ルクルはレシリアにとっての禁句を普通に言ってのけたから。だからその言葉を絶対に許せなかったレシリアはこうして戦っている。

 ふと剣先をルクルに向けた。

 その理由って言うのが、


「無意味な死なんてこの世界にはない。何の意味もなく死んでいけ? ――人は忘れられない限り絶対に死ぬ事は無い。それこそが、死んだ最大の意味だ!!」


 そう叫んで真正面から突っ込んで行く。

 無意味な死だなんて存在しない。――存在させない。今まで大切な人を何人も失って来たからこそ分かる事だ。

 当時は凄い悔しかったし、今だって凄く後悔してる。過去に死んでいった人達は未だレシリアを縛り付けてその呪縛から解放してくれない。でも、その呪縛こそがその人達が死んだ意味でもある。


 大切な人達が死んで残していった“命の儚さ”や“死んだ事の意味”。例えそれらが呪縛としてレシリアを縛り付けているのだとしても、だからこそレシリアは理解できる。

 人の死は決して無意味な物じゃないと。


「っ!?」


 目まぐるしく回転しつつも襲って来る死の威力を持った鉄球。レシリアはそれを全て避け切り急接近した。驚愕するルクルの瞳を見つめながらも刃を振るう。

 五の型:閃結露。

 滑らかに動く刃はルクルの胴体を的確に捉えて切り裂いた。

 でもそれだけじゃ終わらない。


 ――ここ!!


 続いて腕や太腿なんかも切り裂く。

 鋭く不規則な連撃が繰り出せるこの型なら、ルクルとの近接戦闘においてかなりの優位に立てるはずだ。腕なんかは斬り落とせなくていい。今は体力を削るのが最優先だ。

 しかし向こうも近接戦闘の用意はしているはず。


「そこだ!!」


「ッ――――」


 だからわざと足を滑らせて姿勢を低くし、懐から抜き出した短剣を間一髪で躱した。そこから戻って来る鉄球を飛んで避けつつも一瞬の隙を突いて肩を貫く。

 そんな普通の人間なら出来そうにない動作をやってのける。

 けど着地の瞬間を見切られて強烈な肘打ちを食らった。


「ぐッ!!!」


 左腕でガードするも酷く痺れる程の衝撃を負う。その反動で距離を開けられ、すかさず一撃必殺の鉄球が振り回された。

 それをギリギリの距離で回避するも異変に気付く。


「――爆ぜろ」


「えっ!?」


 鉄球が内側から真っ赤に染まっていき、やがて周囲を巻き込む大爆発を引き起こしたのだ。その爆風や熱に真正面からやられたレシリアはボールの様に転がり床へと叩きつけられる。そこへ黒装束が刃を突き立て――――。

 その背後から助けに入ったサリーはレシリアを護った。


「リアお姉ちゃん! 大丈夫!?」


「だ、大丈夫……。――――危ない!!」


 するとここぞとばかりに追い打ちをかけるモーニングスターを躱した。しかしまた同じように爆発し、周囲の黒装束もろとも吹き飛ばす。

 木片が体に突き刺さる中で何とか着地した。


「ほお、二撃目から躱すとは相当目が良いのだな」


「……目の良さだけが、私の取り柄だから」


 大振りの動作で若干息切れながらも喋る。どういう原理なのかは分からないけど、振り回される鉄球から爆発が起こるとなると相当苦戦を強いられるはずだ。

 シファー程じゃないけど筋肉バカなルクルの体力を削ぐより、こっちの体力の方が先に尽きてしまうだろう。

 だからと言って今までの様に懐へ潜り込めるかも怪しい。


 ――どうすればあいつに刃を通す事が出来る?


 打算を積み重ねる。どんなルートで走り抜ければルクルの元へ辿り着けるか――――。

 でも奴はモーニングスターを自由自在に振り回せるのだ。鎖さえも攻撃や防御へ転換されるのだから臨機応変に対応されるはず。

 つまり、現状じゃ打開の策は何もなし、という事になってしまう。


「茶番は終いだ。そろそろ終わらせるとしよう」


 ――もう、アレをやるしか……!


 ルクルは手持ちのモーニングスターを回し始めると内側から真っ赤に染めていく。もしあれで振り回されながら爆破なんてされたら一たまりも無い。

 切り札っぽくアレと称してもそんな大層な物じゃないし、これに限ってはレシリアの根気次第となってしまう。


「――貴様には無意味な死を与えてやる」


「っ……!!」


 その言葉を聞いた瞬間に覚悟が決まった。

 刃を握り締め、合流したサリーとリサを下がらせる。

 ――本当はまだ怖いままだ。怒ってると言っても、それでも恐怖が先に出て仕方がない。出来るのなら今すぐにでも逃げ出したいくらいだ。

 でも、人の死を無意味だと言い捨てるヤツだけは絶対に許せないから。


「その身を持ってして無意味な死を味わうがいいわ!!」


 そうしてルクルは大きく振りかぶってモーニングスターを振り回した。それも厄介な事に、大きな連鎖爆発を引き起こしながらも。

 いずれ真正面から向かって来る鉄球をレシリアは間一髪で避けようと動いた。

 しかし動くには遅すぎて連鎖爆発を真正面から食らう。


「リアお姉ちゃん!!」


 心配したリサがそう叫んだ。

 だけど爆煙の中からは何の返事もない。それに不安を抱いたサリーは爆煙の中に突っ込もうと足を動かした。

 けど、


「――その程度?」


「なっ!?」


 爆煙が消え中から出て着来たのは、一撃でボロボロになりつつも立ち上がり刃を構えるレシリアだった。その光景にルクルは驚愕する。

 爆発を真正面から受け尚もレシリアは倒れなかったのだ。

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