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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第二章 存在と証明
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第二章27 『譲れない物』

「――――っ!?」


 気が付けば脇腹が灼熱のビームによって貫かれていた。幸いと言っていいのか、これくらいの痛みなら慣れてるから全然問題はない。

 だけど問題なのはその破壊力。

 灼熱のビームはイルシアどころか背後にあった建物さえも貫き、そこから焦げ臭い匂いと共に煙が舞い上がる。それが意味するのは急所に当たれば即死の攻撃で――――。


「今の、一直線に収束させた光って事よね」


「一発で見抜いたか。流石歴戦の剣士だ」


「歴戦って程でもないけどねっ!」


 刹那でも時間を稼ぐ中で考える。

 収束させた光って事は、少なくとも対処法はあるはずだ。まあどれもこれも魔法を使えないイルシアじゃ無理そうなのだけど。

 刃を構えると即行で飛び込んだ。


「あんたがこの異変を引き起こしたって事で間違いないんでしょ!!」


「ああ、そうだ。この異変を引き起こしたのは俺だ」


「――血を集める為に? それも誰でもいいからって」


「そうだ」


「っ!!」


 イルシアの攻撃を受け止めた男の答えを聞いて奥歯を噛みしめる。

 もう何も言わなくたって分かる。ティアルスから今までの敵の話は全て聞いているし。だから何も言わずに斬り伏せようとひたすらに刃を振るった。

 強引にでも刹那の隙を作って奴を屋根の上へと叩きつける。


「自分の願いの為なら、何人もの夢を打ち壊してもいいって言うの!?」


「っ――――」


「家族や子供の幸せも! 平和を願う優しい心も!! ――英雄を夢見た無垢な理想も!!!」


「ッ――――!」


 奴の攻撃を間一髪で避けながらも猛攻を続けた。

 感情が抑えきれない。自分の願いの為なら他人の願いを打ち壊す事に対しての怒りも、それを平然とやってのける主催者への怒りも。――かつて諦めてしまった自分への怒りも。全てを奴にぶつける。


「お前はそれを平気で壊せるのかッ!!!」


 光剣もビームも何か変な弾丸も、全てを避け切って刃を突き刺した。頬に掠った時に見せた奴の表情は――――葛藤。

 飛ばせる暇なんて与えない。例えビームが体を貫いたって絶対に倒して見せる。

 そんな意志を持って刃を振るった。

 だけど一瞬の出来事が全身を硬直させる。


「これで……!!」


「なん――――っ!?」


 突如掌から飛び出した黒い奔流。それがイルシアを完全に包み込んだ。実態があるソレは力強く握り締めると腕の動きと連動して振り回す。

 まさか。嫌な予感はするけど残念ながらその予感は当たってしまって。


「どうだ!!!」


 イルシアが黒い奔流を斬るよりも早く高速で地面へと叩きつける。その衝撃で口から熱い鮮血を零れさせた。

 更にそこからビームと弾丸の追い打ち。

 土埃を発生させて狙いを少しでも逸らすけど、回避の途中でも数発は足や肩に直撃する。

 物凄く痛い。だけどこんなんで倒れてられないから。


「――せああぁぁぁぁぁっ!!」


「まだ動けるのか!?」


 もう一度飛び込んで刃を振り下ろした。飛んで逃げようとする奴に意地でもしがみ付いてまた地上へと叩き落とす。だけど今度は受身を取られて真上から突き刺した刃に反応して見せる。黒の奔流で防御を取るから素早く切り裂きつつも首元へ刃を突き立てた。


「絶対に逃がさない。あんたを倒すまで!」


「くっ……!」


 すると奴は苦しそうな表情を顔に浮かべる。

 あんな威力を出せる魔道具を全身に装備し、イルシアの攻撃にも反応できるはずなのに、それでも攻撃してこないって事は、奴はきっと迷ってるが故に本気を出せていない。本気を出されれば多分イルシアとて苦戦するだろう。実際まだ一撃も届いてない訳だし。


 力任せにイルシアを引き剥して投げ捨てると、すかさず攻撃に転換して様々な色の弾幕が視界の中を覆う。それらを全て切り裂いては前進した。

 確かに奴は強い。けど動きは全然素人のまま。洗練も何もされてない見様見真似の動きだから、飛んでくる弾幕の弾道が事前に予測できるのだ。まあ、超感覚あってのものでもあるけど。


「悪い事は言わないから今すぐこの侵食現象を戻して! どうせ魔術的なアレで引き起こしたんでしょ!?」


「ああそうだ! あれもこれも全部魔術が関連してる!!」


「なら尚の事……!」


「だが今回ばかりは変えられない! 今回引き起こした侵食現象は時間制の物だ! 例え俺を殺そうともこの現象は日の出まで止まらない!!」


「はぁ!?」


 奴の口から出て来た衝撃的な言葉に驚愕する。

 普通なら核を殺せば終わるはずだ。だから自分を核にはしないだろうと思っていたのだけど、まさか時間制限だなんて。っていうかそんな魔術がある事自体初めて知った。


 ――って事は、こいつは本当の本当に血さえ集められれば何でもいいって考えなのね……!!


 最早捨て身と言っても過言じゃない行動力だ。

 自分を核にするんじゃ異変を止める為に殺されるのは確実。だからあえて時間制限にする事で捕らえられても願いを諦めない様に――――。

 そんな覚悟を目の前にして奥歯を噛みしめた。

 何でそこまでするんだって問いかけたくなる。だけどそこまでする――――違う、そこまでしたくなる理由は、ずっとずっと、遥か昔から知っていた。


 ――一緒なんだ。みんな。敵だった人達でさえも、みんな私と一緒。


 何をしてでも。例え殺してでも。そうしてでも叶えたい願いがあった。……本当に、残酷で、皮肉なくらい、全く同じだ。

 イルシアだって一緒“だった”んだから気持ちは分かる。

 でも、だけど、それは全てを殺していい理由にはならないんじゃないのか。


「――一緒の眼だ」


「……?」


「君も、僕と一緒の眼をしている」


「……でしょうね」


 一緒だと真正面から言われて失笑する。

 そりゃ、同じなんだから一緒って言われても何ら不思議じゃない。――だけど今だけは違う。もう“あの時”みたいに違うつもりはないから。


「――――っ!」


 イルシアは全方向から襲って来る黒い奔流を切り裂いて装甲のない手首すらも斬りつけた。ようやく鮮血を体から流した奴は一瞬だけ驚愕するとすぐに反撃に転じる。

 でもそれさえ切り裂いた。

 2人の間に起った爆発で距離を離されるけど、空中を蹴った衝撃波を利用してもう一度急接近する。


「飛べるのはあんただけじゃないんだから!!」


「蹴った衝撃で空を!?」


 「あんただけじゃない」とは言っても完全に飛べるとまでは言っていない。全力でやってもせいぜい5分程度。全身強化を利用して蹴るから飛んでる間は常にマナを消費するし、蹴る方角を少しでも間違えれば全く別の所へと飛んで行ってしまう。

 だからこれは戦闘で焦った時に出す奥の手。まだ切り札は残ってる訳だけど。


 全力で反撃をしかけてくるけどそれらは全て避けるか弾き飛ばす。脚を上手く利用して順調に空を伝っては奴の胴体へ刃を通した。

 次第と劣勢から優勢になって行く中、イルシアは躊躇なく刃を振るい続ける。


「あんたも譲れない願いがあるんでしょ。だからこうやって戦うんでしょ」


「ああ。俺には決して誰にも譲れない願いがある。だから戦う!」


 問いかけると奴は素直に答えてくれた。

 決して誰にも譲れない願い――――。心の中で繰り返す度に記憶の何処かが悲鳴を上げる。もしみんなが決して譲れない願いの為に戦っているのなら。


「――なら私は、決して誰にも譲れない信念があるから戦う!!」


 するとイルシアはそう吠えたのと同時に真意を発動させた。

 これが時間制限なら速く奴を倒さなきゃならない。それからが本当の闘いだ。無限に沸き出る魔物を討伐し続けなきゃいけないし。

 一度も斬れなかった光剣を腹からへし折ると、信じられないと言う様な視線を向けてこっちを見た。でもイルシアだって何をしてでもこの異変を止めなきゃいけないんだ。

 だから、その場で一回転して溜めた力を全て解き放つ。


「ぐッ……ああああッ!!」


 振り下ろされた刃は奴の左肩に直撃し、身に纏う固い装甲へ亀裂を走らせた。一見しただけで絶対に斬れないと悟った装甲だけど、真意の光を纏わせた刃なら別だ。真意によって何倍にも引きあがる威力は地を裂き天を割る。英雄譚の主人公なんか真意の光で谷を作ったとかあったし。

 だけど少しでも時間をかけるから奴はイルシアの脇腹をビームで貫いた。

 鮮血が溢れ出すけど気にしない。気にして何てられないから。

 今さっき言った言葉の続きを叫んだ。


「――そして、あんたを救う!!」


「なっ!?」


「私の信念を貫き通す為にあんたを救う。だから、今ここであんたを倒す!!!」


 そうしてさらに力を入れた。するとついに装甲は割れ、そこからイルシアの刃は奴の胴体を深く切り裂いて振り抜く。

 大量の血が舞った。まるで雨の様に。

 直後にイルシアは全力で手を伸ばす。奴をこの手で掴まえる為に。


 だけど超感覚であり得ないくらいの異常を探知したからすかさず手を引っ込めた。何て言えばいいだろう。物凄い憎悪を本能で受け取ったみたいな感じだ。

 ……物凄い、憎悪。

 一瞬にして辻褄が合った。まさか以前にティアルスが感じ取ったあり得ないくらいの憎悪って、奴の憎悪だったのか。


「は――――?」


 その瞬間に自分の眼を疑う。

 だって、力なく落下する奴の体内から次第と黒いモヤが出て来たと思ったらそれは全身を包んでどんどん大きくなり、やがて人の形だけを残して黒いモヤに覆われてしまったのだから。

 少し離れた場所でその光景を見つめる。

 目の前の光景を一言で表現するのなら―――――《憎悪の暴走》だろうか。


 初めて見る現象につい見入ってしまう。これからどうなるのか。大体は予想出来るけど多分回避は出来ない。本能でそう悟る。予測可能回避不可能ってものだろうか。

 全身を包んで尚まだ大きくなって行くモヤは背中から翼の様な物まで生やした。それもよりによってドス黒い悪魔の翼を。


 警戒の為に前方を蹴って距離を開ける。

 奴――――いや、“ソレ”は歪に崩れ真っ黒に染まった瞳の様な物を開けてイルシアを捉えると、やがて動き始める。

 でも、指が動いたのを確認した瞬間からソレの姿は消滅した。


「え……?」


 全く目で追えなかった。動体視力は十分いいはずなのに。刹那でも視界内に入れる事が出来なかったって事は、ソレがやってみせたのは正真正銘の瞬間移動か、もしくは………物理法則の限界を超えたか。

 しかしそんな事を考えてる余裕さえもない。

 だって、気が付けばすぐ真後ろでソレが腕を振り下ろしていたのだから。


「しまっ――――」


 神速で振り下ろされた巨大化した腕に直撃する。だけどヤバイのはそこだけじゃない。控えめに言ってもただのビンタなのに、その威力は全身強化をした腕を砕かんとする威力なのだ。

 建物だけじゃなく地面を通り越して地下空間にまで叩き起こされたイルシアは見た。


 月を背後にする“()()”の姿を。

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