表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第二章 存在と証明
44/117

第二章26 『激戦』

「っ!?」


「レシリア!」


 真上から高速で振り下ろされたブーメランは右肩を切り裂いて地中へと潜っていく。――物凄い切れ味だ。見た目的にはほんの少し抉り込んだ程度なのに出血が止まらない。

 でもそれだけで攻撃が終わる訳じゃなく、次には急降下してくるリサが首を落とそうと両手に握り締めたククリナイフを振るった。

 その瞬間にはアルスタの刃がククリナイフの腹を思いっきり叩いていて。


「――させねぇッ!!」


「あっ」


 片方のナイフが遠い場所へ弾かれる。

 直後にアルスタの背後からラインハルトが刃を振るった。しかしその一撃はしっかり受け止めて着地の受身をきちんと取る。相当強い一撃だったのだろうか。受け止めた方の腕が震えていた。


「……痺れてる。お兄ちゃん達、強いんだね」


「そりゃ何年もかけて鍛えたからな」


「そっか。私とは大違いだね。――でも、実力にかけた時間は実戦じゃ関係ないよ」


「……? ……ッ!?」


 瞳をギラつかせながら微笑む。その意味はなんだろうとアルスタが首をかしげると、足元の異変に気づいて反応する。微かに振動する足元気づいて飛び退いた瞬間、地中から出て来たブーメランに軽く切り裂かれて鮮血を撒き散らした。

 そのブーメランは流れる様にしてリサの元へ戻っていった。やがて人差し指と中指で受け止めると言う。


「実戦じゃかけた時間は関係ない。ただ想いと技術がぶつかるだけ。――だから、殺す」


「っ!!」


 まだ幼い少女なのに殺意のない眼光を向けられて少しだけ恐怖する。

 だけど後ずさりしている暇さえない。数秒もたたずに手に取ったブーメランを投げつけて来た。弾こうとしてもブーメランは不規則な動きで左右に動いてはギリギリ間合いに入らない距離を回転する。

 しかし急速な動きで接近しては服を掻っ切っていった。


「どんな原理で動いてるんだコレ!」


「多分マナの操作だろう。最近そういう魔道具増えてるって聞くし」


「つくづく厄介な事で……!」


 ブーメランに苦戦するアルスタがそう愚痴を漏らすけど、ラインハルトの冷静な分析に溜息を吐きつつ順調に回避する。

 レシリアは動体視力が大人組よりもいい(と思う)から避けるのは比較的楽だけどみんなにとっては目で追うのでやっとなはずだ。そんな中で避ける様指示したって効果がないのは明確。だから最善策としてはレシリアが囮になる事だけど……。


 ――囮になる? 待って、途中で魔物とか出て来たら、絶対無理……!


 余計な事まで考えてしまって刀を握る手が震えてしまう。

 音を立てて震える刀に気づいたのだろうか。ロストルクは突然言った。


「俺が囮になろう。みんなはその内に!」


「囮ってどうやって!?」


「そんなの――――こうやってだ!!」


 するとロストルクは何の躊躇もなく飛び出した。自身を守るべくブーメランは更に素早く回転してロストルクを追いかける。

 本来なら怖がって出来ないはずなのに。真っ暗な中で風が吹いただけでも怖がるような人なのに。それなのにロストルクは勇敢に飛び出して行った。

 彼らはロストルクの言う通り大回りで移動しながらもリサへ近づく。


「パパへの想いなら絶対に負けないんだから!!」


 リサはそう吠えるとまだ懐に隠していたククリナイフを両手に握って迎撃に出た。3人が相手なのに全く臆さないリサは持てる手段の全てを使って傷口を開けようと専念する。

 両手に持ったククリナイフを前衛にいたシファーに投げつけると、ソレと同じ速度で追いかけながらもまだ懐に隠していたもう二本のククリナイフを取り出す。

 その瞬間に見た。腰に後3本のククリナフがある光景を。


「なっ!」


「師匠!?」


 ナイフを弾いた瞬間にリサは神速で駆け抜け、刃すらも通らなそうな肉体を切り裂いて鮮血をあふれさせる。――信じられなかった。最強の剣豪であるシファーが血を流した事と、リサがそれを引き起こしてみせた事が。

 さらに反撃へ出たシファーの刃を回避して無傷でこの場を脱して見せる。


「ねぇねぇねぇ。お兄ちゃん達はどうしてここにいるの? 異変を止める為? それとも願いを叶える為?」


「異変を止める為だ!!」


「――本当に?」


 そうしてラインハルトは刃をリサに叩きつけた。だけど間一髪で回避し、それどころか零距離まで接近したのに攻撃もせずに言葉だけを残してみんなから離れる。

 “挑発”とも受け取れる行動にアルスタは密かに舌打ちした。


「余裕だな」


「加護があるから。私達はこれがある限り半永久的に傷じゃ死ななくなるの。ほら」


「……!」


 するとリサは笑顔で斬られた二の腕を見せつけた。その瞬間に息を呑む。

 だって、血が絶えず流れていたはずなのにいつの間にか傷口もなく修復されていたのだから。そんな現象が起こるだなんて思わなかったから驚愕する。


「これがある限り私は死なない。どれだけ斬られたって。だから――――諦めて!!」


 リサはブーメランを一度手元に戻すともう一度投げつけた。それも天高く。月に照らされたブーメランは数秒間空中で停止するけど、直後には凄まじい速度で効果を始めた。

 マナを送る為に手を掲げていたリサは勢いよく腕を振り下ろすと更に落下の速度を速める。必殺の威力を秘めた神速のブーメランは、直後に轟音と共に地面を割っては周囲の建物を粉々に吹き飛ばした。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「どう、見つかった?」


「いいやまだだ」


「こっちも」


 一時的に別行動をしていたイルシア、リーク、エスタリテはすぐに情報を交換する。だけどそれぞれから返って来たのは予想しきっていた答えで。

 軽く舌打ちするとリークが言う。


「多分相手は隠れるのに慣れてるんだろ。これじゃあ普通の探索じゃ見つからないはずだ」


「普通の探索って……。じゃあ探知魔法が使える訳でもないにどうする?」


 エスタリテがそう返すとリークの眉間にしわがよる。

 確かに彼の言う通りだ。イルシアも探せる所は探しつつ救助を行っていたけど、敵と言っていい様な気配は全く感じなかった。しかし今回の異変は明らかに人の手によって起こされた現象だし……。

 何より途轍もなく厄介な事が起きていた。


「いつもみたいに太い亀裂を辿ればいいって訳じゃないしな。操れるのかは知らないけど、所々に太い亀裂が走っては途切れてる限り、相手は視覚的な探索は完全に遮断して来てる」


「やっぱりね、私もそう思ってた。ってなるとどうするべきか……。既にティア達も外へ出て戦ってるだろうしあまり長居は出来ないよ」


「しかし、そうは言っても方法がな……」


 3人でう~んと深く考えこむ。

 こういう時はどうすればいいだろう。亀裂を追っても意味はなし、更に亀裂の範囲は馬鹿みたいに広いから細かく探索するにも時間が掛かるし。

 ふと、イルシアはある所を見る。


「あそこから探せればいいんだけどね」


「あそこ? ああ、時計塔か」


 一番最初は時計塔にいるんじゃないかって睨んだ。でもそんな分かりやすい所にはいないし、これだけ探しても手掛かり一つ掴めない相手でもある。いっその事地面の中に潜ってたって不思議じゃない。

 イルシアはもう一度睨むと2人に言った。


「私、あそこに行って超感覚で探して来る」


「当たり前に超感覚って言うなぁ……。まあ、分かった」


 普通なら常人じゃ得られない“超感覚”なる言葉を軽く使うと、そのさり気なさにむしろ引いたリークがゆっくりと呟く。でもあそこならあり得るかも知れないから。

 早速屋根を蹴って時計塔まで移動する。移動中には所々で轟音が響いていた。多分、ティアルス達や離れたシファーとロストルクが暴れてるんだろう。

 やがて時計塔の外壁を上って頂上まで辿り着くと早速周囲を見渡した。


「やっぱり。ここなら何とかなるかも」


 亀裂は既にかなり広い範囲にまで広まっているから必ずとは言えない。これで引っ掛からないのなら別の場所に移動しなきゃいけないし。

 いち早く相手を見つける為にも息を整える。


 ――超感覚は剣技の他にもイルシアの十八番的な部類に入る。何年もかけて研ぎ澄まして来た五感と第六感すらも駆使して“殺気”を探す技術だ。いや、この場合は才能とかの方が正しいかも知れない。

 マナも何も使わない感覚だけの探知……。普通に言えば「ありえない」事だ。だって最強の剣豪と呼ばれるシファーやロストルク、エスタリテでさえも難しいし。

 でもイルシアはこの感覚を完全に使いこなす事が出来る。

 それが努力なのか才能なのか、はたまた過去から引き継いだ《呪い》なのかは分からないけど。


 ――これは違う。多分ティアとクロエだ。私の予想なら、きっと奴は……。


「っ!!」


 次の瞬間、イルシアはわざと足を崩してバランスを崩した。その直後に目にも止まらぬ速さで何かが髪を撃ち抜き、千切れた髪は宙を舞う。

 見つけた。真横だ。

 反射的に柄を握ったイルシアは速攻で振り抜いた。


「そこ!!」


 六の型:名残花。


 放った斬撃は衝撃波となって宙を伝い、弾道の向こう側にいた奴へ当たる。――と思っていた。奴の姿を視界に入れた瞬間、イルシアは驚愕する。


「――――は?」


「ついにこんなところまで来たか……」


 奴は宙に浮いていて、それどころか既に距離を詰められていた。即行で振られた刃の様な何かはイルシアの構えた刀身へ当たり、その衝撃的な威力に耐え切れなかったイルシアは外へと放り出され、あまつさえ空中を移動して追跡してくる。

 一撃で分かった。あいつは只者じゃないって。


「隠れる事だけは絶対的な自信があったんだけどね!!」


「ぐっ!?」


 振り下ろされた光の刃を受け止めた瞬間には背後にあった屋根へと激突する。そんな脅威的な威力を真正面から受け止めて驚愕した。

 たった一振りでこの威力……。もしかしたらシファーと同等かそれ以上かもしれない。

 だけどそんな程度で諦める訳にもいかないから飛び出す。

 しかしイルシアの振るった刃はいとも簡単に防がれた。


「何よその刃! 明らかに普通の威力じゃないんだけど……!!」


「これは特殊な魔道具だからね。君みたいな普通の刃とは物が違う!」


「っ!!!」


 すると光の刃は輝きを増すのと同時に振ってもいないのに弾き飛ばされた。最初は真意の光なのかと思ったけどそれも違う。本当の本当にマナの反応――――魔道具だけの力だ。

 けど普通ならあんな威力を出せば壊れて当然なのになんで。その答えはすぐに明かされる。


「これは僕が改造した魔道具だ。そんじょそこらの魔道具じゃない」


「な、なるほど。要するにあんたはその魔改造魔道具を山盛りに装備した化け物って訳ね」


「そう言う事だ」


 次に掌を向けるとそこからビームを放ってくる。

 回避出来ないと踏んだイルシアは真意の光で弾こうとするのだけど、刃に触れた瞬間に即行でこっちが跳ね返されて。

 次の瞬間にはイルシアの胴体は貫かれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ