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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第二章 存在と証明
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第二章25 『パパの為に』

 満月が真上から地上を照らす中、アルスタ、ラインハルト、レシリアの3人は大型の魔物とその取り巻きを相手に戦っていた。

 小さい取り巻きを一撃で薙ぎ払いながらもラインハルトが叫ぶ。


「ったく! どれだけ斬っても斬ってもキリがない!! どうなってるんだこれ!!」


「しょうがねぇだろ侵食現象なんだから!!」


 そうすると後ろからアルスタの声が届いて半ば諦める。

 でもこの場にいる全員は話だけでしか聞いた事がないし、街中での侵食現象だなんて初めてだからそう思い込むしかない。

 もちろんレシリアだって。


「レシリア、大丈夫か!?」


「大丈夫! 全然平気!!」


 本当は平気なんかじゃない。正直な事を言ってしまえば今すぐにでも逃げ出したい。けどこんな状況で逃げられる訳もないし、そもそもの話として逃げていいわけがない。

 だから怖がりながらも刃を振るい続けた。

 でもそろそろ大型の魔物の相手だってしなきゃけない。

 巨大なゴリラみたいな魔物が大きな斧を振り下ろすとその風圧だけでも全員が吹き飛んだ。


「まずあいつをどうにかしなきゃな……」


「か、勝てるの? 逃げた方が――――」


「いつまでも弱気じゃ勝つことも出来ないぞ! やるんだ!!」


「ひぇ~……」


 レシリアは逃げる事を提案するのだけどラインハルトの情熱的な視線を受けて言葉を弱めた。その言葉にアルスタも乗っかって剣先を奴に向ける。だからレシリアも攻撃が来ても言い様に構える。

 奴の攻撃は右手の斧か左手のパンチ。その2つだけだからある程度攻撃は読みやすい。

 それらを見ると指揮役を任されるのはレシリアな訳で。


「レシリア、指揮を頼む」


「ええぇっ!? 私!?」


「お前が一番目が良いんだ! 頼む!」


「むぅ~……!」


 アルスタから強引に指揮役を押し付けられて承諾し難いけど承諾した。

 でも逆に言えばこの場の指揮役はレシリアにしか勤まらないとも言える。動体視力がいいから敵の動きを先読みしやすいし、性格のおかげで相手の目線や敵意には凄く敏感になっている。まあ、そこにカリスマ性があるかどうかは別として。

 奴の視線や身体の動きだけで次の攻撃を予測する。幸い奴は人じゃなくて魔物。言い方が少し悪いけど知能が低い分予想しやすいのだ。


「アルスタに右の縦! 飛んで!」


 そう叫ぶとアルスタは指示通りに右へ飛んだ。直後に斧の縦振りが地面に直撃して亀裂を走らせる。奴は斧の縦振り直後は地面に刺さって抜けなくなるから多少の隙が出来る。だからその隙を逃さずラインハルトが懐へ入り込んだ。


「らあああぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!」


 けど、奴の肉は相当硬くてラインハルトでさえも腕の半分を斬る事しか出来ない。だからラインハルトは半ば弾く様に大きな腕を弾き飛ばした。すると今度も指示なしにアルスタが飛び込んで喉を連続で切り裂く。しかしそれも決め手には欠ける。

 だから隙を埋めるべくレシリアは駆け抜けた。

 2人の切り付けた所に刃を叩き込めれば、もしかして――――。左からの攻撃を避けて思いっきり地面を蹴った。


「行け、レシリア!!」


 そんなアルスタの声で背中を押されながらも刃を構えた。

 あれだけ大雑把な傷口が空いていればレシリアの剣筋で斬れるかも知れない。2人は“速さ”と“重さ”を重視した剣技だけど、レシリアの場合は“鋭さ”を重視した剣技だから。

 刃を中段に構えて力を溜める。それから放たれた刃は滑らかに傷口を切り裂いて。


 ――五の型:閃結露!!


 1回じゃ斬れない。だから回転して通り抜けるまでに2回以上も斬りつけた。その瞬間に敵の首は高く飛んで紫色の血を撒き散らした。

 何とか着地して振り返っても、その先にいた魔物は既に死んで霧となって消滅していて。一先ず戦いが終わった事に安堵して尻餅を着くけどそんな事をしている暇もない。


「――アルスタにラインハルト! それにレシリア!」


「師匠!!」


 轟音を聞きつけてやって来てくれたのだろうか。シファーとロストルクは地面に降り立つと早速周囲を見渡した状況を察した。

 シファーはラインハルトの頭をわしゃわしゃと撫でながら尋ねる。


「君達がここにいるって事は状況を理解してるって事でいいんだよな」


「はい。あってます」


「なら話は早い。君達は住人の避難を主に動いてくれ。俺達は犯人を捕まえる」


「分かった!!」


 熱気の籠った声でラインハルトが答えると、2人は拳を合わせて互いに士気を高め合った。ちなみにそんな中へアルスタも交じって行く。そんな光景を見ているとロストルクが肩を掴んで耳打ちした。


「――決して無茶はするなよ」


「……!」


 レシリアが臆病なのを知っておきながらそんな事を言う理由は十分に分かっていた。まだ自分自身じゃ理解してないけど、ロストルクはたまにレシリアの事を“頑固”と言うのだ。だからその事に付いてだと思ったのだけど……。まあ、ロストルクに限っては別の意味も含まれてる訳で。


「レシリアの血塗れの姿は見たくないんだからな!!」


「そうなる気は元からないんですけど……」


 まだ魔物の飛び血が消えないレシリアに裏声でそう言った。

 顔面と声のせいで色々と情報量が多い中、とりあえずそう言う事だって納得したレシリアは頷く。さらにロストルクは不安に思ってる事をのべつ幕無しに喋り散らかした。

 しかしそれも風を切る音と殺意を感じ取って瞬時に切り替わる。


「――ッ!」


「ひゃあ!?」


 ロストルクが素早く刃を振り抜いた直後に弾いたのは――――投擲用の小型ナイフだろうか。クナイの形状に近い3本のナイフは音を立てて地面に落ちる。

 その弾道を辿って行けば1人の少女が立っていて、いち早く正体を確認したレシリアは驚愕する。


「な――――」


「嘘だろ……!?」


 建物の屋上からこっちを見下ろす少女はショートの桃髪にボロボロのマントを着た――――リサだった。何でこんなところに彼女が出て来るのかって驚愕しているとラインハルトが何かを閃く。

 すると刃を向けながらもリサに言った。

 けど、現実は非情で。


「……君が血を集める実行犯なんてオチはないよな」


「そうだよ。私が……私達が死んだ人の血を集めるの。それが大好きなパパの願いだから」


「パパ……? って事はこの異変を引き起こしたのはお父さんなの!?」


「うんっ。そうなの」


 レシリアが問いかけると彼女は自慢するみたいな表情で楽しそうに言う。そんな真実を知った直後に驚愕する。だって、それってつまり、父親は2人を利用している事になって――――。いや、もしかしたら何でこうしているのか知っているのかも知れない。だけどあんな無垢な少女を願いの為に利用して良い物だろうか。

 そう考えていた時にはシファーが飛び出そうと地面に亀裂を走らせる。

 でもある事に気づいて咄嗟に飛び退いた。


「魔物!?」


「それもかなりでかいぞ……!」


 モグラみたいに地中から物理的に出て来た魔物は少女の壁になる形で出現した。そして大型の魔物は一番最初にリサを見付けるからレシリアは反射的に刃を握る。まだよくわからないけど、魔物は視界に入れた対象から殺していくらしいから。

 しかしロストルクが肩を掴んで制止させる。


「ししょっ!?」


「よく見ろ」


 咄嗟に言った彼の言葉を聞いてまじまじと見つめる。

 ――襲わない。一番最初にリサを視界に入れたはずなのに、魔物は襲うどころか指を指した少女の指示通りにこっちを見つけて咆哮した。だからその現象に歴戦のシファーでさえも驚愕する。


「あの子を襲わない!?」


「それどころかこっちに敵意を向けてる限り何か術式でも施されてるんだろう。何かは分からんが。ただ――――」


「やっちゃって!!」


 リサの掛け声と共に大型の魔物は爪を立てて引っ掻こうと腕を振り下ろした。でもシファーは刀――――じゃなく、彼の場合は大剣を振り抜くとたった1振りで魔物を真っ二つにして見せた。さらにその奥にいた少女にも衝撃波となって届く。

 咄嗟に腕で防ぐけどそこからは血が吹き出し、腕から多くの鮮血が溢れ出した。でもリサはそんな状態になっても冷静に滴る血を見て言う。


「いっつ! ………あ~あ、斬られちゃった。痛いなぁ」


「痛いで済むのかよ……」


 腕から血が溢れ出しているのに「痛い」と表現するリサにアルスタが苦笑いで呟いた。あんな傷、普通なら痛みに耐えきれず地面にうずくまったっておかしくはないのに。

 それなのにリサはもがくどころか冷や汗の1つも掻かずにいた。

 やがて自身の血を舐めながら呟く。


「血なら私達だけで済めばいいのに……」


「――――!!」


 それを聞き逃さなかったレシリアは必死に考える。

 もし今までの敵みたいに狂っているのならそんな発現はしないはずだ。なのに何でリサは「私達だけで済めばいいのに」なんて言ったのだろう。

 レシリアは一縷の望みを賭けて問いかけた。


「もしかして――――本当はこんな事、望んでないの……?」


「っ…………」


 するとリサは頬をピクリと動かして反応して見せた。その反応にみんなもびっくりして構えていた刃を僅かに震わせた。

 まさか本当に。そんな期待を抱いてまた問いかける。


「本当は人を殺して血を集めるなんてやり方、望んでないんじゃ――――」


「――違う!!」


 だけどリサは大きな声を出して反発した。

 その表情には明確に分かってしまう程の葛藤と戸惑いが浮かんでいて。表情を見た瞬間に悟った。彼女にはまだ本当の優しさが残ってるんだって事を。

 するとリサはハッキリと震える瞳で見つめながら言う。


「私はパパの想いに応える為にここにいるの! お姉ちゃん達みたいな気持ちには、何も何も関係なんかない!!」


「リサ……」


「パパの願いの為に、死んで!」


 リサはレシリアの言葉を素早く切り捨てると、腰からククリナイフを抜いて両手に持つ。逆手で握り締めるククリナイフを構えると早速屋上から飛び降りた。

 だけど驚くのはその滑らかさ。

 ムササビの様に滑空しながら降りて来ると、すかさずレシリアの首を斬り落とそうと狙いを定めた。だけどそんな見え見えの攻撃はシファーの攻撃によって弾かれる。

 だけど、


「そんな程度で俺達を倒せるのか」


「―――――」


 リサは一瞬だけでも微笑む。

 何だろうと思った瞬間、レシリアは微笑んだ理由を見付けて咄嗟に刃を握った。誰も気づかない真後ろから近づいて来る何かを見付けて。

 咄嗟に刃を振るうと甲高い音を響かせてソレは弾かれた。


「なっ!?」


「何だ!?」


 空高く飛んだのは鋭い刃がついたブーメランで、リサは瞬時にソレを回収すると回転しながらも投げつける。

 それもよりによって真下のレシリアに。

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