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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第二章 存在と証明
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第二章23 『狂乱の始まり』

「やるよ。リサ、サリー」


「分かった!」

「任せて!」


 満月の夜。

 リサとサリーは時計台の上へと登り、彼と一緒に街を眺めていた。彼が言うと2人は嬉しそうな瞳で見つめ、互いに息ぴったりに返す。

 ――嬉しかった。彼が自分達を頼ってくれる事に。

 彼はポケットの中から不思議な色をうごめかせる結晶を出す。


「これで一気に血を集める。2人には悪いけど、頑張ってもらうよ」


「へっちゃらだよへっちゃら!」


「余裕でビシバシ集めちゃうんだから!」


「頼りがいがある双子だね。……じゃあ、始めようか」


 すると彼は結晶を時計塔の中心に置き、懐から短剣を取り出した。何をするんだろうと思ったら急にその短剣で自分の腕を斬って血を流す。

 その光景を見た2人は反射的に言った。


「あ~っ! 言ってくれれば私が代わりになったのに!!」


「私も私も!!」


「ははっ。心配しれくれてありがとう。でもね、これは僕がやらなきゃいけないんだ。……僕にしか出来ない事なんだ」


 そう言って流した血を結晶に垂らし始めた。何が起こるんだろうと待っていると次に彼は腕を斬った短剣を逆手持ちにし、血に塗れて反応している結晶に剣先を向ける。それから彼は何の迷いもなく高価そうな結晶を刺し砕いた。

 破片が飛んでは周囲に散らばって床に染み込んでいく。


「……何が起こるの?」


「見ていれば分かるよ」


 サリーが問いかけると彼は微笑んで見せた。

 すると砕けた結晶から中心に赤光りした亀裂が幾重にも広がっていき、ソレは時計塔を包むだけじゃなく街全体にまで広がって亀裂を入れていく。凄まじい速度で街全体を覆った亀裂は次に火の粉の様な物を発生させる。

 そんな光景を見つめていると彼がある物を手渡した。


「これを持っていて。これがある限り、君達が襲われる様な事ない」


「ねぇ、何が起こってるの?」


 リサが問いかけると彼は少しの間だけう~んと考え込んで言う。

 だけどそれはあまりにも現実味からかけ離れていて、本来なら到底信じられない物だ。でも彼だからこそ信じられる。


「これは魔物を大量に出現させる事の出来る時間制の核だ。そしてその欠片を持っている限り君達が襲われる事は無い」


「すごーい! パパ魔法使いみたい!」


「魔法使いですから」


 サリーがそう言うと彼は自慢げに胸を張った。

 そんな風に和気藹々としていると街から奇妙な声がいくつも届いて来る。だから声の方角を見てみると道端に変な生物が亀裂から生み出されはびこっていた。あれが魔物って生き物なのだろうか。

 彼は2人に幾つかの小瓶を持たせると指示をする。


「これで血を集めて来てくれ。血の条件は特にない。なら、誰の血でもいい」


「分かった! い~っぱい集めて来るからね! 見ててね!!」


「私もコレが溢れるくらい集めてくるよ!!」


「頼もしい事だ。それじゃ、頑張って!!」


「「は~い!!」」


 そうして2人は同時に手を上げた。

 最後に彼が今回の為だけに改良した装備を身に着けて準備が整う。装備の都合上無理やり鎧を着せられてる感覚はあるけど、それも彼の為なら物凄く些細な事だと思える。


「じゃあ、行っておいで!」


「分かった!」

「任せて!!」


 彼に背中を押されるのと同時に愛や覚悟まで注いでもらうと、2人は顔を合わせて時計塔から飛び降りる。それから壁を蹴って滑空するように一番最初の“被害者”を探しに行った。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「ティア! 起きて、ティア!!」


「ん……?」


 夜。ぐっすり眠っている所をさり気なくベッドに入っていたクロエに起こされる。気づいたらベッドに入って来ているんだからもうクロエが忍びにしか見えない。

 けどこんな夜中にどうしたんだろう。そんな疑問はすぐに消飛ぶ。

 クロエは窓の外を指さすと言った。


「どうし――――」


「外! いきなり侵食現象が!」


 そう言われてから張り付くように窓の外を見た。そこにはあの時の様に建物に薄赤い亀裂が入っていて、そこから火の粉の様な小さい光が漏れ出している。確かに侵食現象だ。

 しかもそれだけじゃない。既に魔物が発生して街中をうろついていた。

 そんな異常な光景に目を奪われていると扉が思いっきり開かれる。


「ティアルス、クロエ! 侵食……ってもう知ってたか」


「ラインハルト……!」


 慌てふためきながら部屋に入って来た3人は既に武装状態でいた。それを見た瞬間に理解する。きっと外へ出るつもりなんだって。そしてソレを止めようとしたってどうせ3人は止まらない。止まれないだろう。


「一応聞くけど、原因とかって分かるか?」


「分からない。俺達が話し合ってたらいきなり外の壁に赤い亀裂が走ったんだ。で、しばらくすると魔物が出て来たからそれを伝えに来た」


「やっぱりか……」


 ラインハルトの答えに爪を噛む。

 これはイルシアから教えて貰った情報だけど、侵食現象には必ず“核”があるって聞いた。実際前に街で発生した際には魔物が核だったしあの夜じゃアイネスが核だったし。だから今回も核となる何かがあるはずだ。

 でも、それは果たしてティアルス達の仕事だろうか。

 そう考えているとラインハルトが推理を始めた。


「この侵食現象が意図的に引き起こされた事だけは確実だ。多分相手は街の人の大量虐殺による血の入手だろ。となると相手は到達者。それもかなり高位な魔術を使えると見た。更に人が少ない夜にやるって事は剣士や衛兵を呼び出す気満々って証拠にもなる」


「凄い推理力……」


「ラインハルトは堅物に見えて案外頭が回るんだ」


「もし魔術的に引き起こされたのならそいつには取り巻きがいるはずだ。核本体が動く訳にはいかないからな。となるとその取り巻きが血を集めるはずだから、奴は恐らく計画的にこの侵食現象を引き起こしてる」


 指をくるくるさせながら深い思考に入り込むラインハルトを4人でじ~っと見つめた。

 けどもし本当にその通りなら厄介だ。核を探すにも核は絶対に隠れるはず。ソレを探すのには時間が掛かるだろう。そして時間がかかるのと比例して魔物の数も増えていく――――。

 最終的にラインハルトはこんな結論に辿り着いた。


「そして夜回りに行ってる大人組は既に魔物の討伐兼住民の避難に向けて動いてるはずだ。つまり俺達はその隙に核を探す」


「けど核を探すって出来るの? だって目印がある訳でもないし……」


「いや、目印ならある」


 するとラインハルトは亀裂を見つめながら言った。確か、これに関してはイルシアからも前に似たような事を言われた気がした。


「普通なら中心に向けて亀裂が太くなって行くんだ。まあ時間で次第と細かった所も太くなるんだけど。で、そこを辿れば必ず核がある」


「って事は今行けば見つかるかも知れないって事か?」


「そう言う事だ」


「意外と物知りなんですね……」


 魔物なんて街中に発生する事自体が異常なのに、意外と物知りなラインハルトは自慢げに胸を張ってドヤ顔をして見せた。

 となればやれる事は限られる。

 いち早く向かわなきゃいけないから3人は窓を開けて先に場所を特定しようと飛び出してしまった。


「俺達は先に行く。もし何かを見付けたり救援が必要だったら空に何か合図を送ってくれ」


「分かった」


 そうして3人を見送り、ティアルスとクロエも参戦すべく急いで準備を整えた。寝間着から普段着に着替えて四本目の刀を腰に下げる。今度こそは破損しないようにしないと。

 すぐに準備を終えた2人は顔を合わせて頷くと窓から向かいの建物の屋根に飛び移る。そこから見えた光景は本当に現実かと疑うもので。


「何、これ……」


「まさに地獄絵図だな」


 街全域に赤い亀裂が走っては薄赤く染め上がり、至る所から破壊音が響いてはその中に混じって誰かの悲鳴も聞こえて来る――――気がする。これを本当に異変の参加者が起こしただなんて思えない。

 でも確認しない事には始まらないと足を動かした。


「なぁ、街全体に亀裂が広がってるって現実味あると思うか?」


「街に侵食現象が起るって具体的な例がないから分からないけど、少なくとも前の街じゃ半分以下に留まってた」


「って事はあまり現実味がないんだな。奴はここまでして血が欲しいのか……!」


 50人分の血なんてとてもじゃないけど自分で補える様な物じゃない。でも、だからと言って人を殺してでも血を奪い取るって考えが気に食わなかった。だってそれは献血でも行えば済む話じゃないか。何でみんな狂ったように殺し合いを――――。

 狂う……?


「ティア、どうしたの?」


 急に走る速度を弱めたティアルスにクロエが振り返った。

 やがてこんな状況なのに立ち止まると意識は深い思考へと誘われていく。

 狂うという言葉に反射的に今までの人々を思い返した。


 吸血鬼に、剣士に、冒険者に、魔術師――――。参加する人はそれぞれだ。いや吸血鬼に関しては分からない事も多い訳だけど。

 でもみんな最後にはそれぞれの優しさを持っていたじゃないか。剣士に至っては聞いただけだけど、彼も大切な嫁の為に戦ってたって言うし。そんな、最期に自分の願いや意志を託して未来を願う様な優しい心を持つ人達が、狂ったように戦うだろうか。

 ――もし、あの手紙自体に何らかの術式が施されてあったとしたら。


 あり得る。だって主催者は黒魔術を使えて言葉を発するだけで洗脳できるような奴だ。なら文字や手紙に何らかの術式が施されてあっても何ら不思議はないんじゃないのか。

 その内容が殺し合いを誘発する様なものだったとしたら。

 もし、別の目論見があったとしたなら。


 そんな風に考えていたから気づけなかった。背後から刃を持った誰かが近づいてきている事に。滑空するように音もなく近づいて来たソレに反応したのはクロエが先で。

 刀を抜いてティアルスを押すと火花を散らせた。


「――危ない!!」


「わっ!?」


 振りかざされた刃を弾いたクロエはティアルスを覆い、被さる様にして追撃を防いだ。相当軽いのだろうか、刃を弾かれた少女は跳ね上がる様に宙を舞ってから少し離れた所に着地する。

 言ったい何がどうなってるんだろう。そうやって少女を見た瞬間に2人は戦慄して一言も言葉が出なくなってしまう。


「な――――」


「え……!?」


「あーあ。弾かれちゃった。お姉ちゃん耳良いんだね」


 陽気な声でそう言う少女をひたすらに見つめる。

 桃色の髪のショートをした、ボロボロぼマントを羽織りマチェットを手にした少女。


 ――――サリーを。

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