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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第一章 零の追憶
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第一章2  『記憶探し』

「どう? 何か分かりそう?」


「どうだろ……」


 イルシアと街を歩き回る中、問いかけられた言葉に曖昧な言葉で返した。

 何かが分かるどろか驚くばかりで次第と確信へ至る。こんな風景は初めて見るから本当に記憶がないんだって。


「えっと、確かナルクの街?」


「ナルクの街」


「少なくともそんな街名は知らないし、この光景も見たことがないかな」


「そっかぁ……。ま、そう上手くはいかないよね」


「す、すまない」


 ありのままを答えると肩をガクリと落とした。

 そんなイルシアに謝りつつも必死に思い出そうとしてみる。

 瓦の屋根に木製の建物が並ぶ景色。活気の良い街。獣人の混じった人並み……。でもどれだけ考えたって何かを思い出せる訳じゃなく。


 イルシアはう~んと深く考えこむティアルスの頭にポンポンと手を乗せた。何か、子ども扱いされてるような気がする。

 残念そうな表情から一変、前向きな表情へと変えたイルシアは言う。


「じゃあ次はあっち行ってみよっか。離れちゃダメだからね」


 やっぱり子ども扱いされてる!?

 自身じゃ結構大人な方かと思っていたから思わず面を食らう。だってイルシアより少し小さいだけで他の大人と同じくらいだし。

 でもそんな事知らぬとまた手を引いた。

 しかしその最中でティアルスは少しだけ閃く。


「そうだ。歴史とかってどうなってるんだ?」


「歴史? ……ああ、そう言う事ね」


 風景を見ても思い出せないのなら歴史を知ればある程度は……って思ったのだ。考えを汲み取ってくれたイルシアは指を鳴らすと「いい案じゃん!」と納得して歩く方向を変える。

 そうして少し遠くの方にある大きな建物を見つめた。


「もうこの際やれるだけやってみよっか。時間がかかる事だけは確実だけど……じっくり考えるのは私の性に合わないし。ティアルスも早く知れた方がいいもんね」


「あ、ああ」


「じゃあ早速行くよ! 有言実行!!」


 【――■―■■■――■■】


 楽しそうに言いながら歩みを少しだけ早める。そんなイルシアにただ付いて行った。――どこか懐かしさのような物を感じながら。

 確信は無い。確証もない。

 ただこの手を繋ぐ光景だけはしっかりと覚えていた。

 連れられていた人は自分じゃない。どこかの誰かな気がする。でも、その人は凄く笑顔で……。

 でもそれ以降は何も分からなかった。



    ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 世界は何度も終焉を迎えている。その度に世界は生まれ変わって新たな歴史が始められる。そう言われているらしい。

 一番初めに世界が終わったと思われるのは今から4000年以上も前の事。


 4000年前。世界を崩壊させた大罪人がいたらしい。それらは憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲、傲慢と罪に分けられ《7つの大罪》と恐れられた。

 憤怒の魔女。

 嫉妬の邪竜。

 怠惰の賢者。

 強欲の悪魔。

 暴食の鬼神。

 色欲の精霊。

 傲慢の魔獣。

 そんな風に分けられては悪の象徴として人々は蔑み恐怖する。

 咎人達は各々の自己的欲求だけで世界を貶めたという咎を背負い、中では今でも生きてるんじゃないかと噂される大罪まであるとかないとか。

 そうして世界は最低7回終焉を迎えていた。


 しかし今から300年前。《世界衝突》なる現象によって世界はまた終焉を迎える。本来交わらぬ別の世界との交錯――――即ち2つの世界の衝突。それによって引き起こされた崩壊はまさに終焉で、そのせいで世界の5割が書き換えられたとか。

 《世界衝突》の被害は壮絶なる物で、世界の5割なのだから生命の5割も上書きされた事になる。互いの世界が融合した事によって巻き起こったのは戦乱。2つの世界が総力を挙げて争い合った。


 だが戦乱は1人の英雄によって終わりを告げる事になる。

 英雄は自らの力を代償に戦乱を終わらせ世界を平和に導いたのだ。やがて世界はその英雄を大英雄と讃える様になり、比例して大罪は最悪の罪と卑下される様になった。

 そんな風に季節は巡り、英雄の物語は詩となって受け継がれる――――。



    ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「駄目だやっぱり分からん……」


「もっと正確な情報があれば少しは変わったと思うんだけどね~……」


 図書館へ向かって歴史を簡潔にまとめ上げてくれたけど、思い出すどころか頭痛を感じて頭を抱えていた。やっぱり自分に記憶はないのだろうか。

 頭に手を乗せるイルシアは優しくポンポンしながらも片手で本を読み続けていた。


「今ある本でも結構不明瞭な所が多いのよ。本当にそうなのか隠蔽してるのかは知らないけど」


「どういう事だ?」


「簡潔にまとめたから違和感はないと思うけど、全部読むと「これ本当か?」って思える所が多々あるの。まあそう思った所で私じゃどうにもできないんだけどね。それより次の手を考えなきゃ」


 しかしそんな事はさて置きと大事そうな疑問を放り投げて別の事を考え始めた。ティアルスも自分で考えてみるけど、自分自身で覚えてない記憶を取り戻す方法なんて……。

 どれだけ考えても浮かばないから机に突っ伏した。

 それを諦めと見たイルシアはつんつんとつついて喋り出す。


「じゃあ、もう消去法でやるしかないよね」


「消去法ってまさか」


「考えられる手段を全て実行する!」


「だよなぁ……」


 別にここで疲れたから嫌だなんて言う気はない。

 ただあまりにも慣れない街中を歩いて聞きなれない歴史を聞き頭を必死に動かしたんだ。少しだけの頭痛と熱が精神力を奪うだけ。

 だけどそれを伝える前にまた手を引っ張られて外へと連れ出される。

 もうどうにでもなれの精神でやるしかないか……。


「ほらほら、君の記憶を取り戻すだけなんだから!」


「何か楽しそう……?」


 イルシアにとって他人事のはずなのに、彼女は凄く楽しそうな表情をしながら街を走っていた。一体何が彼女をそこまでさせるのだろう。

 街中を走り回る中、度々イルシアが振り返って来る。

 ここでも離れないか子ども扱いされてるのか。


「最初の特徴的な場所はここかな。橋下の川。街のイメージに反して石が丸見えだから結構特徴的だけど」


「う~ん……。分からない、かな」


「じゃあ次!」


 そうしてイルシアはまた手を引っ張った。

 向かうは結構離れた時計塔の真下。遠くから見ただけでも大きかったけど、真下から見るとこれまた結構大きい……。


「次は時計塔。ここは見て分かる通りかなり有名な所だけど……どう?」


「ごめん……」


 顔を左右に振る。

 ティアルスだってこんな大きな建物があれば覚えていると思うけど、思い出せない限り本当に覚えてないのか。目を逸らして謝るとイルシアは笑顔で「大丈夫」と答えて見せた。それからもう一度頭の上に手を乗せる。

 すると気を取り直す様な勢いで次へ急いだ。


「ほらほら。急がないと日が沈んじゃうよー!」


「ちょっ、待って!」


「待たない~!」


 【■―■■――■―】


 子供みたいな返答をするイルシア。

 手を引かれて走っている途中にもう一度あの感覚が一瞬だけ蘇った。

 イルシアの手に引っ張られて走る誰かの顔――――。今度はさっきと違う別の人の笑顔だ。どうして違う人なのかは分からない。だけど何故か……。


「わっ!」


「ティアルス!?」


 思い出そうとして足が覚束なくなったのか、気が付けば転んで顔面から石の地面に突っ込んだ。いきなり手が離れたからびっくりしたのだろう。イルシアはすぐに振り向いてティアルスを心配してくれた。


「派手に転んだね~。大丈夫?」


「な、なんどが……」


「あ~あ。鼻血まででちゃって」


 まさか自分でも転ぶなんて思わなかった。

 ゆっくり起き上がってイルシアが顔を覗き込んでると、心配そうな表情から一転不意を突かれた様な表情である方向を見つめた。ティアルスもその方向を視線で追う。

 だけどその先には何もなくて。


「どうしたんだ? あそこにはなにもないけど……」


「いや、確かにある」


「え?」


 イルシアはさらに指をさした。その先をじ~っと見つめてると急に建物の破片が衝撃音と共に上空へ投げ飛ばされる。

 そうした瞬間にイルシアは舌打ちをして呟いた。


「やっぱりか」


「やっぱりって?」


「最近ここらで急に魔物が現れたりするのよ。それも街中で突然ね。だからああやって建物が壊されたりするの」


「治安悪いんだな……」


「こればっかりは誰のせいでもないけどねっ!」


 するとイルシアは驚異的な脚力で飛び上がった。

 身軽な動きで屋根の上まで飛んだと思ったら普通じゃ考えられない速度で現場に急行する。だからティアルスも必死に足を動かして後を追った。

 まあ、足の動かし方とか全く違うから今回ばかりはあっという間に距離が話されるのだけど。


 だけど何で街中で魔物が現れたりなんか―――――。

 また足の動きが鈍くなる。

 魔物……。初めて聞いたのにどこか聞き覚えのある言葉だ。さっきから妙に引っ掛かる物がよく分からなくてムズムズする。これが自分の記憶って事なのだろうか。

 だけど何1つ覚えてないんだから逆に気持ち悪い。まるで“他人の記憶が混ざり合っている様で”。


 しかしそんな思考は激しい轟音と共に吹き飛ばされた。

 ふと上を向くと屋根の上で待機しているイルシアが見えたから咄嗟に呼びかける。


「イルシア、どうなってるんだ?」


「大きいのが暴れてるみたい。あれなら衛兵とか冒険者だけで何とかなりそうだけど……どう転ぶかは分からないかな」


 そう言いながら降りて来たイルシアは腰に下げていた刀の柄に手を触れた。

 でもティアルスは聞いた瞬間から疑問を覚える。だから何の躊躇もなくその疑問を投げかけてみせた。


「……戦わないのか?」


 魔物っていうのがどれくらいの強さかなんて知らない。というか覚えてない。だけどあれだけ大暴れしてるのに助けに行かないなんて。

 するとイルシアは急に目を細めて語り出した。

 それも今さっきまでとは別人の様な声で。


「――私みたいなはぐれ者の剣士はこの街じゃ疎まれる対象なの。だから仮に戦ったとしても邪魔になるだけ。それにみんなからの視線、結構不思議だったでしょう」


「えっ?」


 そんなの初めて聞いた。

 けど今思い返してみれば確かに妙な視線を向けられていた様な気がする。みんなとは言わずとも特定の人から。でも、なんで――――?


「色々あってちょっと嫌われてるんだよね。まあ、色々と。だから山奥の家で暮らしてたの。ごめんね。何か隠すみたいな事して」


「いや、それは別にいいんだけど、何でイルシアが嫌われなきゃいけないんだ」


「何でって、え~っと……」


「だって何も覚えてない俺を助けてくれて、ここまで面倒を見てくれる優しい人なのに、なんでそんなイルシアが疎まれなきゃいけないんだ?」


 隠してた云々なんて今はいい。ただイルシアが嫌われる理由だけがどうしても気に入らなかった。だけど手をかざして制止させたイルシアは言う。


「そんな事より! 今回は私がいなくとも何とかなりそうだから、今の内に離れ――――」


 だけどそう言った瞬間に背後の家を突き破って何かが迫って来る。

 見えたのは鎌のような形をした白色の……脚?

 その脚がイルシアの脳天へと真っ直ぐに振り下ろされた。

街の名前変えました。まあ物語に関係はないのですけど。

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