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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第二章 存在と証明
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第二章10 『死闘の理由』

「はやっ!」


「ぐっ!!」


 男が大剣を振り回す度、3人は風圧や飛んで来る木の破片に足を止める事を余儀なくされる。更に厄介なのはその威力と速さ。威力が高いのは当たり前として振り回す速度が途轍もなく速い。

 もし回避出来たとしても風圧としての二連撃目が全身を襲う。殺傷度がないのが幸いだけど、その代わり態勢を整えるまでの間に次の攻撃が来るから、さらにその攻撃を回避する為に大きな体力を消費させられる。


「オラオラ! そんなんじゃ殺せねぇぞ!!」


 なのに、そんな威力を秘めた大剣を男は片手で振り回す。驚異的な腕力に肝を抜かれる。例えラインハルトの師匠であるシファーでもあの荒業は難しいだろう。

 2人が必死で避ける中、クロエは奴の隙を暴こうと鼻と耳に意識を集中させていた。


 ――落ち着いて。私の長所を生かすの!


 獣人族の最大の特徴は耳が良い事と鼻が良い事。だから普通の人間にはないこの長所を生かして隙を見付けるんだ。

 匂いと音じゃさして隙を見付けられそうにないかも知れないけど、それでも微かな発見が大逆転に繋がる事だってある。だから回避をしつつも耳と鼻に意識を集中させた。


「らあああぁぁぁぁッ!!」


「っ! 良い威力じゃねぇか。だがまだまだ弱えぇ!!」


「――させるかッ!」


 ラインハルトの一撃を受け止めるも何の反動もない。それどころか余裕の笑みまで見せるし始末だ。

 彼の一撃は重い。だから攻撃直後は多少の隙が出来てしまう。男がその隙を逃す訳もなく、一瞬の内に叩きこもうと大剣を素早く振り上げた。その直後にアルスタが高速で攻撃を仕掛け阻止する。

 だけどそんな攻防も空しく男が床を踏んで発生させた風圧で吹き飛ばされる。


「どうしたどうした。まさかもう疲れたって事ァねぇよな?」


「ぐッ……!」


 絶対に許せないアルスタは奥歯を噛みしめた。

 やっぱり3人で束になっても男には傷一つ付けられないのか。これじゃいつ倒せるかも分からないし、もしもう片方の男が奴と同じ強さなのだとしたら。そう思うと焦燥が体を蝕んで行った。

 男は両手で大剣を握り締めると言う。


「俺も俺で時間がねぇんでな。早い所血ィ捧げなきゃいけないんだ。だからそろそろ死んでくれ」


「っ! デカいの来るぞ!!」


 そうして3人は重心を後ろに移動させて退避する準備をした。片手であれ程の威力を発揮できる男だ。両手で振られちゃ建物がどうなるかさえ分からない。

 振り下ろすのと同時にソニックブームも飛んで来て。


「――――ッ!?」


 でも、その時に微かな隙……いや、違和感のような物を感じ取った。奴が両手で握り締めた時に何かが鳴った様な気がする。

 何とか避けられたもののその反動は大きい。

 だからクロエとラインハルトが怯んでいる隙にアルスタが2人の間を高速で駆け抜けた。


 あれだけ大きな技を繰り出せば刹那の内でも反動で動かなくなるはず。だからアルスタは急速に接近しつつも刃を“神速”で振るい、目にも止まらぬ速度で幾重にも縦横無尽に斬り払った。あまりにも速いからか背後の壁には切り刻んだ跡が出来る。

 ふと血が舞った。もしかして刃が届いたのか、と期待を抱く。

 アルスタの刃は確かに奴の届いていた。けど致命傷にはならなくて、傷口から微かな血が飛んだだけに過ぎない。


「――《暁光流》だな」


「っ!?」


 その剣筋だけで流派を見抜いた男は硬直から回復して反撃した。

 蹴り飛ばされたアルスタと入れ替わる様に2人で駆け抜け、同時に刃を振り下ろすけどそれも阻止される。だからクロエは刀の向きを変えて直後の反撃を受け流した。


「はぁッ!!」


 空中で体を捻りつつもう一度刃を振る。けれど受け流しが間に合わなくて距離が離され、刃は剣先が頬に掠める程度でしか当たらなかった。せめてもう一撃。そう思ってまた刃を振るう。

 床に着地した直後に踏み出して上下の二連撃を繰り出した。けど、それもまた一歩及ばず。


「やるじゃねェか!」


「――危ない!」


「させねぇッ!!」


 そうして振り下ろされた刃をラインハルトとアルスタが真正面から受け止めた。刀を互いに交差させ、受け止めた所からは大量の火花を発生させる。


「いつまで耐えられるかァ?」


「ぐッ……! っぅ!」


「ガ、ああああぁぁぁぁ!!!」


 すると男は両手で握り力一杯大剣に重さを加える。

 あまりの重さに2人の足場は次第と壊れて行き床に沈んでいく。――骨が悲鳴を上げる音が聞こえる。指先の筋線維一筋たりとも力を抜いたら潰されるだろう。

 だからそうさせない為にも背後に回り込んで刃を振り下ろそうとした。

 けどそんな状況の最中なのに右足を持ち上げてクロエを蹴り飛ばす。


「がはッ……!」


「クロエ!!!」


 体が壁にめり込む。ラインハルトの声が聞こえるけどくぐもってよく聞こえない。吐血しながらも震える手で刀を握り締める。

 早く行かなきゃ。じゃなきゃ、2人が潰される。


 ――動いて、体……!


 必死に念じて体を起こす。今の状況であの2人が動けるとは思えない。だからこそクロエが助けなきゃ死んじゃう。そんな事、絶対にさせたくはないから。


「―――――っ」


 刀を構える。足にマナを充填させる。

 今のこの状況を覆せるかも知れない型を使えば可能性はある。姿勢を下げて腰の横に刀を置いた。後は飛び出して空中で体を捻り、直後に腕にマナを集中させて思いっきり解き放てば――――!


 ――四の型:飛花迅空。


「はあああああぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


「っ!」


 全身全霊の一撃を見た男は防ごうと大剣を動かすけど、ラインハルトとアルスタによって阻止され大剣を弾かれる。その反動に驚愕でもしたのか体が硬直した。

 ほんの一瞬だけでも生み出された奴の隙。

 何も迷わずにその首を斬り落とそうと刃を叩きつけた。

 でも、直後に飛び散ったのは首じゃなく腕で。


「なっ!?」


 男は首が斬られるくらいならと右腕を代償に間一髪で回避したのだ。腕を斬らせた事によって速度が落ちた刃を躱し、斬り落とされた腕を噛んで傷口から出る血を顔面にかけて来る。

 目に入らない様に瞼を閉じてしまうけどその時点で死んだも同然。

 だって、その時には大剣が振り上げられクロエに直撃しているのだから。


「クロエ!!」


 振り上げられた大剣は胸に続いて頬と目元を切り裂く。腕は切り落とされなかったけど右肩を深く斬り込まれた。これじゃあもう刀はまともに振れないだろう。

 さらに振り下ろしの攻撃が庇ったアルスタに直撃して右目をやられる。


「俺にここまでの怪我を負わせるとはな……。それに今腕を斬れなかったのは悔しいぜ」


「くっ……!」


 2人が怯んでいる内に男は大剣を床に突き立てて切り落とされた右腕の傷口を握り潰す。そうして止血してみせた。

 だけどこの中じゃまだ無傷な人だっている。

 ようやくきちんとした構えが取れたラインハルトは全身全霊の一撃を叩きこむべく床が割れるくらいの威力で踏み込んだ。男もその事に今更気づくけど既に遅くて。


「らああああぁぁぁぁぁぁぁ―――――ッッ!!!!!」


「は!?」


 地獄の業火の様な闘志を威嚇として具現化させたラインハルトは、普通なら腕が壊れてもおかしくない威力の一撃を叩きこんだ。奴もあまりの一撃に驚愕でもしたのか防御を少しだけ遅らせた。その微かな遅れが刹那の好機を生む。

 ラインハルトの一撃は男の大剣をずらすどころか弾き飛ばして胴体をガラ空きさせたのだ。

 その隙をアルスタが見逃す訳もなく全身に雷――――じゃなく冷気を纏わせる。


「――――っ」


 あまりの寒さに床を少しだけ凍らせると、稲妻の如き速度で飛び出して神速の刃を振るう。さっきの様に縦横無尽の斬撃を刹那の内に繰り出すと背面を切り刻んだ。それと同時に残った左腕を深く切り刻む。

 ――だけど倒れない。人間なのか疑う程の頑固さを見せると、男はもう振れないはずの左腕から大量の血を撒き散らしながらも大剣を振り回した。


「くっ……。何でそこまでするんだ! それ以上やったら本当に死ぬぞ!!」


「死ぬ気でやってんだこっちはァ!!!」


 既に焦点が定まっていない。足つきも酔ったみたいにフラフラしているし、口からは唾液の代わりに血が零れている。そんな姿になってまで戦おうとする男の姿はまさに“狂気”だった。

 血を撒き散らしつつ叫んで乱暴に大剣を振る。


「俺は……駄目だ。これしか出来ねェんだよ。あいつの為にも、俺は、血を捧げて、願いを……!」


「あいつ……?」


「これしか道がねぇ。あいつの為に、俺は……!!」


 男の声は次第と震えていった。悲観混じりに聞こえるその声は全員の心を揺さぶり、そして惑わせていく。……分かっていた。この男も譲れない物の為に戦ってるんだって事は。でも知りたくなかった。こうして少しでも迷ってしまうから。


「あいつってのは家族か?」


「――ああ。そうだ。俺の嫁だよ」


「…………っ!」


 その言葉に全員が喉を詰まらせた。

 つまり、この男は自身の嫁の為にこの異変に参加していた……。あの感じだと貧層か白い眼で見られてるとかの感じだろうか。

 男はもう力も入らないはずの朽ちた腕を持ち上げ大剣を振り上げる。


「だから、俺とあいつの為に、死んでくれや!!!」


 既にまともに持てもしないのだろう。半ば投げ捨てる動作で大剣を振り下ろすけど誰にも当たらない。膝を付いて嗚咽交じりの叫び声を上げるけど、誰も何かを言ったり止めを刺そうとはしなかった。


「がふッ! ご……グブァ……!」


「っ……」


 苦しそうに吐血するのを見て反射的に目を背けた。

 もう戦える力は残ってない。なのに、それでも尚戦おうと朽ちた左腕で大剣を握る。そんな姿を見てられないと終いには目を瞑る。

 ――だけどその瞬間に違和感を感じ取る。

 何かが込み上げる様な音だ。体の内から蝕んで体外へ出ようとしてる様な――――。


「家族の為に。その気持ちはよく分かるぜ」


「ぐ……。ゴボッ! かはっ……うぇっ……!」


「だけどその為に躊躇わず殺すのは違うんじゃないのか。お前は本当にそれを望んでるのか」


 アルスタはそう問いかけた。すると男は涙ぐんだ瞳でアルスタを見つめ、しばらくその態勢で苦しみながらも考える。

 やがて呟いた。


「おれ、は……。のぞ……で、ぁん、か……!」


 「俺は望んでなんか……」。その言葉を聞いた瞬間に理解する。彼も彼でまた苦しみもがき悩んでたんだって。でも家族の為にはと願いを叶える為に人殺しを――――。

 するとアルスタは刀を振り上げた。


「せめて俺が楽にしてやる」


 そう言って刃に光を反射させる。

 彼は既に諦めたのだろうか。力なく腕を垂れさせて瞼を閉じた。そしてアルスタが刃を首へと振り下ろそうとした瞬間の事だった。


「――ガッ! グッギギギギ、ガガ、ァァァァァァァァ!!!」


「なんだ!?」


 急に男が苦しみ始めた。

 うずくまって必死に抑える様に体を抑えるけど、その苦しむ様子は次第に増して行って、明らかに異常な光景を見せる男に3人は困惑した。

 けどそれ以上に驚愕する出来事が起きて。


「ァ―――――」


 男の背中が破れ、中から赤黒い何かが脱皮する様に這い出て来たのだ。

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