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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第二章 存在と証明
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第二章7  『嫌な予感』

 数日後。


「あそこのお店――――」


「駄目ですよ」


 レシリアがデザートに惹かれて近づこうとする度、クロエがそう言いながら肩を掴んで制止させる。そんな光景を3人で見つめていた。

 あれから色んな情報が手に入り、この街に多くの剣士が入り込んでいるとの情報が手に入ったから怪しい剣士はいないかと見まわっているのだ。それも見回りと言うよりかは散歩の雰囲気に近いけれど。


 大人組は大人組で今日も忙しく色々とやっている。その中である程度強くなったティアルス達は道を覚えるのも兼ねて見回りしている、というのが現状だ。というより動けない大人達の代わりを務めてるって感じだろうか。

 ティアルスは自主練とみんなの応援もあって未完成ながらも全身強化を習得した。至らないところはまだまだあるけど。そうする事で平均的な強さはみんなと同じになったからこうして見回りをしている。


「どうだ。見つかるか?」


「いや、今の所全く反応ないな」


 そしてどうやって怪しい剣士を見付けるのかって話になるけど、そこでようやく今までさして活躍出来なかったティアルスの出番って訳だ。……ただし正確に言うならティアルスの魔眼の出番だけど。


「でも本当に俺の魔眼で見つかるのか? そういう区別の付け方ってよく分からないんだけど……」


「俺も詳しい事はよく分からない。けど本には悪意を持ってる人が直感で分かるって書いてあったし、見つかるとは思うんだが」


 アルスタはそう言って頭を掻く。

 本によると魔眼を持つ人は相手の善悪――――つまり憎悪があるかないかを判断出来るらしい。そしてこの異変で殺そうとする剣士は全員狂気じみた憎悪を持っているから、もしかしたら魔眼でソレを見抜けるんじゃないかって思い至ったらしい。

 ラインハルトの師匠であるシファーが。


「なんかごめんな。ティアルス任せみたいになって」


「いや、別に全然いいんだ。それに頼られるって結構嬉しいし」


 謝るラインハルトに向かって笑顔でそう返す。

 でも本当にそう思っている。今で頼られるどころか頼る事しか出来なかったし、だからこそこうして頼られる事が何よりも嬉しい。


 でも、どれだけ見回しても憎悪を持った剣士は見当たらなかった。それどころか誰も憎悪とか負の感情を抱いていない事に驚く。こんなに人がいるんだから1人くらい憎悪を持っててもおかしくないけど。


「……今の所は0人だな。普通なら平和で安心なんだろうけど、今は逆にそれが不安だ」


「まあこんな状況になっちゃな。もし剣士がいたならこの街に殺人鬼がいるって事になるし、隠れてるって事にもなる」


「そうなると厄介だ……な……?」


 しかしティアルスはある事に気づいて足を止めた。

 よく周囲を見渡して何に引っ掛かったのかを確かめる。何と言うか、微妙に視界が変って言うか、少し視界が白いきがする。

 でもその答えはアルスタが答えてくれて。


「なあ。なんか微妙に白くないか?」


「ん? ああ、霧だな。ここって朝霧の森と近いから、たまに霧がこの街に流れ込んで来るんだよ」


「なるほど」


 さっきから視界が妙に白かったのは霧のせいだったのか。いつもとは違く見えたからこれも異変の影響かと思った。

 ――と安堵するのも束の間。

 突如、あり得ない程の重苦しさがティアルスを襲う。


「ッ!?」


 体に降りかかる重苦しさに耐えながらもまた周囲を見渡した。

 これは――――何だろう。禍々しくて、様々な感情がせめぎ合い、ドス黒い色をした、あり得ないくらいの負の感情。そんな物が突然現れる。

 そうして方角を特定すると、ちょうどティアルス達が向おうとしてた道の先から真っ黒な『色』が空を覆い尽くそうとしていて。


「――ルス? ねぇ、ティアルス!!」


「っ!!」


 レシリアが必死に呼びかけてくれたから我に返る事が出来た。息を荒くしながらも不安そうにこっちを見つめるみんなを見る。

 深呼吸してから心を落ち着かせると指を指して行った。


「……あの先で、あり得ないくらいの憎悪を感じた」


「あり得ないくらいの憎悪……」


 その言葉にアルスタが喉を鳴らす。

 今さっきのお散歩気分から一変、5人の間には緊迫した空気が流れ込んで来た。それも無視しようと出来ない程の。

 無意識の内に借りた刀に触れると、ティアルスは警戒しながらも歩き始める。

 もしこれが異変に参加している剣士の物だったのだとしたら――――。


「もう、憎悪は無い、けど……」


 魔眼で確認してももう憎悪は感じられない。いつも通りの光景だ。

 けど、だからこそ警戒は増して行った。4人もティアルスの後を追って慎重に歩く。もし、向こうがこっちを視認出来ているのなら。それで意図的に憎悪を解放したとしたなら。

 そう考えていたからか、目の前にまで迫っていた子供に反応出来なった。


「おっと」


「わっ!」


 ティアルスにぶつかった子供は派手に転んで一回転すると、尻を付いてこっちを見ていた。だから慌てて手を貸すけど顔を見た瞬間に思い出す。

 ぶつかって来た子供がこの街に来て初めて会った双子の子供で。


「君は、双子の……」


「あっ。お兄ちゃん!」


 もしかしてと思って少女の後ろを見ると、もう一人の少女がこっちに駆け寄っているのが見えた。だからすかさずクロエを盾にして会話を逃れる。


「せっかくなら話してみればいいのに……」


「ごめん」


 クロエにそう言われながらも目を背ける。

 だって、その双子は記憶の中で――――。さらに今起った謎の憎悪によってティアルスの思考は良くない方角へと曲がって行く。

 そんなはずないって頭では分かっていても心が否定してしまう。

 あの双子がそんな事するはずないのに。


「どうしたんだ、ティアルス?」


「何でもない。ただ子供は少し苦手で」


「分かるぜー、その気持ち」


 どうやらアルスタもラインハルトも子供が苦手そうだった。ラインハルトは逆に好かれそうなイメージあるのに。

 クロエとレシリアに双子を任せていると、2人は振り向いて言う。


「この子達『ラックの宿』って所に行きたいらしいんだけど、分かる?」


「ラックの宿か。確かこっちだったような……。せっかくだしその方角も見まわってみるか」


「あ、ああ」


 ラインハルトが振り向いた方角は行こうとしてた向きとは真逆。気を逸らす様にティアルスへ振ると、戸惑いながら頷く。

 あそこへ行こうって気持ちはもちろんあった。でも仮に行けたとしてもこの5人であれだけの憎悪をどうにかできるかなんて分からない。だから今は放置して反対側へ進んだ。


 ただ、妙な気がかりを残して。



 ―――――――



「お父さんはどこかにいるの?」


「パパは夜までお仕事だから、私達はこうして街で遊んでるんだー」


「そっか。でも迷ったりはしないの?」


「うん。妹のリサがいるから平気なの!」


 レシリアと双子の姉であるサリーが楽しそうに話してる間、残りのクロエとティアルスは互いに妹であるリサの手を繋いで歩いていた。ちなみにアルスタとラインハルトは先頭で道案内をしている。

 クロエも会話を試みようとするけどそう長くは持たない様子。

 だから一応助け舟らしきものを出した。


「リサはお父さんがいなくて寂しくはないのか?」


「うん。サリーがいるから平気なの。でも、パパがいた方がもっと嬉しいかな」


「お父さん、大好きなんだね」


「うんっ。自慢のパパなの!」


 するとリサは眩い笑顔で答える。その笑顔にティアルスは今さっきまで感じていた違和感を自然と投げ捨て、3人での話に没頭した。

 そんな風に話しているとクロエが呟いて。


「……なんか、こうしてると家族になったみたいですね」


「ん? 俺達は家族じゃないぞ?」


「そう言う意味じゃなくて、ええと」


 素の状態で答えるとクロエは少しだけ頬を染めた。

 首をかしげていると、今度はリサの方からこっちに向けての質問が飛んでくる。


「お兄ちゃんとお姉ちゃんは剣士なの?」


「うん。悪い人を懲らしめる正義の剣士だよ」


 するとリサは憧れた様に目を輝かせる。やっぱり、そういう言葉とかって子供を魅了させたりするのだろうか。実際ティアルスもその言葉はかっこいいって思ってるし。……子供じゃないけど。

 ――だけどその輝かしい瞳に一瞬だけ深い霧がかかった気がした。

 その直後に言う。


「じゃあ、もし私達が悪い人になっちゃったら、お兄ちゃんとお姉ちゃんは私をやっつけに来る?」


「それは……」


 でも、子供にしては重々しい質問にクロエは答えられなかった。元気よく動いていた黒い耳や尻尾も今の質問で力なく垂れている。

 だからティアルスが代わりに答える。

 嘘なんかじゃなく、本当の志しを持って。


「やっつけるんじゃなくて、引き戻しに行くよ。2人が誰かを思いやれる優しい子って知ってるから。もちろん知らなくても引き戻すけど」


 その答えにクロエは感心した様に目を丸くする。

 これが今のティアルスに出来る最善の答えだ。まだ小さい子に残酷な事は言えないし、何より夢を持たせてあげたかったから。これで夢を持ってくれるかどうかは別として。


 けど父親と互いを思いやれる優しい双子だ。この子達ならきっと大丈夫だろう。……今はそう言い聞かせるしかなかった。

 だって、今の質問で良くない思考がさらに膨らんでしまったから。

 頭では分かっているのに心が訴えかけて来る。だからそれを必死に抑え込む。


「そう。大丈夫だよ、私達がいるから」


 クロエはイルシアが言っていた言葉を借りると、桃色の髪を優しく撫でてあげた。するとリサは凄く安心した様な表情で頷く。こうして誰かを安心させられるのもクロエの優しさなのかも知れない。

 やがて目的地へ到着すると、サリーは一足先に駆け込んで宿の中へ入って行った。

 同じようにリサも駆け込むとこっちに振り向いて言う。


 その瞳に喜びや切なさの『色』を浮かべながら。


「――ありがとう!!」



 ―――――――



「どうだったかい、今日のお散歩は」


「楽しかった! 5人のお兄ちゃんとお姉ちゃんに会って沢山お話したの!」


「そして私達を宿に案内してくれたの」


 夜。ランタンの優しい光だけが部屋を照らす中でサリーとリサは彼と話し合っていた。2人が誰よりも心を開いている“パパ”に。

 すると彼は嬉しそうに大きな手で2人を抱き寄せる。

 とっても温かく優しい手で。


「それは良かった。僕は2人が楽しそうで何よりだよ」


「でも、私達はパパと一緒の方がもっと楽しいよ?」


「おや。嬉しい事を言ってくれるね、サリー」


「そうそう! 私もパパと一緒にいた方がもっと楽しいし嬉しいよ!」


 そうして2人は負けじと彼に抱き着いた。2人の言葉は本当に心の底から出て着た言葉で、決して嘘なんかじゃない。だからそれを知っている彼はさらに2人を抱きしめて頭を撫でてくれる。


「ねぇ、パパ。いつになったら昼も一緒にいてくれる?」


 そう質問すると、彼は顎に手を当ててう~んと考えた。

 確かに2人きりで街を散歩するというのも十分楽しい。毎日新しい事の発見ばかりだし、今日みたいに優しい人達と触れ合える事が出来るから。でも、やっぱり彼と一緒の方が嬉しいし、幸せ。


「お仕事が忙しくてね。もう少しかかるかな」


「そっか……。ふぁ~っ」


「今日も沢山遊んだみたいだね。もうお休み」


「「は~い」」


 そう言って2人は寄り添ってベッドの中に入った。

 互いに向かい合って手を握ると、凄く安心して眠りに入る事が出来る。今日は沢山走って沢山話したから疲れたからすぐに眠れそうだ。

 そうして目を瞑るとすぐに意識は暗闇の底へと落ちていく。

 ただその時、誰よりも安心する人の声を聞いた。


「お休み。2人共」


 扉が開かれる音と共に。

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