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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第一章 零の追憶
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第一章17 『予兆』

「この街、ナルクよりも活気いいのね。とても朝霧の森が近くにあるとは思えない」


「逆に朝霧の森が近くにあるからこそだ」


「えっ?」


 街へ入って少し進んだだけでも、ガルバッサの街はその活気の良さをみせつけていた。確かにナルクの街より活気がある。行き交う人の中に亜人なども交じっていて、中には完全に動物の姿をした亜人も見かけられる。

 イルシアの言う通りとても危険な所が近くにある街とは思えない。

 するとリークが説明し始めた。


「最初こそは朝霧の森があるから人口が少なかった。でも、人が近寄らない内に亜人が増えていって、ソレに目を付けて亜人を受け入れる街になった事から一気に活発化したんだ」


「ん、何で人が近寄らないと亜人が増えるんだ?」


 でも、その中に引っ掛かる言葉があったから思わず質問する。

 人も亜人もそこまで変わらないのにどうして人が近寄らないと亜人が増えるのだろう。その答えは至って単純で、そして残酷だった。


「亜人は人じゃないからな。だからよく差別の対象にされるんだ。聞いた噂じゃ、奴隷の半分以上を亜人が占めてるって聞いた」


「差別って。みんなそこまで変わらないのに……」


「きっと、君みたいな人が亜人を救うんだろうな」


 呟きながら周囲の亜人を見渡すと、リークはティアルスの頭をポンポンと撫でながらそう言った。やっぱり子ども扱いされるのは何故だろう……。

 そんな風にして街を進んでいると地図を見ながら先行していたイルシアが立ち止まる。

 どうしたのだろうと思って顔を覗き込むとそこには戸惑いの表情が映されていて。


「イルシア、どうしたんだ?」


「……った」


「え?」


「迷った、かも」


 その言葉に全員が凍り付いた。

 え、今迷ったって言ったのか。まだ街に入って10分程度しか経っていないのに? リークが地図じゃ分かりやすいって言ってたのに? 同じ事を考えたのだろう。クロエが後ろから話しかける。


「う、嘘ですよね? ちょっと地図が汚れてて見えないだけですよね!?」


「そうそう! そういう地図は使い回しだからよく汚れるって――――」


「この地図通りに進んでも辿り着けないの!!!」


 するとイルシアがリークの顔面に全力で地図を投げつけた。顔面に張り付いた地図を引き剥したリークは地図を見て絶句する。

 その後ろからクロエが背伸びをしながら見て絶句し、さらにティアルスも後ろから見て絶句した。イルシアって多分……。


「イルシア、これ……逆だ」


「えっ」


 地図が読めない人なんだ。

 リークがそう言うとイルシアは少しだけ悶え、後に地図を手に取るともう一回リークの顔面に投げつけるどころか殴りつけた。


「ン゛ッ!!」


「ぐーぱん!?」



 ―――――――――



「まさか現在位置を掴むために入口まで戻るハメになるとはな~」


「殴るぞ」


「すまない」


 照れ隠しがやや乱暴な事を知りつつ、イルシア一行は入口から館を目指していた。今度はクロエとティアルスが先頭に立ち2人を導いている。

 そんな中でクロエに耳打ちする。


「イルシアって照れ隠しの仕方乱暴なんだな」


「でも師匠が照れる事って滅多にないので凄くレアですよ」


 新たにイルシアについての知識を頭に刻みつつも街を歩く。ここは前みたいに嫌な目線で見られる事もないし、ナルクの街と比べていくらか居心地がいい。どうせならこういう街に住んでみたいものだ。

 そうしてクロエと一緒に見ながら右へ左へ曲がっていると、ある子供にぶつかって後ろへよろけてしまう。


「わっ。ごめんなさい!」


「あ、ああ。大丈夫だ」


 ティアルスにぶつかった少女は幼く、背後からはもう1人の少女も走って来た。でも驚くべきなのはその容姿で。短い桃色の髪で2人とも左右対称に青のヘアピンをし、金色の瞳した2人の少女。1人の人間が分裂したかのように似通っていた。


「えっとね! 『カリールの家』って建物どこにあるか知らない?」


「ちょっと! サリー!」


「……ごめん、頼む」


「えっ?」


 直感で子供の相手は苦手だと判断してクロエに任せた。まだ人との関わりに慣れてないからなのか、ああいう元気すぎる子はちょっと苦手かも知れない。

 その間に地図を確認しているとある事に気づく。


「……ん」


 地図の端の方に【立ち入り禁止区域】と書かれているのだ。やっぱり大きい街だしスラムとかいうのもあるのだろうか。まあ、今は関係ない話だけど。

 方角を確かめながらも位置を確認している内に子供達の案内も終わったようで、クロエがつんつんとつつくからまた歩くのを再開した。


「どうしたんです?」


「いや、この街にもスラムってあるのかなって」


「ああ。この街の端っこにはスラムがあるとかないとか」


 すると背後からリークが説明を挟みつつも地図の端を指さした。やっぱり、貧民層と裕福層には差があるんだ。

 しかし今は目的地に着く方がいいと決めつけて歩き出した。

 でも、


 【■―■■■――■――――■!!】


「――――っ!?」


 今まで以上に激しい記憶が流れ込んでつい膝を付く。

 急にティアルスが膝を付いた事にみんなが心配してくれるけど、今だけは構ってあげる程の余裕が微塵も無かった。

 だって、流れ込んだ記憶には、さっきの双子が――――。

 次第と鮮明になっていく誰かの記憶に違和感を抱き始める。


 ――そんなはずない。きっと気のせいだ。


 だけどそう決めつけて言い聞かせるしか方法がなかった。

 全身が不安に駆られる。否定も肯定もしきれない誰かの記憶に、ティアルスはただひたすら耐えるしかなかった。


「大丈夫、ティア?」


「ああ。何とか大丈夫」


 正直、全然大丈夫なんかじゃない。それどころかより一層不安に駆られるばかり。でも今は自分に嘘を付いてでも「大丈夫」だと言う事に決めた。

 クロエに肩を貸してもらいよろけながらも立ち上がるとリークが咄嗟に助け舟を出してくれる。


「まだ傷は完治してない。またよろけてしまう前に早く館へ向かおう」


「そうね」


 するとイルシアはお姫様抱っこ――――をすると嫌がるって気づいたから背中におぶった。まあ、この傷なら周りから見ても何とも思わないだろうか。

 急な誰かの記憶にティアルスが怯んでいる中、イルシアはふとリークに問いかけた。


「そう言えば手引きはしてあるって言ったけど、どういう所なの?」


「簡単に言えば武家屋敷だな。確か《熱血》が保有する屋敷とか何とか。俺も前にお世話になってたし、簡単に許可が下りてよかったよ」


「……今さっきまで館って言ってなかったっけ」


「館も屋敷も同じ様なものだろう」


 《熱血》という言葉にクロエが反応するのかと思ってたけど、どうやら今回は反応しない……いや、耳を凄くピクピクさせてるって事は葛藤してるのか。

 しかし《熱血》が保有するって事は、もしかしたら《熱血》もこの件を知っているのか、なんて期待を抱いてしまう。


「《熱血》ねぇ……。どんな人なの?」


「熱くてやかましい。けど困ってる人がいたら見捨てない情熱的な奴だ。条件次第じゃこっちの味方になってくれるかもしれない」


「それならいいんだけどね」


 こんな状況じゃ少しでも戦力は大きい方がいい。だからティアルスも仲間になってくれる事を密かに願った。

 そんな風に会話をしながら右へ左へ曲がっていると大きな建物が見えて来る。

 かなり大きいその建物にティアルスは目を奪われた。


「でっか……」


「あれが武家屋敷だな。これからしばらくはここで暮らす事になる」


「使用人とかっているんでしょうか……?」


「いるだろうな。あんなにデカい屋敷だし《熱血》の保有地だし」


 するとクロエは耳をピーンと立たせてからすぐに垂れさせた。尻尾もワクワクと振っていたのに言葉を聞いた瞬間から垂れ下がる。

 あれ、もしかしなくてもクロエって人見知り……?


 まだまだ遠いというのにあんなに大きく見えるとは、結構大きな屋敷なのだろう。どんな剣士がいるのかとワクワクする反面どんな目にあるのかと不安に駆られる。っていうかあの夜からそんな考えが止まらない。

 いざ屋敷の目の前まで行ってみると、その迫力に全員が声をこぼした。


「さすがね。《熱血》が保有するだけの事はあるわ。……会った事ないけど」


「こんな豪邸初めて見ました……!」


 大きな門の後ろに待ち受ける屋敷。これじゃあもう一種の城と言っても過言じゃない。でもなんでこんなにも大きな屋敷が街の中心じゃないのだろう。もっと真ん中あたりにあった方が見栄えがいいのに。

 そう思っていると執事らしき男の人が迎えに来てくれた。

 真っ黒の燕尾服を着た男はリークを見るなり頭を下げる。


「お待ちしておりました。リーク様でございますね」


「ああ。久しぶり」


「それでは、早速こちらへ。長旅でお疲れでしょう」


 やっぱり一度対面があるから会話の段階を格段に飛ばせているのだろう。執事の人は颯爽と屋敷の中へ案内してくれる。こういうのは門から屋敷の入り口まで長いのかと思っていたけどそんなに遠くなくて、少し歩いただけですぐに入口まで到着する。

 と、その瞬間から声をかけられた。


「あ、リークじゃないか! 久しぶりだな!!」


「おー、久しぶり。やっぱりここにいたのか」


 声の方角を見ると赤銅色の髪をした男がいて、その男はリークを見付けた瞬間に駆け寄って肩を組む。そうして少しの間じゃれあっていると男の興味はティアルス達に移って。


「……この少年少女達は?」


「この子達は手紙の件を知ってる子達だ。異変を解決しようとここへ来た」


「なるほど。つまりは俺と同じと言う事だな! いい心がけだ!!」


 すると男はおぶられていたティアルスの頭をわしゃわしゃと撫で始める。

 ……うん。リークの説明通り、熱くて少しハイテンションな人だ。想像してた熱血系大男とぴったり。でも執事の前で「手紙の件」と言った事にクロエが反応する。


「ちょっ。リークさん!」


「大丈夫だ。ここの人達は全員手紙の事を知ってるから」


「あ、そうなんですか……」


 最初は一定の人にしか届いてないのかと思ったけど、もしかして結構広い範囲に届いているのだろうか。まあ色んな所から剣士が来ている訳だし。前に手紙を届いてる範囲が分からない~ってクロエが文句を言ってた気がする。

 それでティアルスとクロエも混ざろうと思ったのだけど、何故か2人とも取り残されて大人組(?)はささっと屋敷の奥へ歩いて行ってしまった。


「ティアルス様とクロエ様のお部屋はこちらになります」


 だから執事に部屋を案内してもらいながら屋敷の中を歩き、屋敷の廊下を頭に叩き込んでから部屋に入った。聞いた話じゃさっきの男の人他にも剣士がここで寝泊りしているらしく、その人達は戦う気のない優しい人達だと言う。

 そして自分の部屋と言われた部屋のドアを開けたのだけど……。


「それで――――んむ?」


「え?」


「…………?」


 その部屋の中には既に2人の剣士が仲良くおしゃべりしていた。見た目的にはティアルスと全く同じ年齢だろうか。けどそんな考察は即座に消え去る。

 何よりも激しい記憶が突然流れ込んで来たから。


 【■―■■■――■―――!!】

これにて第一章は終わりとなります。

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