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彼岸に咲く願いの華  作者: 大根沢庵
第一章 零の追憶
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第一章12 『生死を賭けた選択』

 巨人が腕を振る。あの拳に直撃すれば死は免れない。だからと言って接近する速度と相手との距離じゃ回避もままならないはずだ。まさに絶体絶命――――。

 なら、不可能でもやるしかない。

 折れた左腕がどれだけ痛んでも両手で刀を握り締める。呼吸を整え、意識を研ぎ澄ませ、刃の先にだけ集中した。


 そして、一撃必殺の剛腕が振り下ろされた瞬間、


「らぁッ!!!」


 思いっきり刀を振り上げる。やっぱり、拳の表面は高質化されているんだ。攻撃する部分が柔らかいんじゃ攻撃どころの話ではないから。

 しかし受け流すにしても重い。大量の火花を散らしながらも受け流す刀が持っていかれそうになる。

 でも受け流せたのなら後は腕を斬り落とすだけ。


 ――ここだ!!


 不格好な姿勢で飛び上がりながらも空中で刀を振る。ティアルスの予想通りなのだとしたら、固いのは拳の表面上なだけはず――――。

 確かに腕は拳よりずっと柔らかい。けどまだ威力が足りない。

 いくら拳より柔らかくとも斬り落とすまでには至らなかった。

 だから直後に反撃を食らう。間一髪で回避するけれど。


「無駄よ。私の(しもべ)は斬れても斬り落とせない強度なの。貴方なんかには斬りおとせないわ」


「――じゃあ、先に貴女を倒せばいいんですね」


 いつの間にか背後に回っていた少女はそう言って刀を振りかざすけど、地面から飛び出して来た木に邪魔をされて刃は届かなかった。

 それどころか回転して吹き飛ばされている。


「くそっ!!」


 いくら受け流す事が出来ると言えど刀にも耐久度がある。あまり横からの攻撃を食らい過ぎると折れてしまう可能性が高い。更には左腕が折れているから上手く力が入らず受け流しも曖昧な物になる。

 攻撃を見切って回避するのが精一杯だ。

 だけどいつまでもそうしている訳にも行かない。少女1人でもあの敵を倒せないなら加勢しなきゃいけないし、その為には目の前の巨人を倒さなきゃいけないから。


 ――早くこいつをどうにかしないと……!


 ほんの一瞬。ほんの一瞬でも隙が出来れば技が繰り出せるのに。

 一撃が地面を叩き割る威力なんだから下手に攻撃は出来ない。そうなれば、攻撃後の硬直で動けなくなってしまうだろうから。

 そんな事を考えていたからか。割れた地面に足を取られて回避が途切れる。


「あ――――――」


 死んだ。そう悟る。

 足を取られて回避が出来ない。防御も今の腕じゃ絶ッ対に破られる。ティアルスはただ、迫りくる拳を見つめる事しか出来なかった。


「ぐッ! ―――ぁぁ!!」


 精一杯の防御も空しく正面から拳を食らう。多分、何本か骨が折れただろうか。

 吐血しながらも背後に吹き飛ばされ、地面をボールのように転がってから木に激突して停止した。その時にはもう立てそうになくて。

 巨人は追い打ちで首を掴むと徐々に力を入れ始める。


「ぁ……くっ、ぅ……」


「止めろ――――――ッ!!!」


 それを見た少女も止めようと全速力でこっちに向かう。

 でも、背後から棘の波が来ている事に気づけず、細い針が体の3か所を貫いた。千切れた黒い髪と共に真っ赤な鮮血が散る。


 ――死ぬのか? 本当に……?


 そんな言葉が頭をよぎる。

 だって、目覚めてまだ一週間も経ってなくて、自分が誰なのかも分からないのにこんな所で――――。息が出来ない。次第と体の力が抜けていくのを感じる。

 このまま息の根が止まるのを待つのか。


 ――そんなの嫌だ。


 刀を逆手に持ち変える。例え刃が通らなくても、足掻く事はできるはずだ。それが生きる時間を数十秒だけ稼いだだけとしても。

 激しい目眩で前が見えない中、ティアルスは奴の顔面に刀を突き刺した。だけどビクともしない。それどころか逆に力を入れられる。だから負けずと力を振り絞って顔を抉って行く。


 ――足掻け。本当に死ぬまで……!


 生ある限りは足掻くと決めた。本当の自分を見付けたいから。何より、死にたくないから。

 意識が飛びそうになる。でもここで死んでしまったら、本当の自分を知れないまま終わってしまう。だから醜くとも足掻き続ける。


 その時、桜が舞った。


 ――だれ、だ……?


 ほんの少ししか見えない視界で人影を捉える。蒼い羽織に白銀の長い髪。通り過ぎた人影は巨人を切り裂いては少女を棘から引き抜き、すぐさま引き返してティアルスの元まで寄って来た。

 呼吸を整えていると人影……イルシアは言う。


「大丈夫? 生きてるよね!?」


「ぁ……ああ……」


 意識が混濁とする中で答えた。

 イルシアは2人の体を見下ろすとその怪我に気づいて驚愕し、隣に少女を置いてすぐに応急措置を取る。と言っても、布で縛るだけの簡単な措置だけど。

 すると静かに耳打ちした。


「――頑張ったね。後は私に任せて」


「…………!」


 そう言ってイルシアは女性に向かっていく。

 駄目だって言おうとしても言葉が出ない。喉でも潰されたのだろうか。

 イルシアは少しだけ歩くとピクリと体を止め、振り向いて追加で言った。


「そうだ。クロエをお願いね」


「クロエ……?」


 ふと隣の少女を見た。黒髪の獣人の少女の名前はクロエって言うのか。……でも、どうしてクロエの名前をイルシアが知っているのだろう。どこかで会ったのだろうか。

 その言葉を最後にイルシアは地面を蹴る。

 滑らかな動きで刃を振りかざし、防御態勢に入った相手に思いっきり振り落とした。


 その瞬間にまた地面から大きな木が飛び出して妨害する。クロエでも斬れなかった木をどうするのだろう。

 ……そんな考えは甘かった。

 イルシアは固い手首どころか木の盾でさえも一刀両断し、傷口から鮮血を零れさせる。


「その程度の強度で私の刃が通らないと思った?」


「くっ――――死んじゃえ!!」


 そう言うと両手を動かした。すると地面から数々の棘――――違う、鎖が飛び出してはイルシアを高速で追いかけた。なのに目に追えない速度で迫るのに対して、イルシアは全てそれ以上のスピードで弾いては切り裂いて見せる。それも一本の刀で。

 稲妻の如き速度で捌くイルシアの動きには僅かな迷いさえもなく、全ての攻撃を弾いては確実に追い詰めて行った。


「死ね! 死ね!! 死んでってばぁッ!!」


 今まで一歩も動かなかった相手もついに攻撃を避ける為回避行動をする。でも、イルシアは一歩たりとも足を止める事は無く刃を斬り込むべく距離を詰めた。恐怖なんかしらないという様に。

 そしてついに刃の先端が頬を捉える。


「あなたは私の仲間や街の人々、この山に来た剣士を傷つけ殺した。その報いは私が下す」


「――ッ! 何が報いよ! 全部全員何もかもが私を裏切るのに、どうして! どうして私が殺されなきゃいけないの!!」


 その時、ティアルスは反射的に魔眼を使った。……いや、使ってしまった。

 彼女には嘘の『色』がない。つまり、彼女は今まで全てから裏切られて来た事になる。つまり今ここで殺す事は悔いを残させて――――。


 そんな考えから逃げる様に視線を逸らした。

 軽く応急措置だけされたクロエは未だに目を開けない。小さく息をしてるからまだ生きてるけど、今にも消えそうなくらい弱い息だ。でも何も出来ないティアルスはクロエを心配する事しか出来ない。

 離れようとも周囲には魔物が既に取り囲んでいるのだから逃げ道はなく、2人の戦いを見守るしかなかった。


「イルシア……」


 ふと名前を呼ぶ。

 確かにあの巨大な魔物を一撃で葬ったイルシアなら無傷で倒す事だって可能かも知れない。だけど、虫の知らせとでも言う様に凍り付く背筋のせいで手に汗握る。

 圧倒的な強さを見付けるイルシアだけど、いつか、きっと――――。

 背筋が凍り付いた時からそんな思考が頭から離れなかった。


 そう思ってしまったからだろうか。イルシアは僅かな隙を見せてしまう。


「――っ」


「このッ!!!」


 背後からの攻撃に反応を遅らせたイルシアはギリギリの距離で回避し、その僅かな隙に全方位攻撃を仕掛けられた。

 でも、空中で腰を捻る様にして回転し周囲の物を巻き込む。

 そんな風に針を縫うような戦闘を見ているとある事に気づいた。


 何だろう。柔らかい物――――肉がはち切れる様な音だ。どこから響いているのだろうと周囲を見渡すと、その答えはすぐそこに置いてあった。

 さっきイルシアが倒した巨人。ソレに真っ赤な棘が刺さっては肉が脈打っている。何が起こってるのだろう。そう思って警戒していると巨人は死んだはずなのに動き出した。


 全身に赤い亀裂が入り込み、至る所から血が溢れては地面に落ちて染みを作る。それだじゃない。斬られて離れた肉体は時間が巻き戻るかの様に再生して潰された目玉も新たに生成された。血と同じ赤に染まった瞳でイルシアを見るなり姿勢を引くする。

 少し力を入れるだけで地面を割るくらい。

 その光景を見てティアルスは直ぐに理解した。


 ――まさか!?


 戦闘中のイルシアを見る。まだ気づいてないのか、視線は常に相手へと向けられている。だから刀を握って飛び込もうとした。しかしクロエから離れたら魔物が――――。

 そう考えた瞬間に体が硬直した。


 どうする。イルシアを助ける為にクロエを見捨てるか、クロエを守る為にイルシアの窮地を見守るか。前者の方が死ぬ可能性は低い。でも、それは人としてどうなんだ。

 けどだからと言って……っ。

 ひたすらに迷う。そうしている内に巨人は走り出そうとしているのに。

 イルシアか、クロエか、イルシアか、クロエか――――――。


 【■■――■―■■■――】


 再び流れ込む記憶。その記憶が教えてくれた。

 どっちを救うか。迷ったならどっちも救えばいいんだって。

 だから今度こそ迷いを断ち切って飛び込む事が出来た。


「ッ!!」


 刀を握り締めながらも巨人より少し早く飛び出す。こっちに気づかない限り、やっぱりイルシアは巨人に気づいてないのか。速度は向こうの方が速いけど刹那より先に飛び出したのはこっちだ。

 だからティアルスの刃が先に届く。

 今度はただの振り下ろしじゃない。全ての意識を刃の先にだけ集中させて――――!


「らぁぁぁぁぁああああああッ!!」


 初めて肉体を切り裂いた。

 すぐ近くで鮮血が散った事に気づいたイルシアはこっちをみると、ティアルスが腕を斬っている事にも気づいてびっくりしている。


 でも、ティアルスが離れた事を知った魔物が一気にクロエを……。

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