プロローグ 『悲願に舞う花』
深い深い意識の中。俺は目覚めた。
自分の姿すらも見えない真っ暗な世界でただ一人取り残され、自然と不安に駆られる。ここはどこだろう。そんな言葉が埋め尽くす。
ふと、誰かの声を聞いた。
――お願い。この悲しい殺し合いを終わらせて。
誰だろう。聞いた事のない声。
とても切なそうで、悔しそうな『色』が混ざった声だ。
――私達が残せる物はもうこの願いしかない。だからお願い。どうか私達を導いて。
導いてって、どうやって。
そもそもここがどこなのか、自分が誰なのかも分からないのに、そんなのどうやってやればいいんだ。
君は……君達は誰?
――俺達が歩んで来てしまった間違いだらけの道を直して欲しい。どれだけ貪欲な願いなのかは重々承知してる。
でも、声の主は答えなかった。
そうじゃなくって君達は誰なんだ?
どうして見ず知らずの俺にそんな事を頼む。そんな願いなら俺じゃなくたって、他の誰か心優しい人がやってくれるはずなのに――――。
――でも、だからこそ、これが俺達の願いなんだ。俺達の全てを託したい。だから、俺達に掴めなかった未来を、どうかその手で……。
心が生成された気がした。名前も知らないどこかの誰かに影響されて、空白だった世界に色彩が加えられていく。
そうだ。これは俺にしか出来ない事なんだ。この願いは、俺だけにしか叶えられない悲願でもあって――――。
ふと、様々な色彩で彩られた世界で、真っ白な桜が舞った。