第二十幕 空飛ぶ〇ブホ? 起きたら何?! 添い寝って、勇者ってたいへんだぁぁツ!! かんべんしてくれよぉッ~
職員会議が終わり、ヴィオラ先生は、学校を後にし、ユニがいる家の前近くまで、歩いてきていた。
「ユニ様が、居候している家は、ここだったな」
ゆーまの家を前にして、家を下から見上げた時だった。突拍子のないものが、ゆーまの部屋の窓から音を立て、出てきたではないか。
「あれは、もしや?」
何やら真四角の形をした、ベッドのようなものを見て、ヴィオラ先生は懸念し、息を付く。しかも、空に
浮いているではないか……。
「ん、何だ? ふわふわ? あれぇ、浮いてるような?」
「あ、ゆーま起きたの? どう? あたしの隣で寝た気分?」
隣で寝そべっていたユニが、嬉しそうな顔で、ゆーまの顔を覗き込む。
「寝た? あ、あれ? じ、地面がない! ちょっとまてぇ~ユニぃ、な、何だ、このベッドわぁー」
ゆーまは、自分がいたベッドから左足をベッドの外に落とした瞬間、地面がないのが分かった。突如、ゆーまの顔が、青くなった。高所恐怖症なのだ。急いでゆーまは、左足を引っ込める。
「ね、気持ちいいでしょ! これね、ユニが、魔法の国テスタの王宮で、いつも寝てた『魔法ドキドキベッド』だよ~ん」
ユニは可愛い声でいう。
「ま、魔法ドキドキベッド? な、何だ? 空、飛んでる? お前が寝てたベッドは、空を飛ぶのかぁ~。おまけに何かしらねーけど、くるくる回ってるぅっぅぅぅッー」
怖いのか、ゆーまは腰を抜かし、必死にベッドにしがみ付いた。それでもユニ専用の魔法ドキドキベッドは、くるくる回った。ユニは、馴れているのか、楽しそうな顔をしている。
その時だった。窓から羽の生えたフィギュアが、ユニの下へ飛んできた。
「そのベッドは? 姫様、いつ、本国から取り寄せたのですか?」
「あ、ラクリ来たんだ。魔法アイテムだよ! 他のベッドで寝れないから、魔法の国テスタから、ユニの魔法球で取り寄せたの」
人差し指を立て、ユニは、簡単に説明した。ゆーまは、高い所が怖くて、真っ青だった。
「これじゃぁ、空中ラブホみたいじゃねーかぁー。って、おい、で、何で、オレまでお前のベッドで横になって、寝てたんだぁ~」
「ゆーま、覚えてないの? 一緒に寝たじゃない。 夫婦だにょーん!」
ユニが、えへへと言った面持ちで可愛くいう。
「おい、寝たって、まさか、オレ、何か、ユニにしたの? って、記憶が全然ねーぞな」
パシコン!
「いてぇ、何スンだ」
ラクリの平手打ちが、華麗にゆーまに飛んだ。叩かれ頭を手で押さえ、痛そうな顔をゆーまはする。
「それは、こっちの台詞じゃ! 姫様と添い寝をするなどとは、言語道断じゃ!」
「って、おい、ラクリ、しらねーんだ、まったく、記憶にねーンダ! ゲーム、皆でした後……(ハッ)さては、ユニぃ! あの時、使った、メモリーデリートハンマー使ったなぁッ!」
「えへへ、知らない。いいじゃない、一緒に寝たって」
「えへへじゃね~! 全然、よかないってばさぁッ~」
「だって、夫婦だもん♡」
「って、おい、何で、急に回るのが、速くナるんだぁ~、うわぁぁぁぁぁぁッ、ひぃ、下に落ちるぅぅぅぅうぅうう」
「あッ、ごめーん。まだ、言ってなかったね。このベッドは、ユニがドキドキすればするほど、それに反応して、速く回るの」
「それで、ドキドキベッドってわけかぁ。んで、そんな大事なこと、もっと早く言えぇえぇえぇえっっ! うわわぁ、はええぇッ」
魔法ドキドキベッドが、速く回り、必死にベッドの毛布にしがみついた。だが、これだけ速く回っているのに、ユニはへっちゃらだった。もう子供の頃から使っているからか、馴れっこなのだろう。
「まわ~る~まわ~る~メリーゴーランドォ~♪」
うふふと、余りに、ゆーまと一緒に添い寝したのが、嬉しかったのか、ドキドキして、言いながら、ユニは、にやけて頬っぺたを両手で押さえている。
「(何やら、騒々しいな。おっ、あれはユニ様、ということは、一緒にいるのは、全世界から見付かった婿殿か)」
ヴィオラ先生が、遠目で見遣った。だが、ゆーまは、今にも下に落ちそうになって、必死だった。
「あん、もう、ゆーま、照れ屋なんだから。素直に嬉しいって言えばいいのに」
ユニは、顔を赤らめ、もう爆発しそうだった。他のことが、手に付かないような状態だ。ドキドキしているのが、激しいのか、ベッドの回りが速く、更に加速する。
そういっている間に、何と、ゆーまの体が、ベッドからずり落ちた。一体、どうする?
「そ、そんなこと言ってる場合かァー。し、下に落ちるぅぅぅうッー」
「あん、あたしの手、握っていいよ、ゆーま。初めてだね」
ユニが、妄想し、勘違いし、爆発しているのか、ゆーまの顔の前に恥ずかしそうに手を出した。
ゆーまの半身は、もうベッドの下に落ちていた。必死にしがみついている。
「って、おい、妄想して傍観すんなぁぁぁっぁぁ、こっちは死にかけなんだぞぉ~ユニ、手、引っ張ってくれ、ラクリも! 早く!」
ゆーまが手を出し、ユニとラクリが、やっとのことで毛布に捕まっていたゆーまの手を、何故か気が進まないような感じで握り、引っ張った。だが、落ちる勢いは止まる気配はなかった。
「ゆーまと手、繋いじゃったぁ♡ あん、重いね、ゆーまぁ!」
「む、婿殿、重いじゃ~」
「お前らぁ、もっと、真面目にやれぇッー。 助ける気あんのかぁ~!」
二人とも、ゆーまの手を引っ張るが、何だか、そそくさと不真面目に引っ張っている。
その時だった!
「あん、ゆーま、あたしのこと手を握るくらい好きなのね」
ユニがドキドキし、ベッドが、今よりも速く回り出した。ゆーまと手を繋いだのが余りに嬉しかったのか、興奮して、ユニは、顔を赤らめ手を離してしまった。
「って、おい、ユニぃ、興奮して手、離すんじゃねぇー。し、死んじまぅ~」
ラクリの一生懸命に引っ張る力も当然、虚しく、ユニが、離した所為でゆーまは地上に真っ逆様だ! 事態は急変した。
「ひぃぃっぃいぃぃいぃいい、うわぁあっぁぁぁぁ~、落ちるぅぅうぅぅぅッ!」
あれよあれよと、ゆーまは、一瞬のうちにドンドン下に落ちていく。もう、このままでは助かる見込みがない。絶望視だ!
「姫様、この高さから婿殿、下に落ちたら、即死ですぞ!」
「で、でも、落ちちゃった。どうしよう?」
ユニは困惑し、少し涙目になるが、躊躇する間も無く、動こうとした。
「ひぃぃいいっぃいぃ、地面にぶつかるぅぅぅッ!」
地面にぶつかりそうな際どい高度まで来た時だった。
「(神様!)」
ゆーまは、どうすることも出来ず、念じて、目を瞑る。
「えい、仕方ないわ、魔法で!」
「だ、ダメ、もう間に合わない! ゆーまぁ!」
ユニの魔法の詠唱が、間に合わず、ユニが、思いっきり叫んだ時にはもう遅かった。
「もうダメだぁ~(か、神様ッ)」
地盤とぶつかりかけた瞬間、突如、誰かが、割って入った!
「おい、意識はあるか? 婿殿?」
朗らかで優しそうな若い女の人の声がした。逆お姫様抱っこで、ゆーまを抱えて地面に着地した。
「えっ? 何だ、生きてる? ここは天国? 地獄?」
ゆーまは、目をパチクリさせた。
「ふぅ、良かった。何とか、間に合いましたね」
「あ、あなたは、誰?」
「あれぇ、あの赤の忍者服もしかして、あれ、ヴィオラじゃない?」
ユニが目を見開き、ドキドキベッドから下を見下ろし、驚いた表情で言う。
「間一髪ですな、姫様。婿殿、死んだら結婚も出来なかったデスじゃ」
ラクリが、羽をパタつかせ、近づきながら言う。
ユニは、胸に手を当て、撫で下ろし、安堵の色を見せる。
「私は、ヴィオラ・ジェラニ、ユニ様直属の護衛忍者です」
「ユニの護衛忍者?」
「ラクリ大臣に護衛を要請され、ユニ様のお父上、ルネディ王様から頼まれつい先日、忍者魔法を使い一時的な疑似異次元穴を発生させて、こちらの世界に来たのです」
「そうなんだ。良かった、死ぬかと想ったぞな。助けてくれて有難う、ヴィオラさん!」
ゆーまが、そういうと、照れくさかったのか、ヴィオラは目線を背け、顔を少し赤らめた。
その時だった。ユニが、魔法ドキドキベッドの高度を下げて、ゆーまたちの方へ降りてきた。
「ヴィオラ~! いつ、来たの?」
「ユニ様! 外敵から守る為、ヴィオラ、護衛に参りました」
ヴィオラは、赤い色の忍者服を着て、ワイン色の髪色の、カワイイショートヘアだ。スタイルは細身だ。
正義感が、人一倍強そうな人だ。
「乙女心は判るのですが、空中ラブホみたいなことで婿殿を殺さないで下さいね、危ないですから」
そういい、ヴィオラは、ゆーまを抱っこしていた態勢から地面に下ろした。
「ゴメ~ん、ゆーま。手、つい離しちゃったぁ、えへへ」
ユニが手を合わせ、済まなさそうな顔をし、可愛いお茶目な声で言う。
「もういいよ、悪気があってしたんじゃないし、それにヴィオラが助けてくれたし、ユニも魔法で助けてくれようとしたし、結果オーライだよ」
ゆーまは、死にかけたにも関わらず、一つも怒らずに、笑顔でユニを許した。
「うむ、よく参ったな、ヴィオラ」
「ハッ、ラクリ大臣。早急に身支度をして忍者魔法で参りました」
「もうちょっと、遅かったら、婿殿に蘇生魔法を施さなければならなかったかもしれない所だったじゃ」
ラクリが、淡々と言う。隣で唖然としている奴がいた。
「(魔法で生き返らすつもりだったのね……、それで、助けるのにあんまり積極的じゃなかったんだな、ッたくよう)(ふぅ、悪魔だ)先が、思いやられる」
「ヴィオラさん、魔法の国から来たってことは、住む所あるの?」
「それがだ、来たばかりで、こちらの世界のことは殆ど知らず、住むところも勿論ない」
「じゃぁ、助けてくれたお礼に、俺んちに居候すりゃいいよ。ユニの護衛ってことはどうせ、四六時中、一緒にいないといけないんだろうし」
ゆーまは、ヴィオラを察し、笑顔で語りかけた。
「婿殿、有難うございます。ユニ様を警護しないといけない為、お言葉に甘えて、そうさせてもらいます」
少し、迷惑がかかるのを考慮してか、済まなさそうな顔をし、ゆーまをヴィオラは照れくさそうに一瞥する。
「いいよ。俺んち広いし、部屋も余ってるしさ。大勢のほうが賑やかでいいよ。そんなに気にすんなって。構わないからさ」
「ヴィオラ、ゆーま、皆で家に入って、ゲームでもしましょ」
「そうだな、そうすっか」
そういい、面子は家の中に入っていった。