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好きな人



 コの字型の校舎の中庭に面した外廊下の隅に俺たちが愛用する自販機は佇んでいる。ここの自販機だけは珈琲の種類が多いのだ。


「海斗もいつもの? 」


 ちなみになぜ海斗も一緒なのか。教室を出た俺はたまたま通り掛かった先生に捕まってプリントを運べと言われてしまい海斗も巻き込んで手伝わせた。そのまま自動販売機にやってきたので海斗も一緒になったわけだ。


「おー、いつもので頼むわ」


 いつもの黒い缶の下のボタンを押して、ガコンと音を立てて落ちた暖かい缶を取り出し海斗に手渡す。無理やり巻き込んで手伝わせたら1本奢ることになってしまった。


「ほら、何見てんの? 」


「あれあれ、あれってやっぱあれか? 」


 あれあれうるさい海斗の視線の先には向かい合う男女。周りに人だかりが出来ている。まあ何となく予想はつくが俺としては二人だけにしてあげなさいよというのが正直な感想だった。


「あー、告白するっぽいな。青春してるな」


 そう返して俺は手に持った珈琲を傾けながら校舎の入口に向かって歩き始める。何となくここで見てるのも変だなと感じたからだ。


「あれ、見てかねえの? 」


「興味無い。ここいるんだったら後ででいいけど金忘れるなよ」


「おう、じゃあまたあとでな」


 校舎内に入ってすぐの階段から二階に上がる。中庭がよく見える廊下から海斗が野次馬集団の中に入っていくのが見える。あいつほんとこういう他人の恋愛ごと見るの好きだよな。


「あれ、あおにぃ。こんなとこで何してるの? 」


「うわっ、ってなんだ白奈か」


 窓の冊子に手をかけて外を見ていた俺の頬をいきなりつつくもんだから素っ頓狂な声が出てしまった。


「なんでもないよ。中庭で誰かが告白してるっぽい」


「へ〜、あおにぃもそういうの興味あるんだ?」


 真っ白な指先がさらに俺の頬をグリグリする。正直これくらいだとただただくすぐったい。


「別に、海斗が野次馬に突進していってたから見てただけだ。それより学校内で話しかけないでほしいんだけど」


「あ、ごめん。ついうっかり」


 まったく、とため息を吐いて彼女から離れ教室に向かおうとすると二人組の男子に声をかけられた。


「おや、珍しい組み合わせだな。えーと、確か…」


「二ノ宮君だよ。ひでは学級長なんだから名前くらい覚えときなよ。ごめんね二ノ宮君、嫌な思いさせちゃったら謝るね。ひではこんなだけど悪いやつじゃないから…」


 突然のイケメン二人組オーラに俺は思わずたじろぐ。


「あ、あぁ、別に気にしないでくれ。むしろ赤羽が覚えてくれていたことが意外だったよ」


「クラスメイトの名前くらい覚えるよ。そういえば天塚さんと何話してたの? 」


「あぁ…中庭に人集まってたから何があったのか聞かれたんだよ。誰かが告白してるみたいでな」


 中庭を指さして俺は赤羽に先程のごまかしを入れる。佐々木も興味を持ったようで開いた窓に手をかけて中庭の様子を伺い始めた。


「あれってひまりちゃんですよね。さっき用事あるって食べ終わってすぐ出てっちゃったのこういう事だったんですね」


 佐々木と赤羽が来た途端口調が変わった、さすがだな。確かにこちら側体と告白を受けている女生徒は背中しか見えないので誰かわかりにくかったがよく見るとあの髪はひまりだ。


「木下さんほんとモテるな」


「ひでが言うと嫌味に聞こえてくるよ。ひでだっていっつも呼び出されてるでしょ」


 俺より一回りも小さい赤羽が佐々木の脇腹に肘打ちしながらそう言う。やっぱりモテるんだな。


「俺のは同じ人が多いよ。断っても断っても諦めないからさ。でもそんなこと言ったら蒼太だって結構呼び出し受けるよな」


「断ってるのに来られちゃうと面倒くさくなってくるよね。それと僕のはちょっと違うかな…」


 モテるやつだけの悩みか。ま、クラスのイケメン王子様も可愛い王子様も苦労してるんだな〜なんて思いながら再び中庭に目を向けると、告白していた男子生徒が地面に崩れ落ちひまりが校舎の方に歩いてくるところだった。


「断ったみたいだね。あれ三年生で結構人気の先輩だよ」


「木下は意外とガード固いからなあ。あれと付き合う人ってどんなやつなんだろうか」


「確かに、私もずっとひまりちゃんと一緒でしたけど、そのような話題全然聞いたことないですね」


 人の恋路なんて勝手なんだからほっといてあげろよなんて心の中で呟いて俺はこの場を離れたくなった。


「そういや、ひでは好きな人いるんだっけ? 」


「あー、いや、どうだろうな」


 わかりやすく動揺した佐々木は不思議そうな顔をする白奈からこれまたわかりやすいほど顔を背けた。やっぱこいつ白奈のこと…。


「ひではいつ告白する? ひでの告白断る人いないと思うんだよね」


「そんなことないだろ、まあいつかな」


 もし佐々木が告白したら白奈はなんて答えるんだろうか。悪いやつじゃなさそうだし白奈の体質もちゃんとわかってくれると思う。なら望ましい恋人なのではないか。


「天塚さんは好きな人とかいるの? 」


「私ですかっ? えーと、私は…」


「えっ、その反応…天塚さん好きな人いるの? 」


 おー、わかりやすいくらい白奈の顔が赤くなっていく。これはいるんだな。てことはやっぱり佐々木とか赤羽とかか。まあ、俺はあまり聞かない方がいいだろう。


「あれ、二ノ宮君はもう行っちゃうの? 天塚さんの好きな人気にならない? 」


「あー、いや、俺は興味ないからいいよ」


 初めて話す相手にもこんな風に言えるのが赤羽のいい所ってことか。人気な理由もわかる。だけど表向き俺は白奈とは無関係の人間だ。白奈の好きな人は少し気になるけど、ひまりまで混ざって来たら面倒事が増えそうだと思いここは退散を選んだ。


「あれー、みんなこんなとこで見てたの? えーと、二ノ宮くんだっけ? 珍しい組み合わせだね」


 あー、どうやら時すでに遅しというやつらしい。俺がいることが余程面白いらしい。他人の振りをしながらも、ニンマリ顔のひまりは俺の隣に立つ白奈の向こう側に回り込んで白奈をぐいぐい押し付けてくる。当然無視して身体を逃がして行くのだが。


「でも天塚さんの好きな人ってどんな人なんだろう。やっぱり一緒に仕事してるKuRoさん? 」


「なっ、それはねえだろ、あ、いやなんでもない」


 KuRoの名前が出てうっかり口を開いてしまい即座に右手で押さえつける。咄嗟にとった行動だったが当然意味などなく赤羽が食いついた。


「お、二ノ宮くん食いついたね。さっきまでは興味無いとか言ってたのに意外だね。どうしてそう思うの? 」


「なんでもねえよ。仕事の付き合いだと思っただけだ。あんまりそう言う邪推されても迷惑なだけだろ」


 なんとも無理やりな言い逃れのような気もするがひまりも黙ってくれているし大丈夫だろう。そんな俺を見かねてか白奈が助け舟を出してくれた。


「ええ、私はKuRoのことを好きになったことなんてないですよ」


 よく言った白奈、お前はできる子だ。今度パフェ奢ってやるからな。その調子で普段の俺への態度も改めてくれ。


「なあ、この話題は終わりにしないか? 」


「そうだな、天塚さんの好きな人俺も気になるけど無理やり聞くような事でもない」


 白奈の助け舟と佐々木のおかげで何とかこの話題からは離れられた。さて、今度こそ俺はこの場から離れるとしよう。教室に戻ったであろう海斗が待っているかもしれない。


「あれー、二ノ宮くんはもう行っちゃうの? さっきの先輩の話しようと思ったんだけどなー」


「あー、興味ないので大丈夫です」


 ひまりの静止を無視して俺は教室に向かう廊下を歩き始めた。後ろではひまりに告白した先輩の話題で盛り上がる四人の声が響いている。正確にはひまりと佐々木と赤羽か。今中庭で崩れてる人を笑ってやるなよ…と心の中でボヤいたのであった。まああの悔しがり方は笑わずにはいられないかもしれない。




以前投稿していたものの続きを書いていきます。


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