頼れる男子
「なー、お前ってなんでそんなに目立つことに抵抗があるんだ? 」
撮影の翌日、俺の机に振り返って弁当箱を広げた海斗は突然そんなことを口に出した。何度か話したことはあるが、その度に適当に誤魔化してきたことだ。そりゃKuRoって名前でモデルやってます、なんて言った日には平和な日常には戻れないだろう。俺は静かな学生生活を送りたいのだ。
「そうだなあ、ここはちゃんと講義してやるか。海斗、目立っていい人間とダメな人間ってあるだろ。俺はダメな人間だ、誰とも関わらない方が平和なんだよ」
「なんだそりゃ、要は人付き合いがめんどくさいだけだろお前の場合」
「バレたか」
バレバレだとでも言いたげに笑う海斗。まあモデルのことはバレてないだろうし、それ以外何を言われても別に問題は無い。にしてもわざわざ俺みたいなやつに関わらずともこいつなら友達なんか困らないだろうに。
「でもお前その長い髪切って整えればかっこいい顔してると思うんだよな。天塚さん達と一緒にいたって別に違和感ないだろうに、なんで幼馴染なのにわざわざ関わりを避けるんだ? 」
「まあ色々あるんだよ…」
「色々ねえ」
俺は別に白奈と学校で関わりたくないわけじゃない、できることなら幼馴染三人と海斗の四人で仲良くしたいくらいだ。
そう出来ないのは俺がモデルをしていることをバレたくないからという理由にある。白奈だってできることならモデルであることは隠したかったのだ。学校では目元が隠れるくらいのウィッグを被っていることから俺はバレていないが、白奈はウィッグだけでは真っ白な肌を誤魔化せず、渋々モデルであることを認めたのだ。
「なあ、天塚さんはどう思ってるわけ? 」
「何を? 」
「お前が頑なに関わり避けてること。だって普段は仲良いんだろ? 」
「まあ、あいつだってわかってるんだよ。今更俺があいつの隣に現れたら反感を買うってさ」
俺は開いていた単語帳に閉じて海斗の方へ向き直る。あいつは常にクラスの中心にいる人間、大して俺はクラスの端でなんとなく毎日を過ごしている身だ。学内で白奈と対等に関わるには俺はきっとモデルのことを明かさなきゃいけないだろう。
そもそもの話、高嶺の花である以前に彼女は超売れっ子モデルなのだ。つまりそんな彼女の周りを囲う人は選ばれるべきであるわけだ。残念ながらここでは学校だから、という言い訳は通用しない。どういうことが説明すると、学校だから俺みなたいな人間が彼女と一緒にいていいというのは世間様への言い訳にはならないということだ。それに何よりも俺みたいなのがいては彼女の引き立て役愚か汚してしまうというもの。
「まあ、お前にも色々あることはわかったよ。間違いなくそのままのお前なら反感買うだろうな。でも、お前がまだなにか言いたくないことを隠してるのもわかったよ。わざわざ詮索はしないけど」
「そう言ってくれると助かるよ」
「せっかくの親友に嫌われたくないんでな」
唇の端を曲げて苦笑した海斗は箸で掴んだ唐揚げを口に運んで咀嚼した。ふと白奈の方に目をやると、ひまりに加えて男子が二人、彼女の周りに座って、弁当箱を広げている。その四人に話しかけているのは、確か…中村だったか。いわゆるカースト中位くらいの人間で自分が偉いと勘違いしてる残念野郎、ウェーイ君だな。それで輪になってる男子二人が佐々木と赤羽だな。何やら少し揉めているようだが。
「俺たち一応お昼食べてるところなんだが後にしてもらえないか? 」
「佐々木と赤羽には用があるわけじゃない」
クラスメイトで白奈とひまりとセットになるカースト上位の佐々木と赤羽。高身長で爽やかな佐々木はモデルとしてやっていけそうなくらいバランスがいい。ファンクラブがあると聞いたことがある。それから赤羽、こいつは佐々木とは逆の意味で人気が高い。背も低く幼い顔立ちでどこか中性的な印象の彼は、どちらかと言うとイケメンと言うより可愛い系で有名なのだ。学内の女子の間で佐々木と赤羽で腐腐腐と笑う生徒もいるらしい、まったく恐ろしい話である。
「それでさ、今日他クラスの奴も誘ってみんなでカラオケ行くんだけど天塚と木下も来てよ」
「えー、カラオケー? 私はいいや。白奈どうする? 」
「もう天塚と木下も来るって話になっちゃってるから来てもらわないと困るんだよな〜」
おいおい、黙って聞いてりゃ随分自分勝手じゃないですか。要は美人ふたりとお近づきになりたいだけじゃないですか。まあこんな輩ひまりがガツンと言うだろうな。
ひまりにあっさり断られた中村は、今度は席で弁当箱を広げる白奈の前に立つ。
「天塚は来ないなんて言わねえよな」
「すみません、私も今日は用事があって」
「他のクラスのやつにも迷惑かかるんだけど? 」
「でも、今日は用事が…」
白奈は押しに弱いからなぁ…そろそろひまりが助け舟を出すだろうと思っていたが、助け舟を出したのは意外な人物だった。中村より一回りも背の小さい彼が、白奈の手を掴もうとした中村の手首を掴んでいる。
「まあまあ、天塚さんも用事があるって言ってるんだから今回は諦めたらどうかな。中村くんもここで揉め事起こしたくないでしょ? 」
「蒼太の言う通りだ。初めから予定も確認せずに約束を取り付けてた所も問題だが、そうして実力行使に出ようとするのはもっと問題だぞ。何かあれば君もただじゃ済まない」
わお、クラスのイケメン二人が白奈とひまりの盾になってるじゃあありませんか。
これは人気が高いわけですな。俺だってモデルフォームでも絶対この二人には敵わないと思ってしまうほどに二人は姫を守る騎士のようだった。
「はあ、人気者ってやっぱすげえんだな」
「そうだな、でも天塚さんを守るのはお前じゃなくていいのか? 佐々木のやつは絶対気があるぞ」
ため息混じりに思ったことを口に出すと向かいに座っていた海斗も口を開く。ちなみに海斗が並んでもおかしくないからな? 同意してくれる分にはいいが、そうやって茶化さないでほしい。
「別にいいんじゃないか? 佐々木が白奈のこと理解して支えてくれるなら俺は嬉しいよ」
「そういうもんかねえ。そんなんで取られてから後悔しても知らねえからな」
「俺たちはただの幼馴染だ。それ以上でもそれ以下でもない」
いい加減腹立たしいので海斗にデコピンくらわせて食べ終わった弁当を畳み席を立つ。そろそろ珈琲が飲みたくなってきた。
「ったくいってーな。お前、少し気にくわないとそうやって暴力に頼るの良くないぞ」
「お前にしかやらないから大丈夫だ」
「俺はいいのかよ。自販機行くのか? なら俺にも珈琲頼むわ」
んー、と適当に返事して教室の一番後ろ、絶対目立たないルートを通って俺は教室から出ていったのだった。
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キャラクター紹介
佐々木 秀秋
身長 175cm
髪色 グレーよりの黒
クラスの中心にいるイケメン王子で学年問わず人気が高い。男女共にとても好かれておりクラス委員も務める。
学内にファンクラブが存在しており、女子は天塚、男子は佐々木と言われるくらいの王子様。噂では白奈に気があるらしい。
赤羽 蒼太
身長 164cm
髪色 黒
可愛い男子とはまさにこのこと。佐々木と仲が良くいつも一緒に行動している。昼休みなどは白奈、ひまり、佐々木、赤羽の四人で集まる。
噂では彼もファンクラブがあるらしく、日々佐々木とセットで腐女子の妄想の餌にされているとか。
以前投稿していたものの続きを書いていきます。
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