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大人気モデル

 


 学校生活において目立たないという目標があるならばやってはならないことがいくつかある。


 そう、当然わかっていると思うが遅刻だ。目立ちたくないならば遅刻だけは絶対にしてはいけない。至極当然である。遅刻するということはすなわちHR中の教室の扉を開けて教壇に立つ教師の元へ行き遅刻の理由を述べなければならないということ。こんなことをすればクラス中の注目を集めてしまうのは必然だ。


 だから俺は入学したその日から一日として遅刻したことは無い。同時に休んだこともない、休めば当然ながらHR中に名前が出てしまうからだ。無遅刻無欠席は進学にも有利になるので一石二鳥でもある。


 さて、遅刻してはいけないということはわかって貰えたと思うが同時に気をつけることがある。それは一番初めに教室に来ることも避けるということだ。最初に教室にいると何が問題か、それは変な疑いをかけられる場合があるからだ。例えばクラス内で誰かの物がなくなったとしよう、そうするとその日一番最初に教室にいた人と前日に一番最後まで残っていた人がまず疑われるのは当然の話だ。


 今日も完璧だ、クラスの半分の席が埋まっている状態での登校。各々が会話をしているからこちらに注目する人もほとんど居ない。いたとしても友達を待っていて「来た? なんだあいつかよ」という程度。


 俺は速やかに自分の席に移動して荷物を広げ授業の準備に移る。俺の席は窓側の一番後ろの席、一番の特等席とも言えるが教室から出る時は人のあいだを抜けていくため、ルートを考えて時間がかかったりする。


 海斗の登校を待つ間、今日の小テストの勉強をしているとクラスの男子の顔が一斉に扉に向いたのが視界に入る。またこれかと思ってしまうのは、もはやこのクラスの恒例となりつつあるイベントであるから。視線だけ扉に向けると案の定白奈が入ってくるところだった。隣にはひまりの姿もある。


「白奈ちゃん! 昨日のやつ見たよ〜!」


「私も見た! すっごい可愛かったよ〜!」


 白奈が登校すると待ってましたとばかりに彼女の取り巻きが周りに群がる。昨日のやつというのはおそらく昨日販売されたファッション誌の新刊だろう。たしか前に白奈と一緒に撮影したやつだ。ということは俺も載ってるのか。


 言い忘れていたが俺も白奈と同様モデルをやっている。きっかけは白奈に誘われて撮影現場について行った時にスカウトされ、そのままモデルになることになったのだ。白奈の影響もあって今では俺もそこそこ人気のモデルになっている。


「それで白奈ちゃんに聞きたいんだけどいいかな! 」


「ええ、私に答えられることならなんでも」


「「白奈ちゃんといつも一緒に写ってるKuRo様って誰なの!?」」


 おふっ。

 危ない危ない、椅子から転げ落ちるところだった。突然出てきた俺の名前に俺は思わず顔を上げて彼女たちの方向を見てしまう。


「どうした葵、何かあったのか? 」


「うわっ、なんだ海斗か、驚かせるなよ」


「いや葵こそ突然顔上げてびっくりしたぞ。また居眠りか? 」


「寝てねーよ」


 突然の海斗登場で白奈の方をガン見していた俺の目が海斗の方へ向く。ある意味助けられたかもしれない。目線こそ元の位置に戻したが耳は海斗の言葉を流して白奈の会話に向いていた。


「KuRo様って誰なの白奈ちゃん! 」


「KuRo...ですか…?」


「まあまあ二人とも落ち着きなよ。白奈もそこまでは喋れないんじゃないかなってあたしは思うよ? 」


「そうだよね、ごめんね白奈ちゃん」


 隣にいたひまりになだめられてがっくり肩を落として謝るふたり。どうやら俺の秘密はしっかり守られたらしい。白奈がちらっとこっちを見た時には冷や汗がダラっと背中を湿らせた。ひまりがいて良かった、白奈は少し押しに弱いところがあるからあの勢いで聞かれたらうっかり話してしまうなんてことも有り得る。ナイスひまり!


「KuRoの正体か…確かに天塚さんといつも一緒に写ってて気になるよな」


「海斗もそう思うのか? 」


「だってあの天塚さんといつも一緒に載ってるんだからそういう関係なのか気になるじゃん? 幼馴染の葵くんは何か知らないの? 」


「特にそんな話は聞かないな、仕事の関係だと思うぞ。恋仲だったら白奈には隠せないし」


 顎に手を当ててうむぅと声を漏らしながら目を細める海斗を横目にちらっと白奈の方を見ると既に席についてひまりと話し込んでいた。もうあっちは大丈夫そうだ。


「てか海斗もああいう雑誌読むんだな」


「まあな、流行を知っとくのは大切だぞ葵」


「イケメン様も大変なんだなあ」


「それほどでもないさ」




 その日も変わらず特別目立たないいい一日を過ごした。朝勉したおかげもあってか小テストは問題ない点数が取れそうだ。HRも終わったので帰りの支度をして早いとこ教室から出よう。今日はこの後秋に向けた撮影があるはずだ。


「葵〜、今日帰りモック寄らね? ポテトくらいなら奢るよ」


「いや、今日は予定があるんだ。悪いな」


 カバンをかけた俺の肩に海斗の手が乗る。奢ってくれるのは嬉しいが時間的にあんまりゆっくりはしてられないんだ、ごめんな海斗。


「予定? ゲーセンなら付き合うぞ」


「いや、ゲーセンじゃないんだけど今日は予定があってな」


「ふーん、葵ってたまにこういう日あるけど俺に隠れてこそこそと…まさか悪いこと…」


「悪いことじゃねえから! まあなんつーか、バイトだよバイト」


「なんだバイトか、なら最初から言えよな」


 まあバイト…では無いかもしれないがあながち間違ってもないだろう。当然ここでモデルやってて撮影行ってきますなんて言うわけにはいかない。悪いが海斗でも話せないことなんだ。


「んじゃバイト頑張れよっ」


「いってえ、急に背中叩くなよ」




 東京都内、学校から電車で10分ほど移動したところに俺と白奈がいつも撮影を行うスタジオはある。俺が所属する事務所の撮影はだいたいここで行われるから今日も何人かモデルが来ているはずだ。白奈もそろそろ来ると思うのだが姿が見えない。

 俺は今日撮影が行われるセットの隣で腕を組んでいる女性に挨拶に行く。

 月影優香(つきかげゆうか)、俺と白奈のマネージャーを担当する人だ。のちのち話すが白奈のアルビノのことをしっかり理解してくれて俺たちをサポートしてくれている。正直この人が担当してくれなかったら俺はモデルをやっていなかったかもしれない。


「おはようございます。今日もよろしくお願いします」


「おはよう葵くん、早速で悪いけど今日着る服見てきてくれる?」


「了解です」


 控え室に向かおうと振り向くと準備中のカメラの所に白い髪がたなびくのが見える。普段は誰にでも笑顔を向ける彼女もすっかり仕事モードに切り替わっていて準備中のカメラスタッフに挨拶をしている。


「白奈、遅かったな。今日もよろしく」


「あおくんが早いだけだと思う。友達付き合いも大事だよ?」


「大丈夫なんだよ、白奈みたいに人気者じゃねえから。母さんみたいなこと言ってないで優香さんに挨拶行けって」


「でも友達は」


「余計なお世話だ」


 優香さんの元に向かう白奈を背に俺は控え室に向かうのだった。



以前投稿していたものの続きを書いていきます。


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