第8話 エルサリア聖国について・・・。
今回は説明の要素が強い話です。
異世界人とばれた俺達は女性領主の指示で、有無を言わさず村の空き家に入れられて待機させられる事になってしまった。
俺だけでなく可憐や真心もその事に強い不満を持ったが、その事を馬鹿正直に告げても意にも介されない気がしたし、あの四人相手にケンカを吹っかけてもどう考えても勝てるとは思えなかった。
俺自身、見た目可愛い可憐や真心そして第二文学部唯一の男子部員と言う事で、一部の連中から妬まれて、それが原因でちょっかいを吹っ掛けられた事が何度かあり、そのため何回かケンカをした事があるので、その経験からこの村の住民ならば一人二人ならばぶっ飛ばせる自信はあるが、領主を含めたあの四人が相手では一対一でも到底勝てる相手じゃない。
そして俺達は今、その四人の一人、レイナ=アレクレアとテーブルを挟んで座り、この世界についてより詳しく説明を受けている。
レイナ=アレクレアは四人いる中で、領主を含め、顔立ちが似ている三人は血縁関係があるだろうと思っていたが、やっぱりその通りで、エルサリア聖国アレクレア領現領主イリナ=アレクレアの次女で、もう一人レイナよりも少し年上の女性が長女のティナ=アレクレアとレイナから説明を受けた。
もう一人、一番後ろに控えていたティナ=アレクレアと同じくらいの女性が、現領主イリナと時期領主ティナの護衛騎士であるユズハ=アベノと言うそうである。
ちなみに彼女、レイナ=アレクレアは領主の娘と言うだけあって可憐や真心にはない気品があり、何故か一瞬、姫島部長を思い浮かべた。
そう言えば、あの人も凛としており、品があったな。
イリナは俺達を空き家に待機させて、レイナにこの世界の事を詳しく説明する様に命じると、ティナとユズハを連れて村を出て行った。
元々、彼女達がこの村に来たのは凶悪なモンスターが村付近に現れたので、その討伐をするための過程でモンスターの情報を聞くためらしい。
そのため、イリナは俺達に簡単な自己紹介だけした後は、下の娘で4人の中では一番弱いレイナに丸投げしたと言う訳である。
レイナの説明によればエルサリア聖国は俺達が今いる大陸の東側を収めている大国でエデン=エルサリアと呼ばれる女性が聖皇と呼ばれる国の指導者であり、その下に宰相と軍のトップである元帥の二人が補佐をして国を治めているそうである。
元帥の下には『四聖柱』と呼ばれる4人の将軍がおり、その将軍達の指揮の元、それぞれの軍が行動するそうである。
その説明を聞いた時、真心が「どうして四聖将と呼ばれず四聖柱と呼ばれるんですか?」と尋ねたところ、俺達にとって驚くべき返答が返って来た。
何と聖皇エデン、それを補佐する宰相と元帥そしてその配下の四将軍は人間ではなく半神半人というべき存在であり、聖皇エデンに至っては三分の二が神だそうである。
故に将ではなく1柱として呼び称えているそうである。そしてレイナの母親イリスはその四聖柱の1柱であり、その娘のティナもレイナもその細身で常人を超える身体能力をしており、特殊な”力”も生まれつき持っているそうである。
いやいや、さすがは異世界ファンタジー、俺達の常識が全く通用しない。まさか神の血と”力”を受け継いでいるなんて返答が返ってくるとは思わなかった。
俺達が今いるエルサリア聖国についてはより詳しい説明を受けたが、そのエルサリア聖国は大陸の西にあるアークロンド帝国と200年に渡って争っており、今、現在は膠着状態となっているそうである。
アークロンド帝国は自らを”魔帝”と称す女帝ヴィクトリア=アークロンドと呼ばれる女性が興した国で今も皇帝の玉座に君臨しているそうで、その下に直属の『三魔神』と呼ばれる聖国の宰相と元帥と四聖柱を混ぜたような位の一騎当千の配下がおり、主にこの四人で帝国を動かしているそうである。
ちなみに大陸の北にもかつてはエルフとドワーフ、獣人と言った亜人種の国があったそうだが、100年ほど前から北部を濃い霧が常に包み、北部へと移動する事が出来なくなってしまい、今、北部の亜人種の国がどうなっているのか聖国、帝国、共に把握していない状態だそうである。
200年に渡って聖国と争っているだけあり、”魔帝”ヴィクトリア=アークロンドとその直属の『三魔神』も半神半人なのだが、性質は真逆であり邪神の”力”を振るうそうである。
「と言うか国を興して200年も皇帝の座にいるだなんてその”魔帝”って奴はよぼよぼのおばあちゃんなのか?」
「まさか」
説明を受けて疑問に思った事を尋ねる俺に、レイナは苦笑しながら答えてくれた。
半神半人の彼女達は不老長寿で寿命が人間よりも遥かに長く、代替わりはするけれど、ゆっくりらしい。
故に”魔帝”ヴィクトリア=アークロンドも見た目は母親のイリナと同じくらいらしい。
ちなみに聖皇エデンは”魔帝”よりも年上なのに見た目は姉のティナと同じくらいだそうである。
マジでふざけてるよファンタジー!!
そんな両国、いや両国だけでなくこの世界の他の国もそうだが、俺達、異世界人を見つけたら必ず保護もしくは身柄を拘束すると聞かされた。
その理由は、異世界人はこの世界に来ると同時に特殊な能力もしくは強力な”力”を得、過去の事例によれば人によっては四聖柱や三魔神も撃退できるほどの能力や力だった場合もあるらしい。
それ故、各国は異世界人を見つけた場合は必ず保護もしくは身柄を拘束するそうである。
「だから、俺達も身柄を拘束すると言う訳だな?」
「人聞きの悪い事を言わないで。右も左も分からない上に、異世界人本人でも手に負えないかもしれない力を、この世界の邪な思惑を持った者達に悪用される前に保護すると言っているの。」
俺の物言いにシレっと言い返すレイナ。
言いたい事は他にもあったけど、どうせケンカしても勝てる相手ではないので、俺は当然の事、可憐や真心もそれ以上、反論する気はなかった。
俺達の反応を見て、歯向かおうと言う気配がないのが分かったのか、何処か警戒していたレイナはいささか緊張を緩和させながら「それに”扉を開いた者”の中には―」とレイナはその説明をし、俺達はその説明を聞いて目を見開くぐらいに驚いた。
レイナが説明したのは「ネクサスセイヴァー」の事だった。
この世界では”扉を開いた者”と呼ばれる異世界人の中から「ネクサスセイヴァー」と呼ばれる異形の身に姿を変えて、親しい者との絆を自らの力に変えて戦った戦士達が過去、何人かいたそうである。
彼らはその力を使って、その時、この世界、その国を襲った恐ろしい厄災から人々を、国を、世界を守り抜いたそうである。
そして、その時の親しい者との絆を自らの力に変えて戦った「ネクサスセイヴァー」達の力は超絶的であり、もし現代にいたのならば聖皇エデン、”魔帝”ヴィクトリアをも凌駕している可能性もある。
故に”扉を開いた者”を保護もしくは身柄を拘束するのは、その”扉を開いた者”が「ネクサスセイヴァー」に変身する可能性を期待しての事もあると説明を受けた。
もっとも、その説明よりも「ネクサスセイヴァー」という存在が、俺達の世界で知られている存在と全く同じと言う事に強い驚きを持った。
どうやら、俺達の世界とこの世界は間違いなく繋がりがあるみたいだ。
この世界そしてこの国とその周辺諸国の事を詳しく説明を受けた後、俺達は時計を見たら、すでに午前2時の時間を差しており、元の世界では21時にこの世界に飛ばされ、色々あったが元の世界ならば既に深夜の時間となっている。
故に、空き家とは言え雨風凌げるうえに、自分達の状況を一応、確認出来、緊張の糸がきれた様で、俺達は強烈な眠気が襲って来たので、レイナには悪いが休ませてもらう事にした。
レイナから見ても、俺達はとても眠たそうに見えていたらしく、反対する事なく俺達の休む事を進めてくれた。
それから眠ってどれくらい経ったのか、突如、大きな破壊音のような音が外から聞こえ、レイナの「何事?!」と言う叫びに俺達は目を覚ました。
「えっ?えっ?何々!?」
「何か大きな音がしたけど、どうしたの!?」
真心も可憐も飛び起きたところにレイナが、
「どうやら村で何かが起こったみたい。私は状況の確認に行くから、あなた達も危ないと思ったら逃げて!!」
俺達にそう言うと大急ぎで外に出て行った。
この場に残った俺達三人は思わず顔を見合わせ、どうしようかと寝起きの頭で思案していると、今度は大きな揺れが起き、外で破壊音と剣戟のような音が聞こえた。
何事かと思い、俺も外に出てみる事にした。背後から
「お兄ちゃん?!」
「光君どこ行くの!?」
と可憐と真心がついて来る気配を感じながら家から出てみると、村の出入り口付近に村の家三つ重ねたぐらいの巨体をしたファンタジーでお馴染みのドラゴンがそこにいた。
しかも、そのドラゴンは全身が水晶のようになっている上、身体の内部に漆黒の闇が全身を行き届く様に巡りながら渦巻いていた。
そのドラゴン?のような巨大な怪物の周りに、レイナを含めたイリナ達四人が、連携しながら交互に攻撃している。
このあまりに予想外の光景を見て、俺達は呆然とするしかなく俺は思わず「何やねんこれ?」と関西弁で誰にツッコムでもなく呟いてしまった・・・。
気候がおかしくなっていますが、皆様も体調にはお気を付けください。