第4話 来生の頼み事そして・・・
次の日、いつもの様に授業を終えた後、俺は昨日、言った通り部活をするため第二文学部の部室に来た。
真心や来生も俺と一緒に部室に向かい、俺は部室の鍵を使って扉を開けて、いつも自分が座っている場所に座り、真心や来生もそれぞれの定位置の席に座り、スマホを取り出したり、本を取り出したりして何かし始めた。
まもなくして可憐も訪れ、それから最後の部員である下級生で一年生の水野愛が部室に入ってきた。
小柄な体格で長い髪をツインテールにしているという特徴の一年生で、彼女だけ姫島部長が行方不明になってから入って来た部員で、第2文学部の部長代行として文化祭向けの作品を当時は結構真面目に考えて書いた作品をこの愛ちゃんが読んで気に入ってくれて部に入ったという経歴がある。
愛ちゃんは俺達の姿を見、
「部長、先輩方、お久しぶりです。」
と片手を小さく上げて無表情で声を掛けてきた。愛ちゃんは姫島部長の事を知らないから俺の事を部長と呼ぶ。それにしても来生もそうだが愛ちゃんも相変わらず感情を表に出さない娘だ。こんなんだから結構可愛いのに友人がほとんどいないらしい。故に部の俺達が友人と言ってもいいと以前、愛ちゃんの口から語られた事がある。
他人の事とは言え、それでいいのか愛ちゃん!?
でも来生も同じ様なものだからなぁ~。
そんな事を思いながら俺も部に設置されているパソコンを起動させてオンライン小説サイトに投稿しているネット小説の続きを書き始めた。
そこ30分くらい話を書いて俺の集中力が切れたので、ちょっと周りを見渡してみると、真心はスマホで俺と同じく別にオンライン小説サイトに投稿しているネット小説の続きを書いており、可憐は愛ちゃんと一緒に同人誌の漫画を仲良く書いている。
来生だけはラノベを読んでいる。A4サイズのそこそこの厚さでタイトルは「ネクサスセイヴァー」と呼ばれるモノだった。
この「ネクサスセイヴァー」と呼ばれるラノベは6巻まで出ており、俺達の住んでいる異界境町では特に知名度のある物語だった。
というのもタイトルにもなっている「ネクサスセイヴァー」というのはこの物語に出てくる変身ヒーローの名前で、何と作者はこの街の住人らしく、この街にはその大元となっている異世界が舞台の英雄話が昔から伝わっている事もあり、この街のご当地ヒーローでもある。
「ネクサスセイヴァー」の内容は異世界転移モノで地球からヘルヴェティアと呼ばれる異世界へ転移した主人公が、その世界で”絆の救世主”とよばれる「ネクサスセイヴァー」とよばれる戦士に変身する力を持っていたがために、その世界の戦乱に巻き込まれながらも出会ったヒロイン達や仲間達との絆を力として、いくつかのフォームチェンジをしながら立ちはだから敵を倒し、やがて戦乱の元凶を倒してヘルヴェティアそのもの、もしくはその世界に存在する大陸や国々の平和を取り戻すと言うファンタジー変身ヒーローモノである。
そして、この異界境町にはその「ネクサスセイヴァー」の原典となった異世界を舞台とした異形の英雄のおとぎ話がいくつか伝承として伝わっている。
一番古いので鎌倉時代に端を発したと思われる伝承が残っている。
そう考えたら、この街って鎌倉時代に、すでに異世界ファンタジーが考えられていたのだから文化面では凄くね?
その「ネクサスセイヴァー」だが、姫島部長もこの話が好きだったようで全巻そろえて、この第2文学部の部室に置いている。
しかし、あの尊大な姫島部長が、ファンタジー変身ヒーローモノが好きだなんて、どうもイメージに合わないよな・・・。
来生もこの物語がとてもお気に入りの様で、結構、頻繁に読み返しているな。ひょっとして来生って白馬の王子様ならぬ変身ヒーローに迎えに来てもらう願望でもあるんだろうか・・・?
もし、そうならそれもそれで意外な気もするが・・・。
俺はそんな事を思いながら、再びオンライン小説の続きを書く事にした。
それから更に30分ほど経過して部活を始めて一時間が経過したので、
「おーしみんな、部活動を始めて一時間経過したので、そろそろ部活をゆるゆるにしていくかぁ~っ。」
俺の言葉に皆、顔を上げて「あ、はい。」「そうね。」「は~い分かりました部長代理。」「はい部長。」と可憐、来生、真心、愛ちゃんとそれぞれが返してきた。
うちの部はこんな感じで姫島部長の時から真面目に活動するのはそこ一時間ぐらいで、あと30分ぐらいは何故か部に備えてある冷蔵庫に入っている飲料やお茶の飲みながら30分程のんびりだべって終了というのだから、実にいい加減な部活動である。
部長代理としている俺も、姫島部長の時からよくこんないい加減な部活動で未だ学園側から廃部にされない事だなと感心するぐらいである。
ひょっとして学校側は知らないのか?それとも部長に弱みでも握られてるのではないだろうな。
それにしてもこの第二文学部って俺以外男がいないな。しかもみんな、一般的に見て十位から一位まででランク付けしたら平均の5,6から上なのは確かだし。
そういう意味ではハーレムっぽくて、これはこれで役得かも・・・俺はそんな事を考えていると「天道君」と来生が声を掛けて来た。
「今日の夜、予定は空いているかしら?」
「いや、今のところ何も無いが・・・。」
「じゃあ、今日の午後21時ぐらいにこの学園の奥にある小さな社に来て欲しいの。」
小さな社?ああ、学園の旧校舎の更に奥にある小さいと言っても人が数人、社内に入れるぐらいの大きさはある社が謂れは知らないが設置されている。
学園の奥にある上に、どうも雰囲気的にも近寄りがたいものがあるから教師・生徒に関わらず普段、人の出入りはない場所である。
しかも今日の夜は天気予報によると雨で、しかも強く降るらしい。そんな時に、しかもそんな時間に学校しかも場所が場所のところで何の用だと思い、尋ねてみると「用件はその時に話す」と言って答えない。
いったい何の用なんだ来生?
俺がそう思っていると真心がいきなり驚きの声を上げた。
「あ~、ひょっとして来生さん、光君に告白するんじゃ!?」
「えっ?!本当ですか来生先輩!?」
真心の斜め予想な発言に、なんで大雨が降っている時、しかも夜遅くのそんな曰くありげな場所で告白するんだよ真心と俺が心の中で突っ込んいると今度は可憐が驚きの声を上げた。挙句に愛ちゃんまで目を丸くして来生を見ている。
というかお前ら、真心の言う事なんか信じるなよ。だいたい、来生はそういう奴じゃないだろ。
ところが来生は「ふふっ、どうかしら?」と返事をぼかし、珍しくいたずらっ気のある笑みを浮かべて返した。
そんな普段しない来生の返しに真心は「ええっ!本当に告白なの!?」と更に騒ぎ出した。
可憐は少し怖い表情になりながら、
「先輩、本当にどんな用件なんですか?」
「気になるなら、可憐さんも一緒に来たら?日高さんや水野さんもどうぞ。」
可憐が問うと来生はそう返してきた。俺だけでなく可憐や真心そして愛ちゃん、第二文学部のメンバー全員を誘うだなんて告白の可能性は低くなったな。
まぁ、来生がメンバーの前で告白すると言う可能性もゼロと言えないが、そんなサプライズする必要はないだろうし・・・。
しかも、一般常識で考えても夜遅くにする事じゃない。
「とにかく、天道君、今日の午後21時にこの学園の奥にある小さな社に来て。お願いよ。そして可能ならば可憐さん達も一緒に来て。」
先程までと違い、あまりに真剣な表情で、念をおしてお願いしてくる来生の気迫に飲まれて俺は首を縦に振るしかなかった。
しかし、こんな鬼気迫る気配で頼んでくるだなんて、実は来生ってスケバンでもやってて、どこぞの不良の溜まり場にカチコミにでも行くんじゃないだろうな・・・。
俺は全然、気乗りはしなかったが、反故にした時の来生の仕返しが怖かったので仕方なしに今日の夜21時に学園の奥にある小さな社に行く事にした。
しかし来生が実はこんなにおっかなそうな女だったとは・・・綺麗な薔薇には棘があるとはよく言ったもんだぜ!!
「全く来生の奴、こんな天気のこんな時間に一体何の用なんだよ!!」
俺は大雨が降っている中、黒いワイシャツにジーンズの私服姿で傘を差して夜の通学路を進んでいる。
「でも、あの様子からしてよほどの事なんだよ~光君!」
「まぁ、真心ちゃんの言う通り、先輩の様子からして大事な用事だと思うよお兄ちゃん。」
そう言いながら俺の後ろを真心と可憐が同じく傘を差しながらついてきている。
真心はキュロットスカートに青紫色のカーディガンを羽織っており、可憐は上下とも薄緑のブラウスに長いスカート姿をしている。
真心と可憐の言葉に「ああ、そうだな!そうだと良いな!!」と答えながら、内心でこれでつまらない用件だったのならば、一発ぶちかましてやる!と俺は叫んだ。
真心や可憐は暴力反対というかもしれないが、俺は男女平等なのだ!!
何とか学園の正門前に来ると桜色の着物に薄青色の袴を着た愛ちゃんが傘を差して立っている。
本当ならば正門前に立っている愛ちゃんに「来生は?」とか「よくこんな時間に来れたな?」とか聞くべきなのだが、それ以上に愛ちゃんの私服姿が印象が強くて、
「愛ちゃん、家ではその服装なの?」
と阿呆な事を聞いてしまった。真心と可憐も俺がそう聞いた瞬間、呆れのような気配を感じる。
それでも愛ちゃんは表情を変える事なく「そうです。先輩方、こんばんわ。」と礼儀正しく返してきた。
俺達も条件反射で『こんばんわ。』と返し、それから「来生は?」と尋ねた。
「来生先輩は正門前にはいません。」
「と言う事は学園の奥にある小さな社内で待っていると言う訳か・・・。でも奥の社に行きたくても正門とか開いているのか?」
「少なくとも正門は閉じています。」
俺の問いに愛ちゃんが答えてくれ、どうするべきかと思い、来生に電話をすると、
「もしもし、天道君?」
「・・・正門前に着いたけど閉まっているので約束の社まで行く事が出来んぞ。どうしたらいいんだ?」
「正門から左に進んで、学園の囲っている壁に沿って曲がり角で右に曲がって、そのまままっすぐ進んだら裏門の1つがあるから、その門をよじ登って来てくれるかしら。」
「ふざけてんのかテメェ。」
来生の要求に俺は思わずケンカ腰で返してしまった。
とは言え、こんな夜中、しかも豪雨と突風が降っている中、用件も分からないのにわざわざ学校まで来たと言うのに、来生は出迎えるどころかそのポーズさえせず、挙句に門をよじ登って来いと、こちらにばかり負担を掛けさせてくるのだから、こちらも怒りでケンカ腰で返してしまうのも当然だろう。
来生もそれが伝わったようで「ごめんなさい。」と謝って来た。
「でも、どうしても天道君には来てもらわないと困るの!私ばかり要求しているのは理解しているけど、お願い、21時に間に合う様に社に来てください!!」
携帯から聞こえてくる来生の言葉は、もはや哀願であり、聞いていた真心や可憐も息を飲んだ。愛ちゃんですら目を見開いていた。
ここまで来ると来生の用件は半端なモノじゃないというのは俺達全員が否応なしでも理解できてしまった。
と言うか、逆に来生の用件って何なんだ!?と内心、思ったがここで帰った場合、間違いなく恨まれそうだったので、仕方なしに社に行くために指定した裏門へと向かった。
ただでさえ21時近くで人気が少ないのに、来生が指定した裏門付近は全く人通りがなく、薄気味悪いぐらいだった。
しかし、時間も迫っている事もあり、ビビっている訳にもいかないので、まずは俺が門を掴んで足を掛けてよじ登り、片足を内側において校門の上で跨る様にしてバランスを取ると、可憐達に片手を出して、校門をよじ登りやすい様に手を貸した。
しかし、可憐も真心も愛ちゃんも体重が軽いとはいえ、人間三人を連続で持ち上げるのにはかなりの重労働だった。
「や、やっと着いたか~。」
暴風雨の夜中を進み、校門の柵をよじ登るという不法侵入のような真似事の重労働をし、ようやく俺達は来生が指定した学園の奥にある社に辿り着いた。
いかし、相変わらずの薄気味悪いところで、更に夜中と言う事もあり、より得体の知れなさに拍車をかけている。
取り合えず5分程前に辿り着いたが、来生の気配はない。人を呼んでおいてあのアマ、どういうつもりなんだ!!
俺は憤慨する気持ちを何とか抑え、
「来生の奴、どこにもいないな。どうなってんだよ?」
「本当だね。来生さん、どうしたんだろう?」
誰に聞かせるでもなく呟いた俺の言葉に真心が反応し、真心達も来生の姿を探した。しかし、やはり来生の姿は見つからない。
今の状況に俺達がどうしようかと悩もうとした時、
「先輩、取り合えず、これ以上、雨に濡れても寒くなるので雨宿りもかねて社内に行きませんか?」
と愛ちゃんが提案してきた。
確かにここに来るまでに結構、濡れたのは確かなので雨宿りできるのならばしたいので、愛ちゃんの提案に乗って、社の社内に入る事にした。
それにしても校門はしっかり閉めているのに、この社の入り口は全く施錠してないとは、学園のこの社に対する意識がうかがい知れるな。
俺はそんな事を思いながら社内に入ると、意外と中は綺麗に掃除されている。鍵が掛かっておらず、普段、人も近づかないので手入れはおなざりかと思ったのだが・・・。
奥にはシンプルな神棚が置かれており、それ以外に社内にこれといったモノはない。まぁ、雨風は凌げるので文句はないが・・・。
「中は意外と綺麗だねお兄ちゃん。」
可憐も俺と同じ感想を言ってきたので頷き、来生に社に辿り着いたので、さっさと来る様に催促しようと電話を掛けたが、出る気配がない。
「おいおい、何やってんだ来生の奴。」
「来生さん、繋がらないの?」
俺の呟きに真心が尋ねてくると俺は頷き、どうしようかと思った時に愛ちゃんが「時間になりました。」と俺達に言うと言うより、独り言を呟く様に言った時だった。
いきなり社が強く揺れ始めた。
「えっ?えっ?何これ地震!?」
真心が動揺しながら誰に訊くでもなく言い、俺は急いで外に出る様に言おうとした瞬間、より激しく揺れ始め立っていられなくなった。
そこに雷が社に落ちたのか大きな音が聞こえ、外の景色が激しく輝き、目を開けていられず、俺達は激しい揺れに轟音その上、強い光を受けたためか意識が保てなくなり、可憐、真心と順に意識を失っていく。
愛ちゃんだけはまだ意識があった様だが、俺も意識が薄れていったのだが、そこに社の扉を開ける音が聞こえ、何とかそっちに目を向けるとそこにはこの状態でも何事もなく立っている巫女服姿の来生とその隣には上下黒い地味な印象のするドレスを纏った一年前に行方不明となった姫島部長が立っていた。
どういう事だこれは!!
俺は二人に対して叫んだかどうかも認識できなくなり、意識を失う瞬間、
「時が来たわ天道、あの時言ったあなたの力で世界を救って。世界の命運を託すわ当代のネクサスセイヴァー。」
そんな部長の言葉を俺は聞きながら、俺は意識を失った。
そして、これが俺の、いや俺達の地球とは違う世界での命を懸けたの壮大な戦いの始まりだった・・・。
これでプロローグが終わります。